【初戦闘と傍観者】
「うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」
俺は走り込むと全力で鉄の剣を振り切った。
相手は俺の身長の半分くらいでボロボロの鎧を纏った所謂"ゴブリン"だ。
ガキンと音が鳴り、力だけで振り切った剣を相手は短刀で後退しながらも受け止める。
〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓
ゴブリン(♂)
Lv:8
HP 82/120
〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓
ほんの一瞬だけ神の瞳を使い残り体力を確認するが、やはりレベル差と言うのはキツイらしい。
相手は小柄でスピードも遅く、ガードも緩いのだが全く攻めきれない。
そもそもどうしてこんな戦いになっているか…是非とも事の顛末を聞いてほしい。
――――――☆
目が覚めると其処は森の中だった。
特に寝起きの倦怠感はなく身体を確かめる様にゆっくりと身を起こすと一番に確認したのは荷物だった。
ここが神様の言う通り転生後の世界で森の中だと言うのなら、最低限身を守れるだけの装備を確認する事
が目覚めて一番に大切だと考えたからだ
隣に置いてあった少しだけ古ぼけた布で出来た袋を手に取ると中を探る。
腰から提げる事の出来る程度の袋としては異常なくらい中は底が深く、勿論手は届かない。
神様から貰った筈の"鉄のロングソード"を求めて中を探っていると、スグに手は目的の物を掴む。どうやら念じる事で必要な物を取り出せる仕様になっているらしい
同じ手順で同様に神様から貰った"ミスリルの短剣"を取り出す。
武器の確認が出来た所で剣の刀身を鏡代わりに容姿を確認して溜息が出た。
自分の記憶が正しいなら、年齢は15、16歳くらいの頃の容姿だろう。そのせいか感情の起伏が激しい。
ワクワクやドキドキと言うのだろうか、少しずつ容姿の年齢へ感情が流されている気がするがこの際良いだろう。そのおかげで楽しみ始めているのは確かなのだから。
衣類は流石に現代の物ではなく村人の着る様な簡素な物だった。
腰に取り出した短剣を差し、カバンを肩にかけていつでも取り出せる様に剣を柄の部分だけ外へ出すようにして仕舞う。
次にステータスの確認―――
こちらも念じるだけで良い様で、目の前にすんなりと表示される。
〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓
名前:目黒琥珀
レベル:1
種族:人
職業:―――
体力:250/250
魔力:41/41
力 D(51)
防御 E(30)
知力 E(31)
精神 D(75)
素早さ E(41)
器用さ B
運気 A
スキル
交神
水歩
アビリティ
柔術:Lv1
剣術:Lv1
グレイス
特殊アビリティ
神の瞳
■■■神の加護
〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓
何度見ても職業はない、無職ですらないのだ。
ウィンドウの端に"職業変更"などと言う項目があるが今は悪意しか感じられない。
まだこれは夢や幻じゃないのかと思っていた部分は無かった訳じゃないが、こんなゲームの様なステータスを見せられると嫌でも別世界に来たのだと自覚してしまう。
だが不思議と不安は無かった。
ゆっくりと元居た場所を背に歩き出すと涼しい風が通り過ぎるのを感じた
――――――☆
元居た場所から歩き出して早1時間くらいだろうか、まずはだれか人の居る場所に行こうと歩き出したはいいが、あるのは生い茂る木々だけで集落どころか人の気配すら―――
「キシャキシャアアァアア!!」
どうやら生き物はいる様だ。
腰を落として身を屈めて近づいてみると二匹の小人の様なものが会話をしていた
手にはボロボロの小さな剣を持ち、こちらもまたボロボロな鎧を付けている。
所謂"ゴブリン"だろう。
ゴブリンの持つ剣を見ると少々身震いがするが、この世界で生きて行く以上慣れるしかない。
最終確認だ、今自分が生きるのに足りないものは
―――水、食料、お金、そして覚悟だ。
この戦闘で勝てば後者3つが少なからず手に入るだろう。
確かに自分は強力なスキルを持ってはいるが慢心は出来ない、チートな様な武器もステータスも今は一切ないのだから。
まず拾ったのは石だ。
二匹のゴブリンは休憩している様で、木にもたれ掛かる様にして寛いでいる。
とりあえず、一旦神の瞳を使い相手のステータスを確認する。
〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓
ゴブリン(♂)
Lv:8
HP 100/120
ゴブリン(♂)
Lv:5
HP 92/92
〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓
ステータスを確認すると神眼を使った時間は1秒にも満たないが、魔力は10消費していた
眼の取得時の説明によれば眼の性能と消費する魔力は自身のレベルに依存するらしく、現在レベル1の自分にとっては便利ではあるが酷く燃費の悪い能力だった。
レベル差がどれだけ影響するかわからないが、二体一になれば間違いなく敗北するだろう。まずは数を減らす事が上策だ。
先程拾った石を自身の後ろに投げて音を出すとレベルの低い方のゴブリンが様子を見に此方へ歩き出した。
自分は数歩下がり息を殺して他の茂みでゴブリンの通り過ぎるのを待つ
通り過ぎた所で一呼吸置いて背を低くして静かに背後から忍び寄る。
一歩近付く毎に心臓の高鳴りが高くなっていく。
十分な距離まで来た、もう片方のゴブリンには小さい音なら届かないだろう距離だ。目の前のゴブリンが確認を終えたのか歩みを止める。
(今しかない!)
腰のナイフを抜いて目の前のゴブリンに襲い掛かる。
体格差で目の前のゴブリンを後ろから押し倒すと鎧の無い首の部分にナイフを突き立てる。
生き物と言っていいかは分からないが初めて刃物を突き立てる感触は酷く気持ちの悪いものだ
自分の身体の下でゴブリンがビクリと動いたあと多少暴れたが、すぐに大人しくなり地面には大量の血が川を作っていた。
動かなくなった事を確認すると差し込んだナイフを抜き取りもう片方のゴブリンの方へ向き直る。
――――それが間違いだった。万全を期すのなら神の瞳を使って相手の死を確認すべきだったのだ。
「―――ガッッ、ギャッッアアアアアア!!!!」
最期の力を振り絞ったのだろう、首を裂かれたゴブリンの声が血に交じって聞こえ足先から煙となって消えていく。
休憩していたゴブリンが立ち上がり怒りの叫びを上げるのは当然の結果だろう。
これが事の顛末。
――――――☆
そして現在に至る―――だ。
不本意ではあるが正面切って戦う事を余儀なくされたが、相手が消耗していて足が遅い事が幸いして当てては逃げる戦法を駆使して割と相手を追い詰めているだろう。
そう願って本日3回目の神の瞳を使う。
〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓
ゴブリン(♂)
Lv:8
HP 22/120
〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓
魔力は残り6、次の眼の発動は不可能だろう。
あと少しだが、自分のスタミナの消耗が激しい。
明らかな運動不足が原因だろう、こんなことならスタミナをつけておけばよかったと嘆くがどうしようもない。
できれば、あと1度の接近でなんとかケリをつけたいが、向こうもタダでやられる気は無いらしく全身に傷を負いながらも俺に対して威嚇を続ける。
「これで、最後だ。」
俺は剣を下へ持ち、地を蹴ると相手に向かって走り出した。
剣術の経験はほぼ無い―――剣道を数か月やっただけだ。
柔術だって柔道をほんの2,3か月齧っただけだった。
ゴブリンの数歩前ブレーキをかけながら剣を振る
それでもアビリティはキチンと仕事をしてくれた、疲れ切った最期の一撃だと言うのに真っ直ぐ相手の鎧の隙間へ飛んでいく。
結果だけを言うのなら俺の剣は間違いなく致命を貫いた。
だが、それはゴブリンの意地だったのだろう
腹部を斬られたと同時に持っていた剣を振り下ろす。怖かった、恐ろしかった、刃物が自分目掛けて飛んでくるのをただ見る事しかできない。
思考では剣を離して回避しろと命令しているが、身体が言う事を利かない。
ザクリと肩にゴブリンの剣が突き刺さる。
血の気が引いた――――痛い。
痛い痛い痛い痛い痛い!!!
ゴブリンが煙となって消えるまで刃こぼれした剣は自分の肩をガリガリと削るだろう。
痛みに耐えながら意を決して腰の短剣を抜き取って喉へ突き立て、必死にゴブリンを睨む。
カランと肩の剣が地に落ちる音が聞こえる。どうやら初戦闘は俺の勝利に終わったらしい。
戦いの後の昂揚感かあれほど痛かった肩の痛みも気にならない。
「ヨッシャアアアアアアアアアアア!!!!」
思わず叫んでしまった。
少しずつ昂揚感収まってきたからか肩からズキズキと痛みが走る。
痛みを我慢しながらゴブリンの死骸跡を見ると保存していたであろう木のみと一緒に紫色の宝石の様なものが落ちている、あれだろうゲームや本で出て来る所謂"魔石"と言う奴だ。
戻ってもう一方の死体跡をみると先程より少しだけ小さい"魔石"が落ちていたので回収した。
売り物になりそうなものを手に入れたは良いが買い取り手が居なければこんなものはただのガラクタだろう。お金だって同じだ基本的にその国でしか使えないのだ
だから今は歩みを止める訳には行かない。肩のケガはゴブリンが着ていたであろう白い布をキツく縛る事で応急処置とした。先ほどまで滲んでいた血も少しずつではあるが止まりつつある。
そしてこの戦いで必要なものがまた増えた。
「ああくそ、それにしても痛い」
まだ疲れからかフラフラするが。
長居する訳にはいかない、もしも他の仲間がいたら今度はこの程度のケガじゃ済まないだろう。
立ち上がると早足にその場を立ち去ろうとする
「あ、―――れ―――?」
この感覚は知っていた。―――視界には地面が迫っている。
これは倒れた時の感覚だ、意識が一気に遠くなる。
地面に倒れ、薄れゆく意識の中かろうじで見えた人物は
―――白衣を着た、見知らぬ女性だった。
【???視点】
私は"眠らせた"男へ"鑑定"を発動する。
「目黒琥珀、レベル2の無職―――それにしては能力値が高い。」
だがゴブリン二体を相手にするには厳しい能力値だ。
遠くから邪魔をしまいと見ていたが一匹目の手際は粗削りにしては見事なものだった。
私の鑑定レベルがもう少し高ければスキルやアビリティの確認が出来ただろうが、私の本職は錬金術師だ。
必要以上のスキルを取る努力を本命に回していた事を初めて少しだけ悔やんだ。
「それにしても魔法のかばん―――それも特別性の物にミスリル製の短剣にこちらは鉄で出来た剣か。あれ程無理に切り込んでいたのに刃こぼれ1つない、こちらも特別性だろうな。」
微かに武器から神性の気を感じる。神官類の者ならば鉄製の剣と言えど喉から手が出るほど欲しい一品だろう。神官でない自分でさえ、研究趣味のある私には十分興味を惹かれる。
―――十分にこの男へ私は興味を持っているらしい
「とりあえず依頼だったゴブリン退治は彼のおかげで済んだ事だし、帰ろうか。」
そう思い立ち彼を背に担ぐ。
最近籠ってばかりだったからか、少々この男を重く感じるが気にしない。
これは私の重要な興味対象だ。―――価値の重さであると言い聞かせ、足に強化魔法をかけて早足に駆けだした。