3話 パーティー会場
「また青波ちゃん?お前いい加減虚しくなんねーの?それ」
「彼女は僕の完璧な嫁だからな」
「でもヤレねんだろ。大丈夫かよお前…まぁ、人は何かに依存しなきゃ生きていけない生き物だからな」
「お前はセックス依存症だろ」
「バカ言うなよ。もう体も若くないってーの。七瀬、お前は今日このパーティーでリアルな嫁、見つけたほうがいいと思うぜ」
「余計なお世話だ。お前こそ早く結婚して落ち着けよ。誰かに殺される前にな。俺は青波が居れば充分なんだ。ほっといてくれ」
「はいはい、そーでっか」
パーティー会場に向かう南沢のアストンマーティンDB11の車内でそんな会話を交わしている内にあっという間に会場に到着してしまった。
はぁ、とでかい溜息を一つついて車から降りると、自分の持っている服の中で一番まともと思え着てきた白いシャツとベージュのジャケット、黒いパンツをササッと両手で正す。どうせ相手にされないのだし気にする必要はないと思っていたが、これから『生身の女性』がウヨウヨ居る、七瀬からしたら『魔の巣窟』に今から突撃しようというのだから、胸の鼓動が強く打つのは当然の現象だ。
横浜にある高層ビルの13階で、婚活パーティーは開かれるらしい。
滲み出てくる汗をよれたハンカチで拭うと、エレベーターの扉が開いた。
***
パノラマの窓からは、横浜の夜景が宝石のように輝いて見えていた。
大きな近代アートがシックなラウンジに飾られ、所々にあるイミテーションのキャンドル照明にはムード作りに徹底している主催側の心意気が感じられた。
22~38歳までの、男女共に14人づつ、計28人でこのパーティーは行われるらしい。
「おい七瀬、わりとこれ、当たりだったんじゃないか?」
南沢がそう言って、持ってきたカクテルを七瀬に渡す。
モデルのように美男子でセンスのいい南沢はこうゆう場所が良く似合う。流石は大病院の一人息子だ、品もある。一緒に突っ立ってる僕は間違いなく立派な引き立て役だろう。
確かに、さっと見渡しただけでも美男美女は多いように見えた。
「こんなのに参加しなくたって、見つかりそーなもんだけどな」
七瀬はそう言ってグラスに口をつける。メロンソーダのような甘い味がした。
けれど中にはやっぱり体格のいい者や髪の毛の薄い者、いかにもモテなさそうな輩もいて、七瀬は少し安心する。が、全身真っ白なスーツを着た男や着物を着た女性もいて、皆本気なのだろうなと思うと、少し申し訳ない気持ちにもなり、またしても帰りたい衝動に駆られてしまう。
その時、マイクを持ちスーツを着た男性が、
「それでは、一対一のトークタイムになります。三分間のハッピータイム、どうぞ楽しんで下さいね」
と言ったかと思うと、店内にジャズが流れだした。
「ん?なんだ?」
七瀬は驚き挙動不審にきょろきょろ辺りを見回す。
「一人三分づつ対面してトークするんだよ。回転寿司みたいに」
「まじかよ、聞いてないぞ」
「嘘だろ、婚活パーティーってただ飲んで食う集まりだと思ってたのか?」
「違うのか」
「んなわけないだろ…ようはお見合いなんだぜ」
「早く言ってくれよ」
「そんな事すら知らないほうが悪い」
南沢は酷く呆れた顔をした。
婚活なんて全く興味がなかっただけに、まさか、嫌でも対面しなきゃいけないとは夢にも思っていなかったのである。
世間知らずなのが悪いのだろうが、なんだか南沢に騙された気がしていた。