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目黒琥珀の異世界転生論  作者: ウェハース
第二章【極小国家・シエロ】
34/45

【期待の新団長】

酷い編集ミス修正しました。



 「シャーロット、その人の事は頼むよ。」

 「本気なの!? 相手は騎士でしかも3人も居るのよ!!」

 「別に喧嘩しに行く訳じゃないんだから、問題ないだろう。」


 『そんな事言ったって!!』とシャーロットが言うが、俺は倒れた冒険者をシャーロットに任せてその場を後にする。

 ただ俺は素材を換金しに行くだけだ、喧嘩などなる筈がない。

 普段通りにこの階段を上ってドアを潜り、普段通りにミラに今日手に入れた素材を買い取ってもらうだけ。

 ほら、口に出せば嘆く事など何もないのだ。

 だた…今日だけは勝手が違い、少しだけ建物の立て付けが悪いだけでそれ以外は普段と何ら変わりはない。

 

 俺は素材の入った袋を背中に背負うとギルドへ立ち入る為に入り口の階段を踏みしめる。

 一段、二段、三段。


 「ふざけやがって!!!!!」


 中央に居た男がそう叫ぶと両側に居た仲間達はドスドスと俺の下へ歩みを進める。

 それでも俺は階段を上る歩みを止めはしない。

 

 階段を上り切る直前で俺の下に迫っていた男達の一人が俺を蹴落とそうとゲラゲラと笑いながらその足を真っ直ぐと俺に向けて放つが、その蹴りを見て正直この街の騎士団のレベルに心底落胆した。

 この程度なら先程の冒険者であってもまず負ける事は無いだろう。

 これなら守衛をしていた新人の騎士団員の方が戦えば上では無いだろうかと思う程だった。

 

 「なっ!!」


 俺は"神の瞳"を使い、その攻撃が当たるギリギリまで引き付けてから身を横にずらすだけで躱すとそのままの蹴りは空振り終わりその勢いのままその男は階段を落ちていった。

 毎日毎日修練も何もせず酒ばかり飲んで過ごしているからこうなる。

 せめてシラフであったのならもう少しまともな攻撃が出来ただろうに、酒を飲んでふらついているから攻撃を躱されるだけでバランスを崩ししなくてもいい怪我を負うのだ…。 


 「…。」


 俺は落ちていった男に眼もくれずにもう一人を一瞥して階段を上り始める。


 「何やってんだテメェ等!!!」


 奥の男が檄を飛ばすと呆気に取られていた男が俺に向かって動き出した。


 それは階段を上り切るのとほぼ同時だ、男は俺に向かって拳を向けるがその攻撃は空を切る。

 俺は何事もなかったかの様に歩き出すと今度は横から蹴りが飛んできたので届かない位置まで身を引いて躱す。

 

 「クソがっ!!!!」


 二発の大振りな攻撃を躱された男はムキになると、今度は入り口の隅に置いてあった木材を手に取ると力の限り上段に振りかぶった。

 振り下ろされた大振りの攻撃は俺が言うのもなんだが、まるで剣を一度も握った事が無い様な者の動きである。

 俺は半身引いて躱すとそのまま攻撃して来た男の足先を踏んでやった。


 「ウガッ!!!」


 男は変な声を上げて勢いのまま床に激突する。


 俺はそんな男も先程の男の様に無視すると、何事も無かったかの様に入り口の前まで悠然と進んだ。


 「さて、中に入りたいんだが…退いてもらえないだろうか?」

 「な、何なんだよ、テメェは。」

 「生憎ただの新人冒険者だ。」


 そう言って男の脇を抜けてギルドの建物の中に入ろとする。


 「退くとは…言ってねぇだろが!!!」


 案の定、最後の男も此方に向かって拳を振り被る。

 まぁ、当然と言えば当然だ。俺が同じ様な状況だったとしてもきっと通さないだろう。

 

 迫り来る拳を見て思うのは、次期副長候補と言うだけあって先程の男達とは酒が入っているのに関わらずキレが全然違う。

 ただ、それでもその速度も威力もコルエさんの弟子であるルシエの一度目の攻撃の足元にすら及ばない。

 二度目の攻撃に比べたら止まっているも同然だった。

 特に魔力の意識もせずにただ眼を使っていると言うだけでそれだ、きっと酒が抜けていてもたかが知れているのだろう。


 俺は迫り来る拳に合わせて一歩半ギルドの中に後退するとピタリと止まる。

 男が出した拳は腕が伸び切った状態で止まり、俺の眼前数センチと言う所で静止している。

 男は何か得体の知らない物でも見たかのような顔をすると、拳を突き出したまま停止していた。


 俺はそんな男を無視して振り返り、カウンターに向かう。


 「お、お帰りなさい、琥珀さん!」

 「…っ!!」


 笑顔で俺を出迎えてくれたミラの右の頬が赤く腫れていた。

 きっとあの騎士共がやったのだろう…。

 俺は心の奥底がとんどん冷えて行くのを感じたが、喧嘩をしに来た訳ではない。

 猫耳と兎耳の二人が不安そうに此方を見ているが、これ以上事を荒立てて不安にさせる訳には行かないだろう。

 俺は無理矢理"それ"を封じ込めると、笑顔で出迎えてくれたミラへ同じ笑顔で応えた。


 「今日の成果を持って来たんだが、買い取ってもらえるか?」

 「え、ええ、お任せください!!!二人とも!!!」


 俺が素材の入った袋をカウンターに出すと、兎耳と猫耳の少女は急いでその袋を持って後ろに下がる。


 「災難だったな。」


 そう言ってミラに持っていたポーションを差し出す。


 「…。有難う御座います。」


 ミラはそれを受け取るかどうか迷ったが、遠慮がちながらもポーションを受け取ってくれる。


 「琥珀様!」


 未だ停止して動かない男の脇を抜けて冒険者の男を連れたシャーロット達が此方に来る姿が見える。

 

 「もう、心配したよ琥珀さん!!!」


 そう言って怒るシャーロットと意識の戻った冒険者の男が弱々しく親指を立てる。

 その後ろを付いてアルセリエが進み、丁度停止したままの男の隣を通り過ぎようとしていた。


 「…何が新人冒険者だ。」 


 運が良いのか悪いのか、動きに気付いたのは眼を使用したままにしていた俺だけだった。

 その言葉を聞いたアルセリエは男の方を向こうとする前に動きを察知して短剣を抜こうとしたが、一歩だけ男の方が早い。

  

 「あ、ぐぅっ!!」


 アルセリエは首を掴まれて宙吊りにされてしまう。

 抜こうとした短剣も取り落とし、子供のアルセリエには余程の力が掛かっているのか苦しそうな声を上げていた。

 男はニヤリとその口を歪ませると俺達へ顔を向かせながら警告を放つ。


 「テメェ等、動くな!!! 一歩でも動いたらこのガキの首をへし折って――――」

 「…汚ねぇ手でアルセリエに触れるな。」


 そこから先の言葉は悲鳴に消えた。


 全力で飛び出した俺の鞘が被ったままの剣がアルセリエを捕らえている男の手首を叩いていた。


 「あ゛あ゛あ゛ァァァァァ!!!!」


 騎士の鎧の一部である手甲の合間を縫って手首を切り上げると鈍い音と共にアルセリエは地に落ちる。

 完全に骨を砕いたのか男の右手首は意志に反してだらりと垂れ下がり、当の本人は遅れて来た痛みに悲鳴を上げていた。

 苦しそうに咳き込むアルセリエを抱きかかえると未だ痛みに悶える男から距離を取った。


 「あ、有難う御座います琥珀…様。」

 「無事でよかった。」


 礼を言うアルセリエを床に降ろすともう一度男へ向き直る。


 「ああ、クソが!! ふざけやがって!!!

  もう知らねえ、皆殺しだ!!!」


 そう言って残った腕で男は腰に差した剣を抜き放つ。

 どうやら先程の一撃で完全にキレてしまい、男の頭から退くと言う二文字は消え失せてしまった様だ。

 こうなれば本格的な戦闘は避けられないだろう。


 俺は剣を抜き、構えようとした所で聞き覚えのある声が聞こえた。


 「ったく、騒ぎが起きていると言うから見に来てみれば…。」

 「―――っ!!!」


 男はこの場に居ない筈の声を背後から聴くと、焦った様に振り返る。


 ―――"アイス・バウンド。"


 その声と共に目の前の男の残った腕が凍り付いていく。

 凍結の浸食は手を添えられた方から始まり、指先までゆっくりと伸びてその先に握られていた剣の柄まで凍らせてしまう。


 「う、うわぁぁぁあああああああ!!!」


 徐々に凍結していく自身の腕を振り回しながら男は悲痛な叫びをあげるがその浸食は添えられた手が肩から離れようとも止まる事は無かった。

 

 「くそっ!!くそ、くそ、くそっ!!!!!」

 「五月蠅ぇ!!!!」


 自身の腕が凍り付き、悲痛に叫びながらもガリガリと氷を少しでも削ろうとしている男は次にギルドへ入って来た大男に蹴り飛ばされる。

 蹴り飛ばされた男は丁度俺の前まで転がって来たので、足で物を扱う様に停止させた。


 男は俺と目が合うと顔を青くさせ凍った腕を支えながら跳び起きると俺の姿をそっち退けで自信を蹴り飛ばした奴等へ視線を向けた。


 「な、ななな、何でテメェが此処にいんだよ!!!!

  お前は団長と決闘の最中の筈だろうが!!!!」


 そんな発言を無視する様に蹴り飛ばした張本人は俺の姿を見てニンマリと笑う。


 「うちの穀潰しがわりぃな、"アンちゃん"。」


 その口振りに大男と俺の間で訳の分からないと言った顔をしながら片腕を凍らせた男は俺と大男を交互に見ている。


 その愛称に口を少しだけ歪ませて大男に言葉を返した。


 「随分な猛進じゃないか―――"ドルゲ"。」


 俺がそう返すと、ドルゲはガハハと笑いながら彼らしい笑顔を見せてくれた。

 

 「どう言う事だよ、説明しろ新入りィ!!!」

 「新入りだァ? "団長"の間違いだろ。」


 ドルゲが声を荒げた男へそう返すとガタガタと震えだし、腰を抜かして座り込んでしまう。


 「だだだ、団長がお前みたいな新入りに負ける筈が!!!」

 「まぁ確かになぁ。危ない部分も結構あったが…。」


 良く見るとドルゲの身体のあちこちには真新しい切り傷がそこら中に刻まれており、未だに薄っすらと血が滲んでいる所を見るについ先程まで激しい戦いをしていた事を物語っている。

 

 「いくら俺が実力で劣っていようが、泥酔して俺を舐め切って戦う馬鹿には流石に負けはしねぇよ。

  決闘は俺の勝ち。今日から俺がシエロ騎士団の団長だァ!!!!」


 その言葉を聞いて腰を抜かした男は後退りながらうわ言の様に嘘だ嘘だと呟いている。


 「お、そうだ。セーラ、ちょっとアイツの腕のバインドを解いてやってくれ。」

 「はぁ? お前は何を言ってるんだ。」


 腕を凍らせた張本人であるセーラさんはドルゲに嫌そうな顔をするが、いいじゃねぇかと言われて団長命令なのか渋々凍った腕を溶かして解いて見せた。

 拘束を解かれた男は何が起こっているのか理解が追い付いていない様であたふたしている。


 「これはどう言う事だ…。」

 「オメェ、アンちゃんと戦う所だったんだろう? なら好きにすると良い。」

 

 思いがけぬドルゲの発言に当の本人を含め、俺以外は皆困惑した表情を浮かべている。

 唯一その意図を掴んだ俺はドルゲの発言に乗る事にした。


 「だ、そうだが…やるかい?」

 「―――っ!!」


 俺がそう言うと男は俺の方へ剣を構えて見せるが、その剣には明らかに先程の様な殺気は乗ってはいなかった。


 「ああ、そうだ…先に言っとくが、アンちゃんも成長してるだろうし勝ち目はねぇぞ。

  俺も今戦えば勝てるか分からねぇから、今度はその手首だけじゃ済まねぇだろうなぁ。」

 

 高笑いしながら下された残酷な宣告は男が剣を取り落とすのには十分だった。


 「おっと、逃げ出すなら胸の紋章は置いていけよ。同じ仲間だった(よしみ)だ、命までは取らねえ。」

 「ぐぐぐっ…!!!」


 それは騎士団からの追放を意味する言葉だと、俺でも理解した。

 男は呻きながらギリギリと歯軋りをしてドルゲと俺の姿を恨めしそうに睨め付けると胸の紋章を外して床に叩きつけた。


 「覚えておけよテメェ等!!!」


 捨て台詞を残して男はドルゲ達の横を通り過ぎて外へ飛び出して行った。


 「情けねぇな。」


 ドルゲとセーラさんは飛び出して行った男の後ろ姿を見る事も無くギルドの中へ立ち入る。

 そして、ギルドの中央まで来るとセーラさんは跪きドルゲは頭を地面に擦り付ける。

 その姿を見たミラと素材を数えていた少女達は驚きで完全に固まってしまっている。


 「うちの騎士団が迷惑な事をしてすまなかった!!!!!」


 その声はギルド中に大きく響き、身体の心まで響き渡る。

 

 「これまでの騎士団のして来た事はとても許される事じゃねえ。

  毎日の様に朝から職務を放棄して酒をかっ喰らい、挙句の果てには冒険者の奴等に暴力を振るう。

  そんな輩は全てこの街から追い出し、諸悪の根源は斬って捨てた!!!

  今すぐ許してくれとは言わねえ受け入れてくれとは言わねえ、だがこの新団長ドルゲが着いたからには身を削る覚悟でこの街と新しく一から付き合っていくつもりだ!!!

  だからどうか、どうか…信じろとは言わねえから、見ていてくれ!!!!!」


 ドルゲが言葉を言い切るとギルド内に長い静寂が訪れた。

 ミラやシャーロット、アルセリエ、そして俺でさえもその迫力に声が出なかったのだ。

 

 静寂から一分が経とうとしていた頃、静寂を破ったのはパチパチと言う一つの拍手だった。

 その音を発したのは俺でもなく、ミラでもない。

 何時の間にか帰って来ていた他の冒険者達からだった。

 

 ドアにもたれ掛かる様に顔だけ出してドルゲとセーラさんの姿を、先程の言葉を聞いていたのだ。 

 始めは一つだった拍手の数は次々に波の様に増えていく、気付けばシャーロットが肩を貸していた冒険者も目を覚まして一緒になって手を叩く。

 獣人の少女達もシャーロットもアルセリエも俺も、例外無く拍手が響きこのギルド内を包んだ。


 「ドルゲ様、セーラ様、お立ち下さい。」


 ミラはカウンターを出ると、ドルゲとセーラさんの前に立って手を差し出して二人を起こした。

 二人が立ち上がると、待ってましたと言わんばかりに冒険者達が新しい団長に殺到する。

 

 「おい兄ちゃん、酒は飲めるんだろうな!!!」

 「ちゃんと聞いたぜ、噂じゃ街中頭下げて回ったんだってな!!!」

 「オイ、酒だ!! この街の騎士団をぶっ潰してくれた新しい団長様にエールを持ってこい!!!」

 

 ドルゲは冒険者達に肩を抱かれるとギルド内の酒場へ連れて行かれる。

 何時の間にか猫耳の少女は俺の素材買取を兎耳の少女に任せて、酒場のカウンターに飛んで行き注文を取り始めた。


 「セーラさん、大丈夫なんですか?」

 「…まぁ、今日くらいはいいだろう。」


 セーラさんは若干呆れた様な顔をしながらも答える。

 

 この喜びようからして、随分前の騎士団員共は嫌われていた事が分かる。

 そして、ドルゲの肩に掛かる期待もそれ相応に大きいのだろう。

 

 俺の冒険者としての道もドルゲの騎士としての道も同じ此処、シエロから始まったと思うと何処かむず痒いが悪い気はしない。

 

 「オイ、アンちゃん助けてくれ!!」

 「…ハァ。」


 冒険者達に揉まれ姿が隠れているドルゲから助けてくれと声がすると、セーラさんは溜息をしてドルゲの下へ向かって行った。


 「琥珀さん、有難う御座いました!!」

 「最後に場を収めたのはドルゲだ、礼ならアイツに言ってやってくれ。」


 ミラが頭を下げるが俺は手で制すとその礼はドルゲに言ってやってくれと、諭すがミラは顔を左右に振った。

 

 「いいえ、ドルゲ様にも感謝していますが、それと同じだけ琥珀さんにも感謝しています。

  琥珀さんが来てくれなかったらもっと酷い目に合っていたでしょうし…。」


 そう言うミラの俺を真っ直ぐに見つめる瞳に少しだけこっ恥ずかしくなりつつも素直にその礼を受けるとミラは満足した顔でカウンターへ戻って行った。


 「私も混ざりたかったなぁ…。」

 「そう言えばシャーロットはこれから仕事だったな。」 


 何時の間にか肩から消えていた冒険者を気にする事なくシャーロットは肩を落とす。

 残念そうな声で『行って来るね…。』と言ってシャーロットはギルドを去って行った。

 

 俺とアルセリエは肩を落としながらギルドを出て行くシャーロットの背を見送ると俺達も他の冒険者に混ざり、ドルゲ達を祝福する事にした。



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