金>>>越えられない壁>>>青春《2》
閻魔は物思いにふけっていた。
理由は…ミカだ。
先代の勇者は人間だった。
下界で1年に1度行われる能力者同士の頂点を決める大会『神聖天舞会』。
その優勝者が天界に行き、天界の部隊長と1対1で戦い勝利した者のみが“勇者の称号”と“神の恩恵”を授かる。
その後、勇者は生涯を天界で過ごす。
天界、魔界の100年は下界での1年に相当する。
故に下界の一年ごとに、勇者またはそれに近しい者が必要なのだ。
「…ミカは先代勇者の忘れ形見に違いない。悪魔が神聖力を宿すなど有り得ない。きっと彼は勇者になり得る。」
下界から悪魔や天使に転生させることはないが、逆ならある。
そう、ミカのように魔界や天界に居場所がない者だ。
しかしその場合、魔力や神聖力は奪うのだが…ミカの場合は独断と偏見で閻魔がどちらも残しておいた。
「先代勇者には恩があったからな…これで貸し借りはチャラにしておこう。聖剣もきっと大切に使ってくれるだろう。さて、下界でも覗いてみようかの。」
閻魔は重い腰を持ち上げて下界を覗き込んだ。
「もしかして…生涯働かなくてもいいんじゃないか…!?」
俺は自分の悪知恵っぷりに呆れつつも内心小躍りしていた。
理由はこの送られてきた封筒の中身だ。
俺の能力はものを劣化コピーさせるに過ぎないが、見た目の精度はかなり高い。
本物と瓜二つだ。
その能力を使って封筒の中身に入っていたネックレスをコピーし続ければ…高そうなネックレスの山の完成だ。
それらを質屋に持って行ってお金に変えてもらおう。
想像するとにやけ顔が止まらなかったが、ギリギリのプライドがにやけ顔を変顔にするのを止めていた。
「じゃあ明日早速…!」
俺は徹夜でネックレスを量産した。
「………ドアホオオオオオオ!!!!!!!!!!!!!」
閻魔はかつてないくらい激昴していた。
理由は明白である。
「はぁ…あまり干渉したくはないが…」
閻魔は本物のネックレスに〈勇者になるまで離れるな〉という命令を下した。
これが閻魔の“能力”『絶対君主』である。
触れた事のあるものや人に対して強制的に命令を下せる。
ただしこれは命令してしまったら閻魔でも任意で解除することは出来ない。
もはや呪いだ。
故に閻魔はこの“能力”をあまり好まない。
しかし今回に関しては有意義な使い方だ。
ミカが本物のネックレスさえ手放さなければ問題は無いのだから。
「気づかないうちに寝ていたかな…」
机には大量のネックレスが置いてあった。
しかし、昨日とは違う点がひとつある。
首にネックレスがついてるのだ。
寝ぼけてつけたのかな?
と怪訝に思いつつも俺は学校の準備をした。
「おはよう天宝寺」
「お、お、おおおおはよ黒城くん」
天宝寺が全力で目をそらしながら耳を真っ赤にして言った
「熱でもあるの?」
俺は天宝寺のおでこに手を置こうとした。
「はっ…なんでも…ない…よ!」
天宝寺は全力で頭を机に突っ伏した。
ゴンッと鈍い音が聞こえたが聞かなかったことにしとこう…
やっぱり「可愛いな」
…また声に出ていた。
聞こえていたかはわからないが顔が茹でたてみたいに真っ赤だ。
今日は目をあわしてもらえそうにないな。
放課後、先生が俺のことを職員室に呼び出したので俺は今職員室にいる。
「部活どこに入るか決めて~このプリントに書いて明日提出してね~」
高校生活の青春は部活で決まると言っても過言ではない。
故に俺は慎重に考えることにした。
「慎重に考えたいので後日でもいいですか?」
「全然問題ないよ~ゆっくり考えてね~」
先生は快く了承してくれた。
今はまだ、これから入る部活のせいで俺がどうなるかは知る由もなかった…