魔王様の失態
<投げやりな説明>
魔法、魔物、亜人、獣人、人間が登場します。但し、今回は魔物は登場しません。
又、主に前話参照です。
<簡素な用語説明>
【魔法】
〈炎属性の魔法〉
物体、又は大気中の可燃物を振動させて一気に燃え上がらせます。
〈転移魔法〉
対象の元に転移することができます。又、探知としても使えます。
〈催眠魔法〉
対象を、催眠状態にします。
〈閃光魔法〉
魔力を使い、光を発生させる比較的、簡単な魔法。複合魔法として音を発生させることもできます。
【能力】
〈夢食〉
睡眠中、催眠状態の対象の夢の操作を行い、自身の魔力にする能力です。
ファムとニィが、ストラの頼みでゴブリンの村に向かった頃――。
魔王の執事である、サウザは、ファムが仲間と共に通ってきた、転移魔方陣のある場所に向かっていた。
ドラゴンの翼を背中から生やして、森の上空を飛行する。
「――ん?あれは……」
彼は、魔方陣の前に、一人の人物を見つけて降り立った。
「これは、【アイリム】様。お久しぶりです」
「あら、久しぶりねぇ。サウザちゃん」
女性にも、男性にも見える【アイリム】に、サウザは丁寧に御辞儀をした。
銀色の髪に、妖しく輝く瞳、高貴なドレスを身に纏う。そして、その肌は見るものを魅了させていた。
「この様な所に、いかがなされたので?」
「それがねぇ……。ここ最近、開いたでしょう?そこから、不穏な気が流れているのよぉ?」
「不穏な気配とは……?」
彼は、アイリムに質問すると、少し考えて、
「うーん、悲痛と恐怖が混じったような感情。それが、今は不安と恐怖が流れてるのぉ」
間延びした口調で、答えた。
「それでしたら、そこから迷い混んだ、人間のパーティーがいました。」
人間のパーティーとは、ファム達の事だった。今はファムを一人、はぐれて帰還転移してしまったことを伝えた。
「あらぁ?それじゃあ、その子達かしら?」
「はい、その為に私が来ました」
サウザは、ドラゴンの姿の時ではあったが、彼等に面識がある。
その為、魔方陣を通り、迎えに行くつもりだった。
「でもぉ、向こうから来たみたいよ?」
その時、アイリムが言った通り、魔方陣が光だし、人の影が見え始める。
「……あらん?団体さんねぇ?」
魔方陣から通ってきたのは、簡素な鎧兜を身に付けた兵士が複数人と、
彼等よりも上質な鎧兜の兵士。しかし、その中に――、
「――おや?あの四人が、居ませんね……?」
ファムを不本意ながらも、置いていってしまったパーティーの四人は、その中に居なかった。
――人がいるぞ!?
――男女……いや、男が二人か?
――待て、本当に人なのか?
兵士の一団が、サウザ達に気付き、騒ぎ出す。それを制止するように、上質な鎧兜の兵士が二人に話し掛けた。
「……失礼いたした。我らは、【ガイルス】国直属の調査兵団。そして、私は団長の【グルス】である。」
(――おかしい、繋がっていた国は、確か……【ウィルエアス】国のはず……)
サウザは、スケイルから聞いていた国の名前が違うのを、疑問に思う。
「此方に、一人の冒険者が迷い混んだと聞き、馳せ参じたのである」
グルスは、二人に敬礼をした。しかし、アイリムは――、
「あら?おかしいわねぇ?」
不可思議そうに、グルスを見る。その場の全員が、動揺していると――、
「だって、あなた達は兵士団じゃない。略奪と密猟を行っている、盗賊団よね?」
「――なぜ、それを!?」
その言葉に、グルスは声を荒げる。
「ほら、やっぱりぃ」
「なるほど……偽者兵団ですか」
サウザは、一人納得したが、兵士――いや、盗賊達は、武器を構える。
「貴様ら!一体何者だ!?」
激昂する、グルスの質問に、答えるように――、
「妾の名を聞きたいか?」
先程とは違う口調で、アイリムは答える。
「――妾はアイリム。サキュバスとインキュバスの王、【夢魔王】である!」
「そして、私は執事のサウザと、申します」
アイリムが両腕を広げ、サウザは御辞儀をして、名乗りを上げた。辺りがシンと、静まり返る。
「――なんてねぇ?」
照れ隠しなのか、アイリムは元の口調に戻る。
「――ナメやがって!お前ら、やっちまえ!」
グルスの号令により、盗賊達の数人が剣を握り、アイリムに斬りかかった。
盗賊達の刃が次々と、アイリムに刺さっていく。しかし、彼女(彼)の体は、霧と成って霧散していく。
「――どうなってやがる!?」
グルス達が、驚き戸惑っていると――、彼の耳元で、
「そんなに、いきり立たないで?」
彼の後ろに立ち、アイリムは耳元で囁き、吐息を吹き掛ける。それに、驚いたグルスは、
「うおおおぉ!!?」
叫び、剣を振り上げる。――が、今度は、
――ふふふ……、ははは……。
後ろから、複数人の笑い声が聞こえ、振り返ると――、
先程、アイリムに斬りかかった盗賊達が、頭を垂れて、ぶらんと腕を下ろして、ぶつぶつと笑っていた。そして――、
「うぉぉ……全部おれのものだ……」「待って……待ってくれ……」「……母さん……母さんなんでしょ?会いたかった……」「ああ……あはは……」
各々が虚ろな目をして、叫び、泣き、笑っていた。
「……ねぇ?そんなに怖い顔をしないで、夢を楽しみましょう?」
アイリムの瞳が、妖しく輝く。彼女(彼)の作り出した霧に、触れたものは催眠状態になる。
そして、夢の中で各々が、持っていた願望を思い描く。それが、彼女(彼)の能力だった。
「――化け物めぇ……!」
グルスが、険しく表情を変える。その時、催眠状態の一人が、突然暴れだし、盗賊の何人かを斬り始めた。
「人……人を斬りたい……」
「……あら、大変。危ない願望の人がいたのねぇ?」
殺人衝動にさらされた、盗賊の一人を見ながら、アイリムは困ったように首を傾げる。
その間にも、盗賊は狂った様に剣を振り回す。視界は定まっていない様子だった。
「――仕方ないですね。手加減は難しいんですが……」
今まで、黙って見ていたサウザだったが、狂った盗賊に近づいていく。
そして、盗賊のみぞおちに、拳を叩き込む。盗賊は呻き声を小さく上げて、だらりと地面に落ちて、気を失った。
「ふふ、ありがとう。私じゃ、悪化させちゃうからぁ」
その様子を見ていたグルス達だったが、次第に恐怖で怯え始めた。
「――くっ、くそぉ!」
グルスは叫び、手を空に広げて魔力を込める。すると、掌から閃光が発せられると共に、破裂音が鳴り響いた。
「きゃあん!」
「しまった!」
間近で直視したアイリムは驚き、身を屈める。サウザも同じく、顔を腕で覆った。
二人の目と耳が、落ち着いた頃には、グルスの一団は居なくなっていた。
「……あら、逃げちゃったのねぇ?」
グルス達は、二人が油断している間に、魔方陣を使い逃げていた。
「全員を連れていった所を見ると、そこはしっかりしたリーダーだったようですね?」
グルスは、アイリムの霧で正気を失った者と、怪我人を連れて帰っていた。
それに、感心していたサウザだったが、
「追いかけないのですか?【食事】をしようとした、ご様子でしたが……?」
「最初は、そのつもりだったのだけど……。正体を言ったら、嫌われちゃったみたいだからぁ」
アイリムは、ふぅっと溜め息をつく。
「彼は最初、妾を見て支配欲の感情が、溢れだしたの」
彼女(彼)の能力によって、グルス達の感情や願望を読みとっていた。
それにより、彼等の嘘に気づいたのだった。
「残念だわぁ。でも、同意を得ていない【食事】はしたくないしぃ」
アイリムの言う【食事】とは、夢の中で願望を叶えた相手の幸福感を、糧にして魔力を得ることだった。
「でも、貴方は行くのでしょう?」
「……そうでした。では、私は失礼――」
〈ドオォン〉
サウザが、言い終わる前に突然、轟音と共に魔方陣が爆発した。
グルス達が、向こう側から爆発を起こし、その爆風が此方側に伝わってきたのだった。
「随分、嫌われちゃったわねぇ。魔方陣を壊すなんてぇ」
「そうですね。まさか、壊してしまうとは――あっ……」
二人が、巻き上げられた砂埃に、顔を覆いながら話をしているとき、思わずサウザは叫んだ。
人間の四人に会うための魔方陣が、壊れて通れなくなってしまったことに――。
「――マジかよぉ……」
サウザは一旦、城に戻り事の惨状をスケイルに報告した。それを聞いたスケイルは、思わず言葉を洩らす。
「まずいなぁ……。そういえば、二人に会っていないのか?」
彼の言う二人とは、ファムとニィの事である。
二人はサウザの後に、この城を出発しているはずだから、帰路で出会うと、スケイルは考えたのだった。
「……いえ、ニィどころか、人の気配も在りませんでした」
「……うん、おかしいな?俺にも今は、場所が分からないな」
スケイルは転移魔法の力を使い、二人の場所を探るが、安定しない。
この時に丁度、ファムとニィの二人はストラと共に、ゴブリン村に居たのだった。
「もしかしたら、誰か二人を見た者が居るかも知れません」
「……そうだな。探してみるか」
そして、城の中を探索して、二人の事を見た者から、ストラと共に城を出たことを知った。
「ストラの影響か……。アイツの能力は厄介だからな、道理で……」
「私が、今から探しましょう」
サウザが、翼を広げる。しかし、スケイルはそれを静止して、
「――待て、どうやらストラが離れたみたいだ。ちょっと行ってくる」
彼は、サウザの返答を待たず、二人の元に転移魔法で、姿を消す。そして、転移先に少し、ずれて到着した。
しかし、ニィは居らず、ファムと一人のゴブリン――、【ボルホ】が、今まさに一触即発の状態だった。
「おいおいおいおい!?」
スケイルは、直ぐに二人の間に入り、ボルホを抱え、背中でファムの放った炎の魔法を受けたのだった。
「アチチチ!なんだ?どうしたんだ?」
炎に、思わず声を上げるが、骸骨であるスケイルには、熱さも痛みも無かった。
更に、甚平を燃やしただけで、傷一つ、付かなかった。
スケイルは少し考えて、ボルホを説得し、そして、ファムに謝るのだった。
――そして、今に至る。
――続く。
「今回は、ここまで」
『変わった人たちが出てきましたね?』
「前話でも言ったように、悪人の部類の人たちだね。」
『先に帰ってしまった、ファムのパーティーから情報を知ったみたいですね?』
「そうだね。まぁ、盗み聞きしたって事にする予定」
『色々な魔法も、出てきましたね』
「いつか話がまとまったら、そういった設定解説だけの話を挟んでみようかなぁ?」
『――所で、【夢魔王】って何ですかぁ?』
「うっ……。言い名前が思い付かなかったから、それっぽいのを繋げたんだよ!」
はい、というわけで次回に続けます。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。