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目黒琥珀の異世界転生論  作者: ウェハース
第二章【極小国家・シエロ】
24/45

【その少女の名は―――】



 ガラスの無い窓から入り込む太陽の光が目元を照らし、目を覚ます。

 慣れ親しんでいたパイプ作りの最新型ベットではなく木造造りのダブルサイズのベットに薄いカラフルな布を被せただけの簡素な寝床だが、これが思いの外熟睡できるのはきっとこれまでの道中で野宿ばかりだったのもあるのだろう。


 ベットから立ち上がり腕を思いっきり上に伸ばすと段々目が覚めて来る。

 ルシエと別れ、宿に泊まり出してから二日が経過した現在。あれから何かをやったのかと聞かれれば何もしていない。

 宿に来た当日はそのままベットに沈み死んだ様に眠り、次の日は遅めの朝食を摂り衣類を買いに出掛けただけで何の面白みも無かった。

 

 「お金も無限じゃないし、少しは働かないとな。」

 

 コルエさんではないが面倒臭さが湧いて来るが、このままと言う訳にはいかない。

 桶に入れられた水を布に濡らすと顔を拭き、とりあえず今日やるべきことを決めて―――

 ぐぅと言う音がお腹から鳴り、ひとまず思考を中断し朝食を摂ってから考える事にした。



 ◇◆◇◆◇◆◇



 「やぁ、エルザさん」


 エルザさんとはこの宿のガタイの良い元冒険者の女主人の名前だ。

 

 俺が眠そうに階段から降りて来ると、もう既に他の宿泊者達は朝食を済ませて出て行ったのかエルザさんは食器を片している最中であった。


 「おやおや、今日も遅い起床だねぇ。他の冒険者の男共はもう朝飯を食って出て行っちまったよ。」


 ヤレヤレと言った感じでエルザさんは俺を見ると、白いスープとパンの準備をしてくれる。

 

 「顔は洗ったかい?」

 「大丈夫。」

 「そうかい。それにしても琥珀ちゃんももうすぐ正式に冒険者になるんだから、もう少し早起きしないと良い依頼が取られちまうよ。」


 元冒険者のエルザさん曰く、依頼は早い者勝ち。

 皆少しでも条件の良い依頼を手に入れようと必死なのである。


 「とりあえず魔物の素材や魔石の買取額を確認したいし、まだ依頼は受けられないけど今日は一度冒険者ギルドに顔を出してみるよ。」

 「それがいいさね。頑張るんだよ!!」

 

 パンを齧っている俺の背中をドルゲ宜しく笑いながら背中を叩かれてパンを喉に詰まらせそうになる。

 スープを一気に喉に流し込んで事なきを得ると、エルザさんは焦っている俺を見て同じ様に笑っていた。

 

 「ゴホッゴホッ!」

 「あははっ!そんなに睨まないでおくれ、悪かったよ。ほれ、これはお詫びの印だ。」

 

 そう言って布に包まれた何かを机の上に置いた。


 「若いんだから、そんなぽっちじゃ足りないだろう?余り物で悪いけど、パンを幾つか包んでおいたよ!」

 

 これは嬉しい。あとは適当に屋台でおかずを買えば昼食の完成である。

 

 「すまないね。」

 「良いんだよ、この街の冒険者は中年連中ばかりだからねぇ。若い自分の子供の様に冒険者は可愛いモンなのさ。」

 「……よし御馳走様、行って来るよ。」


 残ったパンを詰め込んでスープで流し込むと机に置かれた包みを鞄に押し込んで立ち上がる。


 「気を付けて行って来るんだよ!!」


 本当に親みたいな人である。

 それは不思議と悪い気はしないし、懐かしく心地良いくらいだった。



 ◇◆◇◆◇◆◇



 「あ、琥珀さーん!!!おはよう御座います!!!!」


 ギルドの扉を開けるとほぼ同時に先日の緑色の制服を着た受付嬢、ミラが俺の姿を見つけるとカウンター大きく手を振りながら名前を呼ぶ。

 相変わらず朝っぱらからテンションが高い。その声に反応してか、テーブルを片付けていた二人の兎耳と猫耳の少女がビクリと反応してしまっている。

 他の冒険者は既に仕事に出ているのでギルドの中には誰も居ないのが唯一の救いか。


 「そんな大声出したら他の従業員に迷惑じゃないか?」

 「良いんですよ。従業員はそこの二人と私と偶にしか帰ってこないギル長くらいですから!!!」

 

 無い胸を張って得意げにしているが普通に笑えないだろう。

 薄々感じてはいたが、どうやら冒険者だけではなく従業員も人手不足。

 その上冒険者の高齢化が進み、過疎になって若者の居ない田舎の様な状態だ、このギルドの前途は多難である。 


 「それで琥珀さん、今日はどんな御用事で?」

 「ああ、今日は持っている魔石の買取とそれに伴うであろう魔物の素材買取価格を確認しに来たんだ。」


 ギルドの現状を目の当たりにして本来の目的を忘れそうになったが、何とか本線に戻る。


 「魔石を持って来て下さったのですか!! 買取は此方に!!!」


 指し示すのは本人が座るカウンターの右側、見るとそこにも2つの椅子が置かれ紙とペンが用意されている。

 そして兎耳の少女と猫耳の少女は走り出すとカウンターを飛び越えてここが私達の仕事場だ!と言わんばかりにカウンターをバンバン叩いて待っている。

 仕方がないので右のカウンターに移動すると猫耳の少女がカウンターに大きな布を広げた。どうやら此処に置いて欲しいらしい。

 カバンの中をさばくり、大き目の袋を取り出すと三人とも少しだけ驚いた顔をした。

 そして中に入った白い魔石をジャラジャラと大量にカウンターに流していていくと三人とも目を点にしていた。


 「これで全部かな。」

 「ちょ、待つニャ!!!」


 猫耳の少女が正気に戻り、手で静止してくる。

 これは全て道中で手に入れた物である。リエンで手に入れた物は青と赤の魔石以外は全て置いて来たし、メイガスさんと合流した後もドルゲやケルンが馬に乗って倒しまくって様々な燃料代わりになると言う事で少しメイガスさんにも渡している。更にドルゲと俺で7:3で分けたのでこれでも減った方である。

 これで驚かれたらドルゲが持って行った数これの倍以上だし、先日コルエさんに売りに出した赤や青の魔石を見せたら卒倒するのではなかろうか。


 「久し振りの大口…二人ともぼーっとしてないで手伝うニャ!!!」

 「はっ…!!わ、分かりました!!!」

 「…手伝う。」


 流石に手慣れているのか兎耳の少女とミラは素早く魔石を大きい物と小さい物で分けていく。

 そして分けられていく魔石を猫耳の少女が数て紙にメモしていった。


 「小さい物が67、大きい物が17…計84個。小さい方が1つ30ステラ、大きい物が1つ100ステラでどうか買取させて欲しいニャ。」

 「値段は此処の相場に従うよ。」

 「悪いニャ。」


 猫耳の少女は申し訳無さそうにペコリと頭を下げるとお金を取りに奥に引っ込んで行った。


 「すいませんね、琥珀さん。もう少し高く買い取って差し上げたいのですが、うちの経済事情ではこれが限界で…。」

 「別に構わないよ。」


 この街に滞在する為にとりあえず宿代の16000ステラは月に稼がなければならない。

 依頼での報奨金がどれほどか分からないけれど、魔石の大体の売値が分かったのは大きい。 

 この街の周辺には青色の魔石を出してくれる魔物は多分居ないだろうし、居たらそっちはコルエさんの所に持って行く事にしよう。


 「それでは琥珀さん、彼女の集計が終わるまでこの街の周辺で手に入る魔物の素材について御説明致しましょうか?」

 

 どうやら猫耳の少女が戻ってくるまで少々時間がある様で、その間に魔物の素材買取について教えてくれるみたいだ。

 

 「では其方に。」


 そう言ってミラはギルド内の左側の壁を指差すと、そこには大きな掲示板の様な物が設置されそこには幾つかの紙がピンで刺されている。


 「此方が五日後から琥珀さんがお世話になるだろう、依頼掲示板です!街のお手伝いから魔物の討伐まで様々な依頼が張り出されるので気に入った依頼があればその紙を取ってカウンターまで来て頂きます!!因みに毎朝ギルドの開店と同時に依頼内容の更新をしているので、朝は他の冒険者様と依頼を取り合う形になると思われますのでどうか依頼前にお怪我はなされない様に。」


 所謂、何でも屋。日雇いの派遣。そんな表現が依頼をこなす冒険者にはピッタリだろう。

 それでもれっきとした社会を回す労働者である、馬鹿には出来ない。

 しかし、俺が中年冒険者連中との依頼争奪の戦いに参戦したとして善戦できるだろうか…?

 ふと想像してみても筋肉隆々のおっさんに揉まれ外に弾き出される姿が容易に想像できた。


 「そして此方が買取表になります!」


 掲示板の上、魔物の素材の名前が並べられその下には日々変動するのか小さな黒板に素材の買取価格が記されていた。

 

 「現在ですと、数が多くなっているコボルドや狼の牙を皆さんは持ち込んでくれています。」

   

 見上げるとコボルドの牙の買取価格は20ステラとなっている。

 他にはゴブリンの剣と弓、一度だけ戦ったオークの棍棒と牙なんか買取価格が200ステラとなっている所を見ると討伐、入手難易度、そしてその個体数によって価格は変動するようだ。

 

 そしてその中に1つだけ一際(ひときわ)頭一つ抜けている価格を示す素材があった。

 素材名"霊府の布"。買取価格は1つ800ステラとなっているが、つい最近消したのか前回の価格である650ステラと言う文字が薄っすら見えた。

 

 ミラは俺が"霊府の布"を見ているのを気付いたのか、どうやら説明をしてくれる様だ。


 「"霊府の布"が気になりますか、琥珀さん。悪い事は言いませんから、アレだけは諦めた方が良いですよ?」

 「何か事情があるのか?」

 

 俺はその素材に聞くとミラは難しい顔をしながらも教えてくれる。


 「この街、いえ国には1つだけ迷宮(ダンジョン)が存在します。そこに棲んでいる"レイス"と言う、白い布を被った魔物が稀に落とすのですが…。」

 「その魔物が強いのか?」

 「いいえ、強さだけで言ったらこの街の冒険者でも倒す事は可能でしょう。」

  

 強さでなら倒せるのなら強さが通用しない何かがあると言う事だろう。


 「ただ、レイスには物理攻撃が通じません。全てすり抜けてしまうんです。

 魔法も光魔法以外は効果が薄い上にレイスは憑依と言う特殊な攻撃をしてきて、憑依された者は迷宮内を彷徨い続け、自分の手だけでは脱出できなくなります。

 大昔、勇者の従者が"白霊剣"をレイスから落とした事で有名になり人気を博しましたが、その隆盛も今は昔。

 つい五、六年前までは神殿から聖職の方をお呼びして時折迷宮内の魔物の数が増え過ぎない様に掃討をお願いしていたのですが、今は荒れ果てて魔物の数も異常に増え続けています。」


 ミラは俯いた顔を上げて真剣な眼をして俺に忠告する。


 「ですから、迷宮の中には絶対に行かない様にしてください!!!」

 「わ、かわったよ。」


 ミラの気迫に圧され気味になりながら俺はコクコクと頭を上下させた。

 だが確か、ドルゲが確かレベルを上げるのなら迷宮が良いと言っていた気がする。

 

 「その迷宮は見に行くだけでもマズいのか?」


 興味の尽かない俺はミラへそんな質問をしてしまう。

 ミラは先程の話の手前、怒り出すかと思われたがそうでもない様だ。

 

 「いえ、外側は安全ですからどの様な物か見ておくくらいは良いとは思います。迷宮の入り口には初老のお爺さんが見張りをしていますから、それより先に入らない様にすれば問題はないですから。」


 そこまで話し終えると猫耳の少女がもう戻って来ているのか、『それでは戻りましょう。』とミラは俺を元居たカウンターへ誘導する。

 俺はミラの後ろを付いて行くと既にテーブルには金額の確認の為に硬貨が並べられていた。


 「金額の確認をお願いするニャ。」


 銀貨が3枚、銅貨が7枚、鉄貨が1枚、順に指差し確認をして計3710ステラを受け取ると鞄の中の袋へ仕舞い込む。

 

 「確かに受け取ったよ。」


 そう言って立ち上がり、その場を去ろうとするとミラが問いを投げかける。


 「琥珀さんはこれからどうなされるんですか?」


 言われてみて気付いたが、当初の予定は果たされてしまった…。

 と、なればこの後は外に出て本格的に狩りに出るのが良いだろう。

 当面のお金があるとは言え、この先防具を買ったり武器のメンテナンスを頼んだりすれば大きく出費は(かさ)む事は明白だ。

 もっともっとお金を稼がなければならない。


 「俺はこれから外に狩りに出ようと思う。多少お金が入ったとはいえ、まだまだこの先お金が入用になるだろうからな。」

 「もしかしてお一人で、ですか?」

 「ああ、勿論。」

 「そんなの危ないです!!!」


 ミラは俺の事を心配しているのか、机を壊す勢いで叩きながら俺を抗議する。

 

 「確かに琥珀さんは強いでしょうが、一人はいけません!!!」


 正直、此処までドルゲやメイガスさんの力を借りてやって来たが、手応えとしては余程無茶をしなければ大事に至る事はないだろうと言うのが俺の感触だ。

 確かにその考えが危ないと言う事は百も承知だが、ドルゲも自分の道を行ってしまったし仲間と呼べる者が一人も居ないのだ。


 「確かに危ないのは承知しているが、俺はこの街に来てから日が浅い。ましてや一緒に狩りに出掛ける仲間なんて居ないぞ。」

 「ちょっと待ってください!!!」


 ミラは他の二人を集めて何かを話し出す。

 そう言っても"冒険者は皆出払ってるニャ"とか"……一人で行かせてやればいい"等々言葉が飛び交っているが漸く答えが出たのか三人の意見は一致した様で"それしかない"と言った感じで納得するとミラはカウンターに戻ってくる。


 「お待たせしました、琥珀さん。」

 「あ、ああ…。」

 「この街の冒険者は見ての通り全員出払っているのですが、実は一人だけ例外が居るのです!!!」

 「は、はぁ…。」

 

 ミラは勢いをそのままにその例外について話し出す。


 「このギルドを出て左に行くと突き当りに大きな酒場があります。本来なら騎士団員達が(たむろ)しているのであまり行って欲しくはないんですが、仕方ありません。そこにいる"歌姫"と呼ばれている女性を連れて行ってあげてください!!!」


 そしてミラはその女性の名前を口にする。


 ―――その名前は、シャーロット・ツキシロ。



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