4.地図の仕上げ
掘削機にコアをぶち抜かれ、迷宮の守護者は機能を停止した――。
俺の《モール》耳がやられたものの、まだ動く。パイルドライバーと言い、モグラはなんと良い仕事をするのだろう。
だけど、これを作ったモグラ――いや、ココは……。
「ふむ。ここでワーカーに壊れてもらっては困るのだよ」
「も、モグモグ!? だ、大丈夫なのその怪我!?」
「無事だったのか!」
「落盤に巻き込まれた時に比べれば、こんなのまだ軽い物だ」
その時初めて血だらけである事を知った。右の爪は折れ、足の爪もヒビが入っているようだ。
ココはヘルメットがあって良かったと言うが……そのヘルメットに取り付けられていたライトが壊れたのか、中身である煌々と輝く"エルフの瞳"を手に携えている。
「さて、最後の仕上げと行こう」
いつものようにパイプタバコに火をつけ、ハンマーを肩に背負った。
ヨロヨロとしているものの、いつものようにノッシノッシと、悠然と奥に向かって歩を進め始めている。
一体何がここまで掻き立てさせるのか――そこまでして地図を完成させなければいけないのか。確かに今の状態で戻るのは辛い部分があるにせよ、一度休むべきであるのに……モグラは歩を休めない。
「モグモグッ、無理しないで休むべきだよっ!」
ファムも同じ事を考えていたのだろう。
そんな心配する二人に、ココは『初心者が陥る症状だ』と言った。
・
・
・
あと僅かと言っていた通り、残された道は一本道と奥にある部屋のみだった。
突き当りにには扉、壁には何か良く分からない文字――まるでエルフの文字のようなのが刻まれているが、『いかぬがとくさく』など書いてないだろうな? 読めないからノーカンだぞ。
そんな俺の心配をよそに、その扉をくぐった先――そこは、部屋の真ん中に祭壇のような物がポツンと置かれているだけであった。心のどこかで金銀財宝や、
全知が詰まった本などを期待していたのだろう……あまりの素っ気なさに、『こんな物の為に』とも感じてしまう。
「迷宮の地図とはそんなものだ。
先に何があるかではなく、パズルのピースを埋めて行くのが楽しいのだ」
「しかし、そんなボロボロになって――」
「まぁ、急がねばならぬ理由があるのだよ。流石の私でもここまでして作らんさ」
ココはそう言って、よろけながら祭壇の上に"エルフの瞳"を置いた。
すると、白き輝きを放っていたそれは、突如としてキラキラとした青い光を放ち始め――
「な、何これぇっ!?」
「エルフの兵器、と言った所か。"瞳"に睨まれたモノを消し飛ばす装置だよ。
この"瞳"は本来は竜の持ち物で、災厄から守るための物とフカしていたが、モグラの鼻は欺けんよ」
「け、消し飛ばす!?」
「ぼ、ボクそんなの聞いた事ないよ!?」
「危険だと試作段階で止まったみたいだからな。
壊し方を用意していなかった阿呆に、一部の者に狙われたが――」
ココはプカリと白い煙を吐いた。
その煙はいつもとは違い、形が崩れている――。
「さて、ファム――この地図を見ろ」
「え……うーん、これってこの大陸の地図だよね?
北のナダの大森林にある×印って何これ?」
「我々、モグラの地下帝国の場所だ」
「え、えぇぇっ!? ほ、本当にアレあったの!?」
「うむ。その地下の奥にある棺に、お前の欲している物が隠されてある」
「欲している? そ、それってまさか……」
ファムが欲している物――"浄化の石"の事だろう。
フェルプの種族が望む"滅び"をもたらす猛毒の石が……そこに? 確かあのサキュバスは『ない』と言ってたのに……。
「我々が、そう容易く見つけられる場所に置く物か。そのせいで、殆どが死に絶えたが……」
「も、ももっ、もしかして黒毛モグラが絶滅したのって!?」
「一度受けた仕事は完遂するまでやる馬鹿ばかりだからな。
さて、私は地図の仕上げに取り掛かる。それが終われば、私はこれを使い"エルフの糞"……いや最後の"浄化の石"を完全に消滅させる。幸いにも、この兵器はあと一発だけ撃てるようだしな」
「モグモグは一体は何を言ってるんだよ!?」
「出口は奥のプレートを踏めば、ここの外にテレポート出来る。
あの石は《ワーカー》……いや《モール》があれば運び出す事ができるだろう。
本来その為に私が設計物だ――パーツ探ししていたせいで死に損なったがな」
「も、モグモグもしかして――」
「仕上がるまでは、何があっても私は感知せん。
故郷はかけがえのない物だが、今の私にとってはただの足かせだよ……」
ココは部屋の隅に腰をおろし、地図の仕上げを始めたようだ。
このモグラが地図を作り始めた発端は……この目的を達する為のオマケだろう。
ココの種族が果たそうとした役目の為の、"浄化の石"を破壊する為の装置を探す為の――。
この《モール》を使えば運び出せると言う。
つまりココは『"浄化の石"が欲しいのなら、この"エルフの瞳"と《モール》を持ち去ってそこへ迎え』と言っている。それはファムも分かっているだろう――。
ファムの白い毛が、"エルフの瞳"から放たれる青い光を反射している。
それに手を伸ばす彼女を、誰も止められない。その石が何をもたらすかは誰も知っている。
誰も好き好んで滅びなぞ求めていない。罪人に"理由"をなすりつけようとしていた事の周知、"毒とその結末"について責任者を追及すれば、ファムは故郷に帰る事も可能になるだろう――。
「眉唾物だけど、エルフの物だからあり得る装置だよね――使い方はこうか、うん」
「……ファム?」
「えーっと――おおっ、見える見えるっ!
これがモグモグの地下帝国かー。いいなー、お宝一杯ありそうっ!」
「ど、どうしたの?」
「ん? "瞳"って言うだけあって、見たい場所が千里眼みたいに詳しく見えるんだよ!」
地下帝国――うーん、これは行きたいところだねっ!」
「じゃあ……」
「でもね……こうしちゃえっ! どーん☆」
「どーん、って……え、ぇぇぇ!? 石は、石はどうすんの!?」
青い光を失った"エルフの瞳"を取り外し、ファムはその白い毛を輝かせながらニヤリと笑ってこちらを見た。
その顔はいつもの、初めて会った時のようなイタズラめいた顔をしている。
「ボクにはもう、故郷なんてどうでもいいもん」
「ファム……」
「今更帰ってもねー。今のボクには帰るべき場所が出来たしさ。
故郷に戻っても居場所ないもん。それに、ここにはお宝もあるしね!」
「お宝って"エルフの瞳"……はココのじゃないのか?」
「うんにゃ? これは違うよ?」
「じゃあ一体何を? どっかで拾ってたのか?」
「え、えっとさ……ずっと黙ってたんだけど、その……」
「うん?」
「この前分かったんだけど……。
ぼ、ボクのお腹にさ、赤ちゃん……いるんだ。あ、あはは……」
なるほどなるほど、それならこれまでの行動がおかしかったのに説明がつくよ。
うーん、そっかー、赤ちゃんいるのかー……俺がついにパパになるのかー……。
「って、どうしてこんな所まで来てるんだよっ!?」
「だ、だだだってその……ココが、奥にまで来られたら来いって言うから……。
無理だったら、そこでする事を言うって――それに、ロイルと離れたくなかったし……」
「だ、だからっていくら……って、ココは知ってたのか!?」
「真っ先に気づいてたよ? ねっ、ココ?」
ファムが視線を向けた先に居るモグラは、何も言わない。
ロラドの女王から貰った"ワンタイム"の瓶が転がっており、いつものようにパイプタバコ咥えているだけであった。
そのタバコの火は消え、今は僅かな熱と黒い灰だけが残っている。
「……ココ?」
このモグラはいつも大事な事を言わない――。
作成途中の地図に『バカ』と書いて、静かに眠っていた。
※次回、最終話(エピローグ) 6/2 02:12頃更新します
※前回 2:00と書いていましたが若干遅れます。申し訳ありません……




