過去>>>未来《19》
食堂の中に入ると、既に数名の天使が縦長の長テーブルに腰掛けていた。
俺はメイさんに大天使様と向かいの席に誘導された。
席に着くと、既に座っている天使の面子を確認していった。
一番奥の上座に大天使様。
そして、側面の椅子は右側に4脚、左側に4脚あり、大天使様含めて合計9名が座れるようになっていた。
右側の席は奥から順に、生徒会長、空席、茜先生、空席、…半分が空席の状態だった。
奥に詰めて座らないということは座席が決まっている可能性が高い。
つまり、残り2つの空席に必ず座る天使がいるということだ。
俺は残り2つの空席に俺の知っている天使が座るかもしれないということを期待していた。
なぜなら、茜先生がいつものようにふわふわとした雰囲気をまとって席に座っていたからだ。
俺はほんの一瞬、茜先生を見つめたのだが、茜先生はそれに気付き軽く会釈をしてきた。
俺も慌てて会釈を返す。
茜先生は今も昔も変わらない様子だったので安心した。
生徒会長みたいに激変していたら大変だ…。
他にも知り合いがいないかと、俺は左側の席へと視線を移した。
奥から順に、天龍先輩、未来先輩、空席、筋肉質で大柄な男 が座っていた。
…どこからツッコめばいい?
なんでぶっちぎり苦手ランキング2位の未来先輩がここにいるんだ…。
それにあの大柄な男って、生徒会にいたような…。
無口で厳かな様子でいつも佇んでいたから、会話したことは無かったのだが、まさか元天使だとは…。
いや、今は別にあの大柄な男はどうでもいい。
問題は未来先輩がここにいることだ。
俺のいた時代だと完全に天使とかとは無関係な雰囲気しか出てなかったじゃないか…。
もしかして、転生する際に記憶とか全部抜かれていたとか…?
充分にありえるが…。
…あっ…。
よくよく考えてみたら、天龍先輩は天龍真琴、未来先輩は天龍未来だった気がする。
なんで今まで気にもとめてなかったんだ。
そんな俺の警戒心も露知らず、未来先輩は俺と目が合うと不敵な笑みを浮かべ席を立ち声高らかに宣言した。
「くっくっく…よく来たな我が半身よ…!今こそ革命の時は来た!ここに大天使様の首を討ち…ぐへっ!」
天龍先輩が無言で腹パンをかましていた。
「あのさぁ、毎度止める僕の身にもなってよ。折角の皆で食べる食事なんだから、大人しくしといて。」
ため息混じりに軽く説教をすると未来先輩は大人しく席に着いた。
「…うっ…痛いよぉ…」
若干涙目な未来先輩の小声が聞こえてきたのだが俺は気にしないことにした。
「賑やかなのは結構なのだが、まだ残りの面々はこないのかね?」
大天使様は苛立った様子でメイさんに言った。
お腹が空いているのか…。
さっきから大天使様の腹の虫が聞こえてくる。
「スノーホワイト様は後ほど召し上がられるようです。お客人のユリ様はまだ私の『祝福』の効果で寝ておられます。他の方達は…大天使様が数日前に特別任務を与えられていませんが…。」
大天使様の血の気が引いていた。
忘れてたのか…?
「…別に忘れてなどおらぬぞ。忘れてなど…」
忘れてたんだな。
「それよりも、そういう事なら致し方あるまい。食事を始めるとしよう。」
大天使様はメイさんに料理を運んでくるように促した。
運ばれてくる料理はどれも野菜がメインでとても繊細な味付けだった。
俺たちの時代でいうところの京都風と言えばわかりやすいだろうか。
俺も他の天使達も運ばれてくる料理のあまりの美味しさに舌鼓をうっていた。
前菜からデザートまで文句なく美味…いや、絶品だった。
にも関わらず、俺はどうしてもこのさっぱりとした味付けよりも、体に悪い揚げ物のような物を食べたいと思ってしまうのか…。
そういえば、マリアが作る料理って揚げ物とかが多かった気がする。
もしかしたら、無意識のうちに天界の料理とは真逆の食べ物を欲していたのかもしれない。
疲れているのだから尚更、肉や脂っこいものが欲しいという欲求が出てしまっていた。
皆が食事を進めている中で、聞き取れないくらいの小言を生徒会長が言っていたのを俺は聞き逃さなかった。
「…肉が食べたいのに。」
ほほう。
こんなところに仲間がいたのか。
この食事が終わったら生徒会長を俺が作る不健康フルコースのディナーに誘ってみよう。
台所を借りれればの話だが。
いや、それ以前に俺は今から最大の難所を潜りつけなければならない。
ここにいる天使達への自己紹介というやつだ。
そういえば俺って…まだ誰にも名前、名乗ってない…?




