【従者の証明】
「…嘘、だろ?」
俺は今自分がどんな顔をしているのか分からない。
何を考えようとしても纏まらず、ガタガタと震えながらも今だ地面に転がっている剣から眼を離せずにいた。
きっと宝くじの一等を当てた人の気持ちはこんな感じなのだろう。
「琥珀様琥珀様、これは何でしょうか?」
アルセリエが何も知らない顔で無邪気に聞いて来るが、その返答所ではない。
とりあえず俺が時間をかけてかろうじで考え付いた行動は回収だった。
この剣が本物でも偽物であってもとりあえず回収して後で爺さんに聞いてみよう、そうしよう。
俺は落ちている剣を回収する為に無造作に剣の柄へ手を掛ける。
「―――っ!!!」
剣の柄に触れた瞬間、身体中に何かが通り抜けた感覚が走る。
次の瞬間には身体から力が抜けて、ガクンと地面に向かって前のめりに倒れていく景色がゆっくりと見えた。
「琥珀様!!!」
アルセリエの呼ぶ声がして、かろうじで手を付いて身体が倒れていくのを止める事に成功する。
剣を地面に放り投げる様にして柄を握る手を放すと、そのまましりもちをついてしまう。
それにしても、先程の感覚はなんだ。まるで身体中の何かを剣に持っていかれた様な感覚である。
何か異常が無いかとステータスを見ると体力と魔力が半分以上削れていた。
剣を握った瞬間、何が起こったのか俺には理解が出来なかった。
「大丈夫ですか、琥珀様!!」
心配そうに覗き込むアルセリエの顔を見て俺は疑問に思う事を聞いてみる事にした。
周りを眼ではなく、別の視点から見ていたアルセリエにはもしかしたら見えているかも知れない。
シャーロットの魔法を真似て見せた時の様に、アルセリエには身体の魔力の流れが見えているのだから。
先程俺の身に何が起きたか、アルセリエには見えていたかもしれない。
「もう大丈夫だアルセリエ。それより、俺が剣を握った瞬間俺の身体に異常はあったか?」
アルセリエは俺の質問の意図を理解したのか、自分が見えていた物を話してくれた。
「先程琥珀様が剣を握られた瞬間、間違いなく剣と琥珀様の身体は魔力を通して繋がりました。」
「剣と繋がった?」
「はい。まるで、剣が身体の一部に成り代わったかの様に見えました。」
アルセリエによれば、剣が身体の一部に変わったと言う。
俺がそれを想像してもいまいちイメージが出来ない、本人の身体が本体であるとするのなら剣はそこから足された外付けのハードの様な物なのだろうか。
「ですが、剣と琥珀様の魔力が繋がり掛けた最後の瞬間に剣が琥珀様を拒んだ様にも見えました。」
剣が俺を拒んだ。
そう言えば爺さん曰く"白霊剣は生きている。"だったか。
もしそれが本当ならば、剣が俺を拒んだと言うアルセリエの意見も理解が出来る。
何方にしろとんでもない物を手に入れてしまった。
こんな体験をしてしまったら、この剣が本物か偽物かなんて考えは一発で吹き飛んでしまう。
爺さんの昔話に準えるのなら試しておかなくてはならない事が一つある。
「アルセリエ、一度この剣を握ってみてくれないか。」
「私が、ですか?」
「そうだ。」
そう、昔話曰くこの剣を手にして戦ったのは勇者ではなく"勇者の従者"である。
曲がりなりにもリエンの侵攻戦で勇者の称号を得ている俺の従者であるアルセリエならば、昔話通りの条件が揃っている。
アルセリエは地面に転がった剣に恐る恐る手を伸ばすと柄に指先が振れた。
「―――いっ!!」
アルセリエの指が柄に触れた瞬間、俺の時同様に何かが身体を走った様で顔は苦悶の表情に変わる。
俺はやはりダメかと諦めアルセリエに剣から離れる様に言おうとした時、アルセリエは俺の考えとは逆に剣の柄を強く握りしめた。
◇◆◇◆◇◆◇
剣に触れた時、私の身体は焼ける様な痛みに襲われる。
それはまるで傷口に手を入れて少しずつ裂いていく様な痛みだ、その上に剣に身体中の魔力が吸われていくのが分かる。
痛みに耐えかねて意識を失いそうになるが、何とか耐える。
琥珀様が心配そうな顔で私を止めようとするが触れただけの指先は張り付いた様に離れはしない。
もう、戻れない。そう感じた私は主人の心配を振り切り、更に柄に手を伸ばして握り締めると自身から流れ出ていく魔力を剣から自身へと引き寄せていく。
引き寄せられていく剣の力と自身の力を均衡まで持っていくと、焼ける様な痛みは完全に消える。
(これなら…。)
私は先程琥珀様が剣に触れて感じた時と同じ様に、剣を自分の身体の一部と見立てて無理矢理普段通りに魔力を流動させる。
そうした事によってか、剣から吸い寄せられる力が徐々に弱まっていくのが分かった。
もう少しでこの剣を、"私の物"に出来る。
琥珀様も私から苦悶の表情が消えたせいか私を止めようとはせず、事の成り行きを見守っている。
剣から発せられていた力が漸く消えると、先程までの痛みが嘘の様に拒絶反応が無くなった。
それはまるで本当に自分の身体の一部の様にすら感じられる程、違和感がない。
剣を本当の意味で手にしたせいか、この剣の"機能"も勝手に知識として理解してしまう。
私は剣を持ち上げようとするが、流石にこの小さい身体では荷が重いのかレベルが低い事も相まって両手で持ち上げてもフラついてしまう。
「はぁ…。心配したぞ、アルセリエ。」
琥珀様は剣を持ち上げた私の頭を心配しながらも良くやったと言って撫でてくれる。
「もう無理、で…すっ。」
私は腕が限界に来たので剣を地面に落としてしまう。
私にはまだこの剣は使えない。もう5つ程歳を重ねて、もう少しレベルが上がればまともに振れる位にはなるだろうか。
「この剣はアルセリエが大きくなった時まで取っておくか…。」
琥珀様も私と同じ考えだった様で、どうやら私の為に売らずに取って置いてくれるらしい。
これから琥珀様が以前言われた様に旅をして王都を目指すと言うのならいざと言う時には売り物にもなるだろうし、その判断は琥珀様に委ねよう。
私はレイスを倒した時に落ちていた白い布で剣を琥珀様でも剣を持ち上げられる様にグルグル巻きする。
「この状態なら琥珀様でも持てるかと。」
琥珀様は私にお礼を言うと、白い布で包まれた剣を重さを感じさせずに持ち上げて腰の鞄の中に収納した。
「それでは、狩りを続けましょう!」
先程まで乱れていた琥珀様の魔力もようやく安定し、一段落。
当初の目的である狩りを再開するとしましょう。
◇◆◇◆◇◆◇
「はい、17!!!」
「此方もこれで10体目です琥珀様!!!」
白霊剣を手に入れて早数十分。
俺達はレイスの狩りもとい、一方的な虐殺を楽しんでいた。
先程まであった白霊剣を手に入れた昂揚感はいざ知らず、逃げ惑うレイス達に追い付いては斬り、追い付いては斬る。
既に俺達の足元には幾つもの"霊府の布"が転がり、斬っても斬っても減らぬレイス達に気を取られて素材を拾うのも忘れている始末だ。
アルセリエの運気の値は"B"そして俺は"A"。
この数値は冒険者達や街の人をいくら覗いても高くても"Cランク"止まりでBすら全く居ない程高い。
そして、これが運気の力だ。アルセリエは10体倒して2つ、俺に至ってはもう7つも素材をドロップしている。
これが1つ800ステラに変わると考えると笑いが止まらない、完全に馬鹿になってしまっている。
だが、この先の旅を考えるとここで大きく稼いでしまった方が後で楽だ、予定が無い日は毎日通い詰めて貯金を貯めようじゃないか。
「あははははっ!! 間違っても武器を取り落とすなよ、アルセリエ!!!」
「慢心しすぎです、琥珀様!!!」
これだけ楽なら慢心もするさ。
これが一枚800ステラだぞ、アルセリエ。
二枚で今日の依頼の報奨金を優に飛び越えるんだぞ。
これが笑わずにいられるか!
「あははははっー!!」
「琥珀様っー!!!」
俺は高笑いしながらアルセリエを連れ回し、全力疾走で迷宮中のレイスを斬って回った。
・
・・・
・・・・・
「ゼーゼー、ハァハァハァ…。」
「ハァハァ…。はしゃぎ過ぎ、ですよ。琥珀…様っ!!」
ぐぅの音も出ない。
全力疾走で迷宮の中を駆け回り、レイスを狩りまくってこの始末である。
流石にはしゃぎ過ぎた。
息切れを起こして、心臓がバクバクと鳴っている。
これで俺の中の気も済んだのか、先程までの馬鹿みたいな昂揚感は既に落ち着いて逆に冷静になっている。
高笑いしながらレイスを狩っていた姿を思い返すと我ながら恥ずかしい、何をしていたんだと後悔ばかりが押し寄せてくるのだ。
「す…少し休憩がてら昼食にしよう、アルセリエ。」
「さ、賛成です。」
俺は上がる息を抑えながら、腰のカバンから水と先程の依頼の時に買っておいた干し肉とパンを取り出してアルセリエに渡すと自身も水を飲んで干し肉を齧り始めた。
アルセリエも水を飲んで落ち着いたのか俺の隣で同様に壁に背を預け干し肉を小動物の様に齧っている。
「とりあえず、休憩が終わったら素材を拾わなきゃいけませんね。」
「…ああ。」
幸いこの迷宮に居るのは俺達二人だけである、誰かに取られると言う危険性は無い。
俺もアルセリエもそれが分かっているので別に急ぎはしないのだ。
「そう言えば、メイガスさんの時以来一度もアルセリエのステータスの確認をしてなかったな。」
俺はパンを齧りながら少しだけ魔力を流して"神の瞳"を発動させ、アルセリエを見た。
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称号:該当なし
名前:アルセリエ・ロード
レベル:5
種族:人間
職業:―――
体力:410/410
魔力:299/299
力 D(158)
防御 D(138)
知力 D(231)
精神 D(222)
素早さ D(219)
器用さ B
運気 B
スキル
魔力感知:Lv8
魔力操作:Lv6
魔力放出:Lv2
身体強化:Lv1
アビリティ
剣術:Lv2
棒術:Lv1
空間把握:Lv5
水魔法:Lv1
特殊アビリティ
第六感
盲目
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「…お、アルセリエ。レベルが5に上がってるな。」
「本当ですか!!」
アルセリエのステータスには新たに水魔法も追加され、能力の伸びも素晴らしい。
だが…。
「身体が数値通りの動きを出来ているかと聞かれれば…。」
「私はまだこの通り子供ですから、もう少し歳を重ねて成長すれば身体がステータスに追い付いて来ると思います!」
成程。アルセリエの発言から考えるにステータスはあくまで基礎であり。
子供だから低く表示されると言う事は無いと言う訳か…。
あくまで"子供"の部分と言うのは補正でアルセリエの身体が大人に近付けば近づく程数値通りの力が出せる様になる。
つまりはそう言う事か。
「そう言えば、この世界の成人っていくつを差すんだ?」
俺の居た現代の日本では20が成人であると定めているが他の国では15や18で成人であると言う所もあるらしい。
あの医者からの受け売りではあるが、医学的には15くらいが成人とも言うらしい。
ならばこの世界ではどれくらいの歳が成人と言うのだろうか。
「この世界でも国によっては少し違う所もあるのですが、一般的には15歳で成人とされています。
ですので、あと5年も経てば私も大人の仲間入りと言う訳です!」
あと5年か、割と長いな…。
そう言えば俺は今の自分の年齢がどれくらいか分からない。
16くらいの感覚ではあるが、そうだとしても5年後には21。
そう見るとあまりアルセリエと俺はそんなにびっくりする程歳が離れていないのか…。
身体はそうでも5年経てば中身はおっさんである、心の中はもう既にアルセリエの父親感覚だろう。
食べていたパンを歳の虚しさと一緒に飲み込む、隣を見ると丁度アルセリエも食事を済ませた様だ。
俺は水を流し込んで立ち上がるとアルセリエも同じ様に立ち上がった。
「よし、後半戦と行こうか。」
「はい!!!」
俺とアルセリエは再び剣を構えて来た道を辿って狩りに戻った。




