下界>>>天界《3》
俺は頭を抱えていた。
なぜなら俺には芸術というものが欠片もわからないからだ。
完成された美を賞賛する人もいれば、未完成な美を賞賛する人もいる。
自分の心を抽象的に表現することが評価されたり、目の前の風景をそのまま描き写せば芸術ではないと言われたりする。
だが、それは人それぞれの物の見方があることを表し、統一されていない秩序をもたらしている。
芸術をわかりはしないが芸術は好きだ。
故に、俺は自分が書くことが到底不可能な事であると悟っていた。
「天宝寺…助け…、、、へ?」
「ふふふーん。なかなか上手いでしょ」
「う、上手いと思うよ」
そこには真っ赤に塗られた背景に女の子が立っている絵が描かれていた。
「でしょでしょ?背景は塗り間違えちゃったんだけどね。可愛いでしょ!」
「……うん。可愛いと思う。その金髪の女の子って、まさか…」
完全にホラー映画のポスターに使えそうなくらい血塗られた女の子になっていた。
芸術ってこわい。
「マリアちゃんだよ!この前マリアちゃんに絵上手くなったって言ったら見たいって言ってくれたの。だから頑張って描く(グッ」
天宝寺は親指を立ててきた。
マリアの為を思ってなら有難いことだ。
ただ、その配色はどうにかして欲しい。
「その背景、血にしか見えないよ?」
「……はっ…描き直すね」
気付いてなかったのか!?
「頑張ってね」
応援したいのは本心なので応援しておいた。
さて、、俺は自分のことをしなければ…
他の部員たちは黙々と作業を進めていた。
変わった人達だが芸術への熱意は本物らしい。
すると、後ろから肩をツンツンされた。
「ねえねえ、私出来たから見て欲しいんだけど。だめ…かな?」
未来先輩が上目遣いで見つめてきた。
「俺今アイデア思い浮かべるのに必死なんですけど…」
そう言いつつも、上目遣いの先輩は可愛かったので一瞬揺らいでしまった。
「えー、いいじゃんケチ。ほんっとーに少しだけだからお願いっ!」
「少しだけですよ…?」
俺は先輩が作業をしていた画架へと向かった。
※画架はキャンパス(絵)を立てる道具の名前
「先輩?」
「ん?」
「なんですかこれは」
そこには丸い丼ぶりの器が二つ描いてあった。
「知りたい?」
「いえ、全然」
「そうかそうかそこまで言うなら教えてあげる!」
「いえ、結構です。どうせロクなもんじゃないですし…」
「私の胸と同じ大きさの丼ぶりを描いたつもりなんだけど大きさが合っているか自分だと不安だからじっくり見てほしいと思いました!!」
「ただの痴女じゃねーか!」
…思わず口調が荒ぶってしまった。
冷静に…冷静に…
「見たい…?…黒城くんが望むなら…見てもいいよ…?」
これ以上俺のペースを掻き乱さないでくれ。
だが、目の前の先輩はすごく仕草が大人っぽくて魅力的だった。
「お、俺は…」
「はいはい。そこまでっすよ。」
西条が未来先輩の絵を破っていた。
「風紀の乱れはよくないっす。ちゃんと作業続けてください」
危なかった…
ん?
西条は作業終わったのか?
「西条は作業終わったの?」
「先輩時計見てください」
下校時間を過ぎていた。
…あれ?
…俺何も描いてないんじゃないか?




