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魔界>>>下界《上》

俺は目の前の景色がまだ理解出来ずにいた。


『あの御方』の声。


下級悪魔達の姿が俺の視界に入ったが、二度とその姿を見ることは無かった…。


目の前に現れた『あの御方』によって俺は殺されたのだから。


~時は数時間前に遡る~


ここは魔王城の食堂。


2階に位置するこの場所は魔族が集まりやすく、今日も賑わっていた。


お昼時は人間の生き血スープが人気だ。


人間の死体から血だけを抜き取って飲むらしい。


魔族なら人間を殺してでも飲むイメージがあるのだが、魔族は人間を虐殺しようとは思っていない。


せいぜい家畜程度だ。


そんな賑わいの中、俺は例にも漏れず1人でスープを飲んでいた。


所謂ぼっち飯だ。


魔族の中でも下級悪魔は個々の力が弱く群れることが多いのだが、俺は群れることに何故か抵抗があった。


しかし、ぼっちな俺でも情報がなかったら魔界では生きていけない。


故に、今日も俺はほかの魔族の会話に聞き耳を立てていた。


「魔王様の魔剣が倉庫でホコリかぶってるの見たって噂聞いたか?」


「それはすげぇ!倉庫でホコリかぶせてるくらいだから要らないんだろうな~…欲しいなぁ」


下級悪魔達は嘘か本当かわからない噂話をよくしている。


聞いておいて損は無い。


魔王様の魔剣…?


流石に嘘だろう…


そう思っていると、噂話をしていた下級悪魔の1体が俺に声をかけてきた。


この下級悪魔は顔見知りでたまに声をかけてくるのだが、明らかに表情からしてロクでもない提案をしに来たのだろう。


「ミカも興味あるか?魔剣」


…やっぱりだ……


実は興味津々だったが、悟られないように声を押し殺して答えた。


「いや…ないよ」


下級悪魔は薄ら笑いを浮かべながら俺の方を見てきた。


「本当か確かめに行かないか?もし本当ならお前の“能力”が役に立つぞ」


誘って貰えるのはいいんだが、明らかに俺を利用しようとしていないか…?


俺が断る理由は山ほど思い付いたが魔王様が使っていた魔剣となると話は別だ。


嘘だとは思うが…興味津々だ。


「ついていくよ。ただし、“能力”は使わない。見たら帰るよ。」


見るだけなら問題ないと思い、そう提案した。


「わかった。じゃあ早速だが倉庫に向かおう」


下級悪魔達は俺を急かすようにしてきた。


そして俺たちは食堂を出た。


倉庫は地下1階にあり、2階から遠そうに思ってしまうが決してそんな事はなかった。


各階の入り口にはワープポータルが設置されていて、どこの階からでもワープ可能だ。


魔王様が御住みになられている階層だけはワープポータルが付いていない。


このワープポータルは魔王様の優しさなのだろうか…?


普段勤勉に働いている俺たちへのせめてもの労い…


…いや、そんなはずはない。


魔王様といえば泣く子も黙る魔族の王だ。


優しさよりも悪意に満ちているに違いない。


俺は早足で倉庫の中へと入って行った。


「「魔剣~♪魔剣~♪」」


下級悪魔達はそんなに魔剣が見たいのか…?


スキップしながら倉庫に入って来た。


「えーっと確か、骨董品の棚に置いてあるって噂だったような…」


下級悪魔が骨董品の棚を漁り始めた。


「あれぇ?おかしいな…ないぞ」


「やっぱり噂かよ」


下級悪魔達は冷めたように棚を漁るのをやめた。


棚には様々な物が並んでおり、どれも本当に使われていないような物ばかりで(ほこり)が被っているのがほとんどだった。


俺は魔剣よりもその棚に並んである物の数々を見て回っていた。


魔剣は見つかればラッキー程度にしか思っていなかった上に、他の物も古いが立派な物もたくさんあったからだ。


ふと、雪の結晶が刻んであるネックレスが目に付いた。


うっすらと透き通っていて金属が使われているとは到底思えない色だったが、ずっしりと重みがありプラチックのような安っぽさもなかった。


とても美しく、俺は自然と手を伸ばしていた。


そのネックレスに触れた瞬間


…全ての時が静止したように思えた。


下級悪魔達も全く動かない。


そして、ネックレスが白く輝き二本の双剣となった。


片方は美しい初雪のような刀身、片方は血よりも赤い紅蓮のような刀身、ひんやりとした冷たさが肌に伝わってきた。


「魔王様の魔剣とは別…だよね?なら貰ってても問題ないかな」


俺は鞄に双剣を閉まった。


ふと気が付くとまた時は動き出していた。


下級悪魔達に剣のことを話すか迷ったが…


あのはしゃいでた様子からして、魔王様の魔剣を盗もうとしていたかもしれない奴らだ。


言わないに越したことは無い。


下級悪魔達はしばらく倉庫を漁っていたが何も見つからなかったようだ。


落胆して倉庫から出ていったので俺もついて行った。


「結局無かったなぁ魔剣」


「噂だから仕方ないな」


2人も見つかればラッキー程度に思っていたらしく、意外と立ち直りが早かった。


倉庫から出るとまた会話を始めていた。


「でも魔剣って二本あるんだろ?見間違えるか?普通」


下級悪魔たちの会話で俺の歩みが止まった。


「魔剣が…二本…?」


震える声を押し殺して俺は尋ねた。


「言ってなかったっけか?魔王様の魔剣は2本あるんだよ。真っ赤な魔剣と真っ黒な魔剣がな」


俺は心当たりしかなかった。


しかし、真っ黒な魔剣…?


そんなもの俺は見なかった。。。


俺が見たのは白と赤の双剣。


やはり別の魔剣…。


俺はホッと胸をなでおろしていた。


「そんなに美しい魔剣なら是非1度お目にかかりたいね」


しかし、俺はどうにも拭えない不安を感じていた。


「お目にかかりたいも何も貴様が持ってるのだろう?」


突然、耳元で怒りに震えた声が囁かれた。


ーーーー死。


それを感じずにはいられなかった。


恐る恐る振り向こうとした。


「誰が振り向いて良いと許可をした?」


その言葉を聞いた途端、体が動かなくなってしまった。


動かないのではない。


動けないのだ。


「この城から聖剣の神聖力を感じたので来てみたのだが、我が魔剣の魔力も貴様から感じるではないか…!魔剣とのリンクが切れてるとはいえ、危うく盗まれるところだったぞ」


言葉は発することが出来るが死の恐怖からか口が開くことは無かった。


「こ、この者が魔王様の魔剣を盗んだのですか!?今すぐに処罰します!」


下級悪魔達は目の前の状況に理解出来ずにいたのか、取り敢えず魔王様に媚を売ることにしたらしい。


しかしそれが悪手となった。


「誰が発言していいと許可をした?」


下級悪魔達は口を閉じて頭を垂れた。


魔王様が首をはねようとしていた。


俺は無意識に叫んでいた


「おやめください!!」


すると突然、俺の方に顔を向け耳元で囁いた。


「もう死んでいいぞ」


意識が遠のく…


なんだ…


この奇妙な感覚は…


そのまま俺は眠るように死んだ。


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