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目黒琥珀の異世界転生論  作者: ウェハース
第一章 【神域・リエン】
4/45

【エンフィル・シャンデール】



「ぐっ…ぅう…。」


 目覚めは思った以上に怠かった。

 

 目を開けるとそこは生前の様なコンクリートの様な造りではない家であることが分かる。

 見上げた天井の造りを見る限り"木造"であるだろう。

 のそりと身を起こすと不意に声を掛けられる―――


 「漸く起きたね、青年。ようこそリエンの村へ」

 

 椅子に座った金髪の女性。容姿を見るに年齢は10代後半から20代前半と言った所だろう。神の瞳を使用しても発動はしなかった、魔力が足りなかったからだろう。

 声をかけられて完全に意識が覚醒した。

 自分の記憶が正しいのなら俺は森の中で何者かによって背後から攻撃を受けて倒されたはずだ

 俺は意識はあまりしていなかったが、目を細め警戒の姿勢を示していた様だ。

 そんな俺を見かねて向こうは興味深そうな目で此方を見た後、俺の警戒を解く為に声をかけて来る。


 「そんなに警戒されても困るな"琥珀"くん。

  あと、ここは私の工房だ。勝手な魔力やスキルの行使は私の権限で制限されるから無意味だよ

  特に私よりレベルの低い君なら尚更だ――――」 


 どうやら相手は言葉選びが苦手らしい。これが警戒を解かせる為の言動だろうか。

 辺りをサッと見渡すと積み上げられた大量の本と机の上には実験の器具の様なものが見える。

 端で申し訳程度に置かれている木で出来たベットが不釣り合いに置かれている辺り、ここは彼女の"実験室"兼"私室"なのだろう。

 俺が荷物を求めて周り探し出すと彼女は指先に吊られたベルトから伸びる袋をプラプラさせてニヤニヤしている。「探し物はこれかい?」とでも言わんばかりだ

 まぁ、荷物を取り上げるのは当然だろう。彼女は直接的な荒事は苦手そうで所謂計算高そうな"魔法使い"向きの雰囲気を感じ取ることができる、そんな者が相手手元に武器を残す訳がない。

 「私よりレベルが低い」辺りの件も真実だろう。歯痒いが八方塞がり所の騒ぎじゃない。

 

 俺は両手を上げて降参の意を示し、ヤレヤレと言った感じで彼女に向き直った。

 

 「あんた、警戒を解かせるのならもう少し言葉を選んだらどうだ?」

 「あー、それはよく言われるな。アンタはもう少し言葉を選べ!ってな」


 中々フレンドリーな様だ。

 その雰囲気に毒牙を抜かれてしまった。


 「私はエルフのエンフィル。 錬金術をしている、今年で年齢はえーっと―――322歳だったかな」 


 エルフと聞いた時点で年齢の覚悟は出来ていた。

 まぁ気になる事は多々あるが、彼女が自己紹介をしたのだ俺がしない訳にはいかない。

 元日本人の基質は根本では変わってないらしい。

 

 「目黒琥珀―――女っぽい名前だが見ての通り男だ。

  俺は森で倒れた筈なんだが、運んでくれたのはあんたか?」

 

 そう言うと彼女は何かを閃いた様に棚から畳まれた白衣を取り出し上から羽織ると俺の質問に答えだした。

 

 「この格好でわかる通り君を眠らせたのも運んだのも私だ。

  お前の身体に毒が回っていてな。良い戦いを見せて貰った礼代わりに治してやった。」


 毒―――可能性と心当たりはある。

 最期にゴブリンに剣で斬られた時だ。

 ゴブリンは見かけは人型だ、毒くらい剣に塗っていたとしても何も違和感はない。

 ケガの具合を見ようと斬られた肩を触るがケガは無くなっていた、そちらも治してくれたのだろう。

 ファンタジーの世界だ、ケガが跡形もなく治っても別に不思議には思わない。


 「世話をかけた、お陰で死なずに済んだよ。

  だが別に背後から眠らせなくても良かったんじゃ…」

 「騒がれて説明するのも面倒だし、レベル1でゴブリンを2体討伐するお前に興味が湧いてな、交渉も面倒なので拉致した。」


 確かに感謝はしたが、何も悪びれず言葉を重ねて来る辺り逆に好感が持てる。この女はこう言う女なのだろうと自分の中の位置決めが決定した瞬間だった。

 見ているのなら助けろと言いたかったが、それは飲み込む。


 「で、どうやったのだ! 確かに一体目の始末は不手際もあったが見事だった。

  問題は二体目だ―――」 

 「どう?って何もない。奴は鎧を着ているが薄いし、足も遅い。

  こっちは身体も大きいんだ、あとは一撃離脱。出来るだけ鎧の無い部分を狙って斬りつけては逃げる。」

 「倒し方は良い。私も同じ状況だったらその戦い方を選ぶだろう。

  だが、お前はスタミナが一度限界に到達した筈だ、そこで取ったお前の行動は"攻撃"だった。」

  

 ああ、この人は見た目通り頭がキレる様だ。

 彼女はこう言いたいのだ、"攻撃に移る根拠があるのではないか"と…。

 目の前の相手は仮にも命の恩人だ、嘘を付く気にはなれないし、それに良い嘘も浮かばない。

 嘘は彼女は相手のステータスを見る様なスキルを持ってるのでバレる可能性が高いし、きっと彼女は興味の対象である俺を逃がさないだろう。

 以上で俺は彼女に出来れば秘密にして欲しいと前置きをして話した。

 

 「何だ、君は転生者だった訳か」


 思った以上に軽い返事が返ってくる。

 この世界では転生者と言うのは特に珍しくないのだろうか

 

 「転生者と言うのは珍しくないのか?」

 「いや珍しい所じゃない。私も世界中を飛び回ったけど、転生者に会ったなんてこの322年で200年くらい前に王都で行われた勇者召喚の時だけだ」


 この世界にも勇者と言うのは存在するらしい。


 「私は別に転生者って事は別にどうだっていい。

  むしろ気になるのはその左目、神の瞳―――だな。劣化品とは言え最高位の神々だけが持つ眼と同質の物だ。注意した方がいい、悪い神殿の奴らや神官に眼を付けられたら間違いなく捕まってその眼をくり抜かれるだろう。」

 

 さらっと恐ろしい事を発言するが別に悪気はないだろう。

 神々を信仰する者達にとって信仰する神に等しい眼を人が持つのは確かに気分のいいものではない。


 「私からも伝えておこう。お前の持つ鉄の剣とミスリル製の短剣は少しではあるが神性を感じる、同じ同種剣より一回り程性能は高いだろう。大事に使うといい。」


 彼女は疑問が晴れてたのが余程よかったのか俺にアドバイスをくれると、小さい袋を手渡して来た。

 

 「これは報酬だ。実は私はあの二匹のゴブリンを討伐をこの村の村長から依頼されていてな。

  それをお前が倒したのだ、依頼を受けたのは私だが、この報酬を受け取る資格はお前にあるだろう。」

 

 そう言って渡して来たので、自然に受け取ってしまう。

 中を除くと金色の硬貨が2枚銀色の硬貨が2枚と銅の硬貨が4枚入っていた。ここに来たばかりの俺でもわかる、この報酬は高すぎる。

 そう思い、困惑した顔で彼女を見ると察したのかポツポツとその理由を語りだした。


 「ここはリエンの村。―――全てを失った者達が静かに肩を寄せ合って余生を過ごす村だ。

  そして神々の結界に秘匿され守られた秘境中の秘境。 迷い込んだ私の様な者も何人か居るが、この村の住人はそういう者達ばかりだ。だから金の価値はほぼない、全てが物々交換によって成り立っている。」 


 あの2体のゴブリンは秘境の森に迷い込んだ訳か、普通は何もなしで討伐は不可能だし被害も出るだろう。

 だがこの村にはエンフィル、彼女がいた。だから彼女に討伐を頼んだのだろう。

 彼女はそこまで言うと1つ付け加える。

  

 「だが同情はするな。彼等も失ったからと言って全てを諦めた訳じゃない。

  普通に人付き合いもするし普通の人として人生を謳歌しているのだ」


 それはよく分かる、俺も生前は同じだったからだ。

 全てを失ったとしても終わりじゃない、生きていれば楽しい事の1つや2つ必ず見つかるだろう。

 それはとても小さなことかもしれない。俺は良い友達が出来たし、最後まで自分の生きたい様に生きた事で少なくとも自分の人生にあまり後悔はなかった。


 「ああ、わかっている。」


 俺は目を閉じて静かに笑い、その言葉に返した。

 その表情が余程珍しいのかエンフィルは目を大きく開いて驚いた表情を見せる。


 「お前、そんな表情(かお)もするのだな。その表情は中々出来るモノではない。

  きっとお前も生前は似たような人生を歩んだのだな。」


 別に悲しくはない。

 その言葉に返ってきた表情はとても優し気だった。




 ―――――☆



  

 非常にしんみりとした雰囲気となったが、エンフィルの勧めで家の外へ出る事になった。

 一歩外へ出るとそこは本当に小さな村だったが、不思議と活気がある。畑に目を向ければ、漸く目が覚めたのかと俺とエンフィルに向かって手を振る老夫婦が見えた。

 確かに死んではいない。逆にその姿に元気をもらえるだろう。

 

 次に目を向けたのは村の中央に延びる1本の大きな街道だ。

 この村の住人は見た所50人にも満たないだろうが、何人かが道の端で物々交換を行っている。

 その中でも目を見張ったのは1人の大きな男だ。獣の毛皮で出来た鎧だろうか、とても年季を感じる事ができる。その男は村人から野菜などを少しずつ受け取ると持っていた斧を担いで吊るしてある肉を大きく切り分けて村人達にガハハと笑いながら渡している。外見だけ見れば明らかな盗賊頭だが、内面は豪快で優しい性格の様だ。

 

 その男は此方の目線に気付くと、ドスドスと音がしそうな勢いで此方へ歩いてくる。

 

 「ようアンちゃん!!話はエンフィルの姐御から聞いたぜ!!

  迷ってたゴブリンを1人で討伐したんだってな!!!やるじゃねえか!!!」


 そう言いながらバシンバシンと背中を叩いてくる。力強さのせいか体力がガリガリと削られていると錯覚を起こしてしまいそうだが、嫌な感じはしなかった。

 それにしてもエンフィルが姐御か―――


 「こいつは私と同じ迷い人のドルケだ。」

 

 そうエンフィルが補足するとドルケと言う男は豪快に笑って自己紹介を始める。

 

 「山賊をやってるドルケってモンだ!宜しくなアンちゃん!!」

 「俺も迷い人の目黒琥珀だ、気軽に琥珀と呼んでくれ。」


 そう返し、男同士ガッシリと力強い握手を交わすと男の背後から子分らしき奴がドルケの事について補足する

 

 「聞いて驚いちゃいけねえぜ、琥珀の兄ィ!ドルケ親分は外の世界じゃ王都で騎士をやってた事だってあるんだぜ!!!」

 「ほう」


 素直に驚いた。

 確かに今の恰好は山賊そのものではあるが、髭や髪を整えてある程度恰好と言動を治せば割と様になりそうではある。

 

 「バカヤロウ野郎!!変な事言ってんじゃねえ!!!」

  

 そう一喝すると子分の頭にドルケの拳骨が落ちて子分は頭を押さえてその場にうずくまる。とても痛そうである。

 そう考えていると、エンフィルが自分の左目をトントンと差しジェスチャーを送ってくる。

 ……ああそうか、もう工房の外だから魔力の行使は可能なのか。エンフィルは眼の試運転をさせる気だろう。

 自分でも気になってはいたのでドルケを見ながら数秒ほど神の瞳を行使する。



〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓


称号:該当なし

名前:ドルケ

レベル:16

種族:人

職業:騎士:Lv21

体力:1650/1650

魔力:21/21

力  C(572)

防御 C(479)

知力 E(23)

精神 D(97)

素早さ D(101)

器用さ E

運気 C


スキル

豪胆:Lv1

戦斧烈衝:Lv2


アビリティ

斧技:Lv3

剣術:Lv1

盾術:Lv1

頑丈


特殊アビリティ

該当なし


〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓

  


本当だった。彼は本当に騎士だったのだ。申し訳程度に剣術と盾術がLv1だが存在している。

戦斧烈衝は斧の専用攻撃スキルで豪胆は自分の耐久を上げるスキルらしい。

あと称号欄が増えていたが、自分のステータスを見たらレベルが1つ上がっていたので性能が上がったのだろう。


そのままエルフィンの方を向き直ると神の瞳をを発動した。


〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓


称号:精霊の守護者

名前:エンフィル・シャンデール

レベル:61

種族:エルフ

職業:錬金術師:Lv50☆

体力:2990/2990

魔力:4620/4620

力  A(1222)

防御 A(1541)

知力 AA(2026)

精神 AA(1988)

素早さ AA(1992)

器用さ A

運気 B


スキル

万物錬成:Lv10   

分割思考:Lv4

精霊降誕:Lv7

気配遮断:Lv6

身体強化:Lv4

調剤:Lv8

鑑定:Lv2


アビリティ

錬金術:Lv10

理術:Lv8

精霊魔法:Lv6

風魔法:Lv7

杖術:Lv5

剣術:Lv5

魔力増強(特大)


特殊アビリティ

禁忌錬成術


〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓



 まるで勝負すらならなかった。ある程度強い事は分かってはいたが、正直言ってここまで強いとは思わなかった。

 ドルケがエルフィンの事を姐御と呼ぶのもわかる気がした。

 そしてエルフィンのステータスを見た事により分かった事がある。どうやら魔法はスキルに技名までは表示されない様だ。

 エルフと言えば弓のイメージが強いが、エンフィルにはそう言った類のスキルもアビリティもない。魔法使い寄りのエルフということなのだろう。

 眼の事を知っているエルフィンはフッっといった感じで少しだけ自慢げだが、この際これは無視しよう。


 「ドルゲ、エンフィル。二人は迷い人なのだろう、外の世界に戻ろうとは思わないのか?」


 こんな村だ、居心地が良いだろうし、愛着だって湧くだろう。

 予想くらいはしていたが二人からは思わぬ答えが返ってくる。


 「私はまだ出て行くことはない、この村でまだまだ研究したい事は多い。

  それに―――」


 その言葉に続く様にドルゲが続く


 「村長の奴が言うにはもうすぐ60年の周期が来ると言ってたな。

  少なくとも俺はそれが済んだら、近くの街へ出ようと思う。」

 「ああ、明後日が丁度60年の周期だ。準備は大丈夫だろうか」

 「何かあるのか?」


 60年周期。エンフィルがその疑問に答える。

 エンフィルが言うには60年に1度、この村の結界が再修復の為に一晩だけ綻んでしまう。

 それを狙ったかのように外の世界の魔物達が此方に押し寄せて来る為、毎周期60年が近くなると冒険者達が村に迷い始め、その冒険者達を雇い戦って貰うらしい。

 この村が活動を始めて何年経っているかは分からないが、今も存続しているのなら過去も魔物達の撃退には成功しているのだろう。  

 そしてこの周期では俺とエンフィル、ドルゲが村に滞在している。


 「なるほど、なら俺も戦おう。」


 生前の俺であったなら、素直に俺も戦うと言う言葉は出なかった。

 これは間違いなく肉体の年齢に今の自分が引き寄せられている結果だ。15.16歳の頃の俺は所謂極度のお人好しだったからだ。

 それにこの村の事情を聞いてしまったら、生前の俺であっても戦う以外の選択しかないだろう

 この村にはまだ生きようと必死に頑張っている人たちがいるのだから。


 「琥珀、それは嬉しいが。やれそうなのか?

  お前は元々私が強制的に連れて来てしまった節もある、外に出る事を望むのなら私は―――」

 「大丈夫だ。俺はこの村の為に戦いたい。」

 

 決意は固い。これは俺がやりたい事なのだ。同情が入っていないかと言えば嘘になる。

 それでも俺は戦える力を持って転生した以上、戦いたい。

 

 「わかった。ドルゲ、協力を頼めるか?」

 「任せときな。俺と姐御が模擬戦の相手でもしてやればレベルの1つくらいはあがるだろう。本当は外の世界で迷宮に潜るのが一番手っ取り早いんだが、仕方ねえ。」


 ドルゲには俺のレベルを伝えてはいないが、エンフィルの言動で低レベルである事を察した様だ

 こうして転生1日目にして60年周期の大舞台に立たされる事となった――――。


 (まずは今日中に琥珀へこの世界の基礎知識を叩き込んで…それから……)


 エンフィルが何か考えに耽っている様だが、気にしないようにした。 




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