迷える猪人王(オークキング) その1
<投げやりな説明>
魔法、魔物、亜人、獣人、人間が登場します。
又、主に前話参照です。
<簡素な用語説明>
【魔法】
〈浮遊魔法〉
物体を浮かせる魔法です。又、風系魔法と分類されることもあります。
【鉱物】
〈アイナン石〉
とにかく固くて重い鉱物、主に土台や重石に使われます。
【モンスター】
〈鵺〉
魔界では一般的なモンスター、ファムの元居た人間界には存在しません。
魔王城(再建中)の地下の一部屋で、中は幾つもの本が詰められた本棚が並び、奇妙な箱が沢山並んでいた。
そこのテーブルの前の椅子で、ファムは出されたお茶を、恐る恐る飲んでいた。
その彼の前のテーブルには、甚平を着た骸骨が頭を突っ伏して横たわっていた。
「……あの、大丈夫ですか?」
ファムは、骸骨に問いかける
。
「……あー、大丈夫だ」
骸骨が言葉を返すが、その声には力がなかった。
スケイルは、ファムが知っていた【おとぎ話の魔王】の事を聞くために、彼の研究室であるこの部屋に案内した。
そして、そのおとぎ話の内容を聞き、登場人物の中に自分と瓜二つの人物がいて、
その人物は自身がモデルと言うことに気付き、恥ずかしさのあまりに机に伏せていたのだった。
彼は首だけをファムの方へ向き直し、
「……煩わせて、すまなかった」
「いえ、お役に立てたかは、わかりませんが……」
スケイルは、頭を上げて椅子に座り直し、
「とても参考になったよ、ありがとう」
ファムに一礼する、そして、
「部屋の前に【ニィ】という使用人に待たせてある。彼女に帰りの案内をしてもらってくれ」
「はあ……ありがとうございます」
ファムは、部屋のドアの前に移動するとスケイルに向き直り、一礼した。
「それでは、失礼します」
「あぁ、気を付けてな」
スケイルは、手を振ったが、ファムか部屋から出た後で、
(ぬぁ~、俺の黒歴史ぃ~)
スケイルは、嘆きの声をあげていた。
ファムは少し心配になっていたが、部屋の横で壁に寄りかかっていた人物が一人いた。
「はじめまして、君がファム?」
その人物は、ファムより一回り小さな少女で、金色のウェーブのかかったショートヘアーで、
牛の後ろ足のような両足を、メイド服のスカートの下から生やしていた。
「……あっ、はじめまして。えっと……君が【ニィ】……?」
ファムはまじまじと、ニィを見る。
「そっ!アタイがニィだよ!……亜人は初めて見る?」
元気よく、ニィは答えると同時に首を傾げて質問した。
「すいません……」
ファムは、申し訳なさそうに目線を反らした。
むしろ、彼は自分より小さな少女が、案内役だったことに驚いていた。
彼女に連れられて出口に向かい、話をしながら歩いていく。
その話の中で、ルナテアは今、使用人の一人である【ミリオ】という女性に叱られながら、
自身の指示で壊した城の発注書や、放置した書類の処理をしていること、
そしてサウザは、転移用の魔方陣の様子を見に行ったとのことだった。
「ところで、人間界にも、おとぎ話ってあるんだね」
「えっ?……ということは……」
二人は階段を登る。
「うん、この魔界にもあるよ、例えば……」
ニィが、タイトルを言おうとしたタイミングで、階段を登りきる。
その先に、全身鎧を身にまとい、大戦斧を背負った人物がいた。
「あっあれは……」
二人がその人物に気づいた時、その人も二人に気づく。
『おぉ!ニィか!ちょうどよかった!』
「ストラ様、どうしたの?」
ファムの、二倍はあるであろう身長の【ストラ】と呼ばれたその人がニィに駆け寄る。
『……ん?君はもしかして、人間か?』
兜の中からファムを見ながら、質問する、声の質感から女性のようだった。
「えっ?そっ、そうですけど……」
妙な質問に、ファムは動揺している。
『おぉ!そうか、初めてお会いする!……しかし、今はそれどころではないのだ……』
ストラは焦っていた。
「……もしかして、また迷ったんですか?」
そんな彼女にニィは呆れるように言った。
『むぅ……実はそうなのだ』
ストラは、ゴブリン族の村に向かっていたのだが道に迷い、この城にやって来たのだった。
ニィやこの城にの者たちにとって、それは日常茶飯事のことだった。
結局、ストラはニィに道案内を頼み、その勢いでファムも着いていくことになった。
『自己紹介が、まだだったな!私は【猪人王】のストラだ!よろしく!』
荒ぶるように、ストラは自己紹介を済ます。
女性なら、【オーククイーン】では?と聞かれるが、オークキングで通したいという志をもっていた。
「やー、ごめんねー?巻き込んじゃって」
「もう、なるようになれかなぁ……」
ファムは、馴れたようすで答える。
普段から彼は、そういった事態に巻き込まれやすい体質だった。
ファムとニィ、そしてストラの三人は、城から出てゴブリン族の村に向かうため、樹海の中を進んでいた。
『ところで、人間という種族はとても強いと聞いている』
興味深そうに、ストラはファムに聞く。
「え?それはどういう……」
ファムは訳が判らず、困惑する。
『うむ、村に着いたら手合わせ願いたい』
ストラは意気揚々としている。
「いや、僕は……」
ファムが焦っていると、ニィが耳元に顔を寄せて、
(この人、脳筋だから、ちょっとだけ付き合ってあげて)
彼に耳打ちする
「だから、僕は……」
強くないと、言おうとしたとき、
『むっ……?』
ストラが、何かの気配に気づいた。
「……囲まれてるね。」
ニィも、その気配に気づく。
その言葉に、ファムは何に囲まれているのか分かっていなくても、その気配の数を数えた。
「二、三――、五!?」
彼は、その気配を正確に数えて驚愕した。
その声に反応して、気配の一つがファムに襲いかかった。
その時、ファムは足元の石に躓き、よろめいた。
その突拍子のない動きに、その気配の主は勢い余って、地面の上を滑りよろめく。
その気配の主は、狒狒の身体に、虎の頭に、尾に蛇の頭が生えた【鵺】だった。
その鵺が、咆哮を上げる。それを合図に、残りの四体が、三人に襲いかかった。
『ふんっ!』
ストラは、持っていた大戦斧を振り回し、その一撃で二体の鵺を両断し、一体の左前肢を切り落とす。
残りの一体が、ニィを狙っていたが、すでにその場にニィは居らず、一体目と同じく地面に滑る。
鵺の三体は、ストラを危険視して、彼女から距離を取って身構え、彼女も構える。
その間にファムは木の根本に避難した。
「ふーん、やっぱり戦わないんだ」
「えっ?」
ファムの上の方から、ニィの声がした。彼女は、木の枝の上に立っていた。
ニィの素早さに、ファムは驚いていた。
「まぁ、私も戦わない、というか戦えないんだけど」
ファムは、どういうことだろうと考えた時、
『はぁっ!』
ストラの一撃が決まり、鵺の胴体が二つに分かれる。
しかし、その鵺は死に際に、口から粘液状の液体をストラに吐き掛けた。
『うっ!?』
「にゅっ!?」
「ひっ!?」
その液体は、物凄い悪臭を放っていて、離れたファムとニィも鼻を押さえても涙を浮かべるほどだった。
あまりの悪臭にストラは、頭を押さえてよろめく。鵺の狙いは、戦意を削ぐことだった。
そして、二体の鵺は飛びかかる。
「ストラさん!」
ファムは、鼻を押さえながら叫んだ。二体の鵺の牙と爪が、ストラの鎧に突き刺さる。
しかし、その牙と爪は砕け散った。
そして、彼女は鎧と同じ材質である籠手を着けた拳で、二体の鵺の頭を文字通り砕いた。
「……」
ファムは、言葉が出なかった。
「こんな奴ら、ストラ様なら楽勝だね。」
ニィが鼻を押さえながらドヤ顔をしたが、ストラは、
『……臭すぎる!』
兜の中に溜まった臭いで、悶絶していた。
「近くに川があって、助かりました。」
三人は、ストラの鎧の悪臭を取り除くため、川辺に移動した。
ストラは川の中に入り、兜を取り外す。その下から現れた顔を見て、ファムは、
「エルフ……」
風に流れるような髮、シュッとした長い耳を見て、そう呟いた。
「違うぞ?私は【ハーフオーク】だ。それとニィ、これを流しておいてくれ。」
「はーい。」
ストラは、川岸のニィに兜を投げ渡す。しかし、ニィは一歩後ろに下がった。
地面の上に落ちた兜が、ズシン、と音を上げて地面にめり込んだ。
「……えっ?」
ファムが地面にめり込んだ兜を見ていると、
「すごいでしょ?アイナン石製の兜、これだけで君ぐらいはあるかも。」
そう言って!ニィは兜を持ち上げて、鵺の粘液を流し始める。
「でも、どうやって歩いて……?」
ファムが疑問に思っていると、ストラは籠手、鎧と外していきながら、
「普段は、自分に浮遊の魔法を掛けて浮いている。今、ニィが兜を持ち上げたのもその魔法だ。まぁ私は、その魔法しか使えないけどな。」
自分の体だけを魔法で持ち上げて、鎧の重さで身体を鍛えていたのだった。
彼女は、自慢気に話していたが、インナーを脱ぎ、筋肉質の地肌が露になっていたので、ファムは顔を隠していた。
(あの鎧で、身体を鍛えてるの、ね?脳筋でしょ?)
赤くなっているファムに、ニィが耳元で囁く。
「むっ?腰にまで浸透しているのか。」
ストラは、腰回りの鎧を外す。
ファムは、つい指の隙間から彼女を見てしまう。頭、背中と見ていき、そして、
「あっ、尻尾……」
尾骨の辺りから生えていて、下着の上からはみ出たオークの尻尾を見て呟いた。
「だから、【オーク】と【エルフ】の混血児と言っただろう?」
彼女は気にせずに、再び説明した。
「なんだ、結局、見てるじゃん」
ニィは残りの鎧を流しながら、ニヤニヤ笑って彼を茶化す。言われてファムは再び顔を隠すのだった。
―――次回に続く。
「ということで、少年ファムは帰る機会が伸びました」
『ちょっと、無理やりてはないですか?』
「時間稼ぎのための話だからね、それと人間界と魔界の差をかきたかったから。」
『では、次回で、その話ですね』
では、今回はここで。
最後まで、読んでいただいてありがとうございます。