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魔剣を売ったら来世で引きこもりにジョブチェンジできた件  作者: kinako
1章『引きこもりがやる気を見せるまで』
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ニート生活>>>ラブコメ《終》

俺は教室の前までやってきた。


中を覗き込むと1人教室に座っている天宝寺を見つけた。


来る途中には、生徒や先生は誰一人としていなかった。


もしかしてこの世界は俺と天宝寺以外には居ないのか…?


隣に立つ金髪美少女に目がいったが、彼女は例外だろう…。


引きこもってなかったらきっとすぐに異変には気づいたのだろうが、働かなくても許されるという事自体が許容されるあの空間は、俺にとっては魅力的過ぎた。


教室の扉を開けて天宝寺の席に向かう。


「おはよう天宝寺。いや、もう夕方だからこんばんは…?」


「黒城くん家から出てきてたんだ!今からプリント持っていこうとしてたの。もう少しで今日のプリントまとめ終わるから待ってね。」


そう言うと天宝寺は、何も無い空間からプリントの束を取り出した。


「それって…天宝寺の“能力”?前に話した時は幻覚って言ってなかった?」


天宝寺は手を止めた。


すると、急に品定めするような目で睨みつけてきた。


「黒城くんは私の事好き?」


突然何を言い出したのかわからなかった。


思考がフリーズした。


「えっと、、それは友達っていう意味で…?それとも性別的な意味で…?」


俺はこの異様過ぎる状況に戸惑いながらも、言葉を選びながら返答した。


「私のこと可愛いって言ってくれたよね…?好きだよね…?」


目が完全に俺の方を見ていない…


恐怖を感じざるを得なかった。


「黒城くんがお金欲しいって言った時は少し戸惑ったけど、学校生活のためなら協力したくなったよ。だって私とお出かけする時にもっと楽しくするためなんだよね…?」


口調は淡々としているが目が完全に殺意を物語っている。


言葉を選び間違えたら死ぬ…。


そう思えるくらいの狂気を含む視線だった。


いや、ここは夢だから殺されてもいいのか…?


夢から覚めるだけ…?


いや、不確定な要素が多すぎる。


慎重に言葉を選ぼう。


「そうだよ。少し新しい環境に疲れたから引きこもってただけで、学校生活を楽しもうとしたからお金が必要だったんだよ」


「ふーん、じゃあ、、その女は誰???」


…その女……?心当たりは一つしかないが、俺は恐る恐る振り向いた。


金髪美少女が後ろを向きながら教室の壁に張り付いている。


「いや、、、、お前それはないよ…バレるって、ちょちょーい。聞いてます?」


「……私は壁。私は壁。私は壁。私は壁。私は壁。」


呪文のように自己暗示を唱え始めた。


あ、、、こいつアホだ。


俺は悟った。


「えっと、こいつは俺が今つけている“ネックレスの妖精”らしいよ。詳しいことは教えて貰ってない。夢に介入してきたんだってさ。」


そう言いながら俺は首元のネックレスを見せた。


「浮気…?」


いやいや、浮気ってそもそも付き合ってないだろ。


普段の天宝寺に好かれるならすごく嬉しいのだが、今はとにかく、怖い…。


「浮気じゃないけど、そもそも付き合ってすらないよね?」


「そ、そうだけど…」


急に弱気になり始めた…


もしかして今なら会話の主導権を握れるかもしれない。


「何でこんなことしたんだ…!!」


いざとなったら“能力”もあるし、少し強気で睨むように言ってみた。


彼女の作った夢とは言え現状を考えると全てが思い通りにはならないのだろう。


すると突然、天宝寺は瞳を潤ませ始めた。


「私は黒城くんを夢の世界に閉じ込めて青春を楽しむつもりだったのに…引きこもり始めるんだもん…。。うぅっ…ひっく…」


閉じ込めた理由を白状し泣き始めた。


情緒が不安定過ぎる…。


そもそも発想がサイコパス過ぎるのだが。。。


一番重要なことを聞いていなかった。


俺は泣き止むまで少し待ってから質問をした。


「俺の体はどうなってるの?あと、“能力”は幻覚じゃないよね?」


「…体は…私の家のベッドで寝てるよ…“能力”に関しては詳しくは言えないけど、夢を見させることで大体あってる…。目の覚め方は、私の体に触れること。」


天宝寺のベットで少しドキッとしたが、それよりもある疑問が浮かんだ。


「あれ…?家の人にバレずによく運んだね?」


「両親は仕事が忙しくて家にはほとんど帰らないの。歩かせるのは私の能力のおまけとでも思っといて。」


その言葉を聞いた時、少し嫌な予感がした。


両親が家にいない…。


俺と同じだ。


偶然か…?


偶然で済ませるには出来すぎている。


だけど、今は目覚めることが優先だ。


「天宝寺、俺をこの世界から出して欲しい。」


「やだ。だって起きたら絶対また引きこもるもん。」


「毎日学校に行くから、約束する。」


「それだけじゃやだ。」


「じゃあ、、どうしたらいい…?」


「…して」


「…へ?」


「…キス…して」


「付き合ってもないのにだめだよ…」


「夢から目覚めると、黒城くんの記憶は消えるよ。だから、今だけでいいから…」


潤んだ瞳で上目遣いをしてくる。


さっきの一面を考えると普通はこの状況でキスなんてしないだろうが、その表情は俺の理性を振り切るのには充分すぎる破壊力だった。


「目…閉じて」


俺は天宝寺の顔を覗き込みながら唇を重ねた。


柔らかくて暖かい唇の感触が伝わってくる。



目が覚めるとそこには、見慣れない天井が広がっていた。


幸せな夢を見ていた気がするが何だったのだろう…


俺はもっと夢の続きを見ていたかった気がするが体を起こした。


甘い香りがする。


どこからだろう…?


俺は布団を軽くめくった。


そこには、服がはだけた制服姿の天宝寺がすやすやと眠っていた。


俺の寝ぼけていた思考が突然動き始めた。


そもそもここどこだ…?


大量のネックレスを売ろうとしたところまでは覚えている…


俺は天宝寺に協力を頼んでそれで…


ここに来た迄が思い出せない。


「んっ…うー…。あ…黒城くんおはよぉ…すやすや…」


まだ眠そうだ。


「俺なんで天宝寺と寝てるの…?」


「……はっ…そ、それはまた話すよ…」


バツが悪そうに目をそらした。


この状況から考えて俺が無意識に襲ったなんてことはないだろうが…深く聞き出すのはやめておこう。


「どれくらい寝てたの?」


「1日中寝てたよ。学校には、私が体調不良って伝えといたから問題ないよ」


いやいや問題ありすぎなんだが…


もっと長い夢を見てたような気がするけど、気のせいかな。


「じゃあ、私と黒城くんが青春するためにどうしたらいいか話そっ!」


その話題は突然過ぎるが、自堕落な日々を送ってお金を腐らせるよりは全然良い。


俺の中から引きこもるという選択肢が消えた。


俺が望んでいた青春を考えると心が躍りだしそうだった。



この時俺は、首からネックレスが消えていたことにまだ気付いていなかった。

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