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モグラとマッピング * 依頼受け付け中 *  作者: Biz
1章 リノリィの迷宮
4/46

4.行く手を阻むモノ

 迷宮に入ってどれくらいの時間が過ぎたのだろうか?

 休憩するペースも増え、徐々に休憩しても身体が重く感じ始めて来ている。

 懐に忍ばせた懐中時計を取り出し、その蓋を開いた。

 別に時間の確認をしたかったわけではない――祖母が亡くなってから、この懐中時計は、12時00分で時を刻むことを止めている。


 時を刻まぬ時計に何の価値もなく、今ではただのお守り代わりだった。

 辛いときなどにこれ見ると、どうしてか側に大事な人がいるような、暖かい物が心を落ち着いかせてくれるのだ。

 祖母の思い出の品でもあるこれに、価値を付けると言うのは無粋だが、無理に価値を付けるとすれば……使われている金の装飾分ぐらいだろう。


「にゅふーんっ。ロイルくーん、イイ物持ってんねー」

「こ、これは何があっても渡さないからなっ!」


 猫娘が目ざとくそれを見つけ、闇でもギラリと光るその目にはもう金しか映っていないだろう。

 甘い声を出すファムにも、少し疲労の色が窺えるが、本人からすればそれよりも目の前の装飾品と言った様子だ――。肌身離さず持っていたが、これからは金庫にしっかり保存する事にしよう。


 十年ほど前、死期を悟った祖母より『友達に返して欲しい』と託された物だが、その"友達"がどこの誰だか分からず、未だに祖母の頼みを果たせないままでいる。

 なので、これだけは何があっても手放すわけにはいかない。


 モグラもチラりとそれを見て『ふむ――』と鼻を鳴らしたが、それよりも目の前にいる仕留めた巨大ミミズ《ジャイアントワーム》の方が価値があるようだ。迷宮に入れば何でもデカくなる。

 灯りをそこに近づけたくないが、グチャグチャと聞こえる音からしてお食事時なのだろう。出来れば耳も塞ぎたい。


「ボクはネズミやトリなら分かるけど、あのデカミミズは考えたくないよ……」

「ふむ? パンを挟んで食うあの肉にも使われて――」

「ダメだよっ!?」


 ネズミやそれの肉を使っていた、とのデマはどこから出て来たのか? あれのせいでしばらく食えなくなったんだぞっ。

 ファムが必死でそれを遮って無ければ、再び食えなくなっていた所だろう。


 モグラはミミズを、俺とファムは携行食のクッキーをモソモソ齧り、腹を満たしてゆく。

 口の水分が持って行かれる上に、味が殆どしない不人気の食べ物だが、ミミズよりマシだろう。うん。



 短い食事休憩を終えると、再び迷宮探索の開始――とは言っても、モグラが作った地図からすれば、残すはあと三分の一もない、ある一角を残すだけとなっている。

 だが、すんなりとは終わらせてくれないようだ……。着実に埋まって行く地図に、扉のマークをつけた時、その向こう側からゴウン……と何かが起動したような、我々を阻む音が響き渡っていた。


 敵が待ち構えているであろう扉を悠長に開ける者なぞいない。

 地図からハンマーに持ち替えたモグラは、回し蹴りをするかのように豪快に扉を蹴破ると――


「ふむ。やはりか」

「ご、ゴーレム!?」


 ファムはクロスボウを構えたまま、茫然とそれを見上げていた。

 巨人族の存在は聞いていても、《ゴーレム》など滅多に聞かない存在……他のモンスターなどのように自然に産まれる事は決してない、何者かの意思と手によって生み出された動く金属体である。

 巨人にも見間違えるかのようなそれは、ブゥンと頭部に光が灯り、侵入者を排除せんかのように大きなモーションで腕を振りかぶっていた。


 真っ先に反応したのはファムだった。

 モーションが大きいため、それを避けるのは容易いものだ。俺でも見てから避けられる。だが一歩でも遅れれば……一瞬で床のレリーフが完成してしまうだろう。


 ファムのクロスボウから放たれた鉄の矢が、《ゴーレム》の頭部に深く突き刺さったものの、痛みを感じぬそれは動作を止めない。

 再装填に時間がかかるクロスボウを捨て、腰に携えているハンドアックスを大きく振りかぶり、ガチンッと火花と共に地面を叩きつけた《ゴーレム》の腕を叩く。


「あう、うぅぅー……や、やっぱり効かないぃぃ」


 斧の刃が大きく(こぼ)れ、手が痺れたのか、カランっと音を立てて地面に落ちた。

 石造りのそれでも剣や斧では対抗できるか分からないのに、これは特に金属製であるので当然だが、《ゴーレム》の腕には何一つ傷がついていない。


 その《ゴーレム》の手は休むことなく、侵入者を排除しようと石壁や床を叩いて、一帯に小さな地響きを起こしている。


「よっ――へへーんっ」


 猫を掴もうとするも《ゴーレム》の手も空を掴み続けるばかり、だけど長期戦になれば疲弊が出るファムが不利だ。余裕を見せているが、その顔は辛そうにも見える。

 どうにかして力になりたいが、手にしている剣をファムと同じように叩きつけても、同じように刃が折れ手が痺れるだけだった。


 手には折れた貴族の剣、武器になりそうな物は何一つない。

 しかも、折れた剣や柄で脚や足先をガチンガチン殴っていても、頭部に灯る光――瞳であろうそれは、雑魚は相手にしないと言わんばかりに俺を見ず、動き回る猫をロックオンし続けている。


「何か武器っ、武器となるものっ!」


 鞄の中を漁るも、中にはファムが拾い集めた貨幣らの戦利品ばかり。

 そもそも物書きが持っている物なんて、ペンと紙ぐらいだ。こんな物は全く戦力にならない。

 物書き自体そうだ、相手をよく調査・観察して叩く記事を書きまくったとしても、そいつ本人に刺されたら終わりなんだし。


 観察か……生物も考え、生きてゆくために試行錯誤してゆく。

 しかし、目の前の《ゴーレム》は作り物だ。思考はなく、何者かの命令を受けて行動している。

 その動きにパターンが……ないが、作り物ならきっと何かあるはずだ。


 考えろ……考えろ……。

 ファムは身軽さを活かし戦う、俺はモグラほどの力も――そうだモグラは消えたんだ!? 今の俺達の力では倒せないのなら、その避ける事に集中しよう。

 それなら敵の攻撃に反応しやすく……ん? 反応?

 奴は作り物、人間のような知能はない。パターンが無ければ、何かに反応して攻撃している事になるが、絶えず動く手の他に何か……。


「――そうかっ!」


 これなら、と鞄の中の物を握りしめた時――。

 何度も地面を蹴り、壁を蹴って相手を翻弄していたファムがついには足を滑らせ地面に転んだのが目に飛び込んだ。


「ファムッ!」

「や、やばっ!?」


 上手く命中して良かった。《ゴーレム》は好機とばかりにファムに手を伸ばした瞬間、そのピンクの瞳のから光が消え――いや、光を遮った、と表現する方が正しいか。

 やはりあのピンクの光で動く物を感知しており、鞄の中にあった補充用のインクの瓶を投げつけ、視界を奪ってやったのだ。

 その《ゴーレム》の瞳から流れる黒い液体は、まるで涙のようにも見えている。


「ろ、ロイルっ!?」

「早く逃げろっ!」


 ターゲットを見失ったゴーレムは、それを探さんと腕を振り回し続けている。

 視界の一部を失ったせいか、相手の動きが読めなくなり、より悪化した気がしてならないが――。


 モグラも行方を眩ませ、攻撃も通じないとなれば、ここは今の内に退くべきかもしれない――。

 と思った時、突然ゴーレムが動きを止め、こびりついたインクから漏れ出ている光が、次第に明るさを失ってゆくのが分かった。

 何が起こったのか皆目分からない。二人してそう思ったであろう。

 ファムも、闇に浮かぶ猫目をパチパチさせている。


「な、何が起こったの?」

「わ、分からん」

「もしかして、ロイルが投げたインクのせいで、ショートした――とか?」

「ゴーレムって、そんなデリケートなのか……?」

「ぼ、ボクは戦ったの初めてだから知らないけど……」


 こう言うのは、突然また動き出すのが定番なのかもしれないが、脇を抜けてもこれは指先一つ動かす事なく、ただ巨大で邪魔な像と化している。

 その向こうの闇を裂く円状の白い光がこちらを照らし、左右に揺れながら近づいて来ていた。


「も、モグモグッ、どこに行ってたんだよ!?」

「こいつの動力を切りに行ってた」

「どうりょく――?」


 モグラは頭を上にあげ、ヘルメットから照射された光の中に何かの線が伸び出ているのが見えている。

 何も言わぬ光が下に、床にとそれを追いかけ、十メートルほど先の部屋の片隅まで辿り着いていた。

 それはボコボコに凹み、バチバチと音を立ている――。


「有線式なんだ……」

「はるか昔の創作物だからな」


 今の時代に作られていれば、動力が無くなれば自分で補充に戻る機能がついている事だろう。


 ・

 ・

 ・


 迷宮の探索はそこで終わり――いや、終わらざるを得なかった。

 その部屋にあった一つだけの扉の向こうには、巨大な植物が行く手を阻んでいたせいだ。


 ただ阻んでいるだけなら問題はないのだが、やはり迷宮に存在する者は全てモンスターだと思った方が良い。それは意思を持ち、近づく者を捕食せんと攻撃を仕掛けて来たのである。

 向かって来る蔓はいくら切り払っても途絶える気配がなく、一歩前に進むどころか後退を余儀なくされた為、マップ作りは後少しを残し断念する事になった……。


 普通はここで帰る所なのだが、一匹は手ぶらで帰るつもりがないようで、


「ふむ。これもいいな」


 今は休憩も兼ね、先ほどのゴーレム解体タイムとなっている。

 モグラの一族は鍛冶やこう言った装置に長け、作らせれば右に出る者はいないと聞いていたが、まさにその通りなのかもしれない。

 脚から背に、よじ登るように頭部に辿りつくと、何のためらいもなくハンマーの柄の部分を突き刺し、バキャッと音と共にそれを覆っていた装甲をはぎ取っていた。


 ・

 ・

 ・


 それからどれだけの時間が経ったのか――。

 俺も人の事は言えないが、このモグラは作業に没頭すると、それしか見えなくなるのだろう。

 一人黙々と作業を続けた結果、あれだけ威圧感のあったゴーレムはもう見る影もなく、ガラクタの山と化していた。


「ボク、この後に待っているであろう事を考えるとゾっとするよ……」

「明日は酷い筋肉痛になっているだろうな……」


 ガラクタの他に別の山が出来ていたのだが、恐らくあのモグラは全部持って帰るつもりだ。

 モグラだけでは到底運べないとなると、必然的に残った人間と猫娘にそれが回ってくる。


 一つ一つのパーツは言うほど重くないが、ちりも積もればマウンテン――あの山を持ち運ぶとなると相当な重さになる事を覚悟しなければならない。

大変多くの評価・ブックマークを頂き嬉しく思います。

期待に応えられるよう頑張って参りたいと思いますので、何卒よろしくお願いします

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