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目黒琥珀の異世界転生論  作者: ウェハース
第二章【極小国家・シエロ】
35/45

【冒険者へ】



「…またか。」


 俺は学ばない、そう痛感する朝だ。


 目を覚ますと今は見慣れたギルドの景色が眼の前に見える。

 朝だというのに酒場のテーブルには木製のタンブラーを持ち突っ伏して眠りこける騎士達、床に倒れて死んだ様に眠る者達が死屍累々を築き上げている。

 そんな状況を見ながら頭を押さえるとその腕に何かが当たった。


 「…アルセリエか。」


 どうやらアルセリエもこの場に俺と共に飲み込まれたのだろう、俺の肩に寄り掛かって寝息を立てている。

 まさか酒を口にしていないだろうなと昨日の記憶を思い返すが、酔いに酔ったドルゲ等新騎士団と冒険者…途中からは更に街の住民達まで巻き込んでもみくちゃになった辺りから完全に記憶が途切れている。

 

 「琥珀さん、大丈夫ですか?」


 その声に反応して顔を上げるとそこにはミラが水の入った容器を持って立っていた。

 俺は差し出された水をお礼を言いながら受け取り、一気に流し込もうとした所でもう一人から声が掛かった。


 「水を飲むのならこっちも一緒に飲むと良い。」


 そこに居たのは小さな紙包みを持ったセーラさんだった。

 その紙包みはエルザさんに以前渡された物と同じ酔い止めだろう。

 セーラさんから薬を受け取って水と一緒に流し込むと相変わらずの即効性で徐々に徐々に体からアルコールが抜けていくのが分かった。

 

 「有難うセーラさん、随分と楽になった。」

 「礼はいらんよ。以前の騎士団員共の影響で騎士団の詰所に大量に保管されていた物だ、もう私達には必要ない物だからな。」


 セーラさんはそう言って酒場の方へ眼を向ける。

 

 「…ったく。今日から立て直しで忙しくなると言うのに。」


 セーラさんは頭を抱えながら壁にもたれ掛かるドルゲや騎士団員達を乱暴に蹴り起こしていった。


 「あははは…。」


 その姿にミラも苦笑いを隠せない。


 その姿に触発されたのか獣人の少女達が我先と冒険者達を順に叩き起こしていく。

 俺もこのまま起きない訳にはいかないので、アルセリエの肩を揺すって起こす事にする。


 「んぅ…。あ、お早う御座います琥珀様。」

  

 アルセリエは俺の顔の方へ向いて、笑って挨拶をするとゆっくりと立ち上がった。

 俺もアルセリエ同様立ち上がろうとするがフラついてしまう。

 アルセリエが俺を支えようと手を伸ばしたが、それを制すと壁に手を付いて何とか立ち上がる。

 どうやら俺が思っていた以上に昨夜は飲んだらしい。

 その反対にいつも通りの動きをしているアルセリエからは二日酔いの気が無い、きっと昨夜は一度も酒を口にしなかったのだろう。

 

 「おぉ、アンちゃんもアルセリエの嬢ちゃんも昨夜は迷惑掛けたな!!!」

 

 俺が立ち上がるとそこに立っていたのはドルゲだ。

 相変わらずどんな身体の構造をしているのか、俺とは違ってピンピンしている。


 「お早う御座いますドルゲ様!!」

 「相変わらず酒に強いな、ドルゲは…。」

 「おう、おはようさん!酒なんて飲んでりゃ飲める様になるモンよ!!」


 そう言ってガハハと笑うドルゲを見てリエンで馬鹿みたいに飲んでいた姿を思い出すと、俺は絶対ああはならない様にと誓った。


 「よっしゃあ! 悪いが俺等はもう行くぜ、これからやらなきゃいけねえ事が山積みだからよ。」

 「ああ、これからを楽しみにしてる。」

 「ガハハ!!! 期待して見てろよアンちゃん!!!」


 ドルゲは昨夜の内に仲良くなったアルセリエの頭を俺の背中の時とは違ってポンポンと優しく叩くと、『アンちゃんの事を頼んだぜ。』と言って背を向けて歩き出した。

 

 「琥珀様の事はお任せください!!!」

 「おうよ!!!!」


 ドルゲはそう言って後ろ手に手を振るとセーラさんと未だフラフラと頭を抱えながら歩く騎士団員達を連れてギルドを出ていった。

  


 ◇◆◇◆◇◆◇



 「琥珀さん大丈夫ですか…?」

 

 カウンターを介してミラは俺の顔を覗き込み、体調を伺う。

 身体から完全にアルコールが抜けた頃、ミラに落ち着いたらカウンターに来て欲しいと言われたので彼女の言葉通り俺は少し休んでからカウンターに赴いた。

 

 先程まで倒れていた冒険者達はと言うと、椅子に座って休んでいる俺を横目に二日酔いも感じさせない動きで掲示板に群がり恒例の依頼争奪戦を開始し、既に各々好きな依頼を受けてギルドを出発してしまった。

 傍から見ていると、正に書いた字の如く"争奪戦"に相違ない。

 数十人の男達が肉体をぶつけ合って我先に張り出された依頼の紙を取り合っている姿を見ると、俺は間違いなくあの中で依頼を勝ち取れる気がしない。

 もみくちゃにされて弾き出されるのが眼に見えている。

 俺がその光景に冷や汗をかいていると隣で見ていたアルセリエは『明日から私達もあの中に加わるんですね!!』と言って目を輝かせていた。

 アルセリエには悪いが俺はあの争奪戦に参加する気は無い。

 確かに割のいい仕事は多いだろうが、シャーロットが居ない時は基本的に迷宮に潜るつもりでいるのでミラに怪しまれない様、アリバイ作りの為に依頼を受けるだけである。

 依頼料が低くてもいいのでついでに出来る程度の依頼でいいのだ。

 

 今日の今日ではあるが、セーラさんが手を回したのか騎士団と共同での見張り、雑用仕事がいくつか張り出され、それが争奪戦の中心になっていた。

 新しい騎士団の編成の関係で殆どの騎士団員を追い出したので人手が足りてないとの事だ。

 当分はこの依頼で激しい争奪戦が繰り広げられる事が予想される。

 そして、争奪戦に敗れた者も残った通常の依頼や国から依頼された割の良い討伐依頼を剥ぎ取って行った。


 ・

 ・・・

 ・・・・・

 

 閑話休題。

 

 心配そうに見ていたミラにもう大丈夫だと伝えると、ミラは『今度からはあまり飲み過ぎない様に!』と俺に釘を刺す。

 ごもっともである。

 俺はミラへ"出来るだけ努力はする"と伝えると深い溜息を吐かれた。 


 「…それでは、此方の要件を進めさせていただきますね。」


 ミラは呆れた顔をしながらも、カウンターの上に二枚の札を置く。

 大きさや形は銀行のキャッシュカードより少し大きいくらい。

 手に取ってみると意外と重みがあり、現代のカードとは違い曲がらない。

 俺がそのカードを見ながら疑問符を浮かべているとミラが説明を加えてくれる。


 「材質は"記憶石"と言う物で、元々は錬金術師の方々が"賢者の石"の制作に挑戦する際に出来る、所謂失敗作をギルドが買取この冒険者証の制作に使用しています。」


 ミラは『ですから!』と続ける。


 「壊れる事は無いとは思いますが、極力失くしたり壊さない様にお願いします。

  …失くせばその代金は出身ギルドの負担になってしまいますので。」


 詰まる所、うちにはそんな余裕はないから失くすなと言う事か。


 「此方には各々の魔力が登録され、本人以外の利用が出来ない様になっています。」


 カードの表面を見ると、現在のレベルと名前…そして冒険者のランクである"F"と言う文字が書かれていた。


 「冒険者のランクアップについてはCまでは各々のギルドが、それ以上はギルドの本部が貢献と実力に応じて決定します。

  また、進行する依頼も其方に登録され、その進行度を勝手に記録してくれますので態々記録する必要はありません。

  後はギルドでの買取の履歴が残る程度でしょうか…。

  此処までで何か質問はありますか、琥珀さん?」


 俺は顎に手を当てて説明を振り返るが、特に今質問する様な事は浮かばない。

 アルセリエの方を向いて何かがあるかと言うがアルセリエも特に疑問に思う事は無い様だ。


 「俺もアルセリエも特に質問は無い。疑問が出来ればその都度聞く事にするよ。」

 「分かりました。…では、以前お渡しした仮の冒険者証を―――」


 俺は自分のとアルセリエから預かっていた仮の冒険者証を鞄から取り出すとカウンターの上に置いた。

 ミラはその冒険者証を受け取ると『それでは…』と言って言葉を続ける。


 「ようこそ、シエロ冒険者ギルドへ!!!」


 ミラはこれまでで一番の笑顔で俺とアルセリエを歓迎した。

 何時の間にか居た獣人の少女達も『…よく来たな。』『ようこそー!』と言って彼女等なりに俺達を祝福してくれる。

 俺とアルセリエは新しい冒険者証を受け取るとその歓迎に笑顔で返した。


 「それでは琥珀さんこれからどうします。

  あまり良い依頼は残ってはいないとは思いますが、初依頼を受けて行きますか?」

 「ああ、そうさせてもらおうかな。」

 「では、掲示板に貼ってある好きな依頼の紙をお持ちください。この街にはランク制限は有りませんので。」


 俺とアルセリエはカウンターを離れて掲示板の前に立つ。

 掲示板を確認すると、そこにはまだ10を超える依頼が掲示されていた。


 その依頼は薬草の採取依頼に街での家事の手伝いやら食事所でのスタッフだったり、屋根の修理等々。

 何方かと言うと肉体労働が多い。

 討伐依頼もオークの討伐依頼とレイスの討伐依頼が張り出されているが何方もずっと放置されているのか既に紙が変色しかかっていた。


 出来るのならレイスの討伐依頼を取るのが一番良いのだろうが、ミラにあれだけ釘を刺された手前馬鹿正直に受ける訳にはいかない。

 ならば…。

 張り出された依頼を1つ1つ確認していると1つ丁度良い依頼が張り出されていた。


 ―――迷宮入り口までの物資調達及び輸送。

 依頼人の名前には知らない人の名前が書かれている。

 そう言えばあの爺さんの名前を聞いてなかった、今日行った時にでも聞いてみよう。

 

 依頼報酬は1500ステラ。

 酒、食料、衣類等々指定数此方で購入して届ける様だ。

 届ける物資も依頼の紙に記してあり、御丁寧に売っている店まで記してある。


 俺はアルセリエに選んだ依頼を説明すると二つ返事で了承する。

 既に今日は迷宮に潜る事をアルセリエには事前に伝えてあるので、特に不都合はない。


 掲示板から依頼の紙を剥ぎ取ってカウンターに持って行くとミラは俺に疑いの眼差しを向ける。


 「琥珀さん、まさか…?」


 まぁ妥当な反応だろう。

 だが俺には既にその返答を用意している。


 「実はミラにあの迷宮の事を聞いてから一度も見に行ってなくてね。依頼序でにどんな所か見に行こうと考えているんだが、不味かったかな?」

 「えっ…まだ行ってなかったんですか? 興味有り気だったのでその日の内に行ったモノだと。」


 俺は白々しく不思議そうな顔をして答えるとミラは少しだけ驚いた顔をする。

 まぁ発言は嘘で次の日には見に行ったのだが、どうやら上手く行った様だ。

 

 「分かりました。あそこには頑固なお爺さんが居ますから、中には入れないでしょうし依頼をお願いします。」

 

 そう言うと冒険者証を出す様に言われたので素直に冒険者証を差し出す。

 ミラは右手に冒険者証、左手に依頼票を持つと次第に左に持った依頼票が白紙に戻り冒険者証の裏に依頼内容が刻まれていく。

 全ての転記を終えると冒険者証を俺に返却し、驚いた顔で事の成り行きを見ていた俺にドヤ顔を決めた。


 「凄くないですか、私の転記術。本来他のギルドの方々の多くは皆魔道具を使わなきゃ出来ないんですよ!! こう見えて私、魔力操作レベル3なんですよ!!」

 「見直したよ。」

 

 俺はそう言って得意げにしているミラを褒め、一瞬だけアルセリエに視点を移すと何処か優越感に浸った表情をしていた。


 「それでは琥珀さん、初依頼頑張ってくださいね!」

 「ああ、それじゃあ行って来るよ。」

 「待つニャ!!」


 ミラに背を向けてギルドを出て行こうとした時、猫耳の少女の声がギルドに響く。


 「どうしました?」

 「どうしたじゃねーニャ。昨日の素材買取のお金はどうするニャ?」


 ミラと俺はそう言われてハッとした。

 昨日の成果である素材を査定に出したまま買取金額を受け取っていなかった事を思い出したのだ。

 昨日はあんな事があったので、時間の都合でシャーロットはお金を受け取らずに別れてしまった。

 次に会えるのは四日後だ、それまでは手を付けずにギルドに預かってもらった方が良いかも知れない。


 「次にシャーロットに会えるのは四日後。まだ配分も決めていないから、それまでギルドで預かってもらえないだろうか?」

 「ん、そう言う事なら預かるニャ。」

 「助かるよ。」


 猫耳の少女に事情を説明すると有難い事に快く引き受けてくれた。

 どうやら多少の融通は利かせてくれるくれるらしい。

 これで漸く出発できると言うモノだ。

 

 「よし、今度こそ行くか。」

 「はい、琥珀様!!」


 俺達は今度こそギルドを後にして、初依頼もとい迷宮攻略に向かった。


 「…まずは宿に戻って風呂に入ろうか。」

 「私もそれが良いと思います…。」


 目的地修正、身体の気持ち悪さから俺達は宿へ向かうのだった。



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