【神様(仮称)】
そこは真っ白な世界だった。
窓も無ければドアも無い、ましてや家具などありはしない。
あるのは先が見えない真っ白な世界だけ
「……俺は死んだのか。」
「まあ、そう言う事になるの」
誰に呟いた訳でも無かったが、誰も居ない筈の世界で背後から声が掛かったので
背を向けたままその人物に問いかけた。
「あんたはもしかしなくても"神様"ってやつか?」
問いかけと同時に振り返るとそこには幼女…とはギリギリ言えないレベルの少女が両手を腰に手を当てて立っていた。
そう、まるで自分が神であるから崇めろと言わんばかりに
「……はぁ。」
「何じゃその溜息は!?」
何だろう、相手のテンションが妙に高いせいか怠さを感じる。
その上その容姿でその言葉遣いは笑うしかない
「それで、要件は何でしょうか神様?」
「何か気に食わぬが…まあよいか。 よく聞いてくれた!」
神様(仮称)はゴホンと1つ咳払いをすると宣言した。
「お主はワシが殺した!」
「……は?」
本当に は? である。
目の前の神様(仮称)が訳の分からない事を言い出した。
どれだけの神様ってのが居るのかは分からないが、命を司っている神様とかが居るのなら殺したってのも案外間違いではないかもしれない
「厳密に言うのなら漸く殺す事が出来た…だな。」
いや、そういう問題ではない。
この際殺された事はどうだっていい、死んでる訳だし
限りなくこの神様(仮称)からは主語はあっても理由がない。
「もう死んでいるので同じことだが、説明を頼むよ。俺は神様じゃないから心まで読めない」
「ふむ。」
神様(仮称)の話を要約するとこうだ
俺は本来、幼少期の事故で家族と共に死んでいなくてはならなかった。それが本来定められた運命だったからだ。
だが何故か未来を変えて生き残ってしまった為、歴史を修正する為に間接的に神様に命を狙われ続けていた、らしい。
そしてこの神様曰く、"人類初"だったそうだ
「身に覚えはあるじゃろ。
神々が何度も何度もお前の歴史を修正しようと頑張っておったのじゃ
多くの病、多くの事故。それを以てしてもお前は生還しおった。
お主を診ていたあの医者の腕も他の神々が太鼓判を押すくらいには優秀な障害じゃったな。」
確かに身に覚えはある。
事故で言えば突然電柱が倒れてきたり、デパートで買い物中いきなり足元が崩れて4階から落とされた事があったし
病気で言えば連続して只の風邪が悪化に悪化を繰り返して大病にジョブチェンジを果たした事が多々あった
今思えば運が悪い程度で片付けられない事ばかりだった
そして何度も何度も事故や病を繰り返したが不幸中の幸いで生き残っていた。
「出来れば少しでも自然な形で修正したかったのじゃが、叶わんくての。最終手段として心臓停止を以て強制修正をさせてもらった所じゃ。」
「…なるほど」
「関心が薄いのう…。ワシがこういう事を言うのはなんだが、お主からの罵倒の1つや2つはないのか?」
「ないですね。」
即答する。
俺は神様からしたら短い時間であるが俺が死ぬはずだった時間から計算して約20年と言う時間を永く生きたのだ悔いはない。
大切な友もできたし、沢山の事も経験する事が出来た。
だから偶然とは言え本来より永く生きれたのなら非難するのは間違いだろう。
「そうか…。」
何故か神様申し訳なさそうな顔をして此方を見る。
「時に琥珀よ。」
「なんですか?」
「別の世界に転生してみる気は無いかのう」
「は…い?」
本日二度目である。
「勿論、下界の子等が騒いでおる…所謂、剣や魔法な世界じゃ」
「確かに興味はありますが…」
確かに興味はある。
生前はゲームや本、ネット等々で活躍する主人公や異世界に夢を膨らませたものだった。
剣を盾を弓を槍を、魔法を男なら一度は憧れるものではある。
そう俺が頭の中で唸っているとそれを他所に神様がドンドン話を進めて来る。
「ならば丁度良かった!
お主が延長して生きて来た20年間は修正が難しくてのう
この際別の世界に転生してこの世界の20年間を無かった事にするのが一番手っ取り早いのじゃ」
「もしも俺が転生を拒否したらどうなります?」
素直な疑問だった。
正直俺の意志など関係なく強制的な実行は容易いだろう
だがもしも俺が転生しなかった場合、他の解決法はどうなるか知りたかった。
20年以上も生きた世界だし、愛着や未練の1つや2つ自分にもあるのだろう
「ふむ…。強制的に―――という手段も確かにある
だが神と言う奴は人間が大好きでのう、きっと本来の地道な手段を取るであろうな。
その際お主と縁の深い親や妹達や親しい友人達の転生は修正が終わるまでの何千何万年の間は一切叶わぬだろうがな」
俺の葛藤を他所に爆弾発言を繰り返す神様
何千何万、もしかしたらもっと途方もない時間放置されるくらいなら選択肢は一つしかない。
元々選ぶべき道はなかったのだ
俺が観念した様に溜息を吐くと神様はパァ!っと笑顔になる
「よし琥珀! これを見るのじゃ!!」
そう言うと宙に文字や数字が書き出される。
「これはお前の過ごして来た此方の世界での"すてーたす"じゃ。転生先の仕様で表示してみた。
一度目を通すがいい。」
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名前:目黒琥珀
レベル:1
種族:人
職業:―――
体力:160/160
魔力:20/20
力 E(33)
防御 E(25)
知力 E(12)
精神 D(52)
素早さ E(13)
器用さ B
運気 A
スキル
該当なし
アビリティ
柔術:Lv1
剣術:Lv1
特殊アビリティ
不幸中の幸い
冥界の呪い
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表示を目にした瞬間、そのステータスに関する情報が一気に頭へ流れ込んでくる。
とりあえず言いたいことは沢山あるが職業欄が空白なのが悲しい。最後に退職届を受け取ったからだろうか
現実世界ではやはりファンタジー世界とは異なりステータスの上昇の見込みは薄い様だ
"冥界の呪い"と言うアビリティはどうやらバットアビリティで生前自分を死に追いやる為のアビリティだと説明がある。現在では効果は消滅し転生後にはアビリティは完全消滅するらしい。
それと、予想はしていたが特殊アビリティ"不幸中の幸い"はやはり存在していた。
「やっぱりあったのか」
「此方の世界では有り得ない幸運値と特殊アビリティ、そしてあの医者の腕がお互いに作用し死を回避し続けた様じゃの。全くもって珍しい事じゃ」
確かにそれは言えている
間接的とは言え神様の攻撃を瀕死の重傷を負いながら生還した訳だし
悪運が強いというか何と言うか呆れを通り越して笑えて来るほどのぶっ壊れスキルだ。
「件並ステータスは向こうの世界の住人と比べると見劣りするが、そこはワシが何とかしよう。
―――だが、その代わりお主の"不幸中の幸い"のアビリティは此方で回収させてもらう。
間接的とは言え神さえ手を焼くアビリティじゃ」
「回収すると言う事は異世界転生宜しく、スキルや強化の方は期待してもいいのか?」
「ああ、勿論じゃ! ワシに任せておけ!」
そう言うと地平線を彷彿とさせる胸を張り、任せておけとドンっと胸を叩く。
傍から見たら背伸びしている中学生くらいの感想しか出ないが、口は災いの元。
墓場まで持っていくのがいいだろう
俺を転生させる気満々で準備に取り掛かる神様に気になる事があったので尋ねる。
「スキルやアビリティについては俺が欲しい物を決めてもいいのか?」
「ふふふっ―――」
何やら不吉な予感がする。
神様は四角の箱を抱えながらジリジリと距離を詰めて来ると、俺の前に箱を落とした。
「これはこの日の為だけ作っておいたワシ特性の抽選ボックスじゃ!
この中には現存するスキル、アビリティ、装備は勿論!
普通では絶対手に入らない限定品も盛り沢山入っておる!!
さあ!引くがよい!!」
「引くがよい…って」
どうやら自由に決めることはできないらしい。
この神様も俺を殺す為にアレやコレややるうちにソーシャルゲームの様なガチャを俺に進めて来るほど現代かぶれになったのだろうか。
自由に決めることが出来るのなら手に入れたいスキルやアビリティはいくつもあったが、出来ないのなら仕方ない。
神様曰く、挑戦回数は7回。
もしもアビリティ譲渡を断っていたら3回しか引かせるつもりはなかったらしい
アビリティ1つで4回分増えるのなら別に損と言うわけでもないだろう、神様を敵に回す予定もないから断るつもりは初めから無い訳だが。
「それにしてもいいのか?
俺はあのステータス通りなら幸運ランクはA、相当高いはずだが」
そう言いながらゴソゴソと箱の中を探る俺を見ながら
神様はクスクスと笑う。
不正、と言う訳ではなさそうだが何かしらこの箱に秘密があるのだろう
箱は腕が1本入るくらいの穴が空いていてそこから手を伸ばしても底には到達しない。
宙には膨大な数の紙が浮いていてその中から1枚を選び掴む様だ
何故かフツフツと心の底から対抗心の様なものが湧いてくるのを感じる
10台の頃のワクワクや活気を思い出すと箱の中から1枚の紙を掴み出す。
「どれどれ…。」
俺が取り出した一枚の紙を取り出すと神様はチョコチョコと傍に寄って来て、紙に顔を覗かせる。
1枚目―――鉄のロングソード
ガシャッ!
目の前に鞘に入った剣が落ちて来た。
明らかにハズレである。
神様は俺の胸を叩きながら笑いだす。
「ハハハハハッ! 己のステータスを過信するからじゃ!!
この箱はワシの特別性!!
この箱に対しては誰であろうと運が通常まで落ちる仕様になっておる!!
幸運Aが泣いておるなぁー!!」
声を張り上げて笑いながら転げ回り始めた神様を見てイライラが募りながら
八つ当たりの様に箱の中から紙を1枚引き上げた。
―――その瞬間、ピタリと神様から笑い声が消えて紙の方を見ながら固まってしまう。
それもそうだろう原理は分からないが紙から虹色の光が溢れているからだ。そりゃあ固まるだろうさ。
「―――っっ!!!」
神様は物凄いスピードで俺の持つ虹色の光を放つ紙を強引に奪い去ると
即座にその紙を開封しプルプルと震え始めた。
「あ、ありえぬ…。
ワ、ワシはこんなものを入れた覚えはないぞ!!」
ヒョイっと彼女の上から紙を除くとこう書いてある。
2枚目―――特殊アビリティ:|神の瞳(片目)
神の眼と来たか。
何かとんでもない物を引いてしまった気がするが、引いてしまったものは仕方ない。
彼女にその眼の効果について尋ねるとポツポツと語り始める。
「神の瞳と言うのはのう、書いた字の通り神と同じ眼を持つ事じゃ
本来は完全な未来視。しかも、分岐した先の未来さえ完全に見据える事が出来ると聞いておる。
最上位の神格を持つ神々でも持つ者は少ないぞ…。」
本気でシャレにならない物を引いてしまったらしく
引いた自分でさえ変な汗が頬を伝うのが分かる。
おそるおそるステータスで神の瞳の効果を確認するとほんの少しだけ安堵の息が漏れた。
人が扱う事によって格が相当に落ちるらしく
それでも使用中は常時魔力を要求されるが、対魔眼、眼力強化を始め各種視認効果が付く上戦闘中に役立つだろう一瞬先ではあるが未来視が効くとのこと。
とんでもなく強力ではあるが今の自分では上手く扱う事は難しいだろう。
「た、たたたた、確かにな!!!
ほほほ、本来通りの神の瞳など人の身に余るものだ!!!
あはははは、良いアビリティを手に入れたのう琥珀!!!
正直かなーり羨ましいぞ!!!」
笑いながら此方を見て来るが、目が笑っていなかった。どうやら彼女の神格とやらはそう高くない様だ。
逆鱗に触れまいとそそくさと箱の中から何枚か紙を取り出して床に座り込む。
ポフッっという感触と共に神様は俺の膝に腰掛けると早く開けろと言うオーラを背中から醸し出して脅してくるのでさっさと開封を始めた
3枚目――――魔法のかばん(小)
4枚目――――スキル:交神
5枚目――――スキル:水歩
ドスッ!
どうやら物は直接落ちて来る様だ。
魔法のかばん。腰に巻けるポーチに近い。本に良く出て来る物を沢山仕舞っておけるかばんの事だろう。
"小"と記載があるので容量はそう多くはないだろうがこれからの事を考えると思わぬ収穫だ
交神は読んだ字の如くだろう。
水歩も水の上を歩けるスキルらしい。
「交神とは良いスキルを手に入れたのう、これでワシと会話し放題だぞ!」
これではパケ放題宜しく神放題である。
どうやら交神は目の前の神様が作ったスキルで自分と俺を自由に繋ぐスキルらしい、感覚であるが必要魔力が高く、今では発動することは不可能だろう。
理由は分からないが、少しだけ顔を赤くした神様が笑顔で此方に微笑む。
残り2枚だが勿体ぶらずにさっさと引いてしまおう。
攻撃スキルが欲しい所だがどうだろうか
6枚目―――ミスリルの短剣
7枚目―――アビリティ:グレイス
ミスリルの短剣に成長促進アビリティ。
スカ、ポケットティッシュ、応募券。明確なハズレが存在しない。
孫の手の様だ、痒い所にしっかりと手の届くラインナップだった。
攻撃スキルこそ手に入らなかったが眼が手に入った時点で十分当たりの部類だろう
ゆっくりと神様が膝の上から立ち上がると先程見せていたステータスを少しばかり弄ると自分に見せて来る。
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名前:目黒琥珀
レベル:1
種族:人
職業:―――
体力:250/250
魔力:41/41
力 D(51)
防御 E(30)
知力 E(31)
精神 D(75)
素早さ E(41)
器用さ B
運気 A
スキル
交神
水歩:Lv1
アビリティ
柔術:Lv1
剣術:Lv1
グレイス
特殊アビリティ
神の瞳
■■■神の加護
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全体的にステータスが上がっている。
相変わらず職業がないのが悲しいがこのパワーアップは嬉しい。このパワーアップはどうやら彼女の加護の効果によるものだろう。
「これで無職レベル1の向こうの成人男性の平均より1.5倍くらいは強くなったな。」
ワシの神格がもっと高ければ―――とか、抽選で職業を―――言っていたが
十分だと俺は彼女に笑顔で伝えるとまた眩しい笑顔が返ってくる。
「ありがとう、神様。おかげで幾分か楽になりそうだ。
もし叶うのなら天国の家族達には俺は元気にやっていると伝えてくれると嬉しい」
「ああ、お安い御用じゃ!」
そう言ってゆっくりと立ち上がると視界が白く染まっていく。
きっと転移が始まったのだろう、向かう先は剣と魔法の色めく世界―――
消え去った白い世界に神様の一つの言葉が残る。
「安心せよ、琥珀。お主の命運は"私"と共にある。」
ここに目黒琥珀のセカンドライフが始まった。