迷える猪人王(オークキング)その2
<投げやりな説明>
魔法、魔物、亜人、獣人、人間が登場します。
又、主に前話参照です。
<簡素な用語説明>
【魔法】
〈炎属性の魔法〉
舞台、又は大気中の可燃物を振動させて一気に燃え上がらせます。
〈転移魔法〉
対象の元に転移することができます。使用者負担は増えますが、任意で複数人を共に転移させることができます。
〈収用魔法〉
生命活動が無い物体を異次元に留めておくことができます。
【スキル】
〈転移魔法無効化〉
転移系の魔法を無効化します。任意で対象を選ぶ、範囲効果など様々なタイプがあります。
【モンスター】
〈鵺〉
今回は死体のみ登場します。
鎧に付いた【鵺】の体液を洗い終わり、装備を整えたストラとファムとニィの三人は、改めてゴブリン村に向かう。
「そういえば、なぜ彼を連れてきたの?」
ニィは、ストラに質問をする。
『私にも、わからん』
ストラは、腕組みをして考える。
『確かに人間とは一度、手合わせをしたいとは思ったが……』
チラリと、横目で後ろのファムを見る。
『どう見ても彼は、まだ子供……。適当な理由を付けて連れてきてしまったような気がしてならない』
「道案内なら、アタイだけでいいからね」
二人が不思議そうに、考えていると、
「どうかしました?」
ファムもまた、二人を不思議そうに見る。
「なんでもないよー?」
ニィは、軽く返事をする。
『……そろそろ、村に着くな』
ストラは、歩く先に村の明かりを見つけた。
「ここまで、すまなかったな、そしてありがとう」
村の入り口に到着すると、ファムと同じ位の身長のゴブリンが、ストラに対して敬礼した。
「あっ!ストラ様、お久しぶりです!」
『うむ、遅れてすまなかった』
「オークの皆さんは、もう到着して、これから探しにいくところだったんですよ?」
話をしながら、門の間を進んでいく。
「ほら、君も早く」
「えっ?僕も?」
ニィはファムに手招きをする。促されるようにして彼は門の間を進む。
村の広場らしい場所に出ると、オークやゴブリン達が集まっていて、此方に気付き、
「おぉ、ストラ様だ」
「よかったー」
「今回は早かったねぇ」
歓喜の声で、騒ぎ始める。
『皆のもの、遅れて申し訳ない!』
ストラは、村全体に聞こえるように謝罪の言葉を話す。
『道に迷い、私はルナテア殿の城にたどり着いた』
『そして、そこで私は一人の人間の少年に出会った』
ストラは、ファムの方に手をかざす。
『彼がその、【ファム】殿だ!』
ゴブリン達とオーク達の視線がファムの方に集まる。
「えっ!あの……えっと」
ファムは、しどろもどろになって焦った。
――うそっあれが人間…!?
――意外と小さいんだな。
――でも、少年だって。
――ルナテア様の城に居たってことは、眷属なのか?
辺りはファムの話題で騒がしくなる。その声たちより大きな声で、ストラは話を続ける。
『彼とニィに、ここまでの道案内を頼んだ……だが!』
彼女は一呼吸、置いてから、
『その途中で、五体の【鵺】に襲われた!』
また、辺りが騒がしくなる。
――鵺に!?
――ワタシらだって、逃げるのが精一杯なのに!?
――それも五体!?
ゴブリン達にとって、鵺は驚異的なモンスターだった。
「あのモンスターって、そんなに恐ろしいの……?」
ファムは、ストラが軽々と鵺を倒したの思い出す。
『鵺は、まずファム殿に襲いかかった……。しかし、彼はそれを軽々と避ける!』
【おぉ!】と、歓声が上がる。
「転んだだけ、なんだけど……」
ファムが小声で訂正するが、聞こえていない。
『彼を狙うのは不利と悟ったのだろう、鵺達は私に狙いを定めた。』
ストラは、鵺達との闘いの説明をした。
『そして、最後の一体を倒し、ここにたどり着いた!』
「あっ、これがその鵺ね」
ニィが魔方陣を展開させて、五体分の鵺の死体を取り出す。その死体を見て、辺りは更にざわついていく。
「……今のどうやって……?」
ファムは、ニィの使った魔方陣に驚いていた。
「【収用魔法】、転移魔法の応用だよ。」
ニィは、軽く説明をする。
『今回の遅刻のお詫びとして、この鵺を貰ってほしい!』
ゴブリン達は喜び、数人のゴブリンとオーク達が、鵺の死体を村の奥の小屋に運んでいく。
死体を血抜き、解体して、毛皮や食料、資材に変えるためだった。
鵺は村に近づくことも少なく、ゴブリン達より強かったこともあり、それは重宝されていた。
ストラの話が終わったあと、ストラはファムとニィの元にやって来る。
『二人とも今回の件、とても助かった』
「問題ないよー」
「いえ、僕は何もしてないですけど……」
ファムは、申し訳なさそうに応えるが、
『今は、村の警備や訓練がある。いずれ、何かの形で返そう!』
彼女は、気にもとめなかった。そこに、ゴブリン達の会話が聞こえてくる。
「ボルホのやつ、どこ行ったんだ?」
「もしかして、一人で探しに行ったんじゃ……?」
誰かを探している様子の二人のゴブリンに、ストラは訪ねる。
『もしかして、私を探しに行ってしまったのか……?』
ゴブリン達は申し訳なさそうに応える。
「どうも、そのようでして……」
『むぅ…誠に申し訳ない、私に転移魔法が効けば、このような事態にはならないのだが…』
彼女には【転移魔法無効化】の能力があった。ストラは考え込む。
(……だから、徒歩だったのかぁ)
道案内の理由に、ファムは納得した。
『よし!私が探しに……』
「待って、その子なら面識があるから転移魔法で跳べるよ」
これ以上、迷っては困ると思ったニィは提案した。
『いいのか?』
「もう戻らないといけないし、ついでに」
ファムのことも、早く帰さなければならないので長引く前に、城に戻ろうと考えていた。
『すまないな、では、頼む』
「まぁ、無事だとは思うんですが、お願いしやす」
話がまとまり、ニィはファムに、
「じゃ、戻ろっか?」
「……えっ、大丈夫なんですか?」
このまま行っていいものか、と思っていたファムにニィは彼の耳元に顔を近づけて、
(このままだと、手合わせさせられちゃうよ?)
ファムは、身震いした。
鵺を軽々と倒した、あの強さのストラと手合わせしたら、命が危ないとファムは悟った。
そして、ニィはストラ達に、
「それじゃあ、またねー」
『あぁ、いずれまた会おう!』
「あっはい、またいつか……」
三人は別れと再会を願う挨拶をして、ファムとニィの二人は、
ストラの【転移魔法無効化】の影響から離れるために村の外に向かった。
「……ゴブリンさんたちやオークさんたち、初めて見たけど想像していたのと違ったなぁ」
ファムは、率直な感想を呟く。
「でしょう?おとぎ話と違うでしょう?」
「うん、何て言うか人とあまり変わらなかった」
「そう、実は魔界のおとぎ話も人間を悪い印象で表現してる、昔争っていた頃の名残ね」
「……」
ファムは、静かに聞き入っていた。
「でも、モンスターや悪い人達もいる、そういうのから身を守るためや逃げるための訓練をストラ様が中心として行っているの、争うためじゃなくね」
「……」
ファムは、パーティーの皆の事を思い出していた。
彼も身を守るため、逃げるための技術や魔法を、パーティーの皆から教えてもらっていた。
「そろそろ、いいかな?」
ニィは、転移の魔方陣を作り始める。彼女の造り出した魔方陣の光に、二人は包まれていく。
そんな中、ファムは、
(……再会する事、これからあるのかなぁ……?)
この魔界であったことを思い出しながら、そんなことを考えていた。
転移魔法の力で、ファムとニィの二人は、ボルホが居るであろう場所に現れる。
そこは、再び森の中だったが辺りには、ゴブリンの姿は無かった。
「誰もいないね……?」
「……あれ?転移位置がずれちゃったかな?」
「えっ?」
ファムは、ニィの一言に疑問を持った。
「熟練した技術がないと、たまに転移位置がずれて最悪、物質の中に転移しちゃうこともあるの」
「それって、かなり危ないんじゃ……?」
ファムは、青ざめた。
「大丈夫、そういうときは中に入った物質に隙間がないと弾き出されるから」
(それでも、場合によってはまずい気がするよ……)
考えながら、自分の足元や辺りの安全を確かめる。
どうやら弾き出された様子は無かったが、その時に足元の苔で滑ってしまう。
「うわっ!?」
「おっとと」
ニィは、彼を支えた。
「あっありがとう」
「……君って結構、転ぶよね?」
確かに、魔界にやって来てから転ぶ回数が増えたとファムはそんな気がしていた。
二人が歩き出そうとした時、ファムはニィを押し倒すようによろめく。
「ちょっと、また……」
コンッ、と近くの木の幹から音がなる。二人に向かって、矢が飛んできていた。
「ごめん、やな予感がして……」
「……ありがとう」
言葉を交わしながら、二人は矢の飛んできた方へと視線を向ける。
気配がなかった、そうファムが思っていると後ろから物音が聞こえて振り向くと、
「……えっ?」
後ろから矢が、ファムの横を飛んでいく。
(騙された!?)
再び後ろに向き直すと、数本の矢がファムに向かってゆっくりと飛んできていた。
(――なんで、こんなにゆっくり……?)
ファム自身も、ゆっくりと動いていた。
(これって、まずいやつじゃ……?)
死を感じ取ったファムの脳は、見ている世界をゆっくりと、進めていた。
ファムの体に、衝撃が走る。しかし、痛みは無かった。
「――なんで……?」
ファムの前には、ニィが立っていた。彼に当たるはずだった矢を体に受けて――
「……さっき……の……お返し……」
絞る様にして声を出して、ニィは崩れるように膝を地面に落とす。
ファムが慌てて、抱えようとした時、ニィの体は塵になってしまう。
「――そんな……」
出会ってから、そんなに時間は立っていないもの、の悲しみが込み上げてくる。
ファムは!苦悶の表情を浮かべた。
しかし、騒がしい音を発てて、何かがファムの方へと向かってきていた。
それは、矢が飛んできた方からだった。そして、ファムに飛びかかった。
彼に馬乗りになり、首もとを掴み、短剣を片手に持ち、矢筒を抱え、怒りの表情をしたそれは、ゴブリンだった。
「******!!!」
何かを叫ぶ、言葉の様だったが、ファムには理解できない。
「お前が射ったのか!?」
ファムは叫び、ゴブリンに抵抗して持ち上げる。意外にも、ゴブリンの体は軽かった。
ファムはゴブリンを、蹴り投げる。ゴブリンが地面を転がり、立ち上がる。
互いに体制を立て直し、にらみ合う。
「*********!!」
ファムより小さいゴブリンは、再び叫ぶ。
「何を言ってるか、わかんないよ!!」
ファムも叫ぶ。冷静な判断ができない二人は、互いに攻撃を仕掛ける。
ゴブリンは短剣を振りかざし、ファムは魔法の詠唱を始める。
ゴブリンが走りだし、ファムが炎の魔法を掌から放つ。
彼の目の前で炎が上がる。ゴブリンの一撃は来なかった、しかし――、
「アチチチ!なんだ?どうしたんだ?」
炎の中から、聞いたことのある男の声が聞こえる。
炎が収まると、ファムの目の前に【骸骨】が立っていた。
「――スケイル……さん?」
甚兵衛を燃やし、背骨や肩甲骨を見せて、その腕に暴れるゴブリンを抱えていた。
「****、ボルホ******」
スケイルは、ゴブリンの使ったような言葉で、暴れるゴブリンに聞かせる。
すると、ゴブリンは怪訝そうな顔をしながらも大人しくなる。ゴブリンは、探していたボルホだった。
スケイルがファムに向き直り、頭蓋骨を掻きながら、
「……あー、どこから話すか。……ニィのこともあるし」
少し考えて、一呼吸置いてから、
「単刀直入に言うと、すまない!人間界に返せなくなった」
スケイルは、ボルホを抱えながら頭を下げた。
「……えっ?」
ファムはもう、頭の中が真っ白になっていた。
――続く。
「えーと、これで第五話?」
『そうですね』
「ゴブリンやオークを登場させたけど、どうだった?」
『ゲームとかですと、モンスター扱いですが知識や意志疎通ができてますから種族でいいと思いますよ』
「でも、モンスターとして出てくるゲームは、人間で言う、はぐれ者や悪人だと思うよ」
『そのつもりで、訓練の話を出したんですよね?』
「そうそう、やっぱり技術や力は使い方次第で良し悪しがあるからね」
『ところで【ニィ】はどうなるんですか?』
「……それはーまた次回」
『また、引き伸ばしましたね』
というわけで今回はこれで終わりです。
なるべく用紙10枚分に収めようとしてはいたのですが11枚分になってますね。
……とりあえず、
最後まで、読んでいただきありがとうございます。
では、また次回。