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あなたが世界を壊すなら   作者: 青山春歌
第一章
6/12

波乱の幕開け

6

太陽が南東に向かって、ジリジリとその高度を伸ばしている。


雲一つなく、青々とした空の色がよくえていた。

その日差しを一手に受ける『クレセントナイツ』入団試験の会場には、多くの人々がめかけていた。すでにトーナメント戦は始まっており、徐々に参加者の総数を減らしながら進行していく。


数ある戦いの一つ、レシリアの前の戦いは終盤しゅうばんむかえる。


双剣と太刀が縦横無尽じゅうおうむじんに駆け巡る。

太刀の男がほんの少しの隙を見せ、それを見逃さなかった双剣使いが男の太刀を叩き落とした。

シャリっと刃が砂をかじり、双剣が首元に突きつけられた直後、太刀の男は降参を宣言した。


そして───そのの戦いの終わりを告げる笛が鳴り響き、レシリアの番がやっていた。


前の二人が退場し、レシリアは堂々とした足取りで入場する。


瞬間、会場は大いに盛り上がる。

もともとこの入団試験は国民の数少ない娯楽ごらくであるが、参加者のほとんどが筋骨きんこつりゅう々の男衆おとこしゅうなので、レシリアのような金髪美女が参加していると聞いた国民がこぞって詰めかけていた。そのため、まだかまだかと待ちびていたレシリアの初戦に、会場の盛り上がりはすさまじいものだった。


しかし、レシリアは知らぬ顔で入場する。


相手も準備が出来ていたようで、すぐに両者が所定しょていの位置についた。

今後の武運を左右するであろう、初戦の相手。

背丈、体格ともに特筆とくひつすべき点はないが、頭にグルグルと巻かれたターバンが、レシリアの脳に一筋の警戒をにじませた。


顔を合わせてわずか数秒後、勢いよく開戦の笛が鳴り響いた。


開始早々、ターバン男は力強く地面を蹴り、レシリアに向かって小刀を突き出してくる。


───小手調べをしている暇はない、さっさと優勝を頂かないと。


レシリアは遊ぶ考えを捨て、自らの愛剣レイピアに手をけ反撃の時を待つ。


そして、ターバン男がレシリアのレイピアの間合いに踏み込んだ瞬間、レシリアは左足をぐっと踏み込みレイピアを小刀に向けて突き出した。

鋭い金属音と共にターバン男の小刀は吹き飛び、その先にあったターバンすらも引っ掛けて吹き飛ばした。

白い薄手うすでの布が、空に舞った。


どんな顔をしているのかと目を向けたその先にひざまずいていたのは。


男───いや、まだ青年の域をだっしていない男児だった。

そして、その目に宿った、常軌じょうきいっした『憎悪』の色に、レシリアは目を見張った。


「君は・・・昨日の──っ」


そこにいたのは、昨日レシリアが声をかけるのを躊躇ちゅうちょした、あの青年だった。


不意によみがえった記憶に若干じゃっかんの隙を見せてしまったレシリアだったが、現実に戻り始めたところで "あること" に気が付く。


それは、異様な光景だった。

先程までレシリアに熱烈ねつれつな声援を送っていた観客たちが、一変して物凄い形相ぎょうそうで青年に向かってののしりり声を上げたり、中指を立てたりしていた。


そこに、老若男女ろうにゃくなんにょや職の差別はない。

だが、レシリアには、その光景がひどく不快だった。

しかし、レシリアの気持ちなど知るよしもない観客たちは、目の前でひざまずく青年を全力でけなしている。


「またお前か!」 「帰れ!」 「俺らの前に姿を見せるな!」 「裏切り者」 「りないやつだ」 「くたばれこのやろう!」


レシリアには、その光景が、ひとりを輪のように囲んで踏みつけるいじめの様に見えて。

黙って見ていられるほど、レシリアは大人ではなかった。


しかし、ここで無闇むやみに自らの感情を爆発させるほど、子供でもない。

レシリアの影をかぶり、その異様な目の色もあいまって、夜の果てのような暗い雰囲気を醸し出す青年に歩み寄り、そっと手を差し伸べた。


「立って。事情はよく知らないけれど、まだこの戦いは終わってないから」


「・・・いらない」消え入る声で呟く。

「? なにがいらないの?」


「そういう無駄な気遣きづかいはいらないんだよ! お前もどうせ俺のことを見放すんだ!」


急に態度を変えて叫び出した青年に、レシリアは思わず一歩後ずさってしまう。

青年はそんなレシリアを更に突き放す。


「お前みたいな奴は何人もいたよ!! みんなからバカにされる俺が可哀想かわいそうだって。でもみんな、最後には同じだ! しらない顔で無視していなくなる! もううんざりなんだよそういうのは!」


涙目になった青年は、拳を血がにじむまで握り込んでいた。


いつの間にか観客はみな黙り込み、嵐のあとの静けさのように沈黙が満ちる。

レシリアも、その必死さに言葉を失った。

数秒後、青年は落ちていたターバンを拾って、ひとしきり周囲を睨み、街の方に駆け出した。追うものは誰もいない。


駆け音が去った後も、重い沈黙は長く糸を引き──


「17番逃亡のため、33番の勝利!」

という審判員の声だけが、苦しそうに沈黙から顔を出すのみだった。






時は戻って、『クレセントナイツ』入団試験直前。『シシュバラ』国内、とある建物の中。

「やることは、さっき伝えた通りだ」

「はい。──でも、本当にあれで・・・?」

「あぁ、心配はいらない。全ては上手くいく」

「・・・分かりました」

「あと、くれぐれもエインの見張りをおこたるなよ」

「ええ、分かっています。では───」


この時、この入団試験の『謎』。そして、世間一般ではシシュバラの『謎』と呼ばれている出来事が動き始めていた。




次話もよろしくお願いします!

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