月の一片
4
そこには、たくさんの人々が佇んでいた。
様々な装備に身を固め、大小長短色とりどりの得物を大事そうに持っている。
「───じゃー、時間になったので番号順で一列に並んで下さーい」
間延びした青年の声に、左胸に番号入りのバッチをつけた男たちが無言で並ぶ。
なかには少年と思しき風貌の者も居たが、周りと遜色ない一端の武者の雰囲気を持っている。
───なかなか楽しめそうね。
そんなピリピリとした一場面を見て、レシリアは少しだけ拳を握りしめた。
緊張、ではない。強い者と戦える、という期待を感じたからだ。
しかし、見渡す限りの男衆のなかで、レシリアはまさに紅一点だった。
今は結んでいるが、普段は背中に流れるほど長い金髪に、見るからに高価な質の高い金属鎧。スラリと伸びた真っ白な脚は外気に晒されており、レシリアが『女』であることを否応なしに周囲に伝えている。
また、彼女の得物がレイピアという点も、周りからの注目を集めるのに一役買っていた。
しかし、当のレシリアはその視線を慣れたものよと華麗に流し、静かに戦いの時を待っていた。
そして、先程から集う武者たちをまとめていた青年が前に出る。
「それじゃー、まあ、はい。この度は我らがシシュバラの国軍『クレセントナイツ』の入団試験に参加して頂き、まことにーあざーす」
見るからにやる気の無い挨拶に、戦いを前に士気だった男たちは露骨に顔をしかめたり舌打ちをしたりして、青年に無言のプレッシャーをかける。
しかし、青年は全く動じることなく淡々と続ける。
「わたしくめはー・・・。あー自己紹介か、めんどくせえな・・・。・・・『クレセントナイツ』の団員のーエインと申しまーす。それではルールの確認に参りたいと──っと、」
突然、鋭く風を切る音ともに青年の右手が振り上げられた。
そして、その手に握られていた──より正確に言えば指と指の間に挟まれていた銀色のナイフが、ポロッと支えをなくして地面に転げ落ちた。
沈黙の糸が切れる。
先程まで静まりきっていた空気が、徐々にどよめきに支配されていく。
と、その時、レシリアの右隣の男が声を上げた。
「なぁ、オメェ。ちょっと舐めてんじゃねえのか、あぁ?」
どうやらこの男がナイフを投げた張本人らしかった。
そう言うと、ジリジリと肩を鳴らせながら青年に向かって歩く。
「こっちは遊びできてんじゃねえんだ。あんま調子こいてっとひねり潰すぞッらぁ!」
叫んだ刹那、いかにもな弱者口調の割に、鋭い拳が青年の顔に放たれた。
至近距離からの不意打ち。
目を背ける者はいる訳がないが、無抵抗な人間に対して不意打ちをするという行為に嫌悪感を示す者がちらほらといた。
レシリアも、もちろんその中の一人だ。
そして、男の拳が青年の顔に吸いこまれる───寸前で、男の姿が消えた。
いや、もっと正確に言い表すのならば、吹き飛んだ。
数秒後、かなり後ろの方で大きなものが砂に落ちる音がした。振り返ると、そこには今しがた青年に不意打ちを敢行した男が無様な姿で転がっていた。
誰もが唖然とし、一瞬の間を置いて再びどよめく。
「じゃールールの説明しまーす。まずは一対一のトーナメント戦・・・ってのは知ってるので飛ばしまーす。はい次はー───・・・」
ダラダラと飛ばし飛ばし青年の口から試験のルールが説明されるが、ほぼ全ての参加者は聴ける耳を持っていなかった。
そしてレシリアは──その拳を、強く強く握りしめていた。
遅くなりました。
これからもよろしくお願いします