魔界>>>下界《下》
俺は自分自身が魔王様に殺されるのを倉庫の入り口から隠れるようにしてこっそりと見ていた。
自分が殺される光景はあまり見たくはないのだが、本体が死ぬわけにはいかない。
必死で息を殺してその場を凌いだ。
俺の能力は全ての万物を50%の性能で劣化コピーすることが出来る『万物の所有者』。
この能力の本質はほかの誰にも言っていない。
見た目だけの張りぼてが作れる程度の認識しか他の魔族は持ってないだろう。
故にこの場では有利に働く。
あのレプリカの俺に握らせた魔剣はどちらも50%の偽物。
本物はネックレスとして俺の首に下がっている。
倉庫から出る直前にとてつもない殺気を肌で感じた故の瞬時の判断だった。
だから魔王様は死体から拾った魔剣を本物だと思い立ち去ってくれる…!
そう思っていた。
魔王様は赤い魔剣には目もくれずに白い魔剣を手に取り囁いた。
「これは…偽物か…」
全身から冷や汗が出た。
心臓の鼓動が加速していく。
「我が触れれる時点でこれは本物ではない。偽物なら興味は無い…」
魔王様の姿が消えた。
存在と気配を消して機嫌を損ねまいとしていた下級悪魔達は恐怖のあまり気を失っていた。
俺はこっそりとその場を立ち去った。
そして俺は自分の住んでいる宿へと向かった。
下級悪魔達の住居は魔王城の隣にあるボロボロの宿がほとんどだ。
下級悪魔達の親は不明な者が多く、俺たちみたいな産まれて数十年程度の下級悪魔はこの宿に部屋を借りて泊まっている者がほとんどだ。
そして、そんな魔界のゴミのような存在である俺に偽物とはいえ魔王様が直接手を下したのだ。
魔界に居場所はもうないと考えた方がいいだろう…。
荷物をまとめて出ていこう。
そう決心した。
俺は部屋に帰ると荷物をまとめて魔界の門まで馬車で向かった。
魔界の外には天界という場所もあるらしいが、悪魔は魔界以外に居場所はない。
そこでは、悪魔というだけで天界には入れてもらえず下界に強制的に送られてしまうらしい。
魔界の門の門番が驚いた顔で見つめてきた。
「本当に出るのかい?ワシがこの門番を始めて数百年経つが、魔界を出入りしたのは君が二人目だよ」
どれだけ恐ろしいところなんだ…と不安に思いつつも身分証明書を見せ、門の外に出してもらった。
魔界の門の外は一面の雲。
ひたすらの雲。
雲は魔界の空にもあるが決して白くはない。
赤いのだ。
その景色に驚きつつも、ある疑問が浮かんだ。
なんで悪魔が魔界から何も無い雲だけのこの場所に出ないんだ…?
周りに天界らしきものも見えない。
天界とはまだ距離があるみたいだ…。
なぜ魔界から出ないのか?
その答えはすぐにわかった。
足元に突然、穴が空いた。
落下と同時に感じる浮遊感。
底が見えない落とし穴に落ちるような感覚。
だが、すぐにその浮遊感は止まった。
目の前に気配を感じる…大きな気配。
だが暗くて何も見えない。
その大きな気配は口を開いて問いかけた。
「…もし生まれ変わるなら…何に生まれ変わりたい…?」
突然謎の質問をされて理解が追いつかないが、魔界から誰も悪魔が出ない理由がこの存在なら…慎重に答えるべきだと考えた。
質問に答えるしかない。
直感で悟った。
「…魔族以外がいいです」
「なぜだ?」
大きな気配は探るように聞いてきた。
「…魔王様の魔剣を盗んでしまったので……帰る場所がないのです」
正直に答えた。
すると大きな気配は怪訝そうに声を出した。
「……魔王の魔剣…?魔王の魔剣ならとっくの昔に勇者が破壊したはずだ…。もし良ければ見せてもらえないか…?」
少し不安だったがほかに選択肢がなかったので渋々了承した。
「…わかりました」
俺はネックレスに魔力を込めて赤と白の双剣を具現化させた。
「これは、片方は魔王の魔剣。もう片方は聖剣…!?これは先代の勇者が魔王の魔剣を破壊する時に使った聖剣。なぜ魔王が持って…。。まさか、先代の勇者は魔剣を封印するために聖剣の神聖力で封じ込めたのか…。ふむ…それなら先代の失踪の理由が察しがつく…」
独り言が始まってしまい、話が進まなそうだったので横槍を入れることにした。
「…貴方は何者なんですか?」
我ながらストレート過ぎてビックリする質問だったが、聞かないわけにはいなかったので質問した。
「我は閻魔だ」
聞きなれない名前に首をかしげていたが、とてもわかりやすく説明してくれた。
「ゴミを分類する者がいないとゴミはリサイクルされないだろう?それを命でやるのが閻魔の仕事だ。良い魂。悪い魂。我の独断と偏見で勝手に決めてリサイクルしてるのだ。あの雲の穴はワープゲートになっておって雲の海にいる者は無条件で我の前に出ることになっておる」
「俺は何に生まれ変われるんですかね…?」
恐る恐る聞いてみた。
「…人間だな」
耳を疑った。
確かに魔族以外を望んだが人というのは…。。。
悪魔にとって人間は捕食される側でしかなく、天使にとって人間はか弱く守るべき対象でしかない。
弱者。
下界に住む生き物なのだ。
そんな人に生まれ変わるくらいなら俺は魔族の方がマシだ!
魔族にしてもらおうと口を開こうとした瞬間
「勇者も人間だったぞ。ではまた来世に会おう」
…突然送り出された。
そこで俺の意識は途絶えた。