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目黒琥珀の異世界転生論  作者: ウェハース
第二章【極小国家・シエロ】
33/45

【アルセリエの力Ⅱ】



 「…敵が来ますっ!!」


 急にそう言ったアルセリエの言葉に俺とシャーロットも初めは疑問符を浮かべた。

 俺とシャーロットも一応武器を抜いたが、周りを見渡せど敵の姿は見えない。

 そもそも俺達の居るのは森の入り口で回りは平原、障害物が少なく魔物の潜んでいる場所など存在しない。

 ならば残されたのは場所は一つ、森の中である。

 

 森の奥の方を向いて短剣を構えながらじっと何かを待つアルセリエを見て俺は漸くその根拠に辿り着いた。

 これはアルセリエが持つ索敵能力であると。


 「構えろシャーロット、敵が来るぞ。」

 「えっ、敵なんて何処にも―――」


 シャーロットが言い終わる前に森の入り口近くの茂みから五頭の狼が飛び出し、俺達に向かって飛び掛かって来た。


 「え、何でこんな急に!!!」


 始めに飛び出したのは俺だ。迫り来る狼の先頭の一頭を剣で薙ぎ払うとそのまま続く一頭を蹴り飛ばす事に成功する。

 残り三頭は俺が二頭の相手している間に脇を抜けて二頭はシャーロットに迫り、一頭はアルセリエに向かってしまった。


 「シャーロット!」

 「こっちは大丈夫!!先に向こうに行ってあげて!!!」

 

 そう言った彼女は既に二頭の一頭を仕留めていた。

 シャーロットの方は問題ない事を確認すると俺は蹴り飛ばした一頭にトドメを入れ、シャーロットを後回しにアルセリエの救援に向かおうとする。

 だが、俺が心配している程アルセリエは弱くは無かった。

 

 「やぁっ!!!」


 アルセリエは掛け声と共に狼を斬り付けるが彼女の記念すべき第一刀はヒラリと避けられてしまう。

 攻撃を躱した狼はアルセリエを警戒する様にゆらりゆらりと歩きながら少しずつ目標であるアルセリエとの距離を詰めていく。

 丁度アルセリエが踏み出せば斬りかかれば届く距離に差し掛かるとお互いの動きはピタリと止まる。

 

 そこから攻撃に転じたタイミングはアルセリエも狼も同じだった。

 アルセリエが短剣を突き出すと、狼はその突き出された剣の下を潜り抜けてアルセリエに身体をぶつけて転ばされてしまう。

 これを好機とアルセリエに飛び掛かる狼を見て、流石にこれは不味いと思った俺はアルセリエの下へと急いだが、その不安は杞憂に終わる。


 倒れ込んだアルセリエに飛び掛かった狼はアルセリエの上からずるりと崩れ落ちる。

 よく見るとアルセリエの短剣の切っ先は狼の口から後頭部に向かって突き刺さっていた。


 むくりと立ち上がったアルセリエは狼の口から剣を引き抜くと俺に向かって手を振っている。

 

 「やりました!!」


 そう誇らしそうにするアルセリエを褒める様に撫でてやると、嬉しそうな表情を見せてくれた。


 「あ、そう言えば。」

 「琥珀さーん…。」


 俺はアルセリエが気になり過ぎてシャーロットの事が頭からすっぽり抜けていた。

 当のシャーロットは無事に狼を倒したのか、幽霊の様に忍び寄り俺の肩を掴むとそのままガクガク身体を揺さぶられた。

 

 「まさか、私の事を忘れてなんかいませんでしたよねー?」


 シャーロットが首を傾げながら俺に問いただす瞳からは軽くハイライトが消えていた。

 

 「すいません…。」

 「…。」


 俺はその瞳に冷や汗をかきながら全力で頭を下げる。

 普通に考えれば当然である。シャーロットを後回しにしてアルセリエの援護に向かったまでは良かったが、終わった途端既に戦闘は終わった物だと錯覚して彼女の存在が頭からすっぽりと抜け落ちてしまっていたのだ。


 「もう、仕方ありませんねぇ!!! 下手をすれば命に関わる事なんですから、次からはしっかりして下さいね!!!」


 そう言って笑顔に戻った彼女が密かに続けた言葉を俺は聞き逃さなかった。


 『…次忘れたら潰しますから。』


 何をと言われれば聞くまでも無いが、恐ろしい事変わりない。


 シャーロットは俺の肩から手を放すと次はアルセリエに飛びついた。


 「アルセリエちゃん、怪我とかしてない!?」

 「だ、大丈夫です。」


 そう言ってアルセリエが左手を後ろに隠したのを俺は見逃さなかった。


 「アルセリエ。」

 

 俺がアルセリエの名前を呼ぶと、少し考えた後申し訳なさそうに左手を差し出した。


 見ると左手の甲に切り傷が出来て血が滲んでいた。

 きっと狼の口に短剣を突き刺した時に牙が当たったんだろう。

 念のためにもう片方の手も確認すると特に気になる傷はしていなかった。


 「よし、これを飲んでおけ。」


 安物ではあるが、昨日買っておいたポーションをアルセリエに差し出すと『こんな傷で勿体ない。』と言って受け取らない。

 仕方がないのでもう一度アルセリエの名を呼ぶと、おずおずと差し出されたポーションを受け取ってくれた。

 

 アルセリエがポーションを飲み干すと徐々に徐々に傷が塞がっていくのが分かるが、エンフィルが持たせてくれた物とはその効力は同じ下級ポーションに関わらず天地の差である。

 今までエンフィルがくれた物しか使用してこなかったので分からなかったが、この傷の治りを見るにエンフィルのくれたポーションがどれだけ凄い物なのか初めて理解出来た。

 

 「それにしても…アルセリエちゃんは何で魔物が来るってあんな早い段階で分かったのかなぁ。」

 

 シャーロットが最もな意見をするが、俺も初めは分からなかった。

 だが、アルセリエの持っている物の認識を改めてみると案外簡単にその答えは見つかるのだ。


 「大部分は魔力感知だろうな。」

 「魔力感知? 私もそれは知ってるけどそれって周囲何メートル程度じゃないの。」


 そう、それである。

 俺もその認識に騙された。

 

 「アルセリエ、お前一体何処まで見えてるんだ?」


 アルセリエにそう聞くと、30m程先の岩に指を差した。


 「この辺りは街の中の様に人が居ないのであの辺りまでは視えています。集中すればあの辺りまでは…。」 

 

 そう言って次に指を差した先まではおよそ100mを越えていた。


 やはりである。

 アルセリエが次々に先を示す度に俺は改めた認識を更に改める。

 シャーロットは既に考えるのを放棄して『嘘でしょ…。』と呟いていた。


 「琥珀さん、そう言えば聞いてなかったけどアルセリエちゃんの魔力感知のスキルレベルは?」

 「そう言えば言ってなかったな。アルセリエの魔力感知はレベル8だ。」

 「レベル8!? と言うかレベル8ってここまで凄いの!?」


 エンフィルのスキルのレベルを見た時に分かった事だが、スキルの限界レベルは多分レベル10だろう。

 そう考えるのならばアルセリエのレベル8は既にそれに近しい効力があると考えて差し支えない。

 少なくとも俺には未だ未知の数値だ。


 きっとアルセリエに聞いても意識していないから分からないと答えるだろうが、アイツは魔力感知で1つ。

 コルエさんの様に魔力感知と魔力放出の合わせ技で2つ、空間把握アビリティで3つ。

 そして特殊アビリティである第六感の4つを駆使し計四方面から周りを見ている。

 盲目と言うマイナス要素を補って余りある程の索敵能力を持っていると見ていいだろう。


 俺がじっとアルセリエを見つめていると、此方の視線に気付いたのか恥ずかしがって顔を背けてしまった。


 「それにしても、ここまでの索敵が出来るのならもう5、6年すれば本格的に琥珀さんの弱点も克服出来る位には強くなりそうだね。」

 

 シャーロットはこう言うが、アルセリエを買った理由の一つがその将来性である。

 まだ子供であるがあと5、6年もすれば背も伸びて俺の背を安心して預けられる相棒になると俺は確信している。

 それまでは少しでも実戦経験を俺と一緒に積んでもらって強くなってもらわなければならない。


 「きっとこの調子で行けば立派な相方になってくれるさ。」

 「琥珀様は私が命を賭けてお守りします!!」

 「琥珀さんもアルセリエちゃんに任せっきりじゃなくて、自分でも少しは弱点の克服しないとねぇ…。」


 相変わらず痛い所を突いて来る。


 「まぁ、そこは俺も早々に何とかするよ。それより狩りに戻るぞ、狩りに。」

 「よーし、アルセリエちゃん。私が魔物の解体を教えてあげる!!」

 「是非お願いします!!!」


 女性陣はそう言うと倒した狼の解体を始めるのだった。



 ◇◆◇◆◇◆◇



 「それにしても大量だったな…。」


 俺は素材と魔石でパンパンになった袋を背負いながら街の入り口に差し掛かる。


 アレから森の入り口付近を徘徊してシャーロットの時間ギリギリまで狩り続けた。

 アルセリエの索敵能力を生かして見つけては狩り、見つけては狩り…。

 時には少し森に入ったりもして狩り続け、気付けば街へ戻る時間になっていた。


 「ゴメンね、私が夕方から仕事が無かったらもっと付き合えたんだけど…。」

 「別に構わないさ、今日はアルセリエの実力を見る事が目的だったしな。

  それより、今度は何時が空いてるんだ?」

 「今度かぁ…。」

 

 そう言ってシャーロットは懐から紙の束を取り出すと、順に予定を確認していく。


 「うーん、次は5日後かな…。」

 「店の方が忙しいのなら無理はしなくていいぞ、冒険者は身体が資本だからな。」

 「うん、わかってる。とりあえず5日後なら空いてるからまた今日みたいに朝ギルドに集合で!」

 「わかった。」


 明日になれば俺とアルセリエは冒険者証が手に入る。

 そうなれば依頼を受ける事も出来るし、そのアリバイを盾に迷宮(ダンジョン)に挑むのも良いだろう。

 今日のアルセリエの実力を見る限り剣術スキル持ちで分かっていた事だが、十分に戦える事が分かった。

 シャーロットの居る日は外に出て、シャーロットが居ない日は迷宮に潜ろう。


 俺はこれからの事を考えながら歩いていると、気付けばギルドの前まで来ていた。


 「冒険者風情が調子に乗りやがってぇえええええええええええ!!!!」


 ギルドの中から聞こえたのは外まで聞こえる怒号だった。

 その怒号の後にギルドのドアをぶち破り、一人の見慣れた冒険者の男が俺達の前を飛ばされて転がって行くのが見えた。

 

 「アルセリエ。」

 「はい。ギルドの中には6人、内3人がミラさん達ギルドの従業員の様です。」

 「…成程、敵は3人か。おい、大丈夫か?」

 

 倒れている冒険者の男へ声を掛けるが、『うぅ…。』と呻きながら伸びていて返答は無い。

 どうやら面倒な時に帰って来てしまった様だ。


 「オイオイ、そんなモンかよ冒険者さんよー!!」


 ギルドから出て来たのは3人の酒場で見た騎士団の男達である。

 俺達が倒れた冒険者の介抱をしていると、それが気に食わないのか俺達にすら悪態をつく。


 「何だテメェも冒険者か。」

 「ああ、そうだが。何か用か?」

 「アン、何だテメェ…俺が誰だかわかってんのか? シロエ騎士団次期副団長シギエ様だぞ!!!」

 「昼間っから正装で酒を煽ってる連中をこの街じゃ騎士団と言うのか?」

 「何だとォ…。」

 

 昼間っから毎日酒を飲んでいるせいか、コイツ等からはここまで酒の匂いがして来る。


 ステータスを確認するまでも無い、例えコイツ等と揉め事になっても負けはしないだろう。

 だがしかし、此処は人が行き来する天下の往来である。喧嘩をすべきではない。

 周りを見ると街の人達は奴等に関わらない様に道を避けて歩いていく。 

 ならば俺もそれに沿うべきだろう…。


 「アルセリエ、シャーロット。ここでちょっと待っててくれるか?

  今日手に入れた素材を換金して来るよ。」


 その発言にシャーロットは驚き、アルセリエはただ沈黙して俺に従った。

 ただ、騎士団の皆様はお気に召さなかった御様子でこめかみに青筋を立てて大層ご立腹である。


 「そこを退いてくれないか? アンタ等が邪魔で素材の換金に行けないんだ。」

 「ほぉ、なら力づくで退かせてみな!!!」


 どうやら、どうしても退いてくれる気は無い様だ。

 なら―――


 「少し無理して通るしかないな。」


 そう言って騎士団の3人に向かって一歩を踏み出した。



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