表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
モグラとマッピング * 依頼受け付け中 *  作者: Biz
7章 トンモーバ
41/46

6.ティアラの持ち主

※「 / 」にて視点切り替え(ココ視点・三人称)を行っています

 目が覚めればもう日が高く、汗ばんだ身体に更に汗の粒が落ちていた。

 今日のやる事はまずシーツを新しいのに変えなければならない。今から洗うには遅い気がするものの、汗でビッチャビチャなままよりマシだろう。

 会話をすればぎこちない。まだ噛み合ったばかり歯車のように、小さくゆっくりと全体を動かし始めたばかり――昨夜とはまた違い、むず痒くなりそうな空気に包まれていた。


 獣の匂い染み込むシーツを洗うのは名残惜しいものの、それは人から獣から流れ出た物を多く含んでしまっている。そのファムは寝起き一番、大慌てで洗い場に駆け込んだ――。


 昨晩はどことも暑く・熱い夜だったはずだ。

 日が傾き始めた頃、その中でも地獄の業火に包まれたであろう当事者の下へと向かった。

 昨晩はお楽しみでしたか? と探るのも野暮ったいのだが、巻き込まれた我々には事の顛末を知る権利がある。


 謁見の間に着けば、待っていたと言わんばかりの――


  しおらしく、乙女な空気を出しているラウ姉。

  しおれ、お疲れな空気を出しているロジー王子。


 がに股になったメスゴリラを見て色々察し、俺はこのローアインの勇気ある決断と行動に敬意を表し、無言で肩をポンポンと叩いてやった。


「貴方はいいですね……」

「え、何か?」

「いえ……何でもありません……」


 聞えていたが難聴系を演じてしまう。

 彼への償いは、約一年間、他の可愛い・美人な女を抱ける方法を伝えるしかなかった。まぁその為には、今頑張って仕込んで貰わなきゃならないのだが……。


「ボク、お宝探しが怖くなって来たよ……」

「呪いのアイテムの恐怖を伝えなきゃならないな……」

「でも、相手がロイルが百でも千でも盗ってくるよっ!」

「お、俺が持たないぞ」

「あははっ、覚悟しててねっ♡」


 そっと触れ合うだけのキスに、ラウ姉も触発されたのか、ロジー王子の口に齧りついていた。ロジー王子の瞳から絶望が見える……彼の絶望が殺意に変わるのは時間の問題かもしれない。


「おぉッ、そうだった! ロイル、ティアラの在り処はまだ分からないかッ?」

「う、うーん……まず、"ばーちゃんの友人"の手がかりすらないから……」

「あの穴掘り好きのばあ様の事だッ、地面の中に埋めてるかもしれないッ。

 一度トンモーバの全てを掘り起こしてみようかッ!

 皆の者ッ、スコップとツルハシを用意しろッ。さ、王子……いえ、陛下もッ」

「まま、待って!? もう暗いし、事前にどこにありそうかとアタリを付けてからの方が効率的だから、ね?」

「うッ、うぅん……あれが無ければ式は出来ぬッ。まだ正式に固めておらぬ二人が毎晩もするのはいかぬッ……。

 よし三日だッ、三日以内に目ぼしい場所が無ければ全て掘り起こすッ、いいなッ!」


 この人は脳みそも筋肉で、筋肉が硬けりゃ考えまで堅い――。

 ロジー王子は"毎晩"と"式が出来ない"との言葉に、目で『見つけ出すな!』と強く訴えている。そうは言われても、この国を支配するゴリラに逆らえる奴が居ない。

 それに、王子の審判(処刑)の日が三日延びるだけで、四日目にはランニング一枚でツルハシ持って、人間版ココが一日で掘り起こすからさ……諦めろ、な?


「あれ、そう言えばココはどこ行ったの?」

「おおッ、あのモグラなら今朝から城の中をウロウロしていたぞッ」

「城の中を――?」

「ばあ様が作った粘土細工はどれか、と聞いていたなッ、あっはっはッ」


 作った物――あの懐中時計もそうだけど、ココはどうしてそんな物を欲しがるんだ?

 確かに、ばーちゃんは粘土細工が好きで、特に野菜の置物などは色まで塗ってリアルなのを作っていたけど……持って帰るつもりなのだろうか。


「ボクもまた探索しよーっと」

「手は付けるなよ?」

「えー? 将来的にはボクにも権利が与えられるのに?」

「なっ!?」

「あっはっはッ、良いぞ良いぞッ、何でも好きに持ってけーッ」

「やったぁっ! このゴリラは話が分かるッ!」


 本人の前でゴリラ言うなよ!?

 でも、確かに将来的な事を考えたら、ファムにもこの城を自由に動き回れる権利が与えられる……んだよな?

 そこまで深く考えて無かったけど、ああそうなるのか……。


 ・

 ・

 ・


 ファムにつき合って、暗色が濃くなる城内を説明しながら歩いていた。

 人気がない所ではもうゴロニャンとなり、金目の物を見つければ目を輝かせる――現実味を帯びた"将来"に多少不安があったが、この自由奔放な猫娘を見れば、考える必要なんてないかとすぐに払拭された。

 ファムが愛おしい。それだけでいいじゃないか。


「ねぇ、あれココじゃない?」

「あ、ホントだ。何やってるんだ?」


 厨房に差し掛かった時、見慣れた黒いモグラが人参を齧っていた。

 シェフは『これは今晩のメインディッシュか?』と困惑した様子で、テーブルを占領するモグラを見つめるばかりだった。メインディッシュなら野菜カゴ片手に人参齧らないだろう――。


「ふむ。お二人さんは今日も仲がよろしいようだ」

「えぇー、やっぱ分かるー? ……じゃないっ!

 ココッあの拡音孔は何だよ! ボクをホコリ取りに使ったろ!」

「今頃気づいたのか」

「ふぎーっ! あのホコリ取るの大変だったんだからねっ!」


 相変わらずこのモグラは説明をしないようだ。

 でも、ココの手や背中も何かホコリまみれに見えるんだけど……。


「ココもどこか掃除してたのか?」

「む? ただ家探ししていただけだ」

「んん?」

「まぁすぐに分かる。ところでラップルのティアラは見つかったのか?」

「ん? いや、まだ見つかってない。それに……三日以内に探さないと、この街で大型舗装工事が起こる」

「ふむ。何か手がかりはあるのか?」

「えぇっと、手がかりと言えば日記の一文ぐらいか? 『永遠のともだちへ――鍵は嫌いなもの。約束は二人だけの秘密の場所にあるよ』って」

「ならこれか」

「え、それってカボチャ? 確かに……」


 ばーちゃんが嫌いな野菜だった――と言う間もなく、ココは野菜カゴの中から取り出したカボチャを叩き割っていた。

 ごろっと音を立ててテーブルに転がった粘土細工のカボチャ。ベージュ色の断面の中に黒っぽい鉄の棒が覗いている。


「き、嫌いな物って……嫌いな食べ物の事だったの?」

「他は全部ダミーだ」

「おぉー、お宝に一歩近づいたー!」


 ファムは興奮しているが……お前の物にならないからな?


「では行こう」

「ゆこう……って、ど、どこに?」

「この鍵を差し込む場所だよ」


 もしかして、ココもティアラを探していてくれていたのだろうか。

 それで見つけたけど、鍵の在り処――本物の鍵が分からずに居た、と言った所か?

 ココは何も言わず、鍵を持ってノッシノッシを身体を揺らして向かった先は、地下倉庫への階段の中腹の端っこ――。


「ここがズレるのだよ」


 そう言って、ガコッ――と音を立て階段の積み石が押し上げると、そこには鍵穴の付いた蓋が……まるでその一部だけ、階段に見せかけた石造りの収納箱のようだ。

 ま、まさかこんな所に隠してたの!?


「そ、そうだ……ばーちゃんが死ぬ数日前、金梃(バール)を持ち歩いてた……!?」

「な、何でそれ早く思い出さないのさ!? あのゴリラに地面ボコボコにされちゃう所だったよ!」

「ラップルは最後までお転婆だったか」


 危なかった――それで何も見つからなかったとなれば、さらに全員が酷い目にあう所だった。

 と言うか、さっきから気になってたんだけど……何でココはばーちゃんの事を"ラップル"って呼んでるんだ? それにお転婆な事も……。

 だが、灯台下暗しとは良く言ったもので、確かに誰もこんな所にあるなんて気づかないだろう。多くの人間が行き交う場所、しかも端っことなれば、そこを補修するのもかなり先になる。

 鍵は正味、合っても無くてもファムの様な者に頼めば開けて貰えるだろうが、その場所が分からなきゃ意味がない。


 ガチャリ、と音を立て、軋む音を響かせながら開いた蓋の中には――。


「ふむ……なるほど」

「このティアラだ! おお、確かこんなのだった!」

「お、おぉぉー! ぼ、ボクこれ欲しい……」

「ダメだからな!?」


 金色の輝きを放つその輪に、細部まで行き渡る見事な彫金。間近でじっくりと見たことないが、まさにこれがトンモーバ女王のティアラだ。

 ココはティアラよりも、それが収められていた箱――天板の裏に描かれているココアのコップ、そして墓に輪っかと矢印の絵の方が興味あるらしい。


 片やファムはティアラにしか興味がない。

 目がもう金のようにキラキラと輝いているが……せめて、せめてラウ姉の結婚式まで我慢して!


「ボク、これ頭にのせられるのならお姫様になってもいいと思う……」

「そ、そんなになのか……?」

「うん――御姫様に憧れる女の子の気持ちが分かったよ。だからロイル、はいこれ」

「何これ? ファムの斧じゃないか」

「いくら末端でも、後継者がいなきゃロイルが王様になれるよね?」

「出来るか!?」


 姉兄全員葬れって言うんだろ!?

 兄は出来てもラウ姉は絶対に無理だからな!?


「ロラドの女王の時みたいに、あの王子けしかけりゃ大丈夫だって!」

「お前の頭の中はどうなってるんだ……」


 もし万が一お家騒動が起こっても、少なくともファムだけは巻き込んではならない。


 いつこの猫娘に奪われるか分からないので、即座にラウ姉にそれを手渡す事にした。

 ご褒美と言うか、交換条件として『王族関係者の妻にティアラを用意すること』を提示して――。


 /


 その日の深夜、トンモーバの象徴でもある一本杉にもたれ掛って座るモグラが居た。

 モグラ――ココの手は土に汚れ、ココアを啜っている。


「甘い――」


 そう呟いたココの頭には、ティアラがちょこんとのせられている。

 煌々と照らす月明かりに耀くそれは、正真正銘のラフィルル女王のティアラだった。

 ロイル達が見つけたのは、代々伝わるトンモーバ王家のティアラなのだ。


 ココの脇には小さな鉄製の宝箱――『らぷるのおもちゃばこ』と書かれた箱の中にそれが入っており、他にはゴムのアヒルなどの色々なオモチャが入っていた。

 その中にあったポートレートには、子供らしい絵で黒い塊が描かれ、そこには大人の字で『ココア大好き』と書かれている。


 ラフィルル王女は二つの"ココア"が大好きだった――。

 拡音孔を設置しに来たモグラ族の中に、まだ名の無い幼いモグラが居た。その子供は幼い王女と友達になり、毎日のように遊び、毎日一緒に杉の下でココアを飲んだ。


 その幼い王女はその子に、〔ココア〕と名を与えた。

 大好きな友達が、大好きな飲み物の名をくれた――そのお礼にとココアは初めての作品となる懐中時計を贈り、友達といつでも会えるようにと、長針と短針にそれぞれの名を刻んだ。


 拡音孔の工事が終わってからは会っていない。"浄化の石"騒動が起こったからだ――。

 十数年後、その王女は女王となったのを聞き、ココアは匿名で女王に一つの作品を贈った。

 しばらくして、ココアの下に『これは私と"ともだち"だけの物にする』とだけ書かれた匿名の手紙が届く。


 更に何十年かして、風の便りに彼女が死んだと聞いた。会いに行こうかと思っていた頃だった。

 人間にしては長生きだったと、ココアは彼女が好きだったココアを飲んで偲んだ。

 その日から、最初の友が居なくなったココアは、自分の名前から"A"を消してこう名乗った


 ココ――と。


 リノリィの迷宮に足を踏み入れ、ラフィルル女王の孫となるロイルと出会う。

 ココは『ラップルがもたらしたものか?』と、世間の狭さと運命と言う縁を信じた。

 もし、彼女がもたらした出会いならば『ティアラを取りに来い』と言う事だと思い、こちらに来る機会を伺っていたのだ。


 女王はもちろん他の誰にも渡すつもりはない。

 その為、階段の石の中に"ともだち"にだけ分かるようにメッセージを残した。

 墓に輪――自分が入る墓の傍にそれを隠す、と。彼がモグラだから出来る事と知ってそこに隠した。


「さて、これからどうしたものかね」


 "エルフの瞳"に"人魚の尿"――リノリィの迷宮の奥に必要な道具は全て手に入った。

 行く手を阻む植物も、その先に居ると聞くゴーレムも何とかなる――ココからすれば、ロイル達とこれ以上一緒に居る理由はないのである。

 ファムはロイルと歩むべき"地図"を得たのだが、当初の目的がまだ達成されていない。


 ファムは"浄化の石"を得る事

 ココは"浄化の石"を破壊する事


 相反する二つの目的――

 どちらかの目的を達せば、どちらかが目的を果たせなくなってしまう。


 ココは、ふむ――といつものように鼻を鳴らした。

 長針と短針が離れ始めた懐中時計を、爪でカリカリと回し二つを合わせ、ぬるくなったココアを口に含む。


「ラップルよ、ずっと言えなかったのだが……私はこの甘いココアは苦手だったのだよ」


 だけど、"ともだち"の前では言えなかった。

 ココはそれをもう一口啜り――。


「やはりココアは甘い――」


 ココアは決心したように、ポツリと呟いた。

※次回 5/29 19:22~更新予定です

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ