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目黒琥珀の異世界転生論  作者: ウェハース
第二章【極小国家・シエロ】
32/45

【アルセリエの力Ⅰ】



 「こ・は・く・様ーー!!!起きて下さい!!!!」

 「ゴフッ!!?」


 俺は自身の名を呼ぶ声と腹部に走る衝撃で眼が覚めた。


 眼を開けると一人の少女が俺の腹部を布団越しに可愛らしくバンバン叩いているのが見える。

 跳ねた髪を気にも留めず、眠そうにしながら眼を擦り上体を起こすと眼の前の少女はパタパタと走り冷たい水で湿った布を持って来てくれる。

 手渡された布で顔を拭くと冷たい水が一気に俺の意識を覚醒させていった。


 「おはよう、アルセリエ。」

 「おはよう御座います、琥珀様!!」


 俺は俺を起こしてくれた少女へ朝の挨拶を終えると軽く頭を撫でてやる、そうするとくすぐったそうにしながらも心地良さそうにしている姿が年齢相応にとても愛らしい。

 

 「それにしてもまだ起きるには早くないか?」


 俺がそう言うとアルセリエは抗議の声を上げる。


 「何を言っているんですか琥珀様、他の冒険者の方々はもう朝食を摂りに下の階に降りていますよ?」

 「あー。なぁ、アルセリエ。俺はまだギルドの依頼を受けられないからそんなに急ぐ必要はない―――」

 「ダメです!!琥珀様も明日からは正式に冒険者なのですから、今の内に起きれる様にしておかないと!!」


 そう言うアルセリエの意見にグゥの音も出ない、反論の余地は一部も残されてはいないのだ。

 俺はアルセリエの言葉に折れる様に寝床から立ち上がるとアルセリエに世話されるまま食堂へ向かった。



 ◇◆◇◆◇◆◇



 「おや、今日は早いじゃないか。」


 エルザさんが珍しい物を見る眼で俺を見ると、隣を歩くアルセリエの姿を見て苦笑いを浮かべていた。


 「おはよう御座いますエルザ様。」

 「ああ、おはよう。アンタもこの小僧の世話は大変だろうが、困った事があれば私に言っといで一撃で伸してやるから。」


 『はい!!』とアルセリエがエルザさんに答えるのを見て俺は冷や汗が流れる。

 昨日アルセリエを連れ帰ってから、エルザさんは何かとアルセリエを自分の娘の様に可愛がっている。

 

 「オラオラ、もうアルセリエちゃんの尻に敷かれてんのか琥珀!!!」


 食堂から此方を見ていたのか、同業者達からヤジが飛ぶ。


 「こ、この親父共…。」


 この中年独身親父達もエルザさん同様、アルセリエに甘々である。


 昨日俺は帰り道にアルセリエの衣類や安めのポーションを買い込み宿へ戻った。

 エルザさんに事情を説明してアルセリエの滞在を許してもらうと、ぐぅっとアルセリエのお腹が可愛く鳴った。

 俺はエルザさんが材料さえ揃えてくれれば何か作ってくれると言ってくれたので、アルセリエを置いて食料品を買いに行こうとした所、ぞろぞろと仕事を終えた冒険者達が宿へ帰って来たのだ。

 案の定、アルセリエを見つけた冒険者達は腹を空かせたアルセリエにあれよこれよと食べ物を与えて可愛がり。

 眼を閉じながらも笑顔を見せるアルセリエに男共は魅了され甘々になってしまったのである。


 閑話休題。話が長くなってしまったが、現在に戻る。


 俺とアルセリエは他の冒険者同様に席に着くと、エルザさんが朝食を運んで来てくれた。


 「琥珀様、今日は私の冒険者登録に行くのですよね?」

 「何だ、アルセリエちゃん冒険者に―――ぶへっ!!」


 俺へ質問をするアルセリエの言葉に割り込む様に他の冒険者が顔を出すと、エルザさんの鋼鉄のフライパンが顔面に炸裂した。

 『酒場じゃねえんだ、朝食位静かに食いな。』と言う言葉を残しエルザさんが厨房に戻ると、冒険者達が騒ぐ事は無くなった。


 「今日はとりあえずお前の冒険者登録と少しばかり狩りに出ようと思う。」


 昨日はアルセリエを買い、それに伴い衣料品やポーションを買い込んだので36600ステラあったお金が2000ステラを切っている。

 このままでは完全にお金が底をついてしまう。

 そうなる前に少しでも狩りをして家計の足しにしなければならないのだ。

 "白霊の庭園"に行く手もあるがアルセリエを戦いに慣らせるまでは万が一が怖くて連れてはいけない。

 そうなればやれる事は狩り位だろう、以前みたいに森の深部まで入り込まなくてもシャーロットが居る場合なら森の入り口くらいをウロウロするくらいならアルセリエを守りながら戦えるだろう。


 「よし、そろそろ行くか。」 


 ふと見れば朝食を摂っていた冒険者達は散っており、既にギルドへ向かったのかその姿は疎らである。


 「こ、琥珀様…私はどうすれば。」


 アルセリエが困った顔で俺を見る。

 何の事かと思えば彼女が食べていた机の上には他の冒険者達の仕業か大量のパンと自分達が食べているであろう干し肉が布に包まれて置かれていた。

 

 「折角だ、貰っておこう。」

 「はい!!!」 


 俺は親戚に子供を可愛がられ、勝手に物を与えられる親の気持ちが今理解できた。

  

 あの親父共には適当にエールでも奢れば良いだろうと結論付けて面倒な思考を放棄する。

 そうして俺は食料の包まれた布を鞄に仕舞い込むと、アルセリエと共に宿を立った。



 ◇◆◇◆◇◆◇



 「こ・は・く・さーん!!!おはようございます!!!」


 朝同じ様なフレーズを聞いたような気がする。


 ギルドの受付嬢であるミラは慌ただしくもカウンターで冒険者達が出した依頼の処理をしながら俺に手を振っている。

 

 「忙しそうだな、待った方が良いか?」

 「いえいえ、後は転記するだけですのでお構いなく。今日は何の御用で?」

 「実はコイツの冒険者登録を頼みたいんだ。」


 そう言うと俺の後ろに居たアルセリエはカウンターの前に進み出て、ミラへ頭を下げる。


 「琥珀様の従者をしているアルセリエと申します。」

 「こ、こここ、琥珀様ァ!?」

 「何だ。」

 「私と言うモノがありながら!!! こんな幼気な少女に手を出したのですか!!?」


 何を言ってんだこの受付嬢は…。

 俺が呆れ顔でミラを見ているとアルセリエは抗議の声を上げた。


 「琥珀様は貴女の物ではありません!」


 ああ、アルセリエがミラに対抗し始めた。

 俺は事態の収束を治める為にミラへアルセリエをメイガスさんの所から買った事を話す事で事なきを得た。


 「成程…ではアルセリエさん、此方にどうぞ。」


 ミラは打って変わり、ニコニコしながら冒険者登録を進める反面アルセリエは何か納得がいっていないのか、何処か不満そうな顔をしながらもミラの指示に従う。


 「此方の紙に名前と出来れば出身地をお書き下さい。」


 アルセリエは机に置かれた白い紙を掴むと出来るだけ中央の辺りに"ロード"を抜いた自分の名前を書き込んだ。


 「アルセリエ様ですね。出身地は空白ですが…?」

 「そのままでお願いします。」

 

 その返答にミラは俺を一度見るが俺は何も答えない。

 ミラは『まぁ、必須ではありませんからね。』と言ってそのまま登録に移る。


 「それでは最後に此方の魔導水晶に触れて頂きます。」


 ミラはカウンターの下から俺の時と同じ大きな水晶を取り出すとアルセリエの前に置いた。


 アルセリエは何故か一瞬躊躇したが息を呑んで水晶に手を乗せると、水晶は澄み切った蒼色に染まった。



 〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓



 登録名:アルセリエ



 火 59/100

 水 92/100

 風 77/100

 雷 67/100

 土 12/100

 光 0/100

 闇 0/100

 特 ###/100



 〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓



 その測定結果を見たミラは俺の時と同じ様に凍り付く。


 「み、水系魔法の適正値が"92"…? 他の魔法も土系魔法を除けく五大属性は普通に実用レベル。」

 

 ミラは『壊れてるんですかねぇ』と言って水晶をポコポコ叩くがその数値は微動だにしない様だ。

 彼女は諦めた様に紙に紙に測定値を書き記して行くと、アルセリエに手渡した。

 アルセリエは手渡された紙を持ちながら困った顔で俺を見ていたので測定結果を一つ一つ教えてやった。

 流石のアルセリエでも文字までは読めない様だ。


 「もしかして、アルセリエさんは眼が見えないのですか…?」


 その様子を見てミラが気付いた様だ、まぁ眼を閉じているからバレバレなんだが仕方ない。

 アルセリエはミラにコクリと頷くとミラは物凄い勢いで頭を下げ始めた。


 「すみません、配慮が足りませんでした!!!」

 「いえ、別に構いませんよ。」

 

 アルセリエは何でもない様な表情で答えると、ミラは呆気に取られてしまった。


 「ふと疑問に思ったのですが、アルセリエさんは眼が見えないのにどうして普通に歩けるのでしょうか?」

 「アルセリエは魔力感知能力が異常に発達しているんだ。」


 ミラの疑問に俺が答えると彼女はその原理を数秒考える仕草をしたが、スグに諦めた顔をして『成程!!』と言って自分を納得させていた。

 俺も何も分かっていないじゃないかと心の中で思いながらも口には出す事は無い。


 「それではアルセリエさん、此方を。」


 ミラは俺の持っている仮の冒険者証と同じ物をアルセリアに渡した。

 アルセリエは受け取った仮の冒険者証を『預かって下さい。』と言って俺に差し出して来たので受け取って鞄の中へ仕舞い込んだ。


 「ランク査定の日程は―――あ、そうでした。」

 

 ミラは言葉を言いかけて何かを思い出したかの様に固まった。


 「アルセリエさんのランク査定の日程を琥珀さんと同じ日にしようと思っていたのですが、遠方に出ているギルド長が明日の査定に間に合いそうにないと連絡が来ました。ですから申し訳ありませんが、査定日をもう一週間だけ先延ばしにせよとギルド長から命令が…。」


 そう言えばこのギルドのギルド長を一度も見た事は無かったが、どうやらどこか遠くへ行っていたらしい。

 別に先延ばしにされる分には構わないが、俺とアルセリエの冒険者証はどうなるのだろう。


 「別に構わないが、冒険者証はどうする?」

 「其方は明日ギルドに来られた際に最低ランクの"F"ランクで御用意致します。一週間後のランク査定の内容によっては新しい物に交換し対応させて頂きます。」

 

 どちらにしろこれで明日から本格的に俺もアルセリエも冒険者の仲間入りと言うのなら文句はない。

 ランク査定と言うのもなるべく目立たない様にこなしてしまえば最低ランクのまま残留する事ができるだろう。

 

 「それではこれでアルセリエさんの冒険者登録は一先ず完了です。後ろで待っている方も居ますし、早く其方に行ってあげてください。」


 ミラが俺達の後ろを指差すと何時から待っていたのか、シャーロットが椅子に座って俺達の事を待っていた。


 「今日は予定の方は大丈夫なのか?」

 「うん! 今日の予約は夕方からだから大丈夫!!」

 

 シャーロットと時間が合ったのは運が良い。アルセリエの事もある、二人で行くより三人で行った方がより安全だ。

 

 「あ、貴女がエルザさんの言ってたアルセリエちゃんだね!

  私はシャーロット・月代、琥珀さんと同じ"転生人"だよ。気軽にシャーロットって呼んで欲しいな。」

 「こ、琥珀様の従者、アルセリエと申します!!」


 どうやらシャーロットは此処に来る前に俺の止まっている宿の方へ寄った様だ。

 

 そして流石元アイドル。元気一杯で自己紹介をするシャーロット圧されてかアルセリエの自己紹介は若干慌て気味になっている。

 アルセリエがペコリと頭を下げるとシャーロットはこれでもかと頭を撫でながらアルセリエに抱きかかった。


 「わぷっ!! ちょ、ちょっと待って下さ―――!」

 「あー可愛いなぁ!!!」


 シャーロットはアルセリエを抱き上げるとそのままギルドの出口へ向かってしまう。


 「お、降ろしてくだひゃ―――!!」

 「さぁ行くよ琥珀さん!! 早くしないと私がアルセリエちゃんを貰っちゃうぞー!!!」


 そう言い切る前にシャーロットの姿はギルドから消える。


 「…仕方ないな。それじゃあ行って来るよ。」

 「気を付けて行ってきてくださいねー!」


 ミラは手を振って見送ると、俺はシャーロットを追いかけてギルドを後にした。



 ◇◆◇◆◇◆◇



 「ここをこうすると…えいっ!。」


 森の入り口までの道中、シャーロットはアルセリエに魔法を教えていた。

 シャーロットはアルセリエに手本を見せる様に指先に小さい火を灯して見せる。


 「こうですか?」


 そう言うアルセリエの指先にはシャーロットが出した物より二回り程大きい火が灯る。


 「一発!?」

 「シャーロット様と同じ魔力の動きをしてみただけですが…。」

 「琥珀さん、この子天才だよ!!!」


 シャーロットはアルセリエの秀才振りに大興奮、褒められているのは俺ではないのに何故か嬉しく感じてしまう。

 これは(あるじ)である俺の鼻も高い。


 「…もしかして、これって。」


 アルセリエは立ち止まると指先をじっと見つめだす。

 すると、小石程の大きさではあるが水の球体が指先に出現した。


 「確かこれは、水の基本下級魔法ウォーターボールだね。

  そう言えばアルセリエちゃんは水の魔法の才能が飛び抜けてるんだっけ。」

 「はい、火を出すよりしっくり来ます!」


 アルセリエは指先に出した水球を魔力操作で形を変えるつもりなのか水球が形を崩して歪んでいく。

 

 「これをこうすれば―――あっ。」


 その声と共に水球は爆ぜてしまう、どうやらまだまだ練習が必要らしい。

 シャーロットは思いの外に優秀なアルセリエを見て『私も魔法の才能がもっとあれば…』と嘆いている。

 俺も帰ったらアルセリエから魔法について教えて貰おうと心に決めた。


 「よし、着いたな。」


 魔法の練習をしながら歩いていると何時の間にか俺達は森の入り口まで到着しており、アルセリエはヤル気十分、俺が貸し与えているミスリルの短剣を懐から出すと既に戦闘態勢に入っていた。

 

 「アルセリエもいるし、今日はこの辺りで狩りと行こう。」

 「よーし!私も頑張るよ!!!」


 そんな呑気に会話をしていた俺とシャーロットを余所に、アルセリエだけは既に敵の存在を捉えていた。



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