過去>>>未来《0》
俺は天龍先輩に連れられて校長室にやって来た。
天宝寺には教室で待っていてもらうことにした。
部屋の中はあの日のままだった。
変わったのは床の血痕が拭き取られて死体がなくなっていたくらいだ。
「ここに連れてきて未来の俺とどう関係があるんですか?」
「場所は美術室でも良かったんだけどね。ほら、ここに彼らは現れたんだよね?ウリくんの“能力”で来たなら僕の“能力”で追えるからさ。彼らの所に連れて行ってあげるよ」
いつも突然現れたり、気配だけ感じる事があるから透明になる“能力”だとばかり思っていた。
この言い方だと違うのか…
「天龍先輩の“能力”ってなんですか?」
「……あまり言いたくはないけど特別に教えてあげるよ。僕の“能力”は異次元に干渉して出入り出来る“能力”『神の抜け道』。それでウリくんが作った門の道筋を追いかけるのさ」
「この際聞きますけどウリの“能力”は…?」
「空間の座標同士を繋げて門を作る“能力”だよ。行ったことある場所や記憶にある場所しか繋げれないから、校長先生の方が万能かな」
つまり、、、先代勇者の妻とウリの組み合わせは最悪だ。
だからあそこまで色んな人が影響を受けていたのか…
「……便利な“能力”ですね」
「僕の“能力”については褒めてくれないのかい?」
少し拗ねているようだった。
「いや、あまり実感がわかなくて…」
「じゃあ、試しに連れて行ってあげるよ。僕の肩を掴んでみて」
天龍先輩が目の前の空間を3回ほど軽くノックした。
すると、何も無いはずの場所にうっすらと見える扉が現れた。
「おいで」
俺は天龍先輩の肩を掴んだまま扉の中に入った。
中は真っ白で何も無い空間だった。
「ここが…異次元?」
「うんうん。僕だけの世界だよ」
「……でもこれって何が凄いんですか?」
「…はぁ…黒城くん、頭は回るのに発想力には乏しいね」
発想力も何もこんな何も無い空間で何が出来るというんだ…
「黒城くんはどこか行きたいとこある?」
「えっと、、、じゃあ、教室とか?」
「ほいほい」
天龍先輩は何も無い空間を3回ほど軽くノックした。
すると、またもや目の前にうっすらと見える扉が現れた。
その扉を俺は天龍先輩とくぐった。
「わっ!?どこから来たの!?」
目の前に天宝寺がいた。
「……便利ですね。ものすごく」
「やっとわかってもらえたみたいだね。ちなみに、あの出入りする扉に聞き耳を立てたら外の会話とか音を聞くことが出来るよ」
「…いつもそうやって盗聴してるんですね」
いつも聞かれている可能性があるということか…
「人聞きの悪いこと言わないでよ。いつもたまたまだから。たまたま。」
「あ、あのー。。」
天宝寺が申し訳なさそうに会話に入ってきた。
「てっきり黒城くんもう行っちゃったのかと思ってたけど、、、行けそうなの?」
「大丈夫そうだよ」
「じゃあ、出発前に生徒会長さんに言った方がいいんじゃない…?」
天宝寺が心配そうに言ってきた。
「大丈夫だよ。生徒会長には僕から伝えといたからさ」
用意周到にも程がある。
俺は未来の俺に協力を仰ぎたかっただけなのだが、この人には何か策があるのか…?
「……ということは、初めから俺を連れて行くつもりだったんですか?」
「うんうん。僕が考えた事なんだけどね。膨大なエネルギーという点では魔力も神聖力も変わらないんじゃないかなーって」
「だから、未来の俺の魔力を使おうと…?」
「まあ、いけるかはわからないけどね。彼が魔力持ってるのに過去に行けない理由は聖剣の力そのものがないからみたいだし、可能性はあるんじゃないかな」
「…ていうかまた盗み聞きしてたんですね」
「ちょっと僕忘れちゃった。てへっ」
俺はジト目で見つめていたが誤魔化してきたので追求しないことにした。
「じゃあ天宝寺。少し行ってくるよ」
「うん…気を付けてね…」
天宝寺は何か言いたそうにしていたが、俺がその言葉の続きを聞くことは無かった。
「黒城くんいくよー」
俺は天龍先輩の“能力”で、また校長室に連れてこられた。
「さてと、彼らが出てきたのはここだったね」
天龍先輩は3回ほど何も無い空間を軽くノックした。
またもや目の前にうっすらと見える扉が現れた。
「僕に掴まって」
俺は天龍先輩の肩を掴んだ。
そして、目の前の扉をくぐったのだが…さっきとは明らかに違うところがあった。
真っ白い部屋の一部に亀裂があったのだ。
「この先にいるみたいだね。じゃあ、頑張って行ってきてね」
明らかに天龍先輩が引いていた。
「いやいやいや、帰りどうするんですか?」
「ここで待ってるから、キリがいいとこで迎えに行ってあげるよ」
そういうと、天龍先輩はその亀裂の場所に扉を作ってくれた。
「では、行ってきます」
俺は聖剣と魔剣を構えて扉をくぐった。
扉をくぐると……見覚えのある場所だった。
魔界だった。
前に生徒会長と来たのを覚えている。
「遅かったですね。もう少し早く来ると思ってましたよ」
フードを深くかぶった男が椅子に腰掛けていた。
周りには誰もいないみたいだ。
ここは魔王城らしき建物の一番奥の部屋で、先代勇者と魔神の心臓もここにある。
「聞きたいことがたくさんあるんだけど」
「では、取り敢えず剣を仕舞っていただけませんか?怖くて話もできません」
「わかった…」
俺は闘いに来たのではなく交渉に来たのだ。
そう自分に言い聞かせて剣を仕舞った。
「まず、何から聞きたいですか?」
「あんたのことを教えて欲しい」
「少しばかり長くなりますよ…?」
「時間はないからサクっと頼むよ」
「無茶を言いますね。簡単に言うと、私はこの世界の未来の貴方ではなく、パラレルワールドの未来の貴方です」
「…つまり、俺はあんたみたいにはならないってこと?」
「えぇ…私が過去を変えましたからね。本来なら、魔王との戦いで神聖力の扱い方を知らなかった私は、マリアを目の前で殺されそのまま死なせてしまった。そして、助けにきた生徒会長は魔王と引き分け死亡。聖剣の力も全てが…そこで終わっていた、はずだった。しかし、私は怒りと絶望から聖剣の最後の力を引き出して過去に飛んだ…いや、飛ばされた。……今思うと、心のどこかでマリアが望んでいたのかも知れません。聖剣になりたくなかった…と。飛ばされた時代は2000年前でした。そして私は天使の頃のマリアに出会い、マリアが聖剣にされるのを阻止しようとしました。ですが、、、無理でした。ロクに力の使い方も知らなかった私はマリアの姉に無様にも敗北したのです。それから私はひたすらに憎しみだけを募らせて生きてきました。そして、私はもう1度チャンスが欲しくて貴方を魔王に勝たせて聖剣の力を奪うことにしたのです。そして、仲間を集め計画を立て実行しました。しかし、2000年という時は私には長すぎました。あまりにも長すぎた時は、目の前のマリアを殺すことすら躊躇しなかった。という未来ですから。」
「……結局長いよ」
「他に質問はありますか?」
「その先代勇者について、あんたが長生きな理由、それと…校長先生をさらった理由かな」
「この先代勇者については、私と同じ呪いを受けてるだけですよ。これは私が長生きな理由にも繋がります。校長先生をさらった理由は、この呪いを神様に解いてもらうため…といったところでしょうか。結局無理でしたが…」
「…呪いって『神の恩恵』のこと…?」
「よくご存知ですね。『神の恩恵』とは、一定年齢を過ぎると老化が止まり不死になります。永遠の命です。」
「…先代勇者はわかるけど、なんであんたも呪いかかってるの?」
「いやいや、貴方もかかってるんですよ?」
「…はい?」
俺はこの人が何を言ってるのか理解出来なかった。
「この『神の恩恵』は生涯を天界で過ごすと約束された勇者とその子孫にのみ与えられるものです。転生しても魂自体は不変です。貴方もいずれは不老不死になります」
不老不死なんて現実味がなさすぎる。
「…俺魔族だったんだよね?なんで魔界にいたの?」
「それは魔族は天界には入れない掟だったからです。所謂、隠し子というやつですね。先代勇者の奥さんとは先代勇者も助けるという条件で仲間になってもらっていました。」
「助けることなんて出来るの?…なんでその先代勇者はミイラみたいに…?あんたはフードかぶってるけど手とか普通だよね」
「助けることは可能ですよ。魔神の封印から引き離せばミイラ化は解けます。魔神を封印するために常に膨大な神聖力を使用しているからこうなっているだけです。」
「じゃあ、魔神が目覚めたらどうするの?」
「私が殺します」
……この人やっぱり強いのか
「最後に頼み事があるんだけど、いい?」
「どうぞどうぞ」
これが本題だ…むしろこれを断られたらどうしようもない。
「俺が過去に行く手伝いをして欲しい」
「……断ります」
やっぱり…無条件で頼むなんて虫が良すぎる。
「ですが、条件次第では考えなくもありません」
…やはりそうきたか
どんな無理難題を押し付けられるのだろう…
「今過去に行くと、2000年前の私に会うと思います。その私を止めて欲しいのです」
「止める?」
「えぇ…。。私はあの時、怒りと絶望でなにも見えていなかったのです。もし、まともな道を選んでいたら…」
「そういう事なら、引き受けるよ」
案外まともな依頼で安心した。
「では、早速行きましょうか」
「え!?早くない?」
天龍先輩待たせてるし…
「善は急げですよ」
そう言うと、男は膨大な魔力を俺に流してきた。
この男の孤独を感じる魔力だった。
冷たい…寂しい…
そして俺はそれを聖剣に流したが…
何も起きない。
「ここまで来て何も起きないのかよ…っ!なあ、あんた!神聖力は流せないのか!?」
「私は…心の温もりを捨てました…。。。そんな人間に神聖力なんて……」
「あんたが…それだけ悲しくて寂しい思いしてるってことは、その分マリアのこと大切に思ってたってことだよ…そんな大切な思いが、人の思いが、簡単に消えるわけない…!」
だが、男から流れてくるのは冷たい魔力だけだった。
ふと、俺はポケットにあるスマホを思い出した。
俺は写真フォルダの中からマリアの写真を画面に映して男に見せた。
「マリ…ア…」
映っていたのは、この前絵を書く時に撮ったマリアの笑顔だった。
「あんたがどれだけ絶望しても、今までやってこれたのはこの笑顔が見たかったからじゃないのか?だったら、、、諦めるなよ…!もう少しで手が届くんだよ…!絶望を希望に変えるんだ!」
そうだ…諦める訳にはいかない…
俺は自分にも言い聞かせた。
「そう…ですね…。私は貴方に全てを託します……行ってらっしゃい。」
俺の体に暖かい神聖力が流れ込んできた。
希望の力だ。
俺は平和な未来なんてどうでもいい。
ただ隣に、一人の女の子さえいればいい。
その未来さえあればいい。
そして、俺の意識は途絶えた。




