7話 第四の美女、東雲詩穂埜の場合
11人目。
「あのぅ、7番の男の人、南沢さんって、友人なんですか?」
いきなりそうきたか。一人は絶対ぶっこんで来ると思ったね、この質問。
「あぁ、うん、幼稚園の頃からの幼馴染だよ」
「えっ!幼稚園から?そんなに仲が良いんですか。彼、お医者様なんでしょう?やっぱり、おモテになるんでしょうね」
「そうだね、モテモテだよ。女にも男にも」
「男にも……?」
バイセクシャルだからね、と言いそうになったが、そこはさすがに堪えた。
「それに、潔癖だからね。そこ我慢できる女じゃないと駄目じゃないかな」
「潔癖……そうなんですか。でも、彼のためならいろいろ我慢できる気がします」
「ああ、そう」
それ、今僕に言うタイミング!?
と思ったが、七瀬はとりあえず水を飲んで我慢した。
12人目。
あと3人でこの地獄のローテーションが終わるんだ。
耐えろ七瀬! 耐えるんだ!!
と、七瀬は心の中で叫んだ。まるで大マラソンのラストスパートのようだった。
「ごめんなさい。私、禿げは許せてもデブは許せないんです。努力とかしないんですか?」
我慢だ。 耐えろ、耐えるんだ。
七瀬の心の中にロッキーのテーマが流れる。
『稲妻を喰らい、雷を握りつぶせ!!』
名言すら脳裏を貫く。
「努力してたら痩せてるだろ、愚問だな」
「眼鏡もダッサイし」
「眼鏡は関係ないだろう。ブスにかぎってギャーギャー騒ぎやがる」
「なんですってぇ!?」
喧嘩が勃発した所で3分経過。
次の男が来た瞬間の彼女の変わり身は凄かった。録画して全員に見せてやりたい。だから生身の女は嫌いなんだ。
七瀬は怨念の塊になりそうになっていた。
13人目。
「ご趣味は?」
「人を呪う事です」
「……きもい……」
「どうも」
ついにラストだ。
14人目。
彼女がこの長い旅の終わりを告げる女神となる。
女神、ならばいいのだが。
「初めまして」
「初めまして」
女神、だった。
というか。
女神のような美しさだった。
可憐で清楚で、肩で揺れる亜麻色の髪。少し垂れ目の潤んだ瞳。薄いがぽってりとした薔薇色の唇……。
まるで、ラブコメアニメから現実世界へ出てきた主人公のような女性だった。さすがの七瀬も緊張してしまうほどだ。
きっと、今日の人気ナンバー1になるだろう。しかし、一体何故こんなパーティーに……。
「愛葉さん?大丈夫ですか?」
名詞を見ていた。
【東雲詩穂埜】
24歳……。 まるで10代のような可憐さとあどけなさだ。
そんな東雲詩穂埜は心配そうに、下を向いている七瀬の顔を覗き込んだ。
良い香りがする。蕩けるように甘く、彼女自体が果実なんではないかと思わせるほどに。
「大丈夫ですよ。僕、そんなにやつれてますか」
「そうですね……。私、ミステリーやサスペンスが好きなんです。シャーロックホームズとか、コロンボとか」
「はぁ……」
「だから、推理するのが好きっていうか趣味っていうか。例えば愛葉さん、あなたの趣味は、ゲームとアニメ鑑賞ですね!」
「えっ!? なんでわかったの!?」
普通ならば趣味を聞いてくるはずが、当ててきた詩穂埜に、七瀬は度肝を抜かれてしまった。
「人差し指と中指の内側に、小さなタコができてる。それって、ゲーム好きな人特有のタコで。あとその度の強い黒縁眼鏡ですけど、『ハチメガルズ』の新藤優一がかけてたメガネでアニメコラボメガネですよね?」
七瀬は驚愕した。
鋭すぎた指摘に、あんぐりと口が開いたまま元に戻らない。
「す……すごい……!! この眼鏡がコラボメガネと解ったのはあなたが初めてです。『ハチメガルズ』観てたんですか?」
「はい。私、アニメとか映画とか好きなんですよ。オフの日はわりと見てますから。おもしろかったですよね、『ハチメガルズ』私も、好きでした」
七瀬は産まれて初めて女性と対等に話が出来た気がしていた。
それは隕石が落っこちてきたような衝撃だ。
「信じられないな。いつもはキモオタとかって罵られるだけなんだけど……。まあ確かにその通りなんだけどね」
「そんなこと…あ、それに、ずっと帰りたいと思ってましたね?私が最後の14人目だから、あーよかった、これで解放されるーって」
「ど、どうしてそれを……?」
「だって、もし本気でこの場に来てたら、水をかぶる事はまずないでしょ。それに、結構怒らせてきてた」
「み……見てたんですか?」
「はい。見てました。失礼ですけど、ずっと……」
「ずっと?婚活しに来たんじゃないの?」
「? 婚活しに来ましたよ」
「僕の事なんて見てる場合じゃないでしょ。今日結構良い男揃ってるよ」
「でも、気になったんだからしょうがないじゃないですか」
「気になった、僕を?」
「はい」
今日はもしかしたら南沢が金にものを言わせて大掛かりなドッキリを仕掛け、テレビで放送しているのかもしれない。七瀬はそう思って、詩穂埜の後ろにある観葉植物に視線を移した。
「ドッキリじゃないですから」
すかさず詩穂埜がそう言った。
彼女には全てお見通しのようだ。仕事は探偵なのだろうか。
「はい、これ」
すると、詩穂埜はシャンパン色のクラッチバックからまた名詞を取り出して七瀬に差し出した。
七瀬の背中から冷や汗が吹き出るのがわかった。
まさか、これは。
「アドレス、後ろに書いてますから」
ホラーだ。
これはホラーでしかない。
固まる七瀬に、三分を告げる音が鳴り、青葉からのラインが届いた携帯も、内ポケットでブルブルと震えた。