過去>>>未来《16》
俺と天龍先輩は『神の抜け道』を使って精霊の祭壇へと来ていた。
相変わらずじめじめとしていて陰気な場所ではあったのだが、それよりも気がかりなことがあった。
「…あの女がいない……」
大量の血はそこに残っていたのだが、その血溜りからの血痕が全く残っておらず、消えたかのような様子だった。
「うわぁ…なんだいこの血…」
天龍先輩がその血溜まりを見て軽く引いていた。
それもそうだ。
あまりにも血が出すぎている。
片腕を切り落として出る血の量を明らかに超えていた。
ここで死んだのか…?
死んだとしても死体がない。
つまり、最低でももう1人は絡んでいると考えてもいいだろう。
血痕が移動していないのも気になる…
とりあえず、この血の事は伝えとくか。
「さっきユリを追いかけてたら女の人が立ち塞がったので、致し方なく片腕を斬り落としました。」
割と今迄の恨みとかこっそり晴らすような形で切り落としたつもりなんだけど…。
ここは余計なことは言わないでおこう。
「ふーん。片腕の出血量じゃないねこれは。」
やっぱり天龍先輩から見てもそう見えるのか…
「まあ、今気にしたって僕達に何か出来るわけでもないし、今は気にしないでおこうよ」
天龍先輩は本当に気にする様子もなく先に歩を進めて行った。
「…そうですね」
俺は目の前の光景に色々と疑問が湧き出てしまうのだが、憶測の域を超えることは決してなかった。
だからこそ今は俺もこれに関しては忘れよう…。
そう思い天龍先輩について行った。
祭壇から出ようとしたところで、男性禁制なことを思い出した。
「顔隠さなくていいんですか?」
俺はユリからもらったローブについてるフードでまたもや顔を隠した。
「…あっ…そういえば魔女の里って男が入ったらダメだったね。じゃあ、僕は異次元にいるからさ、用があったらいつでも呼んでよ」
天龍先輩は何も無い空間へと消えていった。
俺は祭壇を出ると、リリーさんの家へと向かった。
1回目に祭壇に来た時は急いでて気付かなかったのだが、祭壇がある洞窟は山の下部にあり、その山の向こうには……大きなお城が見えた。
魔女の里の外なのだろうか…?
里の入口は迷いの森で裏手が山か…
天龍先輩のような『祝福』でも持ってない限り侵入は難しいだろう。
俺は来た時と同じ速度で魔女の里を駆け抜けた。
2分足らずでリリーさんの家には着いたのだが……。
なんだ…?
「……人の気配が無さすぎる…」
初めてこの魔女の里に来た時よりも明らかに人の気配を感じなくなっていた。
「…着きましたよ。人の気配がなさすぎますが…」
俺が天龍先輩に声をかけると、怪訝な表情をして何も無い空間から出てきた。
「……そうだね。明らかにおかしい…。僕はずっと集中してこの里全体の魔力を探っていたんだけど、魔力を全く感じなかった……。」
「…それって…つまり…」
リリーさんの安否が気になる。
「………とにかく、家の中を覗いてみよう。」
俺は恐る恐る家の扉に手をかけた。
「僕が探知したからそんなに慎重にしなくても大丈夫だよ。」
天龍先輩はそう言うとずかずかと家の中へと入って行った。
「…誰もいないですね」
争った形跡もなし。
今朝の俺とユリがご飯を食べた時のままだった。
「……まあ、今日のところは留守だったってことにして帰ろうか。」
天龍先輩が突拍子もないことを言い始めた。
「明らかに何かあったような状況ですけど…帰るんですか?」
「ユライアの言葉を思い出してみなよ。」
“魔女の里には戻らない方がいい”
そう言ったのは生徒会長だ。
何か事情を知っているのか…?
「まあ、とにかく帰って話を聞いた方がいいかもね。君が魔女の里に行ったことがバレることにはなるけど。」
この状況で何もせずに帰るというのも無理な話だ。
「…最後に物置小屋を調べてみてもいいですか……?」
どうせ帰るなら調べ切ってから帰りたい。
「いいよ。」
天龍先輩が快く承諾してくれて、2人で庭にある物置小屋へと歩みを進めた。
そういえばここに、俺の持ってるネックレスもあったっけ。
物置小屋に着くとある異変に気付いた。
……扉がない。
扉が完全に消失していたのだ。
「…これって……」
俺は嫌な予感を拭い去ることができなかった……。
中へ足を踏み入れると、今朝とは見違えた光景が目に飛び込んできた。
なぎ倒された棚に壊された魔法道具の残骸、壁も所々亀裂が走り床は紅色に…
紅色……?
液体…か…?
その紅色の液体の出処を視線で追いかけると…
無惨にも腕と首を切り落とされたリリーさんの死体が転がっていた……。
「……なんで…」
「……リリーさんを殺した人達は何か探し物をしていたみたいだね…。見てみなよ。1番右側の棚だけ無事だ。物も全く壊されていない。そして棚が倒れているのは必ず左の棚が下になっている。つまり、これは左の棚から倒していった。探し物をしていた可能性が高いってことさ。」
棚は4つしかなかったが一番右を除く3つの棚に関してはまさにその通りだった。
「探し物…」
「…心当たりがあるのかい?」
心当たりしかなかった。
俺が持っている聖剣と魔剣の元となるネックレス。
ロクでもないリリーさんが作った魔法道具…。
「……このネックレスが4本。リリーさんの手元にありました。」
俺は自分が下げているネックレスを見せた。
「……っ!?……僕達は魔神の孫という価値に釣られて、それ以外が見えていなかったのかもしれないね…。」
天龍先輩は完全にしてやられたという表情をしていた。
それにしても、リリーさんをここまで一方的に殺せるなんて…
物置小屋の中は荒れていたが、これは決して抵抗したから荒れているのではなく、抵抗する間もなく殺された上で荒らされていた。
…これをやった奴には出来れば遭いたくないな。
もう目的はなくなった。
早急に帰ろう。
俺が物置小屋を出ようとした時だった。
「…まさか、このままにして帰る気かい?」
「…え?」
「一晩泊めて貰った恩を忘れて埋めずに帰るとか僕からしたら有り得ないよ」
…俺は自分の愚行を恥ずかしく思った。
「……すいません。。。あと、ありがとうございます……」
「いいよいいよ。僕も手伝うから安心しなよ」
天龍先輩は庭に行くと地面を神聖力を込めて踏みつけた。
すると、地面に人1人入れそうな穴が空いた。
「……ほとんど1人でやりましたね」
「まあ、埋めるのは君の役目だから、後はよろしくね」
俺は物置小屋に横たわったリリーさんの死体に手を合わせてから持ち上げた。
天龍先輩が開けてくれた穴にそっと寝かせると『万物の所有者』を使い土をコピーして穴を埋めた。
俺は軽く手を合わせると、数分間黙祷を捧げた。
「……さてと、そろそろ帰るかい…?」
天龍先輩が後味悪そうに俺に声をかけてきたが、俺はそれよりも別の思考が頭をよぎった。
「……なんでわざわざ腕と首を切り落としたんでしょうね…。首だけでいいはずなのに、なんで腕まで…」
俺は自分で言わなくても答えに気付いていた。
そうだ…。
これは見せしめだ…。
「………僕の口から言うべきかな?」
「…いえ、大丈夫です。帰りましょう。」
俺と天龍先輩はすっかり日の暮れた魔女の里を見ないようにしながら城へと帰った。




