過去>>>未来《25》
「おーい。起きて。起きてー。」
聞きなれた男性の声が聞こえる…。
朦朧とする意識の中で俺は頬に手を添えられる感触を感じていた。
いや、これは添えられているというより……。
「起きなさい」
はっ……。
何か嫌な予感がする…!
俺は無意識のうちに体を起き上がらせて3歩程距離を置いた。
「あら?自力で起きれるじゃない。」
視線の先には天龍先輩と生徒会長がいた。
「結局、3人で入ると1人が元いた場所に放り出されるんだね。いやー、異次元の狭間で迷子にならなくて良かったよ。」
天龍先輩は残念そうにしながら俺が寝ている間のことを教えてくれた。
なんでこの人俺が助かって残念そうなんだ…。
残念そうにしているこの人の話を聞く限り、俺はずっと意識を失っていたということになる。
……俺が見た自称神は夢か…?
夢にしては鮮明過ぎるような…。
だが、俺はそんなことよりもあることが気になった。
それは……。
俺が意識を失って横たわっていたであろう場所が、風圧でえぐり取られている事だ。
正確には、風圧による地面の消失と言えばいいだろうか。
え?
なんで地面がないかって?
そんなの決まっている。
こんな人外なことを出来るのは1人しかいない。
地面がえぐり取られた先には生徒会長の左手があった。
さっき俺が感じた身の危険はきっと生徒会長の目覚ましビンタだろう…。
目覚ましというより命を摘んでいるのだが…。
「生命の危機を感じたので反射的に避けてました…。」
「毎朝どうかしら?」
生徒会長が表情を変えずにこの世の終わりに等しいことを言ってのけた。
「遠慮しておきます!!!!!!!!!!!!」
全力で遠慮しておいた。
「勿体ないなぁ。僕なら喜んでしてもらうのに。でも残念だけど、僕は寝坊とは無縁なもんでね。」
天龍先輩がにやにやしながら会話に割り込んできた。
「それなら寝てる時にしてあげるわね。」
生徒会長の矛先が天龍先輩へと向いた。
御愁傷様です…。。。
表情が引きつっている天龍先輩を置いて、俺は生徒会長と話を進めた。
「それで、ここどこですか?」
俺は周囲を見渡した。
周りには巨木がポツポツと一定の距離を保って立ち並んでいた。
この景観、俺は見たことがある…。
「外界よ。」
そうだ、この場所は…。
「外界?迷いの森じゃないんですか…?」
「迷いの森の向こう側よ」
「あの向こう側…」
つまりここは、天界でも魔界でもない…。
空気は冷えていて懐かしい自然の香りがする。
懐かしい…?
なんで俺はそう思ったんだ?
…俺はここを知っている……?
「すぐ戻ります。」
俺は神聖力を足に込めて思いっ切り跳躍した。
地面が急速に離れ空が近付いてくる。
大木よりも遥かに高い上空に出ると、俺は周辺を見渡した。
地平線の向こう側まで森だ。
森で埋め尽くされている。
だが、とある違和感を覚えた。
森だけの世界なんてあるわけがない。
そんな国や世界があるなら古代の地球かアマゾンくらいだろう。
そう思った俺は聖剣に神聖力を込めてそっと振りかざした。
聖剣の剣先から放たれた神聖力をまとう衝撃波が空中を駆け抜けた。
1kmほど進むと衝撃波が何かにぶつかったように掻き消えた。
もしや、更に結界が張られているのか…?
あれを壊すとなると俺が全力を出さないと無理か…。
よし、とりあえず今日のところは肉持って帰ろう。
俺は大人しく地面に着地した。
「本当に一瞬だったわね。お空に行っていたけど、なにか見つけたのかしら?」
「特に何も。それよりも肉はどこですか?」
俺は狩人の視線を生徒会長に向けた。
ふっ…。
モンスター○ンターで鍛えた俺の狩り魂を今こそ発揮する時が来たようだ。
……ん?
俺いつそんなゲームしたっけ?
した感じはあるのにした記憶が無い。
そもそも俺の家にはゲームなんて…。
記憶を探ろうとする俺の思考を生徒会長の言葉が遮った。
「もう捕まえたわよ。」
「へ…?」
唖然とする俺をよそに生徒会長は天龍先輩の背中を指さした。
先程はあまりにも天龍先輩と同じサイズすぎて気付かなかったのだが、豚が背中に括りつけられていた。
「気を失っている間に捕まえたのよ」
豚だ…。
どこからどう見ても豚だ…。
誰がなんと言おうと豚だ…。
だが、俺はあえて聞くことにした。
「あれ、なんていう生き物ですか?」
「わからないわ。」
「いやいや、わからない生き物食べるのはまずいですよ。」
俺は生徒会長に呆れた視線を送った。
この人は毒とか考えないのか…。
「大丈夫よ。彼が前に1度無断で食べたらしいから。」
またもや生徒会長の視線は天龍先輩に向けられていた。
何してるんだあの人…。
「さてと、帰りましょうか。帰り道もお願いするわね。」
生徒会長が天龍先輩に『神の抜け道』を使うように促した。
「へいへい。ミカくん、僕の肉は山盛りで頼むよ。」
そういえば俺が作ると生徒会長には言っていた。
天龍先輩には言ってなかったような…。
地獄耳め……。
「不味く作りますね」
「死にたいの?」
天龍先輩に言ったのだが生徒会長が過剰に反応してきた。
「真面目に作ります!!!!!!」
ビビる俺を見て天龍先輩がくすくすとほくそ笑んでいた。
……絶対不味くしてやる。
行きみたいな事がないように、俺と生徒会長は1人ずつ城へと帰っていった。
もちろん天龍先輩は豚臭いままだ。
料理は得意ではないが苦手という程でもない。
俺は新たなる厨房という名の戦場へ思いを馳せていた。




