決意
間違って投稿してしまい申し訳ありません。
こちらが7話です
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その後の試合は、あまり面白いものではなかった。
もちろん数を重ねるごとに相手は強くなっていく。もともとの参加者が多いのだから当たり前なのだが、すでに七戦目を終えているレシリアの敵は、かなりの腕利きとなっていた。
しかし、気分が乗らず、ろく集中も出来ない状態のレシリアを前に、その腕利きたちは難なくひれ伏していく。
なぜか。
それは、レシリアの『強さ』が常軌を逸するものだからだ。
身体能力的な強さもそうだが、レシリアの『強さ』を支えているものは間違いなく頭抜けた『頭脳』である。
見た目の要因───つまり、体格や性別などでは決して敵わない敵でも、レシリアはその『頭脳』を使って切り抜けることができる。
また、レシリアの『頭脳』の核となっているものがある。
それは、圧倒的なスピード思考力。
どんなに劣勢でも、自らの勝ちに有利に働くものを瞬時に漏れなくかき集め、優秀な頭脳で解析、考案し、実行する。
故に、レシリアには『敵の攻撃を防御』するという考えはない。
刺突を繰り返し、敵の動きの癖などを抽出して瞬時に畳み掛けるのが、今のレシリアの勝利へのルーティンだ。
レシリアは、近年急成長を遂げている『シシュバラ』に対して送られた、公式のスパイだ。
しかし、スパイとして送られる際、戸籍や学歴など、『レシリア』という名前と容姿から身元が分かってしまう情報は全て抹消されている。
故に、今のレシリアは『レシリア』 という名前の他に、これまで生きてきた証は何一つ持っていない。
本当は名前すらも抹消される予定だった。
しかし、どうしても名前だけは譲れなかった。愛する母親から貰った、この名前だけは───。
おあつらえ向きに用意された簡易テントの椅子に座りながら、今はもう存在しない自分の過去を思い出していると、「そろそろです」と控えめな声が布幕の隅から発せられた。
「ご苦労様です」
そう言って微笑むと、隅から顔を出していた少女の顔がポッと紅く染まって、そのまま勢いよく走り去っていった。
次は『クレセントナイツ』入団試験の最終戦。
つまり、決勝戦。
この試合の結果で全てが決まる。
この前までの試合をいくら楽に切り抜けたからと言って、次の試合で負けたら意味が無い。
相手は、百数十人の参加者を蹴散らしてきた猛者。
初戦のあの青年のことを気にしていては、万が一のことが起こってしまうかもしれない。
気合を入れ直すために、パンパンっと頬を二回両手で叩く。
流石のレシリアも、この時ばかりは鼓動が高鳴り、額に汗を滲ませた。
───しかし、勝つしか道はない。
スパイという任務の為───ではない。
あの夜空の下で交わした約束を、果たす為に。
先程まで入っていなかったスイッチが自然に入る感覚を得て、レシリアは会場へと向かった。
明日午後7時に次話を投稿します