少年のスタートライン その1
※注意事項
<投げやりな説明>
異世界要素がある職業があります。戦闘描写があります。
<簡素な用語説明>
【職業】
ファイター=主に前衛で攻撃を行い、身体能力が高く急激な動作にも筋肉が耐えられるスキルを持っています。
パラディン=敵の攻撃を防ぎパーティーの盾となり、防御行動を最速で行えるスキルを持っています。
レンジャー=後衛での援護行動がメイン、五感に優れていて危険察知に優れたスキルがあります。
プリースト=後衛で魔法による補助を行い、回復魔法、強化魔法のスキルを持っています。
【魔法】
回復魔法=身体の傷への治癒力を促進させます。
強化魔法=身体の能力を一時的に上げます
【道具】
帰還用魔法陣の巻物=読み上げた使用者の足元に転移魔法陣を描く巻物、範囲内の人物の認識で範囲内注意の転移する対象が選ばれ、発動範囲や時間は巻物の文章で変わります。又、魔法陣は空間に描かれる為、発動時に地形が変わっても範囲内であれば転移が行われます。
彼らは今、森の中を探索していた。
「……見たこと無い物ばかりね」
歩きながら、弓矢を背にかけ、動きやすい服装に革の胸当てを付けたレンジャーの女性が、周りを見ながら呟く。
「誰も、気がついて無かったようだしな」
彼女の前を歩く、鉄製の重鎧に大きな盾を背負って
パラディンの大男がそれに答える。
「まーこれもファムのおかげだな、あんなギミック気づかないって」
彼のやや後ろ斜めから、革製の軽装に腰に左右一本ずつ剣を下げた、ファイターの青年
彼が、後ろについてきている、ファムという名の、厚手の軽装を着た少年に話しかける。
「あっありがとうございます!役に立てたみたいで……!!?、うひゃあ!!?」
ファムの頭の上に何かが落ちてきて、驚いた彼は絶叫を上げる。
「……はい取れた、どう?落ち着いた?」
少年の頭に落ちてきたヤモリをつまみ上げて、修道服にケープを付けた、プリーストの少女が心配そうに声をかける。
「……あっすいません。それにしてもここはどこなんでしょうか?」
彼は辺りを見渡す。周りは見たこともない様な植物や生物でいっぱいだった。
数日前、ファムを除く四人は自分たちが訪れた街での依頼で、近辺の調査をしていた。
そこに、居合わせたファムの能力が買われてチームにスカウトされたのだった。
ファムを加えて調査を進めている最中に、ファムがダンジョンの中に隠されていた通路を発見。
更に、その先にあったギミックを解いて、転移魔法のかかった魔法陣を起動させて、この森へとやって来たのだった。
「……わからないわ。……一度帰ってからしっかりと調べたかったのに」
レンジャーの女性が質問に答えると、呆れた顔でファイターの青年に嫌味を言う。
「いいじゃんかー。もしかしたら、使い切りの魔法陣だったかもしれないだろ?」
彼女の嫌味に対し、ファイターの青年は言葉を返す。
「……おい、何か見えてきたぞ」
彼らの口喧嘩を仲裁するように、パラディンの大男は口を、はさむ。
彼が前の方に指をさす、その方向には大きな建物が見えた。
その建物は、一見すると石造りの砦の様だったが、ひどく朽ちてさびれている様子だった。
彼ら、五人は建物に入り、丁度良い広さのある空間で薪に火をつけキャンプを開始する。
「……この建物、何なんでしょう?」
ファムが、みんなに疑問を投げかける。
「……恐らく戦場の砦のようね、壁や瓦礫を見るに自然に出来た壊れ方をしてないもの」
レンジャーの女性が、焚火の火力を調節しながら答える。
「でも、ここ最近使われた様子がないわ、あの町では戦火に巻き込まれた歴史は無いし……。考えられるのは魔法陣で北の大陸に転移…だけどあそこは今が戦時中だし……」
プリーストの少女が、自分の顎に親指をあてて考え込む。
「うへぇ、難しい話は頭が追い付かねぇ」
ファイターの青年は、串に刺して焚火で、焼いていた干し肉を手に取り食べ始める。
「なんにせよ、早くここがどこの国なのか調べて転移魔法陣を準備しないとな」
パラディンの大男は、そう言って腕組みをする。
その時、何かの気配に気が付いたレンジャーの女性が、
「……気をつけて、何か近づいてくるわ。」
彼女の一言で、ファムを除く四人が臨戦態勢をとる(ファイターの青年は、串から外した干し肉を、頬張りながら)。
静かになると、すぐに近くかららうなり声がきこえてくる。
まだ慣れていないファムは、少し慌てていたが、
「ファムは、後ろにさがって、いまの声どれくらいの距離?」
レンジャーの女性に言われて、ファムは、
「あ、はい。……あの壁の向こう、ここから100メートルの距離です、こっちに向かってきてます!」
正確に、声の主との距離を図る。
みんなは、その方向に合わせて陣を組む、パラディンの大男が先頭で相手の攻撃に対処、ファイターの青年は攻撃を行い、レンジャーの女性はそれの援護、プリーストの少女が補助をかける、そういった考えの陣形だった。
(五人での陣形も、考えないとな。)
パラディンの大男は、本格的にファムがチームに入った時の事を考えていた。
そして、声の主のよって壁が大きな音を立てて砕かれて声の主が姿を表す。
「なんだよ!ありゃぁ!?」
それは遠目で見ても、見上げる程大きいであろう巨躯、全身を鱗で覆われて、大きな尻尾と二本の後ろ足で立ち、
同じくかぎ爪の付いた前足を持ち、鰐の様に牙を並べ、頭に大きな角を二本生やし、背中には大きな翼を持った、
「――ドラゴン!!!」
その姿を見て、プリーストの少女が叫ぶ。
『ドラゴン!!?』
その言葉に、みんなは一斉に聞き返す。
「そんなの話にしか聞いたことしかないぞ!?」
ファイターの青年が、驚愕の声を上げる。
「…本の挿絵でしか知らないけど、あれは……」
正に、その挿絵をそのままに表れたようだった。
「爺の更に爺が倒したとかいう話、半信半疑だったが、こりゃあ……」
パラディンの大男は苦い顔をする。当のドラゴンは何を思ったのか、自身が破壊した壁の方へと顔を向けている。
しかし、こちらに向き直し、彼らを再認識すると大気が揺れる様な咆哮を上げ、こちらへと突撃してくる。
「くるわ!ファムは、離れてて!」
「はいっ!!」
ドラゴンの突撃に合わせるように四人が攻撃を開始した。
レンジャーの女性が出した指示に従うように、四人とは違う方向へとファムが走っていく。
ドラゴンは、真っ直ぐ向かってきたファイターの青年に頭を下げて突撃してくる。
そのドラゴンとファイターの青年の間に挟まるようにして、パラディンの大男が盾を構えて、ドラゴンの攻撃を抑える。
その後ろでファイターの青年は、ドラゴンの真上に跳躍する。
しかし、ドラゴンの勢いの方が強く、パラディンの大男は弾かれる様に吹き飛ばされてしまう。
更に、ドラゴンの上空にいたファイターの青年に翼を叩きつけようとする。
その翼に向けてレンジャーの女性が放った幾つもの矢が刺さり翼の動きが変わった。
難を逃れたファイターの青年が、ドラゴンの脳天目掛けて片手に一本ずつ持っていた剣を逆手に突き刺す。
しかし、その刀身は鱗を一枚剝がすだけに終わり、それをファイターの青年は険しい表情になる。
ドラゴンは怒号を鳴らし、その巨躯を大きくゆさぶる。
体勢を崩されたファイターの青年は一度、地に降りてパラディンの大男の回復をしていたプリーストの少女の元へ下がる。
それに合わせるように、レンジャーの女性が集合する。
「……鱗だけでも、なんて硬さだ。」
ファイターの青年が、苦悶する。
「翼も駄目ね、全然効いてない。」
レンジャーの女性も、愚痴をこぼす。
ドラゴンの方を見ると翼から先ほど放った矢がポロポロと落ちていて、剝がれた鱗の頭が痒いのか、壁に頭をこすりつけている。
「……痛ぅ~、軽く意識が飛んだぞ?」
パラディンの大男が、頭を振りながら言う。
「今度は強化魔法をかけるわ。」
パラディンの大男の治癒魔法をかけ終えたプリーストの少女は、みんなに強化魔法をかける。
強化魔法をかけ終わると、同時にドラゴンが再びこちらに向かってくる。
こちらも同じ様に反撃を仕掛ける。そんな攻防が数分間続き――、
幾度かの攻撃の末、ファイターの青年の剣が折れてしまった。
「ちっ!!?」
彼は苦悶の表情で、舌打ちをする。
(……ここが潮時ね)
レンジャーの女性も!用意していた矢が底をついていた。
彼女が全員に撤退の指示を出し、それに応じてプリーストの少女が帰還用の巻物で!魔法陣を地面に描き始める。
魔法陣が完成するころを見計らうように、既にひしゃげた盾でドラゴンの攻撃を防いでいたパラディンの大男。
それと、一本の剣で応戦していたファイターの青年が、魔法陣の方へと後退する。
ドラゴンも二人を追うが、レンジャーの女性がドラゴンに向けて煙玉を投げつける。
敵の周囲を煙が覆い、その間にファムも魔法陣の方へと向かい、五人が魔法陣の中に集まる。
しかし、ファムがドラゴンの異変に気がつく。
煙の中でドラゴンの口元に、熱気が集まっていた。
「危ない!」
プリーストの少女の身に危険を感じたファムが、彼女を突き飛ばすと、同時にドラゴンが轟音と共に熱線を放つ。
熱線が先ほどプリーストの少女がいた位置に、上から下に振り下ろす様に落ちる。
「うわっ!!」
その熱に床が崩れて、ファムがいた方の床が下に落ちてしまう。
「ファム!?」
難を逃れたプリーストの少女が、落ちていくファムに手を伸ばす。
しかし、その手は届かなかった。
少年は離れていく四人の顔が、魔法陣の光に包まれて消えていくのを見つめながら、暗闇に落ちていった。
「RPGのチュートリアル的に見てもらうと有難いです」
『だから四人に名前が出ないんですね』
「少年ファムが魔王(代理)に出会いのつもりでしたが、ここできります」
『魔王(代理)出てませんよね?』
「いやね、一回で終わると思たんだけどね。書いてたら、何気に長くなってしまったので次回に続きます」
『一回でまとめるつもりだったんですか?』
次回に続きます。