過去>>>未来《17》
城への帰り道、『神の抜け道』に入ってから天龍先輩が俺に声をかけてきた。
「ちょっと寄り道してもいいかな?」
寄り道は全然問題ないのだが、時間が大丈夫か個人的には不安だった。
「時間は大丈夫そうですかね…?」
「大丈夫だとは思うよ。すぐ終わる寄り道だしね。」
そう言うと天龍先輩は真っ白な何も無い空間を3回軽くノックした。
「…どこに行くんですか?」
「迷いの森さ」
…どうして急に。
「何かあるんですか?」
「もし他の魔女達も死んでたら迷いの森の効果が消えてるはずでしょ?死体確認するのもグロくて嫌だしね。他の方法で確認できるならそれに越したことはないでしょ?」
あれは確か大長老様が管理しているってリリーさんに聞いた気がするが、迷いの森に行けば村で死体を見ずに生死を確認することが出来る。
「…なるほど。」
「もういつでも出れるけど、準備はいいかい?」
準備って…。
そんな闘うわけじゃあるまいし…。
「大丈夫ですよ」
「よし。行こうか」
天龍先輩は全身に神聖力を纏いながら森へと足を踏み出した。
ん…?
なんで神聖力を……?
思考を働かせる暇もなく俺も森に足を踏み入れた。
……無風だ。
つまり、迷いの森は機能している。
「ちゃんと機能してますね」
「……当てが外れたかな。とにかく、他の魔女は魔女の里にはいないけど、生きてるみたいだね。」
……当て…?
なんのことだ…?
「なんでそんなに警戒してるんですか?」
「襲った村や里の入り口に罠を仕掛けたり見張りを付けるのは定石でしょ?情報漏洩を防げる上に敵の油断も誘える。一石二鳥ってわけさ。ましてや魔女の里の状況を知らずにやってきた者なら尚更ね。」
さも当然という風に俺に説明をしてくれた。
「まあ僕はそれを踏まえた上で、敵の情報が何かないか見に来たわけだけど…拍子抜けだったね。」
天龍先輩は警戒をやめて神聖力を纏うのをやめた。
「さてと、付き合ってもらって申し訳なかったね。今度こそ帰ろうか」
天龍先輩が『神の抜け道』を発動させようと3回軽くノックした瞬間…
その手を棒状の何かが貫き、血飛沫が舞った。
「…なっ……!?」
俺と天龍先輩は急いで神聖力を纏って周囲を警戒し始めた。
「……何も感じませんね。」
気配を全く感じなかった。
「…油断しないで。気配を消す『祝福』かもしれない。」
俺は周囲を警戒しつつ手のひらサイズの石を拾った。
突然、拾った瞬間の俺の手を何かが貫こうとしてきた。
だが、それが俺の手を貫く直前に人差し指と中指で摘むと、飛んできた角度と全く同じ角度で神聖力を込めて投げ返した。
「ヒューヒュー。やるねぇ。」
天龍先輩は大袈裟に肩を竦めた。
しかし…
何も起こることは無かった。
投げ返したところでそこに誰かいるわけでもなかったのだ。
「…手応えがありませんね。」
「もしかして襲ってきてる奴は僕と似たような『祝福』なのかもね。ワープのような…空間系の。とにかく、相手してる暇がないからさっさと終わらせようか。」
天龍先輩は何も無い空間を1回だけノックした。
すると、俺と天龍先輩を囲うような形で小さな無数の扉が現れた。
「なんですかこれ…?」
「もし僕と似たような『祝福』なら、逆に追いかけることも出来るはずなんだよね。だからさ、ほら。完膚なきまでに叩きのめそう。」
……これはやり過ぎでは…。
「…どうやるんですか?」
俺は恐る恐る尋ねた。
「次に敵が攻撃してきた時に、僕が逆探知して君の周りの全部の扉を敵に繋げるから、全力で攻撃してよ。」
「じゃ、後は任せたから。」
そう言うと、天龍先輩は『神の抜け道』へと避難した。
やるしかないか…
俺は全神経を集中させて拾った石を握りしめた。
神聖力で圧縮するイメージ…
ダイヤ並の硬度を…!
だが、俺が集中する暇もなく頭を何かが掠めた。
正確には事前に感知して避けたのだが、さっきよりも速度が上がっていて間一髪のところだった。
今だ…!
俺は石を亜音速の速度で円を描くようにして投げるモーションに入った。
円状にしたのには理由がある。
『万物の所有者』で投げ飛ばす瞬間に石をコピーし続けたのだ。
これで扉全てに亜音速の石が飛んでいくことになる。
300個ほど投げたところで俺は投げるのをやめた。
「ふぅ…。もう大丈夫そうですよ」
俺は天龍先輩に声をかけた。
「………やり過ぎじゃない?」
天龍先輩が呆れたような顔で現れた。
「あなたに言われたくないです…!」
「まあ、この程度でくたばったとは思えないけど、今日のところは見逃してもらえそうだね」
そう言うと、天龍先輩は何も無い空間を3回軽くノックして城への道を作ってくれた。
攻撃はない。
大丈夫そうだ。
「…色々とあった1日でしたね。」
俺は肩の力を抜いた。
「君は今からユライアのご機嫌取りだけどね?」
完全に忘れていた。
もう帰って寝る気満々だったのだから。
「まあまあ、頑張ってよ。僕も応援してるからさ。」
天龍先輩は明らかに楽しそうにしていた。
「半笑いで言うと信憑性が落ちるのですが…」
さすがに疲れたのか、俺のツッコミを軽く流して扉へと入って行った。
「さてと、帰ろっか」
「そうですね。お腹空きましたし。」
俺は少し憂鬱になりながらも、帰れる喜びを噛み締めていた。




