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あなたが世界を壊すなら   作者: 青山春歌
第一章
8/12

決勝戦

8

太陽が頂点を過ぎ、日差しが一層強くなった頃。


レシリアは人壁ひとかべでできた闘技場に足を踏み入れた。

瞬間、大歓声が場を支配した。

ほぼ全て野太い声だった。


レシリアは気にせず、薄く緊張の色を浮かべた表情のまま闘技場中央まで歩く。

いくら今までの敵を楽に片付けて来たとはいえ、この決勝戦だけは一筋縄ひとすじなわではいかない。

確信に近い予感を、意識ではなく体で感じる。


そして、レシリアの目線の先に、 現れた、決勝戦の相手が。

レシリアと同じように闘技場に入ってくる男は、しかし今までの敵とは違った。


容姿、体格、雰囲気。


どれをとってもおよそ騎士のそれでは無い、柔和にゅうわな若い男。

風貌ふうぼうどおりの柔和な笑みを浮かべ、遊びにでも行くような軽快けいかいな足取りで向かってくる。


───強い。


と、レシリアは感じた。少なくとも、自分よりは。

決して引きつっているわけではないその笑み。

この大歓声にめぐらされた緊迫の糸を、何も無いかのようにすり抜けてくる足取り。


自らと比較ひかくして、その力量の差を実感した。

しかし、レシリアの目にあきらめの色はなかった。

───相手が強くたって弱くたって、やることは一つ。


必ず、勝つ。


そして。

おおよそ騎士団の入団試験の決勝戦には似合わぬ男女が、闘技場の中心にい降りた。


「それではこれより、シシュバラ国が国軍、『クレセントナイツ』の入団試験。決勝戦を始めます!」


審判員の声に合わせて、両者が自らの得物えものさやから抜き出した。

心地よい金属音と共に、レシリアは白銀のレイピアを。相手は漆黒しっこくに染まる細身ほそみ小太刀こだちを構える。


ふと、相手の若い男がその風貌ふうぼうどおりのおだやかな声で言った。


「僕はノーマっていいます。貴女あなたは?」


対戦前に何を呑気のんきな。そう思ったが、そのたたずまいに隙はない。油断をしているわけではないらしかった。


「私は、レシリア。リズ=レシリアです」


鋭く吐き出された言葉に、場の空気が一気に緊張した。

両者が再び剣を握りしめる。


その瞬間、始まりの笛が鳴り響いた。


先に動いたのはレシリアだった。

鋼鉄こうてつのブーツの底が砂塵さじんを起こす間もなく、レシリアの体が一瞬のうちにノーマの元へ放たれた。


相手は男。長期戦に持ち込んでは、いくら強者であるレシリアでも体力では及ばない。


その事を理解していたレシリアは、早々に決着をつけるために初撃に最大の力を込めた。

しかし、そう簡単に物事は進まない。

レシリアの刺突しとつはノーマの脇腹に吸い込まれる寸前、その漆黒の小太刀に弾かれた。


───やはり強い・・・。


考えて、しかし硬直こうちょくしているヒマはない。

弾かれたレイピアを引き寄せ、踏み込みに合わせて再び刺突を放つ。

はなから一撃で決まるとは思っていない。

次なる手は、先程と変わらぬ威力いりょくとスピードがあった。


しかし、これも難なく弾かれる。


今度は体ごと吹き飛ばされ、数歩後ずさりをしてしまった。

好機チャンスとばかりに、今度はノーマが動く。

軽く振り下ろされた小太刀。

レシリアの認識はその程度だった。それほどに、軽い動作だった。


しかし────受け止めようとかかげられたレイピアは、その衝撃を受け止めきることができなかった。


すさまじい圧力が、レシリアの身体を突き抜け踏ん張っていた足元の地面を容赦ようしゃなくえぐった。支えをなくしたレシリアは勢いよく地面に転がる。


───なんて力・・・ッ!


恐怖感から、レシリアは立ち上がると同時にバック転で更にノーマから距離をとる。

息はすでに上がり、額からは数滴すうてきの汗がっていた。

にらむように見上げた先に居たノーマ。その表情は、戦いが始まる前と同じ笑顔だった。

軽い絶望感がレシリアの体を硬直させる。


距離があるため、ノーマがすぐに攻撃を仕掛しかけてくる危険性はない。

しかし、レシリアの体は、相手との力量の差に完全にすくんでいた。


───勝てる・・・?いや、不可能だ。強過ぎる。


───でも、勝たなきゃいけない。勝たないと私は───。


その時、ノーマは動き出していた。

勢いを付けたダッシュからの振り下ろしだろう。

しかし、レシリアは動けない。

恐らく今度こそ受け切れずに敗北する、という確信に近い予感が、諦めを呼び寄せてレシリアの動きを阻害そがいしていた。


そして、ノーマが迫り、申し訳程度に掲げられたレイピアを弾き飛ばそうとした────その時。

聞こえた気がした。いや、聞こえた。


『決して諦めてはいけない。自分にだけは、負けてはだめ』


幼き日に聞いた、母の声が───。


その瞬間、レシリアは動きだした。

先ほどまでが嘘のように身体中に力がみなぎり、スイッチの入ったレシリアに呼応こおうするように白銀の細剣が光った。


「・・・うぁっ!」


すでに空中にいたノーマだったが、いきなり唸ったかと思うと目を強く閉じる。当然振り下ろす小太刀は不安定だ。

───そうだ・・・私は、負けてはいけない。自分にだけは、負けない。


───私は、母のように強くなる─ッ!


「ハァ───ッ!」

レシリアは地面を蹴った。

振り下ろされる小太刀にぶつかる寸前、レイピアを両手で支え、小太刀の刀身にぶつけた。

押し負ける。いいや、今回はちがう。


小太刀と細剣は、垂直にまじわっていなかった。


切っ先の方に大きくかたむいていた細剣に沿うように、小太刀の斬撃ざんげきが流れていく。

そのまま小太刀はレシリアに届くことなく地面へ叩きつけられ、勢い余って突進してきたノーマの脇腹に容赦なく回し蹴りを御見舞おみまいした。


吹き飛んだノーマを見て、レシリアは地面に着地する。

砂埃すなぼこりが舞う中、レシリアはノーマが斬りつけた地面をみる。そこにあったのは、かわいた地面にくっきりとついた亀裂きれつ


ノーマの力の強さを、またもや感じさせられた。

しかし、レシリアの目には諦めの色はない。

有るのは、覚悟。冷ややかに研ぎまされた闘志。


砂埃が晴れ、その固まった表情を少しだけゆがませたノーマが向かってくる。

これ程の力を持つ相手だ。このまま続けても押し切られるだろう。レシリアの頬に一筋の汗が流れた。


脇腹に回し蹴りをくらったとは思えない飄々《ひょうひょう》とした動作でノーマは歩いてくる。余裕を見せつける様に小太刀をクルクルと手の上で回している。

その支点となっている小太刀のつば。その精巧な装飾そうしょくが、キラキラと光っていた。


───これだ。


確かに、その体躯たいく何処どこからそんな力が湧いてくるのかという程の斬撃を繰り出してくるノーマだが、レシリアはその『弱点』に気づき始めていた。

小太刀の熟練者じゅくれんとは思えない力任せの攻撃の、その細部に、わずかな隙があることに。


ノーマが、もてあそんでいた小太刀をもう一度握り直し、そっと目つきを変えた、その刹那せつな

圧倒的な力の蹴りと共にノーマが駆けた。


ここで決める。


両者の想いは重なった。

レシリアも、レイピアを突き出し鉄のブーツを唸らせ猛突進を敢行かんこうする。

白銀にきらめく刀身と鈍く光る鎧が、一本の矢のごとく空気を唸らせた。


対するノーマは、この一撃を弾いた後に勝負を決めるつもりなのか、小太刀を中段に構えて駆けている。


───いけるッ!!


レシリアは一層の闘士をその目にたぎらせた。

両者の距離が縮まり、ノーマがレシリアの間合いに足を踏み込んだ瞬間、レシリアのレイピアが凄まじいスピードで放たれた。


自信のある刺突でくる。


この攻撃を予測していたノーマは、その威力に対抗すべく握りしめた小太刀でレイピアの切っ先を寸分違わず弾く────はずだった。

ノーマは、目の前の光景に目をうたがった。

そこには───


突き出されたはずのレイピアが存在していなかったのだ。


ノーマが息をむ間もなく、無くなった筈のレイピアが再びノーマの前に現れる。


「ハァァァァァッ!!」


レシリアの咆哮ほうこうと共に、かすむほどの速度で繰り出されたレイピアの切っ先が、振り切られた後の小太刀に突き出される。


そして───狙い通り、小太刀が空中で遊ぶその瞬間に、白銀の切っ先が小太刀のきらびやかな鍔を容赦なく突き刺した。


精巧せいこう装飾そうしょくが火花を散らしてくだけ、直後、振り上げられたレイピアに抗うすべもなく空へと舞った。

音を立てて回転する小太刀が土の地面に突き刺さる頃、入場時を上回る大歓声が闘技場を揺らした。






あと一話で第一章完結です。

次話もよろしくお願いします!


⚠お知らせ⚠

本日よりTwitterに『青山 春歌』名義でアカウントを作成しました。

更新日時や耳より情報などなどをお届けする予定です。

是非フォローをよろしくお願いします。

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