金>>>越えられない壁>>>青春《1》
あらかじめ言っておく。
この物語は決して俺が魔王を倒すべく頑張ったり必死に冒険をする物語ではない。
繰り返し言うが決して友情とか努力とか勝利とか愛のために戦ったりする物語ではない。
2027年春、俺は今年から雪城高校に編入することになった。
理由は“能力”に目覚めたからだ。
“能力”が目覚めた者は国から指定された学校や企業に通うことが義務付けられている。
もちろん学力などのテストで優秀な企業や学校に行けるのだが、能力値の善し悪しでも選択の幅は変わる。
能力値というのは自分がどれだけその“能力”を使いこなせてるかであり、“能力”の強さや便利性自体には関係していない。
俺は能力値だけならAだったのだが、物を劣化コピーするだけの能力…有用性という意味ではワープとかの方がまだ便利だろう。
‘能力”は子供の頃に目覚める人がほとんどなのだが、俺は高校生になってやっと目覚めた。
編入初日から遅刻するわけにはいかないので早足で学校に向かっていた。
学校に着くとまず職員室に向かった。
職員室で担任と会ってから教室に連れて行ってもらう。
転校生特有の恒例行事だ。
担任の先生はとてもゆるい雰囲気の女の先生で名前は白崎茜。
ふわふわしすぎて彼女の周りだけお花が咲いてるように見える……
「一緒に教室に向かおうね~」
先生がゆるく先導しつつ後からついていく。
ゆっくり歩いて会話も無しだと気まずいので声をかける
「先生って何の科目教えてるんですか?」
するとふわりと振り返り
「美術の先生だよ~」
と相変わらず緩く返してきた。
見た目も可愛いのだが身長が低く先生っぽくないせいで上目遣いのような感じになってしまう。
目を合わせれない俺は「早く行きましょう」と先生を促した。
先生に連れられて教室に入ると、20人程の生徒が既に着席していた。
「黒城未花です。女みたいな名前ですが宜しく御願いします。」
小学生でもあるまいし虐めとかはないと思うが、女みたいな名前の自覚があることは自己申告をしておいた。
軽い拍手の後、席へと促される。
「黒城さんは1番右側の列の後ろに座ってね」
席は縦4人横5列の計20人だ。
隣の茶髪ショートの女の子に
「よろしくね」と声をかける。
「よろしくね!私は天宝寺菜々(てんほうじ なな)」
微笑みながら返してくれた。
もう少し話をしたかったが授業開始の予鈴が鳴ったので授業に専念する。
一限が終わったあと天宝寺に声をかける。
「編入してきたばかりでこの学校のことよく知らないから、もし良かったら放課後とかに案内して貰えないかな?」
天宝寺は一瞬固まったがすぐに笑顔を作って快く?引き受けてくれた。
「いいよー。放課後すぐに案内するね!」
固まった理由はわからないが嫌われてはないようなので良しとしよう。
放課後になると学校を案内してもらった。
特に気になったのが演習場だ。
全校生徒よりも更に多い数の観戦席と、演習場の中央にある巨大な石のブロックで出来た戦場。
なぜこんなにも広い演習場が必要なのか…。
天宝寺に聞こうとしたが、食堂に駆け込んでいく後ろ姿を見て質問はまた今度にしようと疑問を胸に閉まった。
「ここのパフェ美味しいんだよ!いつも食べてるの」
俺が食堂に入った途端急にチラチラこっちを見てきた。
これはパフェオススメだから食べてみてアピールなのだろうか…?
よし。少し意地悪してみよう。
「俺もパフェ食べたいな…でも一つしか買えるお金が…困った…」
嘘だ。
お金はある。
だけど、こういう時に天宝寺がどういう反応をするか気になるのだ。
「わ、私自分の分は自分で買うもん」
少し怒ってしまった。
「じゃあ俺はチョコ頼むから天宝寺はいちご頼んでよ。そしたら2人とも別々に買っても少しずつ分けたら二種類の味楽しめるでしょ?」
「うー…」
少しほっぺたを膨らませていたが渋々了承した。
「はい。じゃあ、あーん」
「え!そ、それはだめ!」
恥ずかしさ故か、拒否されてしまった。
ほっぺたいっぱいにパフェを頬張る姿をじーっとみてるとハムスターみたいで…
「可愛い」
声に出してしまった。
それを聞いた天宝寺は顔を真っ赤にして少しずつ食べるようになっていた。
家に帰ると小さな封筒が届いていた。
そこには「ミカへ」と書かれており差出人は不明だった。
中身を見てみると…ネックレスが入っていた。
雪の結晶が刻まれたネックレス。
よく見ると装飾がとても細かく宝石も少なからず含まれてるようだ。
怪しすぎる…差出人不明で俺の名前が書いてある。
ストーカーか…?
親が帰ってきたのか…?
だが、俺はこれからの学校生活について考えていた。
両親共に仕事で家には居ないが、小遣いには困っていない。
今のところは。
そう、今のところは。
これからの学校生活を楽しむためのことを考えるとお金は今よりも必要になるかもしれない。
そう考えた俺は悪巧みを思いついた。
差出人は不明だが宛名は俺だ。
俺がどうしようと誰にも関係の無いことだ。
だから、これどうにかしてお金に変えてやろう…と。