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惨劇(1)

「うわああああああああああ」


 その声を聞いたとき、平目はそれが悲鳴なのか発狂なのかよく分からなかった。もっというとそれが声なのかも分からず、天変地異てんぺんちいによる地割れか何かなのではないかと思った。

 ともあれ、この竜宮城で非常事態が起こったことには間違いない、と平目は慌てて部屋を飛び出した。時刻は夕刻前であり、そろそろ夜の宴会の準備を始めようかと思っていた頃であった。



 声が聞こえてきた一室は、普段使われていない客室であった。この竜宮城には無数の部屋がある。普段住民に使われている部屋は、3分の1にも満たないだろう。平目は、過去にその客室に入ったことはなかった。



 客室のドアは開け放たれていた。部屋の中には、平目と同じように異音を聞き、駆けつけたと思われる魚たちがすでに7匹ほどいた。彼らは部屋の入り口付近で滞留たいりゅうしていたが、その理由はすぐに分かった。部屋の内部には、近づく気持ちにはとてもなれない残酷な光景が広がっていたのである。


 書院造りのシンプルな和室は、今は少しも心を落ちつけられるスペースではなかった。畳は元の色が分からないほどに真っ赤な血液で染まっていた。

 血まみれの部屋の中央で、同じく血まみれになった浦島太郎が涙を流しながらうめいている。

 他に部屋に存在していたのは、巨大な魚の死体であった。


 

「うわあああああああああ」


 先ほどの声は浦島の泣き叫ぶ声であった。獣が吠えるような大声を響き渡らせている浦島は、おそらく魚たちが部屋に到着したことにすら気付いていない。


 魚たちの中には、あまりにもグロテスクな光景に、卒倒そっとうしてしまう者もいた。むしろこの状況で冷静でいられる方が狂っていると思う。

 平目はこの竜宮城で一体何が起こっているのかについて皆目見当がつかなかったし、ましてやこの状況をどう対処するかについてアイデアが浮かばなかった。それでも、魚たちの中でもっとも浦島と親交があるのは、平目である。平目は魚たちを代表し、浦島に問いかけた。



「…浦島様、一体何があったのですか?」


 真っ赤に充血した目を魚たちへと向けた浦島は、どの魚とも目を合わせることなく、また涙を拭うこともなく、言った。



「…惨劇さんげきだ」


 惨劇-浦島に聞くまでもなく、この部屋に飛び散っている血液、充満する血の匂いを嗅いだ者ならば誰にでも自明である。この部屋で起きたことは惨劇以外の何物でもないだろう。


 浦島は再び呻きだす。

 その声を聞くと、平目は気持ちがさらに不安定になる気がした。自分も卒倒し、目の前の光景から離れられたならばどんなに楽だろうかとまで思う。


 しかし、平目の恐怖はまだまだじょの口であった。平目は浦島の隣に転がっているあるもの(・・)を見つけてしまったのである。その長細いもの(・・)は、血で真っ赤に染まっていたものの、わずかに血がかかっていない部分は、金色にきらめいていた。



「…浦島様、それは何ですか?」


 それがしてはならない質問であるということは、平目は頭のどこかで分かっていた。平目は、その長細いもの(・・)の正体に察しがついていたのである。浦島が異常に取り乱している様子からしても、平目の推理は間違っていないと思う。


 浦島がそれを持ち上げると、血がポタリポタリと滴った。そして、5つに分岐した先の部分が、重力によって枝垂しだれた。



「…腕だ」


「…腕?」


「ああ、乙姫のな」


 平目の推理は当たっていた。金色の煌めいていたのは、乙姫の羽織っていた衣の一部であった。そして先の5つに分岐しているものは指である。それは乙姫の二の腕よりも先の部分が切り取られたものであった。



「ということは、つまり、この血は…」


「ああ、そうだ。乙姫の血だ」






今作はエロとグロでできています。作者の心の退廃の表れでしょう。

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