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目黒琥珀の異世界転生論  作者: ウェハース
第二章【極小国家・シエロ】
25/45

【シャーロット・月代】


 シャーロットさんとの話はもう1話だけ続きます。



 その少女の名はシャーロット・ツキシロ。

 ギルド受付嬢のミラ曰く、その少女は初めの頃はここの冒険者達に良くされ共に狩りや依頼に勤しんでいたのだが、本人の特殊過ぎる戦闘方法により本来何でもない様な敵に対して仲間に大きな怪我をさせてしまったらしい。

 その日を境に彼女は冒険者ギルドには来なくなり、自身の"歌"を生かして酒場での歌姫として生計を立てるようになった。

 

 俺が知っている通りこの街の冒険者の年齢は高く、その結果、彼女と同じ視点に立って諭してやれる者が居なかった。

 この街の冒険者達は未だにその事を憂いている様で彼女の帰りを今か今かと待っていると言う。

 

 「シャーロットは良いとしても、"ツキシロ"か。」


 酒場へ向かう道の途中、彼女の"ツキシロ"と言う部分を考えた。

 ツキシロと言う名前に妙に引っ掛かりを覚える、もしかして彼女は俺と同じ"転生人"ではないか?

 ミラが言っていた特殊な戦い方と言うのはコルエさんが零した、"転生人は神様から特殊な何かを授けられる"のなら俺とも一致するのでこの仮説はより濃い物に変わる。

 だが、過去に勇者なる者が存在していたのも確かで、その子孫だと言う線もあるかもしれない。

 日本に似た東国と言う国があると考えても、あまりにシャーロットと言うのは似つかわしくないのだ。

 勇者の子孫ならば…まぁ、納得は出来るだろう。


 どちらにしろ、今何を考えても仮説の域を出ない。

 直接会ってみればハッキリするだろう。

 

 「ここか」


 ギルドを出て左へ一直線、突き当りまで行くとよりも二回り程大きな建物が見えて来る。

 まだ中に入っても居ないのにツンと突くアルコールの匂いが漂ってくる所を見るに、昼前から酒盛りをしている連中が居ると言う事か。

 

 木製の数段しかない階段を上り酒場の大きな扉を開ける。

 ギィっと言う音を出しながら扉を潜ると美しい歌声が俺を迎えてくれるが、それと同時に街に来て日が浅い俺でも分かる程の惨状が目の前に広がっていた。

 

 「これが、この街の騎士団か」


 騎士団の正装だろうか、白と青を基調とした装備を身に纏いながら何人もの騎士団員だと思わしき者達がテーブルを囲み酒を煽り彼方此方で騒いでいる。

 カウンターには一般の客が隅に追いやられた様で、居ずらそうにしながら数人で一時の休暇をすごしている姿が見受けられ、騎士団員達が店を占拠していると言っても過言ではないだろう。

 普段はあまり思わないが、胸糞が悪いとはこう言う事だ。


 だが、先程から聞こえてくる声がこの場に不釣り合いの様に美しく響き渡っている所を見るに"シャーロット"なる人物像に自然と期待をしてしまう。

  

 俺は騎士団達を無視して店の最奥にある小さなステージ近くの席に座ると店員が注文を取りに此方に来る。

 

 「お客さん、ご注文は御座いますか?」

 「エールを1つ頼むよ。」

 「承知しました。」


 俺は飲みもしないエールを1つ頼み、この場に居ても良い理由を作る。

 

 椅子を半回転させシャーロットだと思われる人物が居るステージへ身体を向けると、その姿を初めて確認する。

 薄目のドレスを着こみ、長く艶がある紺色の髪、背丈はあまり高いとは言えないが彼女の口から発せられる声は確かに安心感の様な物が感じられた。

 

 俺は神の瞳を発動させ、本人である確認を取る。



 〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓



 称号:該当なし

 名前:シャーロット・月代

 レベル:10

 種族:人間

 職業:歌姫/魔法少女:Lv15

 体力:540/540

 魔力:100/100

 力  E(34)

 防御 D(97)

 知力 C(330)

 精神 D(257)

 素早さ D(77)

 器用さ A

 運気 C


 特殊アビリティ

 神歌(かみうた)

 二面操作



 〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓


 シャーロット・"月代(つきしろ)"と来たか。


 更にあの職業は明らかにこの世界には無さそうな職業、歌姫は有りそうでも魔法少女は流石に無さそうだ。

 殆ど確信に近いが、彼女は俺と同じ"転生人"と見て間違いないだろう。


 何時の間にか歌は終わり、彼女は壇上から降りて店の奥に下がって行くのが見える。

 その姿を見送って、俺はスグに近くを通った店員を呼び止めて月代さんについて聞いてみる。


 「なぁ、シャーロットさんはもう終わりなのか?」

 「ええ、彼女は従業員じゃなくて店主からお願いして歌ってもらっているだけだから、いつも1、2時間程で帰ってしまうんだ。だから今日はもうおしまいさ。」

 「そうか、ありがとう。用事が出来たので、帰らせてもらうよ。」


 俺は机の上にまだ来ていないエールの分のお金50ステラを置いて、立ち上がる。

 折角のエールはカウンターの人達にあげてくれと頼んで店を後にした。  



 ◇◆◇◆◇◆◇



 「はぁ…。」


 私はドレスをお店に返して冒険者をしていた頃から着ている普段着に着替えながら大きな溜息をつく。


 「何しているんだろう、私。」


 この世界に転生して約一年、このお店で歌う様になって半年であるがこのお店は正直あまり好きになれない。

 好きになれないのは主にあの騎士団の人達であり、店主さんは良く気に掛けてくれる良い人だし騎士団以外のお客さんはちゃんと私の歌を聴いてくれる。

 

 確かに生前アイドルをしていた私からすれば、騎士団を抜きにすれば天職では違いないのだが…

 どうしても冒険者をしていた頃を思い出してしまう。

 皆温かくて、優しくて。でも私がその中に入ったら足を引っ張ってしまう。 


 メジャーデビュー間近のライブへの移動の最中、事故に巻き込まれて死に、この世界に訳も分からず転生してきた私を、優しく迎え入れてくれたあの場所にどうしても戻りたい。

 少しでも強くならなくちゃいけないのに、私を庇って皆が大怪我を負っていくあの景色が脳裏に何度もフラッシュバックして一人では勇気が出ない。

 

 「帰ろう…。」


 着替え終わる。また今日もいつもの様に帰路に着き街を軽く回って家に帰るだけだそれだけが私の日常でこれからも変わらないのだろうと思ってしまっていた。


 私は店の裏口を開けて外へ出ると何時も通りの生暖かい風が頬を撫でる。

 裏口の扉を閉めて帰路に着こうとした時、目の前には休憩用に置かれた椅子に座って誰かを待つ外見は私と同じくらいの青年の姿が見えた。

 彼は私の姿を見つけると立ち上がり、誰も呼ばない私の"苗字"を呼んだ。


 

 ◇◆◇◆◇◆◇



 「貴女が"月代"さんで間違いないか?」  

 「何方様でしょうか。」


 目の前の少女は名前を呼ばれると驚いた顔をしたが、スグに警戒する様な姿勢を見せる。

 そりゃあ、当たり前か。見知らずの男が話しかけているんだ、警戒の1つもするさ。 


 「ミラさんに紹介されて来た冒険者の目黒琥珀と言う者だ。」


 一応、仮の冒険者証を取り出して彼女に見せながら『新人だがね』と付け加える。

 彼女は俺が名乗ると、満面の笑顔で手を握り、キラキラした瞳で俺の腕をブンブン上下に振ると身を乗り出し当然な質問を投げかける。


 「私は名前は月代月夜(つきしろ つくよ)―――いや違うわ、シャーロット・月代!!!

  琥珀、貴方もしかしなくとも私と同じ世界から来た"転生人"よね!!!」

 「月代…月夜!!!?」


 月代月夜。それは生前、ブームとやらに疎かった俺でさえ知っている超有名アイドルである。

 その歌声で地球上全ての人々を魅了しその声は"魔法"とも称された。その人気はメジャーデビュー前にして、過去現在全ての歌い手を置き去りにしてしまう程だった。

 彼女の全てが始まったとされる収容人数数百人と言う小さなライブ会場にてメジャーデビューを飾ろうと言う所で不幸の事故でその人生を閉じた。

 世の中にはあまりに人気な彼女の事を"魔女"と糾弾する輩が居た事も確かに確認されており、様々な陰謀論がそこら中に溢れていた程だ。

 まさかこんな所に転生しているなど誰も思わないだろう、俺も思わない。


 彼女は俺の驚いた顔を不思議そうに見上げながら、首を傾ける。


 「取り乱してすまなかった。実は外に一人で狩りに出ようとしたらミラさんに止められてね、相方として君を紹介されたんだが力を貸してくれ―――」

 「喜んで!!!」

 

 言葉を言い終わる前に即答される。同郷の人物に会ったのが余程嬉しいのか、俺の腕を更に振りながらその機嫌の良さを表しているがそろそろ痛いので止めて欲しい。


 「よーし、早速行こうよ琥珀さん!!!」


 彼女はブンブンと振っていた俺の腕をピタリと止めて、街の出口に向かって俺の腕を引いて歩き出した。


 「イタタタタ! 仕事終わりだろう、休憩とか装備は大丈夫なのか!?」

 「大丈夫!!!」

 

 俺は引き摺られながらも彼女に疲れや装備の有無を問いかけるが、大丈夫の一点張りである。

 彼女を過去からして、いつでも戻れる様に最低限の支度だけはしていたのかもしれない。

 よく見れば腰には小さなナイフが覗き、中身がパンパンに膨らんだ大き目のポーチも装備している。

 仕方がないので俺は諦めて彼女と共に狩り場へ向かう事にした。



 ◇◆◇◆◇◆◇



 同郷の人に初めて会った喜びで思わず、力を貸すと即答してしまったが冷静になればなるほど後悔と不安が押し寄せて来る。

 既に私達は門を出て森の入り口を通り過ぎた。震える手を抑えつける様にしてナイフを強く握りながら彼の隣を歩くが、怖くて怖くて仕方がない。

 彼はそんな私の不安を知ってか知らずか、私へ手が届く距離を保ちながら悠然と森の奥へ奥へと進んでいく。


 「大丈夫か?」


 と、彼の声が聞こえるが私は大丈夫、大丈夫とうわ言の様に繰り返すだけだ。


 そしてその時はやってくる。森に入って5分足らず、彼が初めて足を止めたのだ。

 彼が木の影に入り込むと私も追い掛ける様に同じ木の影に入る。

 彼が木の向こう側を指差し私にジェスチャーを送って来る、指の差された方を音を立てない様に覗くとその先には三体のゴブリンと、コボルドが二体。

 この二種類は仲が良いのか、冒険者をしていた時も良く見た組み合わせだ。


 魔物達は休憩をするつもりなのか、木の下に向かい腰を下ろそうとしている。 


 「奴等があの木に腰を下ろしたら打って出るぞ、俺のサポートに回ってくれ。」

 

 そう言った彼に頷いて返答すると、丁度魔物達が木の下に腰を下ろした。


 その瞬間彼は立ち上がると何処で拾ったのか、複数の石を魔物達に投げつけると同時に飛び出す。

 私はと言うと過呼吸になりながらも彼の一歩後に飛び出した筈だったが、既に彼は30m程あった距離を詰めて一体のゴブリンを切り裂いていた。

 

 彼は二体目のゴブリンを切り裂くと同時に後退して後ろを追いかける私の姿をチラリと覗き、距離を開け過ぎたと後悔している様だった。

 

 三体のコボルドは一瞬にして片付けられたゴブリン達の死体に困惑しながらも怒りを露わにして走り出した。

 一体は彼に飛び掛かって切り裂かれ、それと同時にもう一体が背後を襲うが彼の目線は正面の敵を斬りつつも既に背後の敵に向いており腰の短剣が抜かれていた。


 最後の一体は私に突進して向かって来ており、私もナイフを両手でしっかりと握り迎え撃とうとしていた。

 

 大丈夫、大丈夫。コボルドやゴブリン相手なら一対一で負けた事はないのだから。

 大丈夫と呪文の様に何度も心の中で繰り返し、大きく口を開けて襲い掛かってくるコボルドを睨んだがそれまでだった。

 どれだけ言い聞かせても身体は動かない。コボルドの口の中に鋭く光る牙があの時をを思い出す様で―――


 コボルドの大きな口が私に噛み付く瞬間、痛みを覚悟したがその痛みは訪れなかった。

 私の眼前でコボルドの口は止まり、ハァハァと息を切らせた彼の剣がコボルドの頭を貫いていた。

 まだピクピクと動くコボルドへ彼が私に目配せをする、"トドメを刺せ"と。 

 私はコボルドの心臓へナイフを突き入れるとコボルドの動きは完全に停止する、ナイフを伝い手先が血で濡れた瞬間手の震えが強くなり、不安が胸一杯に広がってしまう。


 「お疲れさん。」


 そう言って彼は私に手を差し出すが手が震えて上手く掴めない。


 「わ、私…また。」

 「仲間だろう、助け合うのは当然。だから気負うのは無しだ。自分の為に誰かが傷ついて欲しくないのは誰しも同じだからな、それが怖いと思うなら同じ様にお前も仲間を守ってみせろ。」

 

 そう言って彼は震える私の腕を取ると、いつの間にかすっかりへたり込んでしまった身体をグッと持ち上げる。

 私は彼の顔を見ようと顔を上げようとした時、ソレは見えた。

 彼の脇から見えたのは胸に短剣を刺されながらも立ち上がり、彼の背に向かって今にも飛び掛からんとするコボルドの姿だった。


 ここから先、私は自分のした事をあまり鮮明には覚えてはいない。

 ただ傷ついて欲しくなくて必死だった、守りたくて必死だった。

 思えば手を離してナイフを構えると彼の脇を抜けて手負いのコボルドの心の臓へナイフを突き入れていた。

 

 「アレ、私…。」


 崩れ落ちるコボルドと一緒にナイフを手放すと、私は呆然(ぼうぜん)と自分の(てのひら)を見つめる。

 手の震えが嘘の様に完全に止まっているのだ。

 私は彼の顔を見上げると彼は笑顔で返す。


 「君のお陰で助かったよ。」


 意識していた訳では無いが、会って間も無い彼の目の前でポロポロと涙を流し…そして笑った。



 ◇◆◇◆◇◆◇



 嘗て、自分の専属をしていた医者(サイコパス)が言っていた。

 ―――精神病、トラウマとは形の"欠損"。

 そしてパズルのピースが欠けている様なモノでもあり、そしてそのピースのオリジナルは二度と手に入らない。

 だが、代わりとなる物ならば用意できると。

 

 結論から言うとその代わりは全てが全てとは言わないが大体がその逆を体験する事だ。

 失敗なら成功を。

 間違いなら正しさを。

 時にはその逆もあると言うが、俺からすればそれだけ知っていれば結局は彼女次第だがトラウマを克服させるキッカケくらいにはなる。


 彼女が自分の為に誰かが傷つく事を嫌うのなら、自分が誰かを守ったと言う結果を与えてやれば良い。

 二体目へのダメージをワザと抑えたが、彼女が飛び出してくれなければ俺はきっと傷を負っていただろう。

 そしてそれによって更に彼女は傷を深くしてしまう可能性もあったのだ。

 あの医者ならもっと上手くやっただろうが、俺は素人だ。

 多少賭け要素が強い荒治療だったが、経過は良好と言っても良いだろう。

 それに、彼女が居なければきっとミラさんは俺が一人で外に出る事を良しとしないから俺としても今後の為に彼女には是非立ち上がって貰わなければならない。


 「ありがとうね、琥珀さん!」


 笑顔で答える彼女を見て、どうやら彼女のトラウマは克服できた様だ。


 「よーし、完全復活したし、パッパと解体を済ませちゃうよー!!!」


 彼女は元気に気合を入れると、次々に魔物を解体して魔石と素材を取り分けて行く。

 

 …多分、冒険者の誰かが仕込んだのだろうが、どうやら彼女は思った以上に(たくま)しい様だ。

 



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