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モグラとマッピング * 依頼受け付け中 *  作者: Biz
7章 トンモーバ
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4.モグラvs骨の王

※「 / 」にて視点切り替え(ココ視点・三人称)を行っています

 拡音孔から澄んだ鐘の音が聞こえている――。

 ハンドベルのような小さな音だけど、管を通り増幅されたそれは、トンモーバの街全体を響かせるような清い音となっていた。

 "鎮魂の鐘"の名の通り、それは死者にとって救いの音色なのだろう。"死を望む者達"が次々と剣を盾を落とし、その浄化に身を委ねている。


 その音に合わせるように、正門の跳ね橋がガラガラと音を立てて下りてきた。


「何で正門の橋が下りてんのっ!?」


 予定では西側――俺たちが居る側だったはずだ。

 城内から聞きなれた声が……ああそうだ、あの人はいつもああだったんだ……。

 だけど、今日だけはそれをやっちゃいけないんだよラウ姉……。


 だが、こうなれば正門の方へ向かうしかない。

 鐘の音色に弱った《スケルトン》を吹き飛ばし、堀に落としながら、ローアインの王子一団を先導してゆく。

 城内より『トンモーバの兵達よッ、我らの意地と誇りを死にぞこない共に見せてやれッ!』との野太い声が響いたが――これだけ聞いたらオッサンだよ。


「おお、何とも猛々しき――さぞ、腕の立つ者に違いないっ!

 我が軍にも欲しいところですっ!」

「是非どうぞ」

「え?」

「いや、何でもないです、はい――」


 願わくば、ベッドに入るまでその兜を被ったままにしていて欲しい。

 跳ね橋が完全に下りた音と共に、進軍の喧々たる命が下り、地響きと共に聞こえた『お願い、止まってェェェェッ――!?』って声はどこかで聞いた猫娘の――。


「ファム!」

「ちょ、ローラン殿っ!?」


 何であいつが前線に立ってるんだ!

 急ぎ正門に向かえば、《ゴーゴン》と呼ばれる猛牛……石化させる蛇女のそれとは別の、迷宮にいるとてつもなく獰猛な暴れ牛に乗る、巨猿(ラウ姉)の姿が見えた。そして、それの上にしがみつき振り落とされた猫娘――。


 何やってんのあの人ら?


 と言うか、ラウ姉の乗る《ゴーゴン》ってどこで調達して来たんだよ!?


「ファムッ!?」

「ろ、ロイルッ! お願いッ、あの、あのゴリラ殺してェッ!?」

「一応は俺の姉だぞっ!?」


 猫の爪を伸ばしているのは《スケルトン》と戦うからではないだろう。

 隙あらば目の前のゴリラを殺さんとしているのだが、まるでロデオのように跳ね回る暴れ牛に近づけずにいた、

 その牛の角は《スケルトン》の骨を容易く粉砕し、それに呼応するかのように、ゴリラは巨大なメイスをフルスイング――《スケルトン》を盾ごと二体同時に吹き飛ばした。同時に、巻き込まれた他の《スケルトン》の骨がバラバラになっている。


 ますます退化して《ジャイアントエイプ》に近づいてる気がするよ……。


「あ、あのゴリラに『彼女殿も前線に出るべきだぞッ! アッハッハッ!』って無理矢理連れて来られたんだよっ!」

「説明し忘れていたけど、あの人はそう言う人だ」

「言うの遅いよ!? お願い、それに乗せてっ!」

「分かった、早く乗れっ!」


 急ぎハッチを開くと、《スケルトン》が『女の子と乗るのは許さん』とばかりに詰めかけてきた。

 ファムの足を掴んだ奴が居たが、猫キックによって頭蓋骨が吹き飛び、向こうに居る他の《スケルトン》の頭とぶつかっていた。


「ろ、ロイルッ、こ、怖かったよぉ……」


 ぎゅっと抱きしめて来るファム――震える彼女の身体をそっと抱き寄せ、その震えを止めてやろうと思った。

 だけど、頭で考えていた事とは裏腹に……俺の身体は彼女の唇を塞いでいた――。


「んっ!? んんっ……ふっ……」


 彼女もそれに応えてくれる――少し痛いザラついた猫の舌が人間の舌と絡み合い、唾液が混じり合う。

 正直、もう関係なんてどうでも良い。俺はもうファムが欲しい。


「ファム……好きだ」

「んっ……知ってるよ……」

「ずっと傍に居てくれるか」

「えぇー、どうしようかなー。もう一回キスしてくれたら――ん……」


 口から繋がる糸を再び手繰り寄せるように、自然と求め合った――。

 鳴り響く鐘の音はムードを良くしてくれるBGMのようにも聞こえ、混ざり合う唇の水音は俺とファムの耳にだけに届いていた。

 首に回された、ファムの毛むくじゃらの腕が心地よい――ガンガンと《モール》を叩く骨共は無視だ。


「ん……ぁ……ぼ、ボクがこんなお宝手放すわけないじゃない……」

「ファム……」

「発情期どうこうじゃないよ――ボクはロイルを離さないからね」


 抱いていた心配は杞憂、考えすぎだったようだ。

 ファムに対し疑心暗鬼になっていた自分が恥ずかしく思う。


「俺だって――」


 外の《スケルトン》共が『殺す』と言わんばかりに《モール》をガンガンガンガン叩く。

 うるさいよっ! 言いたかったけど、確かこっちの声もスケルトン――駄々漏れだったね……。そうなれば、聞いた奴全員口封じしなきゃならないな。うん。


「よ、よーし、やってしまえー」


 ファムも同じく忘れていたようだ――顔を赤くして照れながらそう言った。


 振り上げられた《モール》のチェーンソーに《スケルトン》は剣で塞ぐも、火花と共に剣が切断され、右鎖骨から袈裟斬りに寸断してやった――。


 /


 一方その頃――。


 トンモーバの外では、ハンマーを抱えたモグラが《王》の行く手を阻んでいた。

 いつもの様にパイプタバコを咥え、その口からプカリと白い煙を吐いている。

 その視線の先には、赤い外套をまといし骸骨の王が、配下の《スケルトン》を引き連れ立っていた。

 生前のその地位を証明するかのように、頭蓋骨には金の王冠、黄色がかった骨の指には色とりどりの指輪がはめられている。


 ココはそれを見て『骸骨には不似合いな物よ――』と思った。

 言動や振る舞いは普段のままだが、ココの中はいつもの彼と違う。

 彼は怒っていた。この地を土足で踏み込んだ輩に対し、その心と瞳が怒りに満ちている。

 この地はココにとっても始まりの地である。初めての友と出会い、その者が眠る地――事情が事情とは言え、そこを襲撃した事が許せなかった。


「モグラか……そこをどけ……」

「お前たちに相応しい場所は、墓穴だろう」

「ふん……貴様も同じ穴のムジナだろう……」

「ここ以外はな。もし、墓穴が無ければ私が掘ってやろう」


 フー……と白い息を吐きながら、ココはそう挑発した。

 どちらも退く気配を見せず、どちらからともなく手にした武器を構えた。

 《骨の王》と言う名に相応しき重厚な鎧と兜、手にした盾は皮肉にも十字の形をしている。

 彼らに神の加護も救いはない。あるのは"死"のない呪いのみ――。


「我々の邪魔をすればどうなるか……思い知らせてやろう……」

「ふむ。それはこちらのセリフだよ。墓穴代はその王冠で構わんぞ」


 ほざけ、と《骨の王》の口からコォォ――と白い息が漏れた。

 仰々しい動きでゆっくりと鞘から抜かれ、その腕を高々を天高く突き上げている。

 己の権力と力を大きく見せつけるような姿から、満月の光を鈍く反射している片刃の骨の刃が、大きく振り下ろられた。


 ココはそれを避ける事なく、向かってくる刃に対し、短い脚で大地を踏みしめハンマーを振る。

 退く姿勢を見せず、火花を立てながら大きく弾かれた剣を見た《骨の王》は、『おもしろい』とニヤリと笑った。

 ノッシノッシと、普段と変わらぬ歩調で歩いて来るそれに、二度三度と骨の刃を振るも、それはモグラの身体を撫でる事は無い。赤い外套が揺れるばかりである。

 逆にその十字の盾に叩きつけられた槌に、己の骨の腕がミシリッ――と悲鳴をあげた。


「ふむ。カルシウム不足のようだ」


 だからそのように余裕がなく、イライラするのだ――と続けざまに言った。

 その言葉は《骨の王》をイラつかせている。躍起になって振り回すも、それはココに容易くいなされ、更にストレスを溜めていた。


 指輪を持つ花嫁(ラウラ)を迎えに行く――《骨の王》の目的はただ一つである。

 例え、それがどれほど酷い容姿であったとしても《王》は気にしない。いかなる生物であっても、骨になってしまえば誰も同じなのだ。

 《王》にとって必要なのは強靭な骨を持つ者であり、そこに居る花嫁(ラウラ)は《王》にとって最高の花嫁であった。なので、どうしてもそれを得たい――だが、隙間だらけの身体に、欲望が満たされる事は無い。


 《骨の王》は『本調子でないからだ』と自分に言い聞かせている。城より流れてくる鐘の音が、その身を弱らせていた。

 周りを取り囲む従者(スケルトン)のフォローはない。その音色に苦しみ、骨の身を灰へと変えた。中には"死"より解放される"喜び"を感じていた。


 戦いは王の強さと数で決まる――それが《骨の王》の自論だった。

 その一つが崩され、もう一つがココのハンマーによって崩されようとしている。


「グウッ――」


 剛腕から放たれる打撃に耐え兼ね、ついに長年使い続けた十字の盾が割れた。

 ヒビが走った左腕は使い物にならず、邪魔だと言わんばかりに自らの手でもぎっていた。


 ココは、夜風になびく赤いボロボロの外套の《骨の王》よりも、投げ捨てられた腕についている装飾品の方が気になっている。だが、油断や慢心はしていない。


『よく見ればチンケな装飾よ』


 私の方がもっと上手く作る、とココは鼻で笑った。

 《骨の王》にはそれが不気味にも見えた。確かにモグラの一族は長寿で、戦闘にも長けた種族である。どれほど長く生きれば、ここまで冷静で居られるのか。一体、何が奴を突き動かしているのか――と。


 《王》は刃を大振りしても捉える事は出来ず。

 後ずさりするばかりの足は、突然ボコリと音を立てて土の中に落ちた。


「何っ――!?」

「誰を相手にしていると思っている」


 ココが掘った落とし穴に右脚を取られている。

 続けざまに、横薙ぎに振られたココのハンマーが《骨の王》の左膝を砕いた。


「何が……何が貴様を……」

「何もないさ」


 己の役目が為だとはついには気づかない。

 最後のあがきを見せた刃持つ腕すらも吹き飛び、態勢を崩した《骨の王》が()()に見たのは頭に向かうモグラの爪だった――。


 緑の大地に白い破片が飛び散り、《王》の王冠が落ちた。

※次回 5/27 19:22~更新予定です

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