【コルエ魔法店】
「セーラさんには後日お礼を言うとして…、とりあえず今は預かってる手紙を届けないとな。」
正直1つ後悔している事がある。
ギルドへの道はセーラさんが書いてくれた地図を頼りに辿り着くことが出来たが、コルエ魔法店への道が分からない事だ。
こんな事ならば、ギルドで聞いておくべきだったと後悔している。
出て来た手前、また行くのも気が引けるしもう既に結構な距離を歩いてしまっているのだ。
(とりあえず適当な人に道を尋ねるか…。このまま歩いていては時間の無駄だ。)
道の端へ目を向けると、この辺りはどうやら飲食店が多く立ち並んでいる地帯の様で道行く人へ声を上げて元気に客引きをしている姿が目に映る。
とりあえず果物を取り扱っているだろう屋台があったので立ち寄ることにした。
「あ、お兄さんいらっしゃーい!!うちの果物はどれも今朝とれたての新鮮だよ!!」
屋台へ進路を変えて数歩。屋台への距離は目算20歩くらいか。
その距離で反応してきたのは予想外だったが、そのまま歩を進めて屋台の上に並べられた色鮮やかな果物達を観察していると何一つとして現代で見た果物が1つも無い事が分かる。
どれが渋く、どれが甘く、どれが口に合うのか本当にわからない…。
とりあえずこう言うのは飛び込んでなんぼである。
「この中で一番甘味が強くて、美味しい物を1つ頼む。」
「むぅ…"甘味が強くて美味しい物"かぁ…。お兄さん中々難しい事言うねぇ、うちの果物は全部甘くて美味しいのに。」
果物売りの少女は腕を組みうーんと言った感じで並べられた果物達とにらめっこを始め出した。
「よーし、やっぱりこれだね!!魔力ポーションの材料にも使われる事がある、クレントの実!!!
採れたてのプリプリだから甘くて美味しいはずだよー!」
少女は持ち上げたソフトボール程の大きさの果物を手持ちのナイフを手にスラスラと皮を剥いでいく。
終いに身をバラバラに解体すると長い串に差して差し出して来た。
「はい、50ステラァ!!!」
袋から硬貨を取り出して少女に渡すと串を受け取り、そのままに一口齧ってみる事にした。
「ほぅ…。」
思わず目を細めてしまった。隠しているつもりもないが、俺は極度の甘党である。
特にデザート類には眼がない。現代では近くに出来た有名クレープ店へ病院から抜け出して大怪我を圧しながらも這って食べに行った事がある程である。
このフルーツは食べた瞬間に果汁が溢れ、口の中を果肉の甘味が蹂躙する。
紫色とドロドロした色をしてはいるが味は現代で言うメロンとバナナを足した様な味をしていて常に高い甘みを俺の胃袋へ供給した。
「ふふふ、美味しいでしょ!」
何時の間にか驚いた顔をして固まっていた俺を見ながら、幼い店主はニヤニヤしている。
「…見事な御手前で。」
それはそうと、感動で本来の目的を見失う所だった。
「ああ、そうだ。少し道を聞きたいのだが…。」
「道ぃ? いいよいいよ!!」
「"コルエ魔法店"と言う店なんだが、此処からどうやって行けば辿り着けるだろうか。」
俺がそう尋ねると少女は驚いた顔をしたが、屋台から外に出ると俺が今まで進んでいた道を真っ直ぐに指を差した。
「この道をまーっすぐ行って、突き当りを左に曲がれば冒険者さん達が使ってる武器屋さんやお薬屋さんが沢山並んでるんだけど…その道の右手側にある一番大きなお店がコルエさんのお店だよ!!」
「成程、ありがとう。」
「それにしてもお兄さん、コルエさんのお店に行くなんてお金持ちさんだったんだねぇ。」
「いんや、別にそんなんじゃないよ。ただ友人に頼まれ事をされてるから行くだけさ。」
ドルゲが"稀代の"とか言っていたから大方予想はしていたが所謂"高級店"と言う奴か。
俺は先程食べた実を3つほど買い足すと、少女は満面の笑みで「毎度ありー!」と言って屋台から手を振ってくれた。
商売上手め…糖分は定期的にここで供給することにしよう。そうしよう。どうせケーキやパフェなんてものは無いだろうしな。
俺はぶつくさそんな事を考えながら教えられた道を歩く。
突き当りに行き着くと一気に周りの店の風貌が変わった。今までの飲食店や八百屋が立ち並んだ場所は終わり、刃物や鎧、ローブが飾られた店や嗅ぎ慣れた薬品の懐かしい匂いが仄かに漂う店が一気に増えたのだ。
飾られた鎧やローブ、武器を見ると心が躍るがそれを見るのは後だ。先に手紙を届けなければな。
何とか誘惑を振り切って先程言われた様に突き当りを左に曲がる。
道は先程より大きく通りが開いており、道に馬車が行き来しているのが見えソレに比例する様に行き来する人も先程の通りより多く見えた。
通行人や馬車の邪魔にならない様に目的地である店がある右側に寄りながら歩き、適当にウィンドウショッピングを楽しみながら目的地に向かった。
「コルエ…コルエ…。ああ、此処か。」
突き当りを曲がりそのまま少し歩くとスグにその店は見つかった。
外見は木製造り。だが、少しだけ造りが違う。
所謂ログハウスと言う奴か、その存在感もさることながら店自体も大きく他の店の二倍位は大きい。
その上、建物の後ろには大きな庭が木々によって囲まれており、作業場の様な建物も確認できる。
とにかく、他の店舗と比べればその差は歴然である。だが、高級店宜しく客入り入りは良くない様で、眼を向ける者はいるが扉を開けて入って行こうという者はいなかった。
「まぁ…手紙を届けるだけだ。何とかなるだろう。」
店に入って行こうとする俺に道行く何人かが目を向けるが気にしない気にしない、気にしていたらキリがない。
ガチャ
扉を開けると店の中は薬品の香りが…あまりしないな。
少しだけガッカリしながら店内に入ると静かにドアベルが鳴り、カウンターで頬杖を付いていた茶髪の少女が此方に気付き、パッと立ち上がろうとするが俺の姿を見てすぐに元の姿に戻ってしまった。
ギルドも大概だが、此方も大概じゃないか…。
「いらっしゃいませー。」
何と覇気のない言葉だろうか。まだ夜中のコンビニ店員の方が元気な気がする程だ。
「すみませんが、コルエ様いらっしゃいますか?」
俺は諦めて手早く要件を済ませてしまおうと、カウンターにいる店員にとりあえずコルエさんを呼んでもらえる様に尋ねる。
女性店員は眉間に皺を寄せるとズカズカと音がしそうな足音を奏でながら俺の目の前まで来る。
「師匠に! 何の!! 御用件ですか?!」
「友人から手紙を一通預かっているのですが、コルエ様を呼んで頂けませんか?」
随分高圧的だが、こう言う場合乗った方が負けである。
俺は敬語を維持したまま笑顔で言葉を返す。
「師匠の友人から手紙ィ、アナタがですか…?」
「えぇ。」
「あー、稀に居るんですよねぇ。知ってます? アナタの会おうとしているのは、私の師匠は"コルエ・メイフィスト"。
この世界でトップを争える錬金術師です。しかもあの"エンフィル・シャンデール"様の一番弟子ですよ?」
「ああ。」
自分でも敬語が少しずつ崩れていくのが分かる。
「ああ? 身の程を知りなさいッ!!!
アナタみたいな惨めな格好の人が会える人ではないわ!!!
此処はシエロ一、いや…この世界で一、二を争う程の高級店!!!!
身嗜みくらい整えて出直してきなさい!!!!」
「……。」
確かにそうか、毎日川で洗っていたとは言え服は一張羅である。
戦い続きで汚れ、ほつれ、破れ、ボロボロになって来ているのはわかっている。
わかっているが―――正直、二度も来るのは面倒である。
「では、君が渡しておいてくれないか。」
そう言って袋から手紙を出して、彼女に差し出す。
ヒュン!
エンフィルの手紙を持った俺の手を叩き落とそうと彼女の手が迫るのが見えた。
(ハァ…。)
予想はしていたが、まさかこれさえダメとは…。
心の中で溜息を付きながら"神の瞳"を行使し彼女の叩き落としをスレスレで躱す。
折角下手に出ていたのに仕方ない…。
「えっ?」
案の定、彼女の手は俺の手をすり抜けた様に空を切る。
「どうした、受け取らないのか?」
「い、今…確かに。」
自分の手を不思議そうに見ていた彼女は顔を上げると俺を睨んで来たので満面の笑みで返す事にする。
「受け取らないのなら仕方ない。エンフィルの奴には"そう"言っておくよ。」
「な、何でアンタの口からエンフィル様の名前が出て来るのよ!!!!!」
「言ったろ、友人からの手紙だって。」
「嘘だ嘘だ嘘だ!!!お前みたいな奴がエンフィル様の友人であるものか!!!!!!」
ヒートアップして来たので退散する事にしよう。
背を向けてドアに向かう間も罵詈雑言が飛び交っているがスルーである。
「それでは失礼致しました。」
ドアを閉める最後まで罵詈雑言が飛び交っていたのは言うまでもない。
「さてと…。」
俺は店を出ると"神の瞳"を行使して、店の裏側の方へ眼を向ける。
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称号:該当なし
名前:コルエ・メイフィスト
レベル:44
種族:人
職業:錬金術師:Lv50☆
体力:2050/2050
魔力:2121/2121
力 B(1040)
防御 B(882)
知力 A(1660)
精神 AA(1922)
素早さ C(700)
器用さ B
運気 C
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そう…会わせてくれないのならば、自分から会いに行けばいいのだ。
「ほらいた。」
俺は庭の奥の方にコルエさんのステータスを確認すると、一度人込みに消えてから一旦遠回りをして裏路地に入る。これで、店から此方を見ていた彼女の視界からは消えただろう。
人込みに揉まれズレていた服を治すと、店の裏側の方へ歩き出した。




