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目黒琥珀の異世界転生論  作者: ウェハース
第二章【極小国家・シエロ】
23/45

【破滅ノ前任者】



 再び戻った店の中、店先のドアには看板が掛けられ外の客の入店を拒んでいる。


 俺は招かれるまま椅子に座り、机を向かいにコルエさん右にルシエが座り、既にルシエが持ち出した"加護付き"の件も説明が済みルシエの表情は既にお通夜状態である。

 砂埃を被った服もコルエさんの水と風の魔法の合わせ技により綺麗になり、頬の傷や魔力も店の"かなり高い"ポーションによって回復の一途を辿っている。

 …もちろんこの代金はルシエの給料から引かれるそうだ。


 「本当に済まなかったな、これに懲りてルシエも当分大人しくしているだろう。」

 「いや、それはもう構わないんだが…コルエさん、俺のレベルも知っていただろうに何故許可を?」

 「ああ、その事か。……これを見ろ。」

 

 そう言ってコルエさんはエンフィルからの手紙の一部分を俺に見せる。


 『事の真偽はお前の眼で確かめろ。』っと書かれていた。


 リエンを出る時あんな事をした手前あまりすぐには会いたくないが、次会ったら一言言ってやろう。

 きっと、エンフィルがそう書けば弟子がどう出るかなんて予想付くだったろうに…。


 「お前の事でうちの弟子がむしゃくしゃしていたので丁度良いと思ったのが、流石の私もあの装備を持ち出すなんて考えていなかった。それは私の責任だ、申し訳ない。」

 「いや、構わないよ。もう"過ぎた事"だろう?」

 「確かに…。」


 過ぎていないのはルシエだけである。


 「それでは遅れたが早速、商談に移ろうか。」

 「魔石は冒険者ギルドで買い取る物じゃないのか?」

 「この手紙に書いてある事が本当なら、そんな魔石をこの街の冒険者ギルドに持って行ったら大事になるぞ。最悪あの冒険者ギルドの経営が傾きかねない。」


 そんなに経営難なのか、あのギルド。


 「この街の冒険者の連中は気の良い奴ばかりだが中年層ばかりでレベルも低い。街の手伝いや収集、小型の魔物を狩って生活している者達ばかりだ。この国出身の冒険者は数も他の国に比べれば天地の差、勇者達の最期を過ごした場所とは今は昔、その隆盛も今は消え失せている。」


 確かに言われればギルドの前に立て掛けられたのぼりの数々、あれは冒険者不足に起因しているのか。

 入った途端飛び掛かられたし、彼女達も必死なのだろう。

 

 「幸いな事に私の様な錬金術師の営む店は常に薬の材料等々で魔石を重宝している。小物ならまだしも、大物の魔石ならば買取価格は冒険者ギルドを上回る。」

 「そう言う事なら早速買取をお願いしようかな。」


 そう言うと俺は袋の中にある青の魔石と赤の大きな魔石を机の上に並べた。

 どちらの魔石も道中で手に入れた白く濁った小さい魔石より何百倍も綺麗である、その証拠に赤い魔石を見たルシエは落ち込んでなどいなかったかの様に目を輝かせている。

 

 「白い魔石もあるが買い取ってもらえるのか?」

 「其方は冒険者ギルドに持って行くのが良いだろう、その魔石は様々な燃料の代わりとして使われるから売ればギルドを通して街に行き渡る。」


 「ほぅ…それにしても、此方の魔石はこの街じゃまずお目に掛れないな。青の魔石も赤の魔石も純度がこれ以上無い位高い。だが―――」


 コルエさんは魔石を手に取って見比べつつ1つの疑問を述べた。


 「レベル50を超える特殊個体のエンシェント・ゴーレムを倒したにしては、魔石の数が少ない上に極端に小さい。魔導書が二冊、Aランクの幸運を考慮しても足りないなんてレベルじゃない。」


 ブツブツと考え事に耽っていたコルエさんだったが、スグに考えるのを諦めたのか頭を左右に振りながら買取に戻る。  

 

 (神域を犯す異常、これまた悪い意味で神秘だ。私達の考えの及ぶ領域ではあるまい。)


 「よし、買取価格は大体算出できた。」


 そう言うとペンを執りスラスラと順に価格を書いていく。


 赤の魔石(大) 12000ステラ


 青の魔石(中) 12000ステラ(2000×6)


 そう書かれている。


 「冒険者ギルドならどれだけ高くても赤で10000、青で1つ1500の買取が精々だろう。計7点でうちなら24000ステラで買い取らせてもらう。」

 「売った。」

 「それでは商談成立だ、ルシエ。」

 「は、はい!!!」


 ルシエはコルエさんに言われるがまま金庫に走り机は俺と向かいのコルエさんを残すのみとなった。


 「それにしても、だ。まさか、あの状態のルシエに勝つとはね。」

 「まともに戦えば勝ち目は無い。無理矢理勝利条件を捻じ曲げさせて泥水を啜った様なモンだよ。」

 「それでも勝ちは勝ちだ。君の想像以上に当のルシエは堪えている様だがね?」


 そう言いつつも頬杖をつきながら此方を品定めする様な視線を送ってくる、この感じがエンフィルに似ているのだ。


 「師匠からの手紙に書かれていた事は大方終わってしまったが、私としてはその便利な"眼"が気になるなァ…。」

 

  言葉を漏らしたコルエさんの眼は完全についさっきまでの怠そうな目つきが消えて今にも襲い掛かり目玉をくり抜いて解剖でもしそうな眼をしていた。

  思わず息を呑み、この世から音が消え去ったかと錯覚さえしてしまいそうになる。

 

 「ハハハッ、冗談だ。」


 悪い冗談だ、冷や汗が垂れてしまう程の静寂を笑い声で書き消すとコルエさんは言葉を続ける。


 「転生人は皆、神々から固有の能力や特殊な授かり物をするものだ。その眼もそう言った物の一部だろう?」

 「ったく、アンタ達師弟には敵わないよ。」


 元々エンフィルの弟子であるこの人に隠し事はするつもりはないのでエンフィルの隠蔽スキルも含めて俺が持っているスキルについて説明する事にする。

 説明を始めると一語一句聞き逃しまいと真剣に耳を傾けてくれるものだから逆に緊張してしまう。


 「成程な、"神の瞳"に"交神"に"グレイス"か。前者二つは文字通り書いた字の通りだろう、グレイスは…また厄介なスキルを授けられたモノだな。」

 「だたの成長促進スキルじゃないのか?」  

 「最近読んだ文献にそのスキルが出て来てな。嘗てのそのスキルの所持者は結果だけ言うのならこの世界の覇者になりかけた。」

 「なりかけた?」

 「ああ、そのスキルは確かに成長促進のスキルだが、その促進効果は繋がりを持った者にも適応されるのさ。…嘗ての保持者はその効果で強くなっていく仲間達を数十、数百、数千と増やし続けた。その果てに何人も寄せ付けぬ帝国を築き上げたが最終的にはその仲間達の野心によって滅んだ。きっとその"

繋がり"は絆や信頼などである必要などなかったのだろうな。仲間だと感じ、深い繋がりがあるのならばきっと何にでも反応するのだろう。」


 この話は色々考えさせられる。前任者が仲間によって滅んだ、それはその気持ちがバラバラであったからだろう。

 "仲間だと感じ深い繋がり"これも最悪、俺が一方的に仲間だと感じれば相手の内に憎しみと言う繋がりがあったとしても反応する可能性がある。 

 

 「ははっ、深く考える必要はないだろう。君にここまでの野心があるとは思えないしなぁ。あくまで前任者の末路さ」

 

 確かに、それは前任者であって俺ではない。

 余程愚かな行動を取らなければ問題ないだろうしな。


 「コルエ様!持って参りました!!」


 コルエさんが言葉を言い終わるのと同時にルシエがトタトタと銭袋を持って戻ってくる。


 「ほら約束の金だ、受け取るといい。」

 「確かに」


 銭袋の中身を覗くと中には金貨が2枚、銀貨が4枚入っていた。

 高い高いとは常々思っていたけれどリエンでのゴブリン討伐報酬は破格だった。

 これで所持金は46000ステラ、宿がいくらになるかはわからないが現代のビジホレートでも一週間近くは大丈夫だ。


 受け取った銭袋を鞄の中へ仕舞い込むと、椅子から立ち上がる。


 「何だ、もう行ってしまうのか?」

 「ああ、まだ宿も決まっていないしな。参考までに宿っていくらくらいかかるんだ?」

 「あー、それなら毎週常備薬を届けに回ってるルシエの方が詳しいな。ルシエ。」

 「はい!この街の宿でしたら普段冒険者さん達が泊っている宿街が良いと思います。この店を左に出られてスグの十字路を更に左へ大通りに出て頂ければ左右に宿が見えるます。値段は大体一泊200ステラから高い所は800ステラまで、空き状況までは分からないので直接行って交渉なさった方がいいかと。」

 「ありがとう。」


 礼を言うと睨んでいるのか喜んでいるのか良く分からない顔をしていた、まだ完全には割り切れてはないない様だ。

  

 「それじゃあ助かった、これで失礼するよ。」

 「ああ、私は君を気に入った。何時でも来ると良い、力になろう。」

 「その時あれば宜しく頼むよ。」

 

 二人に背を向けると扉のベルを鳴らし店を後にした。



 ◇◆◇◆◇◆◇



 店のベルが鳴り終わり、師匠の友人が出て行った。

 もうすぐ夕方だが客人の為に閉めていた店を再開しなければならない。 

 彼が居なくなり静かになった店を見ていると、また働かないといけないのかと言う面倒な気持ちだけが心を満たすが仕方ない。


 「ルシエ、営業再開だ。外の看板を回収して―――」


 振り向くともうそこにルシエの姿は無かった、きっと彼を追って行ったのだろう。

 今日は一悶着起こしはしたが根は優しい子である、それは彼女を私が拾った時から変わり無い。

 私の事を思っての行動も大きく、その先に会った事も無い私の師匠の姿も夢想している。

 師としてはなんと愛いものか。


 「今日はもう店じまいだな、久し振りに朝まで眠るとするか。」


 懐に仕舞った師からの手紙をふと開くと"二月後其方に出向く"と書かれていた。



 ◇◆◇◆◇◆◇



 「店を出て左、真っ直ぐ進んですぐの十字路を更に左…だったか」


 店を出た俺は一刻も早く宿を見付ける為歩き出した。

 ルシエが教えてくれた道を言葉に出して忘れない様に進んでいると後ろから声がかかる。


 「ちょっと待ちなさい。」


 聞き覚えのある声がしたので振り返ると後ろに居たのはルシエだった。


 「どうしたんだ?」

 「あ、その…手伝いに来てあげたのよ。」

 「手伝い?」

 「そ、そう!顔見知りの私が行けば幾分か宿泊費も安く済むと思うから…」


 先程までの行動を見ててあまり認めては貰えていないかと思っていたけれど、割とそうでもないらしい

 出来るのなら俺も仲良くいたいのでこれは嬉しい限りだ。

 確かに顔見知りの彼女が付いて来てくれれば幾らか交渉の余地があるのかもしれない。


 「ああ、是非宜しく頼むよ。」

 「し、仕方ないわねぇ!!」


 出来るだけ笑顔で答えると、ルシエはパァっと効果音が出そうな笑い方をした。

 段々と彼女の事が分かって来た気がする、これは彼女なりの照れ隠しだろう。


 「何笑ってんのよ!さっさと行くわよ!!」

 「わかったよ。」


  

 ◇◆◇◆◇◆◇


   

 俺達はこの宿街の中でも特に彼女のオススメしてくれた(しら)の宿と言う場所を訪れた。

 別に外見が白いと言う訳でもなく普通の木造造りの家だ。二階建てで部屋の数も20部屋、玄関を入ると正面に階段右にカウンター左には食堂だろうか、木製の椅子と机が複数並んでいる。

 宿のガタイの良い女主人曰く、その中で空き部屋が1つあるようで今はルシエが話を進めてくれている。


 「素泊まりは一泊600ステラ、朝食付きで650ステラだよ。一月単位で利用してくれるのな幾らか値下げさせてもらうよ。」

 「どうするの琥珀?」

 「朝食付きで一月単位の清算でお願いする。」

 「そうだねえ…お世話になってるルシエちゃんの紹介だし、16000ステラでどうだい?」

 

 650の一月、30日の計算なら19500ステラだ。それが16000なら十分すぎるほど値引いてくれている。

 ルシエ様様だな。


 「このレベルの宿でこの値段なら破格よ。」

 「そうだな、悩むまでも無い。宜しく頼むよ。」

 

 主人の前の机の上に16000ステラを差し出すと快く応えてくれた。


 「朝食は日の出から用意しているから出来るだけ早く来て頂戴ね。ああ後、部屋にお風呂もあるけれど沸かす為の燃料は各自で揃える事、水は言ってくれれば私の魔法で用意して上げるわ。」

 「おばさまは元冒険者だから分からない事があったら聞くと良いわ。」

 「まだまだ若いモンには負けないよォ!」


 力を見せる様に腕を曲げて立派な力こぶをを見せて来る辺り冒険者としてもかなりやり手だったのだろうか。


 「それじゃあ、部屋は二階の一番奥の部屋だよ。」 


 そう言って机の上に置かれた鍵は童話か何かで見た様な"F"の形をした鍵だった。


 「じゃあ私はもう戻るわね。店も師匠に任せっぱなしだし。」

 「ああ、助かったよ。ありがとう。」

 「……今日は悪かったわね。」


 どうやら本人は未だに気にしていた様だ。

 

 「いや、それを言うのなら俺も礼儀知らずだった。今日は互いにこれで手打ちにしないか?」

 「も、もちろんよ!!もう私も貴方の事を疑ったりしないから、仲良くしましょ!」


 彼女が差し出した手に素直に応える。

 

 「あらあら、店の前であっついねぇ~」

 「お、おばさま!!!!」


 主人からヤジが飛び俺もクスリと笑ってしまった。


 「今度戦う時は覚悟しときなさい!!!!」


 そう捨て台詞を残して彼女はシエロの街へ消えた。



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