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目黒琥珀の異世界転生論  作者: ウェハース
第二章【極小国家・シエロ】
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【死スル白霊剣】



 昨日はシャーロットを送って程なくしてあの三人組が素材を持ってギルド到着し帰ろうとする俺の身体を持ち上げると他の冒険者達を巻き込んで強制的に酒盛りに参加させられた。

 日が沈む頃になって、完全復活したシャーロットがギルドへ顔を出して改めて冒険者復帰宣言。更に酒盛りは加速。

 リエンで培った宴会術を駆使し酒を煽りに煽り、今度は俺が倒れそうになってしまった。

 

 そう言えば、彼女は冒険者に復帰すると言ったが現在自分に入っている"歌姫"としての依頼を全て片付けたいと言っていたので完全復帰はもう少し後になりそうだ。

 立つ鳥跡を濁さずとは良く言ったモノだが、それは真面目な彼女の人柄と言うモノだろう。


 閑話休題、それはさておき。

 

 「頭が…痛い。」

 

 当然の報いである。前日にあれだけ飲んでおいて前回から俺は何も学んでいなかった。


 「成程ねぇ…。道理でうちの男共達の元気がない訳だ。」


 宿の1階の食堂にて頭を抱えながら俺が朝食を摂っている姿を後目にこの宿の女主人エルザは呆れた顔をしつつも冒険者達を憂いていた。

 

 「エルザさん、水を下さい。」

 「あいよ。」


 俺は二日酔いを少しでも和らげようとエルザさんに水を注文する。

 エルザさんはすぐに厨房から水を一杯持って来てくれると、水の入った容器の隣に紙で包まれた小袋を1つ一緒に置いた。


 「これは?」

 「酔い止めさ。冒険者は酒を飲んだり飲まれたりが多いからねぇ、常備してるのさ。」


 エルザさんは『御代は来月に付けとくよ』と言って、カウンターへ戻って行った。


 「かたじけねぇ…。流石は元冒険者。」


 有難さに若干震えながら、気を回してくれたエルザさんに心の中で感謝をしつつ水で薬を流し込んだ。


 「おぉ…。」

 

 エンフィルが調合した薬に負けず劣らずその効力は凄まじい。

 多分この薬はきっとコルエさんが作っているのだろう。まだ少し気怠さは残るがこの調子ならスグにでも良くなる。

 ポーションの様な即効性に舌を巻きながら、俺は立ち上がった。

 

 「これなら今日の予定も卒なくこなす事ができそうだ。」


 今日の予定とは他でもなく、仲間探しだ。

 メイガスさんが経営していると言う店の様子を見に行こうと思う。

 買う事はないだろうが、現代の常識に囚われて頭ごなしに何もかも否定していてはこの世界では何も出来なくなってしまう。

 だから、自分の眼で見て自分の頭で判断しようと思う。

 

 店の場所は既に昨日の宴会で冒険者達から収集済みだ。

 運が良い事に近くには例の迷宮(ダンジョン)もあると言う、先に其方の様子を確認してから行っても遅くは無いだろう。

 

 「行って来るよ、エルザさん!!」

 

 そう言って椅子に掛けておいた鞄を腰に掛けて、卸したての黒の外套を羽織る。

 

 「へぇ…中々様になってるじゃないか。」


 エルザさんはカウンターから俺の姿を見ると、少々驚いた顔をしながら感心している。

 

 「だろう?」

 「調子に乗るんじゃないよ、さっさと行ってきな。」

 

 エルザさんは少しだけ調子に乗った俺にシッシと手を振るジェスチャーに調子を良くして笑顔で応える。

 

 「行って来るよ、エルザさん!!」

 


 ◇◆◇◆◇◆◇



 この街の中心にはお世辞には大きいとは言えないが城が立っている。

 その城を円で囲む様に様々な民家や店が種別に固まってこの小さな"国"を成形しているのだ。

 "極小国家シエロ"それがこの国の蔑称であり、その国に住む民でさえこの国を"街"と呼ぶ習慣がついてしまっている程だ。

 

 そしてその城の背後、城の影に隠れる様にして"迷宮"は存在する。

 

 日が差すのは日に数時間、まるで墓地の様な冷えた庭が存在しその中心が入り口である。

 ここまでは冒険者達から聞いた話で既に俺の耳には入っているが、その先…つまり迷宮内については今現在どうなっているのか知っている者は居なかった。

 

 だが、冒険者以外と言うのなら良く知っている者が一人いるそうだ。

 それがシエロ唯一の迷宮"白霊(はくれい)庭園(ていえん)"の入り口で何十年も住んで一人で見張りを続けているお爺さんである。

 ミラさんの話でも少しだけ出て来たが、誰も立ち寄らないので事情を知っているのは彼一人。

  

 「なら自分の足で出向き直接訪ねてみるだけだ。」

 

 俺は今、一度も見た事無い筈の迷宮の入り口の"入り口"に立っている。

 何故一度も見た事のない迷宮がそこにあると分かるのかと聞かれれば、雰囲気が明らかに異常であるからだ。

 先程まで街の街道を歩いていて、両脇には様々な店や家があり人も表街道程までとは言わずとも人が何人も歩いていたのだが、それが完全になくなった。


 城の背後、家と家の間に立ち並ぶ木々によって作られた一本の道があった。

 その道を真っ直ぐ進むにつれ、明らかに温度が下がって行く。

 寒さは肌寒い程度だがその一本道を抜けると一変、大きな庭が姿を現した。


 そこに辿り着いた瞬間悪寒の様な物が身体をすり抜けた感覚が全身を支配する。

 

 「……。」


 何も言葉は出ない。庭とは言ったが、それは通常の庭とは明らかに違っている。

 そこだけ先程までの一本道にはあった地面に緑はなく、剥き出しに荒れた土に枯れ果てて折れた木々が何本も点在している。

 もちろんだが、街の喧騒はここまで殆ど届いてはおらず此処だけ別の世界に取り残されたかのような感覚に陥ってしまう。


 とりあえず、進む事にしよう。

 庭の中央に進むと何年もかけて掘られたのか大きな穴が開いており、下まではしっかりとした白い階段が延びていて、穴の中を見下ろしてみると深さは5m程だろうか、底には人が2、3人なら横に並んでも入れそうなくらいの大きさの門があり、その前には小さな小屋が1つ建っている。

 きっとアレがミラさんや冒険者達が言っていたお爺さんの家なのだろう。


 俺は階段を降りて、小屋の前に立つと息を整えてドアを鳴らそうとする。


 「何か用かの?」


 その声はまるで幽霊の様に、俺がドアを叩く直前に背後から聞こえた。 

 ゆっくりと振り返るとそこには真っ白な髭を蓄えた一人の老人が杖もつかずに笑顔で立っていた。


 俺は急いで頭を下げると自己紹介とその用事を簡潔に説明する。


 「新人冒険者の目黒琥珀と申します。実は冒険者ギルドの皆さんから貴方の事を聞いて、この迷宮について教えて貰おうと参りました。」

 「ほぅ…。」


 お爺さんは俺を品定めする様に上から下まで舐める様に見ると、何かを納得して頷く。

 

 「お前さん、この"白霊の庭園"について何処まで知っておる?」

 「はい。中に居る魔物と手に入る素材くらいは…。」

 「ふん…まぁいい。ここでは何じゃ小屋に入って話をしよう、茶を出すぞ。」


 お爺さんは更に『見せたいものがある』と言って小屋に誘い、さっさと小屋へ入ってしまったので俺は急いでその後を追う。

 

 そして、そこで見た物を俺は決した生涯忘れる事はないだろう。


 ガチャリと小屋の中に入るとスグに目に飛び込んできたのは一振りの剣だった。

 その刀身は白く、造形はレイピアとサーベルに近い…刀身部は日本刀に近くその上で刀身は曲がる事なくレイピアの様に真っ直ぐ伸びている。

 

 「それは大昔勇者の従者がこの迷宮でレイスから手に入れたと言われる"白霊剣"の作り物じゃ。」


 俺が剣に見入っているとお爺さんがこの剣について説明をしてくれる。


 「この剣は生きておる。主人と共に成長し、主人と共に死ぬ。

  嘗てこの剣を持った勇者の従者は勇者の敵討ちの為に魔物の王に立ち向かったが相打ちに終わった。

  その後従者が持っていたとされる"白霊剣"は他の誰かの手によって方々に回ったが、ついに誰一人として使える者は居なかった。

  どれだけ振ろうとも紙1つ斬れず、剣としてその従者と共に死んだと伝えられておる。

  更にその後はその美しさから芸術品としての価値が見出され何処かの貴族達の下へ行ったと聞いたが、今になっては何処に行ったのやら…。」


 お爺さんは一しきり剣についての説明をすると奥の部屋に進み、俺に椅子に座る様に勧める。


 「今お茶を持ってくるでな。」


 俺は勧められるままに椅子に座りながらもあの剣が気になって、目線が離せずにいた。


 「随分あの剣に御執心のようじゃの。」

 

 お爺さんがお茶を入れて持って来てくれた頃、漸く俺の目線はあの剣から離された。


 「さて、順に説明してやろうかのう。」

 

 そう言うとお爺さんはこの迷宮について説明を始める。


 「この迷宮は三階層からなる小さい迷宮じゃが。レイスがお主も聞いていると思うが、物理攻撃が通じない事は知っておるな?」

 「えぇ、ミラさんから聞いています。魔法は通らない訳では無いが光魔法に比べれば本来の威力の殆どが通らない様ですね。」

 

 お爺さんは俺の返答を聞き、うむ。と言って頷くが俺の言葉を訂正する様に言葉を繋げる。

 

 「確かに光魔法以外は殆ど意味が無いが、実は…もう1つ奴等には"弱点"が存在する。」


 それは初耳だ、ミラや冒険者から聞いた情報は同じ様な物ばかりであまり目新しい物が無かった。

 

 「奴らは神を嫉み嫌い、畏怖(いふ)する。神が造りし"神剣"や"聖剣"であれば奴等を斬る事は可能だろうがそんな物は存在すらあやふや。ならばどうするかと言えば、"聖水"やそれこそ―――」 


  ―――"神の加護"が付いた物でもあれば、どうにかなるのかも知れんのう。


 俺は初めてあの神様に感謝したのかもしれない。

 ニヤリと笑い、ドヤ顔している彼女の顔が脳裏に過るが今は気にするまい。 


 "神の加護"が付いた物、それは俺自身だ。だがそれだけで斬れるかどうかと言われればまだ不安は残る。

 だが、まだ俺にはそれがもう2つある。初めてエンフィルと会った時の会話を思い出すとより鮮明に俺の不安を書き消してくれる。

 『お前の持つ鉄の剣とミスリル製の短剣は少しではあるが神性を感じる。』そう、エンフィルは言ったのだ。

 なら俺が持つこの二振りはあの神様の力が生み出したものであり、加護以上のものを受けていると考えていい。

 ここまで根拠を揃えれば、試してみる価値はある。勿論、迷宮の中に入る事を考慮するのなら万が一もあるのでもっとレベルを上げて何か保険を掛けてからになるだろうが…。


 お爺さんは俺が何かを難しく考えているのを見ると、溜息を洩らして俺に1つの提案をする。


 「この街が衰退してからも秘密裏に何人もこの迷宮に挑んだ冒険者は居るが、皆言葉では信じまい。

  やはり、お主もその眼で見て見んと信じられん(たち)か…。」


 俺がその言葉に呆気に取られていると、仕方ないのぅ…と言ってお爺さんは立ち上がり棚から一つの小瓶を取り出した。

 

 「これは"聖水"、この迷宮の入り口を管理する為に高い金銭を使って神殿から買っておるのじゃよ。

  無駄遣いはできんし、一体だけ一回のみと言う条件付きじゃが、試してみるか?」


 どうやら、俺の沈黙が良いように働いたのか迷宮の中に入らずとも試させてくれるらしい。

 これは思ってもない好機だ、勿論この条件を逃す手立てはない。


 「是非やらせて欲しい!!!」


 俺は机から身を乗り出し、その条件を飲む事にした。



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