コンクール>>>日常《2》
俺と未来先輩は作業を進めた。
未来先輩はマリアの儚い表情を絵に、俺はマリアの笑顔を絵にした。
俺は必死だったので3日で描き終わった。
未来先輩は言わずもがな初日で描き終えた。
俺が3日で描き終えることが出来た理由…
それは、未来先輩がちょっかいを出してこなかったからだ。
理由を聞いてみると、、、
「…ふっ、久しぶりに芸術家の血が騒いだのさ」
と訳の分からないことを言っていたが、邪魔されないのはいい事だ。
俺は3日間の放課後をすべて絵に費やした。
描き終えた俺の絵にはマリアの純粋な笑顔が描かれていた。
決して上手いとまでは言えないが、俺が描きたいものは描けた気がする。
満足だ。
俺はコンクール用の絵として先生がいる職員室まで持って行った。
「黒城くん描き終わったの~?」
先生が俺に聞いてきたので俺は絵を先生に渡した。
「このマリアちゃん、笑顔が素敵だね~」
「俺の中のイメージでは、それがマリアですから。」
「……昔とは大違いだね~」
「…昔?」
先生は少し辛そうな表情をしていた。
「ううん。なんでもないよ~気にしないで~」
明らかに何かありそうだったが、今とこれからが幸せなら問題は無いと俺は思った。
しかし、過去というものはおかしなもので絶対に後から追ってくるのだ。
勉強をしないとテストでいい点が取れないように、努力をしなければスポーツで報われないように、原因と結果は決して切り離せない。
そして、今日…
マリアにとっての因果がやってきた。
私はミカくんに秘密にしていることがある。
これは私が聖剣を作るために魂を使われた理由でもある。
でも、もうそろそろ隠すのも限界かもしれない。
なぜなら、もう2回も私の“能力”をミカくんを使ってしまった。
1回目は魔王との闘いで。
2回目は地獄の門番との闘いで。
私の魂をベースに作られた聖剣は私の“能力”を任意で使えるようにした剣に過ぎない。
そして先日、校長室に現れた魔族はミカくんそのものだった。
もしかして…校長室に現れたミカくんのそっくりさんは…
とにかく、あの人とミカくんが戦うのはきっと良くない。
今の平和なままなら安心出来ると思うけど…
そんな私の安堵感を消し去るように、突然目の前に校長先生を連れていった門が現れた。
「よぉ、てめぇがマリアか?」
「…そうよ。あなたは確か…校長先生をさらった人?」
「あぁ…校長先生なら殺したよ。着いてきてもらうぜ。俺らのボスからの命令だからよぉ」
ボス……だいたい察しはつく…
でも、今は今のミカくんの方が心配だ。
「…断ると言ったら?」
「てめぇを殺しても良いっていう命令が下ってるからよ…容赦はしねぇぞ」
……やっぱり、、、このままだとミカくんは…
だとしたら、私が取るべき道は一つ…
「…私はついて行かない」
「じゃあ死ねや」
ウリが私を殴ろうとするのが見えた。
私は急いでミカくんのネックレスへと戻った。
やっぱり、この距離なら届く。
そして急いで伝えないと…!
魔力を感じたので急いで美術室に戻ろうと廊下を走っていると目の前にマリアが現れた。
「マリア!?大丈夫…!?今魔力を感じたから向かおうと…」
「それより聞いてミカくん!私の“能力”を使って急いで2000年前の天界に行って!」
「え…?」
俺はマリアの言ってる事が分からなかった。
「時間が無いの!ウリが来たって事はあいつもきっと来る!今のミカくんじゃきっと勝てない…!」
「…あいつ?」
「あいつとは心外ですねマリア。私と貴方の仲ですよ?」
その男はフードを深くかぶっていて顔が見えなかった。
その声を発した人物は今まで感じたことのない質の魔力をまとっていた。
「……どうせ私との思い出もロクに残ってないんでしょ?」
「いえいえ、貴方の作った晩御飯は美味しかったですよ」
…誰だこいつは……?
冷たい…こいつの魔力から感じるのは…孤独……
魔王よりも更に冷たい…
俺は言葉を発せずにいた…
「…じゃあ、それに免じて逃がしてくれない?」
「それとこれとは別です。貴方達から聖剣のエネルギーを貰わなければ私はもう過去に行けなくなる」
「だからミカくんの“能力”を目覚めさせて聖剣を使わせて強くしてきたのよね?初めから奪うために…」
俺の“能力”を目覚めさせた?
「仕方ないのですよ。私がマリアを救うのを失敗した時点で仕方ないことだったのです。」
…マリアを救う…?
「そう……。。。私が死んだのはいつ?」
「魔王との闘いで」
「…なるほどね」
…まさか、、、こいつ、、
「ここまで話したのですよ?そろそろ聖剣のエネルギーを私に下さいませんか?」
「嫌よ。私はあなたより今のミカくんに賭けるわ」
「じゃあ、力づくで」
目の前の男が動こうとした瞬間、俺はそいつとマリアの間に割り込んだ。
「貴方は邪魔しないでください」
殺意が肌を突いてきた。
目の前の男から本能的な恐怖を感じざるを得なかった。
でも、逃げる訳にはいかない。
「…断ると言ったら?」
「…死ね」
目の前の男の腰から聖剣が抜かれた。
それが俺の心臓を貫いた…
はずだった。
目の前を血しぶきが舞う。
俺を庇ったのはいつも笑いかけてくれる小柄な金髪の女の子だった。
「……早く…行って………」
俺はこの光景に既視感を感じていた。
前に魔王との戦いで似たようなことがあったのだ。
「庇うとは健気ですね。でも、貴方が死んでもネックレスさえあれば問題ないです。」
マリアが……死ぬ…?
…………俺はこの光景を受け入れられずにいた。
マリアは俺の手をそっと握りしめてきた。
「……楽しかったな…ミカくんと…過ごしたの……まだ…一緒に…いたい……な…大好…だ…よ………」
手に残った温もりと共にマリアの死体は消えた。
「マリアは……死んだ…?」
「ええ、死にましたよ。そして今から私が救う。」
俺は妙に冷静だった。
聖剣さえ大丈夫ならきっと蘇る
だが、今はそれが俺にとっての幸運だった。
「………そうか。だけど、救うのは俺だ」
「…じゃあ、貴方にも死んでもらいます」
俺は聖剣と魔剣を具現化させた。
ずっと気になっていた。
魔剣の“能力”はなんなのだろう?と。
そして、この前の地獄の門番との闘いで少しだけ解った。
“能力”を刈り取る“能力”ではないかと。
そして、こいつの正体を察すると…
俺が今やるべき行動は一つ。
目の前のこいつを無視して本体のところへと向かった。
本体はウリと美術室にいた。
俺は時間を極限まで伸ばしてその男の後ろに回り込んで魔剣で切りつけた。
そして、時を元に戻した。
偽物の魔力が消えていた。
「なっ…!?てめぇいつの間に…」
「貴方は…なぜここに…!?」
「ほら、俺にはあんたが失った物を持ってるからさ」
俺は聖剣と魔剣を見せた。
「……なるほど。ふふふ、、、私に勝ち目はない…と。。。私の計画は…終わりなんですね…」
「なあ、あんたってまさか…」
「貴方は私のようにはならないでください……。ウリ、帰りますよ」
「なんでだよっ!?てめぇなら勝てるかもしれねぇだろ!」
「ダメです。それだとマリアが救えなくなる…。彼は私と闘うなら聖剣の力を使うのを惜しまない。そう思わせるための虚勢かも知れませんが、私にとってはそれが一番恐ろしい」
そうだ。
こいつは聖剣の力を欲していた。
そしてこいつは俺が予想している人物なら、聖剣の力を持っていないとおかしい。
つまり、なんらかの形で聖剣の力はなくなる可能性があるということだ。
俺は賭けた。
俺が聖剣の力を使うこと自体が目の前の男にとって最も悪手である可能性に。
…こいつはあの時に俺が不意を突かれている間に一瞬で仕留めなければいけなかった。
「では、私は帰らせていただきます」
そう言うとウリとその男は門の向こうへと帰っていった。
俺がマリアを失った虚無感を味わうのは家に帰ってからだった。




