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第四話 ー魔王襲来ー

 魔王が提示した、一ヶ月の期限まで残りわずか。

 どうやら、魔王は期限までの間大人しく待つという訳ではないらしく、次々と、そのしもべ……魔物が現れては人々を襲う。


 そんな中、フェニキスは集落を離れ、来る日も来る日も、一人、魔物と戦い続けていた……



 この日も無数の魔物が現れ、フェニキスが巨人となって戦う。

 傷つきながらも戦いを終えたフェニキスは、近くに湖畔を見つけ、そこへと降り立ち、人の姿へと戻ろうとする。が、ふと湖畔に移る自分の姿を眺める。



「これが、オレの姿か」



 思えば、今まで巨人となった自分の姿を見たことはなかった。

 それから、人の姿へと戻って、また水面に映る自分の姿を見る。


 当然ではあるが、巨人の時とはまるで違う姿……どちらの自分が本当の姿なのかと、フェニキスは思った。


(人の姿は、カルマの姿……なら、これは偽りか?)


 考えだせばキリがない。そもそも、自分の行動は、自分の意思なのか、それともカルマの意思なのか。自分はただ、カルマの意思に従っているだけなのではないか……と。


 フェニキス……リンナから与えられた、自分自身の名。だが、本当に自分は、フェニキスという個として、生きているのだろうか……


「フェニキスー! どこに居ますかー? 返事をして下さーい!」


 リンナの声が聞こえ、フェニキスは驚きで意識を現実に引き戻された。。

 近くの茂みをかき分ける音が聞こえ、そちらへ振り返ると、丁度リンナが茂みから顔を出した。


「やっと……見つけました。こちらの方に降りるのが見えたので、来てみました。お怪我はありませんか?」

「問題ない……だが、なぜここに来た。集落に居た方が安全だろう」

「貴方が心配だからですよフェニキス。ちょっと体を見せてください」


 と、リンナはフェニキスの体を見回す。

 思わず、フェニキスは体を背けると、リンナは即座に回り込んで確認する。すると、右腕に切り傷が出来ているのを見つけた。


「やっぱり。全く、どうして隠すのですか? すぐに治しますから」

「これくらいの傷はすぐに治る。君の手を煩わせるほどの事じゃない……おい、何をする」


 リンナはフェニキスの上着をめくると、至る所に痣が出来ていた。それを見つけた直後、彼女は急いで治癒の力を使う。


「何をしているのですか! こんなに痣だらけにして……もっと自分の体を大事にしてください!」


 本気で、心配をされているのだろう。だが、彼女のそんな言葉に、フェニキスは胸が苦しくなる。


「……それは、この体がカルマのモノだからか?」

「え……」


 突き放すように冷たい口調で、フェニキスはそんな事を口にする。

 リンナは思わず治癒の手を止めてしまう。


 ――ああ、どうして……どうして、こんな事言ってしまうんだ。何故、自分に向けられた気持ちを、信用できない……


 悲し気な表情で俯くリンナを見て、フェニキスは自己嫌悪する。


「……すまなない」


 ただ一言。それしか言う事が出来なかった。

 リンナは首を横に振り、顔を上げる。……その顔は笑ってはいたが、明らかに、無理に作った笑顔だった。


「いいんです。私の方こそ、すみませんでした」

「そんな……君が謝る必要なんて無いだろう」

「自分の気持ちを、押し付けてしまったんです。謝らなければいけないのは、私です……フェニキス、貴方の体を、治させてください」

「……分かった。頼む」


 疲れているだろうから……と、フェニキスはその場に座るように促され、言われた通りにすると、リンナが治癒を始める。






「家には……帰らないのですか?」


 治癒の最中、リンナが問いかける。


 フェニキスはこの所ずっと、魔物と戦ってばかりで、家どころか集落にさえ戻ってはいない。

 魔物は何故か、精霊の生まれる神殿の近くでは発生しない。集落は神殿の近くに形成されているので、魔物が生まれてすぐに集落が襲われるという事はない。そのため、フェニキスは集落が襲われないようにと、気配を感じればすぐにその場に赴き、退治している。

 移動を続けなければいけないから、帰ることが出来ない。……そう、皆には伝えていた。

 だが、本当の理由はそうではない事を、リンナは知っていた。


「やっぱり、嫌ですか? みんなと、一緒に居る事が……」


 フェニキスの返答がなかったため、リンナは踏み込んだ質問に変えた。


「怖いんだ……オレがカルマではないと、知られる事が」


 リンナは、治癒の手を止める事はなく、ただ黙ってフェニキスの話を聞く。


「みんなは、オレをカルマだと思っているから、安心している。たとえ姿が変わろうと、カルマだからと、信用する。……だが、オレがカルマではないと知ったらどうだ? 巨人の正体が得体の知れない存在だと知ったら、それを受け入れられるか? オレはカルマを殺して体を得たようなものだ……そんな奴を、誰が受け入れる……」


 言葉が出なかった。それを否定できる自信が、リンナにはなかった。

 ただでさえ、今は魔王や魔物といった得体の知れない脅威に晒されている住人達……救世主と思っていた巨人が、人の姿はカルマであるにもかかわらず、その中身は別人と知れば、信用できるとは言い難い。

 全員ではないだろうが、疑う者はきっと居るだろう。信じてくれる者も、居るだろう。

 だがそれは、分裂を招く。


 一時そうなりかけた所を、巨人という救世主の下に一つに纏まったのだ。それを、壊す訳にはいかない。そんな事は、誰も望まない……


 だからこそ、彼は一人で居る事を選んだ。それが正解かはともかく、間違いではないと信じて。……だが、それら全てを背負うのは、一人には重すぎる。

 誰かを守るだけで……誰が、彼を守るのか……


 フェニキスは帰る気はない。その意思は、ちゃんと確認した。


「傷は治った。礼を言う。……さあ、もういいだろう。早く帰るんだ」

「……いいえ、帰りません」

「何を言っている。お前は狙われているんだぞ? 帰った方がいい」

「それを分かっているからこそ、帰りません。狙いは私です。であれば、私が居るから、集落が狙われるのです。全く狙われない、という事はないでしょうが、戦う知恵は伝えました。彼らは自分の身を守ることは出来るでしょう。……フェニキス、貴方一人で、誰が戦いの傷を癒すのです? 私は、私の力が必要だと思ったから、ここに来たのです」





 きっと、何を言っても彼女は折れないのだろう。そういう、覚悟と決意を感じる顔をしていた。

 たとえ、無理に送り返したところで、彼女はきっとまた集落を飛び出して自分を探しにくるのだろう。その間に何があるとも分からない。


「分かった。そこまで言うのなら、付いてこい」

「ありがとうございます。断られても付いていくつもりでしたから、円満に解決出来て何よりです」


 今、目の届くところに居るのなら、このまま付いて来てもらった方が、良いのかもしれない。と、フェニキスは自分に言い聞かせた。

 内心喜びを感じている自分に、目を背けて……


「フェニキス、戦いの後で疲れているでしょう? 折角ですし、私が見張りますから、あの木陰で休みましょう」

「断っても無駄なんだろう?」


 その通り、と言うようにリンナは頷いた。そして、フェニキスの手を引いて、茂みの方へと向かう。


 大き目の木の陰に座ったリンナは、フェニキスに顔を向け、ポンポンッと軽く太ももを叩いてみせる。まるで招いているように。


「何のつもりだ」

「地べたで寝るには硬いでしょう? だから、ほら」


 今度は両手を広げて招く。

 だがフェニキスが渋っていると、膨れっ面で立ち上がり、近づいて無理に引き寄せた。

 抵抗しない内に、フェニキスはリンナの太ももに頭をのせる事になり……そして、心地よさを感じてしまったことに、悔しさを感じた。

 これではまるで、親子のようではないかと。


「折角ですから、子守歌も歌いましょうか?」

「そうだな、ここまでやられたんだ。もう任せるよ」


 自棄気味にフェニキスがそう言うと、リンナはクスクスと笑って、その後、子守歌を口ずさむ……

 元々綺麗な声だと思ってはいたが、その歌声は透き通っていて、美しい旋律と相まって、彼女の子守唄を聴いて、驚くほどに心が安らいだ。


「綺麗な歌だな。どこでそれを?」

「お母様が、私が赤子の時に、歌ってくれたんです。気にいっていだだけました?」

「まあ、戦っている時よりは、落ち着くよ」

「何ですかそれ」


 素直じゃないなと、リンナは微笑む。



 そんな、穏やかな昼下がり。……それは起きた。


 二人は、風がざわつき、空気がピリピリとし始めたのを感じた。

 何かが来る。そう感じて、二人は空を見上げた。





 空が割れ、裂け目が広がり、穴が開いた。

 フェニキスはアレが何かを知っていた。……『門』だ。人間界と、精霊界を繋ぐ門。……だが、おかしい。

 門が開くのは年に一度……今年はもう既に、一度開いているのだ。

 それに、門自体の様子もどこかおかしい。


 門が現れた直後、強い風が起こる。

 周囲の木々が浮き上がり、門へと吸い込まれていく。……フェニキスは、巨人の姿へと変身し、リンナを庇う。


 暫くして吸い込みが治まると、今度は門から吐きだされるように先程吸い込まれた木々や、どこから吸い込まれたのか、壊れた家屋までも落ちてくる。


 そして、それらが一通り落ち着いた時、フェニキスとリンナは、魔物の気配を感じ取った。それも、今までに感じた事の無い程に強大で、邪悪な気配……



 次に門から現れた黒い影。

 門から抜けて顕わになったその姿は、筋肉質な体つきをしており、人のように伸びた背筋から、獣のような手足と背中には蠅のような羽が生えており、そして、その顔はまるで昆虫のようだった。


 それを一目見たその時、二人は直感的に何者なのかを理解した。



 そう、アレが……あの異形の怪物こそが魔王。『魔王・ベルゼブア』なのだと。




「リンナ、ここで待っていろ」

「気を付けてください。ただならぬ力を感じます……」


 フェニキスは頷き、そして異形の怪物へと向かって飛んでいく。


 飛び去る彼の姿に向けて、リンナは祈るように目を瞑る。


「どうか、無事に帰ってきてください……」



 異形の怪物と、空で対峙するフェニキス。

 フェニキスは剣の切っ先を怪物に向けて突きつける。それに対して、怪物は、気にしてないかのように辺りを見回した後、フェニキスへと視線を向ける。


「ここが精霊界か、良い所じゃないか。……目障りなものが、一つある事を除けばな」

「お前が魔王か?」


 フェニキスが問いかけると、怪物は首を傾げた。


「魔王? お前達は我をそう呼ぶのか。まあ、魔王かどうかはしらんが、我が名はベルゼブア。……この世界の王となるのだから、魔王と言う呼び名も、あながち間違いではないかもなあ」


 ベルゼブア……間違いない、この怪物が魔王。


「それで、お前は何者だ。こちらが名乗ったのだ、そっちも名を言うぐらいいいだろう?」

「さあな、それはオレも分からん……だが、お前が知る必要もない」


 フェニキスは剣を構え、ベルゼブアに向かって斬りかかる。


「野蛮な奴め……まあいい、遅かれ早かれお前は潰すつもりだったしな」




 それから、ベルゼブアとフェニキスは互いに力をぶつけ合う。

 その強さは互角で、二人がぶつかり合う度にその余波が地上にまで届き、周囲の地形が変形してしまうほどだった。


 このままでは埒が明かない……フェニキスとベルゼブアは、互いに渾身の力を込めた一撃を放った。

 凄まじい破壊力を持った二つの攻撃がぶつかり合い、彼らは耐えきれずに別々の方向に吹き飛ばされてしまう……



 それからどれ程時間が経っただろうか。辺りは既に真っ暗になっていた。


 フェニキスは意識を取り戻し、体を動かそうとすると、全身に激痛が走った。どうやら、ベルゼブアとの戦いで負った傷は、思っていた以上にかなり深いらしい。

 暫くここで大人しくしていれば治るだろうが、リンナを一人にしたままには出来ないと、無理矢理体を動かし、彼女を探しに向かおうとする。……だが、やはり体が言うことを聞かず、あまり進まない内に倒れてしまう。


「何をしているんですか、フェニキス」


 這ってでも探しに行こうとしたその時、背後から聞き慣れた声が聞こえた。

 段々と足音が近づき、その音が近くで止まると、フェニキスは誰かに仰向けに返された。

 月明かりで照らされ、その人物がリンナだと分かった。


「まったく、こんな体で無理をして……貴方なら、暫く大人しくしていれば、もう少し良くなっているでしょう? 何を急いでいたのですか」

「それは……」


 まさか、本人に「君が心配だから探しに行くためだった」とは言えないフェニキスは、何も言わずに黙り込んだ。


「……まあ、言う気がないのなら、それで構いません。ですが、今から治癒するので、動かないで下さいよ?」


 と、リンナはフェニキスの頭を自分の脚に乗せて、治癒の力を使い始め、フェニキスも体が少しずつ楽になっていくのを感じる。が、この状況は少し恥ずかしくなり、何か気を紛らわそうとする。……と、その時気がついた。まだ、空には門が開いたままだという事に。


「門はまだ開いたままなのか」

「ええ……今の所は何もないですが、安定している訳ではないようですから、これから何が起こるか……」


 そう話してすぐの出来事だった。


 門が稲妻を放ちだし、それが治まると、今度は大量の魔物が現れる。


 フェニキスは治癒の最中であるにも関わらず、フェニキスはリンナの傍を離れ、剣を手にしてそれを天に掲げる。

 フェニキスは全身が光に包まれ、巨人へと変化する。


「待ってくださいフェニキス! 貴方の体は、まだ万全ではないのですよ? そんな状態で戦っては……」

「だとしても……!」


 リンナの制止も聞かず、フェニキスは魔物の群れへと飛び去っていく…… 



 門から現れた、魔物の群れと戦うフェニキス。

 一体一体の強さはそれ程強くはない。だが、ベルゼブアとの戦いの傷が癒えていない状態での戦いである事と、敵の数が多すぎる事が重なり、フェニキスは徐々に押され始めていた。


 そして、ついに体力も尽きてしまったのか、フェニキスの巨人化が解けてしまい、人の姿で地に落ちてしまう。


 人の姿は、普通の人間よりは頑丈とは言え、巨人の姿に比べれば脆い。

 空からの落下、ただでさえ癒えていない魔王との戦いの傷。戦うどころか、もはや動くことさえ困難だ。


 そんな状況で、魔物の群れの内一体がフェニキスの元へと飛んでくる。


 流石にフェニキスも、「もうダメか」とそう思った時……


 フェニキスは、目の前の光景を疑った。……何者かが、魔物を撃退したのだ。

 いったい誰なのか……暗がりに隠れてしまっていた顔が、月明かりに照らされて見えるようになり、フェニキスは驚く。


 その人物が誰なのか、フェニキスは一目見るだけで分かった。……その人はカルマの記憶に、最も強く残っている人だったから……だが、ここに居るはずの無い人でもある。






「リクト……何故……」


 フェニキスがそう呼びかけると、その人は、首を傾げてこちらに振り向いた。


「え? アンタ、どうして俺の名前を……ああ! お前、カルマ! カルマだよな!」


 こちらが誰か気づいた途端、駆け寄ってくるリクト……近づいて来た彼の姿を改めてみると、体中に打撲や切り傷があるのが分かる。

 しかし何故、彼が精霊界に居るのか……


「誰かが襲われてると思って来てみれば。まさかこんな所で再開できるなんてな……大丈夫か? 立てそうか?」

「ああ、問題ない」


 リクトに手を差し伸べられるも、フェニキスは一人で立ち上がる。


「そうか。とりあえず大丈夫そうで良かった」

「お前の方こそ大丈夫なのか? 酷い怪我に見えるが……」

「ああ、これくらいどうってことねえよ。さっき助けてやったの見たろ? 問題ねえっての」


 リクトは、自分の腕を軽くはたいて大丈夫だと見せつけるつもりだったらしい。が、やり方が悪かったのか、苦しそうにうずくまる。


「無理をするな。オレの知り合いに、傷を治す力を持った奴が居る。……今は離れているが、探せば見つかるだろう」

「本当か? 悪いな……んじゃ、探すの手伝うよ。どんな奴だ?」

「……今バラバラになるのはマズい。オレがそいつを分かっているから、大丈夫だ」


 今のフェニキスの態度が、リクトは気になったようで、フェニキスの肩を掴む。


「いやさあ、一緒に動くにしたって、俺の方もどんな人なのか分かってた方が、探しやすいんじゃないかなあ? 今は暗いんだぜ、お前一人じゃ見落とすって事もあると思うしさあ」


 リクトが顔を覗きこもうとしたが、フェニキスは顔を逸らす。が、それで何かを察したらしい。


「あ、分かった。そいつ女なんだろ! しかも、多分若いんだろ」


 無言を貫くフェニキスに、リクトは顔をニヤつかせながら肩に手を回して密着する。


「多分だけど……お前そいつの事好きなんだな? だから言いたくないんだろ、そうなんだろ! いやあ、カルマくんも隅に置けないなあ!」


 フェニキスは大きくため息を吐いた。こうなりそうだから言いたくなかったのだと。



 それにしても、やはりカルマと呼ばれるのは慣れない。どうしても、違和感を感じてしまう。


 ――待て、『カルマ』……? こいつはオレを、カルマと呼んだのか?


 いつもの違和感だけではない。別の違和感をフェニキスは感じた。

 そして、もう一つある疑惑が、フェニキスの中で渦巻き始める。


「……リクト。お前、どうやって精霊界に来た」

「え? なんだよいきなり……あ、お前そうやって話題逸らそうと……」

「お前は人間界に居た筈だ。何故、今この精霊界に居る」


 リクトの言葉を遮り、フェニキスが睨みつけて問う。


「わ、分かったよ。……そうだよな、まあそこが気になるのも、無理はない。実は、俺達の里に、バケモンが現れてな。そいつが、無理矢理門を開きやがったんだ。それで、無理矢理開かれたせいか安定しなくて、周りの物を吸い込み始めちまってさ。それに俺も巻き込まれちまったんだよ」

「門は空に開いていただろう……よく、無事に済んだな」

「それは、運が良かったよ。木とかに上手く落ちたお蔭だ。まあ、こんな怪我はしちまったがな」


 焦る様子はない。もう少し、話を続ける事にする。


「そうか、そのバケモノ……あの門から出てきた奴かもしれんな。オレ達精霊界の住人は、そいつと戦っているんだ。……リクト、お前も一緒に戦ってくれないか」

「いいのか? オレは、ここの住人じゃないのに……」


 不安そうに聞き返すリクトに、フェニキスは力強く頷く。


「正直、戦うには充分と言える状態じゃないんだ。友である、お前が居てくれれば心強い

「……分かったよ、ダチにそう言われちゃあ断るわけにはいかねえな。俺に任せてくれ、一緒に魔王を倒そう」

「ああ、期待してるよ。なら、このまま怪我をしたままじゃいられないな。一緒にリンナを探そう。……背中は、任せるぞ」


 リクトが頷いたのを確認すると、フェニキスは彼に背を向け、一歩前に出る。……そして、腰のあたりで剣を出現させ……





 剣を……リクトの腹部へと突き刺した。


 



「……カルマ……なぜだ……」


 息も絶え絶えに、リクトが言う。


 ――カルマなら、例え姿だけであろうと、友を手に掛ける事は躊躇うだろう。これは、間違いなくオレの……オレ自身の意思。


 リクトから剣を引き抜き、フェニキスは振り返る。


 彼は、両手で刺された腹部の傷を押さえていた。だが、当然その程度では流れる血を止めることなど、出来はしない。そう、止めどなく流れる、その……ドス黒い血を。


 リクトの姿をしたその男は、恨みがましい表情でフェニキスを睨む。


「おのれ……何故分かった……」

「理由は二つ。リクトは、『カルマ』とは呼ばない。いつも『師匠』と呼んでいた。そしてもう一つ、『友』ではないんだよ……カルマと、リクトはな」


 フェニキスの言い方が引っかかったのか、その男は首を傾げて問いかける。


「まるで、お前はカルマではないような口ぶりだな……お前は何者なのだ……」

「ああ、その通りだ。オレはもう、カルマじゃない……アンタと同じさ。だから気づいた

……いや、同じじゃないな。お前は記憶は覗けても、人の気持ちまでは分からんらしい」


 驚くその男の顔を見て、フェニキスは不敵に笑みを浮かべると、剣の切っ先をその男に向けた。


「そうだな、今のオレなら、自分が何者なのかはっきりと分かる。今こそ名乗ろう……オレの名は『フェニキス』。魔王ベルゼブア……お前を倒す、戦士だ」

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