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目黒琥珀の異世界転生論  作者: ウェハース
第二章【極小国家・シエロ】
14/45

【奴隷との邂逅】

ただいまより第二章を開始いたします。

気軽に読んで下されば幸いです。

 

 

 初めて降り立った異世界は現実世界とは違い大きく自然が残り、森が多い。

 街へと続く道もアスファルトで整備など勿論されていない。剥き出しの土を慣らす事で街道している様だ。

 それでもソレを道と認識できるので道を間違える事がないのが唯一の救いか。

 

 今は森を抜け、ドルゲと共に街道から脇へ少しだけ道をズラし岩へ腰かけて休憩をしている状態だ。

 

「しかし…近くの街まで歩いて三日か。流石に辛いな。」

「ハハハッ!琥珀のアンちゃんは相変わらず体力がないな!!」


 ドルゲは軽く笑い飛ばしているが、既にリエンの村を出て森を抜け、出発時は頭上高くにあった日も既にかなり降りてきている。

 時間で言うのならばそうだな…8時間程歩いただろうか。学校や会社、病室と自宅を往復していただけの現代人には些か厳しい。

 車も無ければ自転車もなく、如何に現代が恵まれていたか実感してしまう。まぁ、その分不便な部分もあるのだが…。

 

 話を戻すと、単に運動不足で沢山歩いて、疲れて、足が痛い。それだけだ。

 ドルゲのピンピンしている所を見るに少なくともこの世界の住人はこれくらいでは悲鳴を上げたりはしないと言う事だろうか。

 この世界でこれから生きて行くのだから慣れなければな。

 

「しっかし…リエンを出た瞬間戦闘とは想定外だったな。」  

「こっちの方に来る奴なんて少ねえからな。遠すぎるし、街の冒険者も採算の合わん仕事はしねえのさ。

 そんでもって、誰も来ねえモンだから魔物達の数が増えてやがる。」


 冒険者だって生活があるし、確かにそうだろう。


 俺達がリエンの結界を越え、外の世界の森へ降りた場所は悪くなかった。上空に放り出された訳でも無く、魔物の巣の中でも無い。

 その上、遠い先ではあったが視認出来る距離に街道らしきものが見えていたため降りた場所は最高だと言ってもいい。

 だが俺達は運が悪かった。

 俺が地に降り立つと、既にドルゲは10匹程のゴブリンと猪の様な魔物と戦っておりその奥では他のゴブリンと数頭の猪の魔物が戦っていた。

 詰まる所、魔物の情勢は解らんが、どうやら縄張り争い…もしくは狩りをしていたド真ん中へ降りてしまったらしい。

 即座に異常を理解して剣を引き抜き、ドルゲに加勢したので事なきを得る。

 そこで1つ、リエンと外の世界の違いを目にした。リエンでは倒すと魔物の身体は煙になって消えていたが外の世界では消えずその姿が残るのだ。

 つまり何が言いたいかと言えば、魔石の回収の為、魔物を解体する必要があると言う事だ。

 リエンとは違い肉や骨、角や皮まで残っているので利用の幅は広そうだが本格的に解体術も学ぶ必要があるだろう。

 実際ドルゲに習いゴブリンを一匹だけ解体し魔石を取り出してみたが、流石に時間がかかり仕事が雑になってしまう為、他の魔石の取り出しは全てドルゲにやってもらった。魔石の取り分はドルゲと俺で7:3だ。

 ドルゲは半々で十分だと言っていたが、倒した数もかけさせた手間も明らかにドルゲのが多い。

 だから受け取って欲しいと言ったら、しぶしぶ受け取ってもらえた。 


「良い収穫だったが、本当に良かったのかアンちゃん?」

「いいよ、俺は周期での報酬で魔石を貰っているし。それにドルゲだって、街に着いて先立つものが必要だろう?」

「確かに…貯蓄は殆ど食い尽くしちまったしなぁ。今回はアンちゃんの好意に甘えさせてもらうぜ。」 

 

 ドルゲはそう言ってニカッっと笑う。


「さて、そろそろ休憩は終わりだ。辺りが暗くなる前に一歩でも先へ進もう。」

「オウよ!!」


 俺が椅子代わりにしていた石から腰を上げるとドルゲも立ち上がり布でグルグルに巻かれた大斧を背中に背負う。

 街までおよそあと二日とちょっと。…まだまだ先は長そうだ。



◇◆◇◆◇◆◇


 塩辛い干し肉を噛みながら腹を満たして歩いた道はどれ程だろう。途中あれから何度か休憩を挟み、歩き続けた。

 不思議と道中一度も魔物や盗賊に遭わなかったのは運が良かったと言えるだろうか。


 辺りと言えば、とうとう日は完全に沈み、夜を迎えてしまった。拓けた街道を進んでいるがもう先が暗くて見えない。

 一歩先を進むドルゲは足を止めると俺に向き直る。


「アンちゃん、今日はこの辺で野宿と行こうぜ。」

「野宿か…。」


 現代人に野宿と言えば、聞こえが悪いかもしれない。

 だが此処は異世界だ。公園のベンチで眠る訳ではなく自然の中で眠る事になる。

 キャンプ?サバイバル?それすらおこがましい、知らぬ地を歩き知らぬ場所で眠る。

 何故だろう、冒険感か他の何かか…心がワクワクしているのは子供の心がまだ内に残っている証拠だろうか。

 

 魔法の鞄から大きな布を二枚取り出すと一枚をドルゲに渡す。

 大きな岩の影へ移動し、布で身体を包み岩に背を預けながら眠る。

 勿論非常時に備え俺は腰に短剣を差したまま手の届く距離に剣を立て掛け、ドルゲは大斧の柄の部分を枕代わりに既に地面に倒れている。


 (……。ダメだ、眠り辛い。)


 ベットや布団で倒れて眠る事に慣れた現代人には座りながら眠る事もキツいらしい

 授業中に椅子に座りながらならば熟睡出来るのに、この差はなんだろうか…。

 

 仕方がないのでドルゲに習い、剣を枕代わりに地べたで眠る事にしよう。

 当のドルゲは既に眠りに落ち、外見に似合わない静かな寝息を立てている。

 確かに外で大きないびきをかいて眠っていれば自身の位置を教える様な物で、魔物や異世界では定番な盗賊や山賊に狙ってくださいと言っている様なものだ。

 

 地べたに寝転がると疲れからかすぐに眠気がやってきた。

 明日も歩くことを考えれば気が怠くなるが、明日の事は明日考える事にしよう。


 静かに眼を閉じると、スグに意識は闇へと落ちた。

 

 


 ◇◆◇◆◇◆◇



 ギャッギャァァァ!!


 (何だ…?) 


 何か辺りが騒がしい。

 

 お、――い、起き―――。

 

 眠気眼で薄っすらと眼を開けるとドルゲが俺の肩を持ってグラグラと揺らしながら何かを言っている。

 

 (何だ、もう朝なのか…。)


 ドルゲは俺が目を覚ますのを見届けると、立ち上がって自身の斧を手に取った。

 

 段々意識がハッキリとしてくる。

 昨日は野宿をして、まだ辺りは薄暗くて、起きるにはまだ早い時間なのは確かだ。

 再度斧を担いだドルゲの姿を見てスグに結論に至る。―――これは、襲撃だ。


 数秒前までの眠気が嘘の様に吹き飛び、枕代わりの剣を手に立ち上がった。

 

「すまないドルゲ、世話をかけた。」

「へへっ、良いって事よ。アンちゃんはこう言うのは慣れてねえんだ、これから慣れて行けばいい。」


 そう言ってもドルゲは視線を俺に向けず街道の端を囲む森を見つめていた。

 俺もドルゲの横まで移動し、いつでも出て行ける様に剣に手をかけて体制を低くしてその時を待つ。

 時間にして一分程だ。草むらがガサガサと揺れて、何かがゆっくりと此方に向かってくる。 


「魔物なら俺が突っ込む。アンちゃんはいつも通り俺の死角を埋めてくれや。」

「了解した。」


 これが俺とドルゲの戦い方だ。俺がドルゲをサポートする事でドルゲ自身は目の前の敵に思いっきり自慢の斧を振るう事が出来、俺が居る事で背後や不意打ちを気にする必要がないのでドルゲは本来の力をいかん無く発揮できる。

 俺は戦闘に対しては素人も良い所だ。ドルゲ自身はパワー、俺はスピードと器用さが頭一つ秀でている。

 そこでドルゲによる高火力を前面に押し出し、俺がその憂いを無くす。

 特にそんな戦い方の話など一言もした事は無いが、周期の折、共に戦っている内に自然とそう言う形へ落ち着いたのだ。

 

「出て来るぜ。」


 今思えば、神の瞳を行使すれば魔物かどうかなど判別が出来たと思うがそれは後の祭りである。

 

 草むらがガサッと大きく揺れると自然と剣を掴む手にも力が入る。

 微かに汗が滲むが、その不安は杞憂に終わった―――。


 草むらから倒れ込む様に現れたのは一人の赤髪の少女だったからだ。


 だが、俺もドルゲも別の意味で慌ててしまっていた。

 ドルゲも俺も武器から手を離すとスグにその少女に駆け寄る。

 その理由はその身形(みなり)だった。安っぽいボロ布を羽織った服は土で汚れ、所々ビリビリに破れていて身体中に血が滲んでいるのだ。


 俺はドルゲより一足早く少女の元へ辿り着くと、少女の上半身を抱き上げ懐から餞別として受け取っていたポーションを取り出し少女に飲ませた。

 飲み終わるとすぐにポーションは効果を発揮し、少女の傷を消し去った。

 辛そうにしていたその表情も穏やかに変わり呼吸も今は安定した事に安堵し、俺もドルゲも一息つく事ができた。


 赤髪の少女を寝かせようとすると彼女は俺の腕を払う。

 少女は鞭を打つ様に身体を持ち上げると何とか自身の力で立ち上がる。

 真っ直ぐ俺と背後に立つドルゲの姿を見ると自身の目的を思い出したのか、必死の形相で俺に掴み掛かった。


「たっ、助けてください!!! 皆、皆が魔物に襲われているんです!!!!

 冒険者さんに払うお金は有りませんが、いつか絶対に払います!!!

 だから!だから!!―――私達を、助け…て。」

 

 まだまだ体長が完全に回復していないのか、言い終わる前にフラリと倒れ掛かる。

 その華奢な身体を咄嗟に受け止めるとドルゲと顔を合わせる。

 

「見た所…コイツァ"奴隷"だな。」


 ドルゲが少女の腕を捲ると焼印の様な十字の紋様が刻まれているのが見える。

 ああ…本当に奴隷なんているのか。創作やTVの向こうの話でしか見た事も聞いた事も無いが、実際にこうして見てしまうと妙に気分が悪くなる。


「アンちゃんこうしちゃいられねえ!多分奴隷を輸送している馬車が近くで襲われた可能性がある。

 今ならまだ、もしかしたら一人でも多く救えるかも知れねえ…。急いで助けに行ってやらねえと…っ!」


 ドルゲは少女を背負うと彼女が来た方向へ走り出そうとする。


「なら俺が先行しよう。道中の魔物は出来るだけ殲滅するが、注意しながら来てくれ。」


 俺は走り出したドルゲへ追い付くとそれだけ言ってドルゲを追い抜いて全速で森の中へ駆け込んでいく。

 後ろから"頼んだぜ!!"と言ったドルゲの声はスグに森の静寂に掻き消えた。



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