2.それぞれの役目
我々を囲うように《スケルトン》はついて来ているが、攻撃してくる気配が感じられない。
これも先日戦った水棲竜と同じで目が見えていないのか、頭空っぽなのでそれ以上理解できないのか、目の前にいる《モール》を認識できていないようだった。
落ちている動物の骨の方が気になるらしく目ざとく見つけては、自分のコレクションにしている。
「骨に目がない――と」
「こんな時になに言ってるのさ!?」
数は十体ぐらいだろう。そこにターゲットが居ると分かってはいるようだが、そこに居るのはワケの分からん物体――そんな感じで互いに見合わせては首を傾げあっている。こっちを見ながら横歩きして、つまずいてズッコケた奴も居た。
ココは『問題ない』と言わんばかりに、悠然と夜道を歩いている。
《スケルトン》が襲うのは王族のみ。それ以外では、こちらが手出ししなければ何の問題もないらしい。それでなくとも、ヘッドライトにしている"エルフの瞳"は退魔的な力を持つので手が出せないのだが。
埒が明かず、暇になった《スケルトン》は途中からそのココのライトで遊び始めていた。
最初は地面を照らすその光の輪を横切る事から始まり、今では何秒耐えられるかとチキンレースをし始めている。
ライトに限らず、奴らは太陽の光を浴びるても灰になるので、空が白んで来ると『お先っス』と言わんばかりに次々と地に沈むように消えて行く。
ベテランらしき者は『上司より早く帰るとは……』と、不機嫌なオーラを出しながら最後に消えた。
実は悪い奴らではないのかもしれない――。
「う、うぅぅっ!」
全ての《スケルトン》が去ったのを確認したファムは、《モール》から飛び降りて草地へともうダッシュ――押し寄せる波をずっと我慢しており、ついさっきまで冷や汗ダラダラ、腰かける膝をドンとやるだけで堰が決壊しそうなぐらいギリギリだった。
「だから水をガブガブ飲むなって言ったのに……」
「あ、暑かったんだからしょうがないじゃないかっ」
確かに《モール》の中には二人居たせいで蒸し暑く、時間と共にサウナの様になっていた……。
見た感じ大した事無さそうなのだが、じっとりと汗ばんだ獣の身体からムワッとした濃い匂いを発している。それは同時に、嗅覚を通じ男の欲望もくすぐって来た。
「こ、こらっ! 触るなー!」
トンモーバに着くまで後三日ぐらい、いやこのペースだと後二日ぐらいだろうけど大丈夫なのだろうか……俺とファムが持たない気がする。
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だが、その心配は杞憂だった――。
二日目になると《スケルトン》は現れず、三日目のトンモーバの近くの大都市ヤークに近づいた頃になってようやく一体現れたのだが、何やら事務的な感じでチラ見してからどこかに消えていた。
「地上のモンスター共はやる気あるのか?」
「あ、あはは……合理主義なのが増えたから、アグレッシヴなのは確かに減ってるかも……」
明け方に見かけた《スケルトン》の一向は全員ファンキーな姿をしており、近くの大都市ヤークの繁華街で遊んでいたのが丸分かりであった。中にはYに何かが書かれた黒い帽子を被っているのも居たが、やはり"悪の帝国"のファンになるのか……?
俺がハッチを開け、中身を見られても何も行動を起こさない。むしろ『閉めろ』とジェスチャーをし、見なかった事にしている。
日中夜歩き通したおかげか、トンモーバには一日早く辿り着いていた。
だけど、そこは俺の知る街ではなく……目の前にあるド田舎のメインストリートはまさにゴーストタウンと化している。
「誰も……いないね」
ファムもかつて来た事あるので分かる。
この人一人居ない通りの不気味さ、流れる風に木々がなびく音が寂し気にも、恐ろし気にも聞えている。
荒れた様子はないが、通りに転がる子供のオモチャや、軒先に並べられっぱなしのハエがたかる肉や野菜、果実が敵が突然やって来た事を物語っていた。
住人はどこに消えた――城には全員を保護できるほどのキャパは無かったはず。
戦える者は城に、女子供・老人は山にある教会へ身を寄せているのだろうか? この国は故郷ではあるが、さほど思い入れはないはず。なのに……腐っても王子だからだろうか、やはり住人の事が心配になってしまう。
「ろ、ロイルっ、あ、あれっ!」
ファムの爪が挿した先には城が、そこから駆けてくる鎧を着たゴリ――ラウ姉の姿が見えた。
フルフェイスのヘルムを被っていても分かるそれは、もう誇っていいと存在感だと思う。
「ローランッ! おお無事だったかッ! あああッ会いたかったぞォッ!」
「ちょ、ちょっと!?」
いつもの様にゴツい手で頭をガシガシされた――逃げようとしてもこの人の"愛情"と言う皮を被った威圧感がそれをさせてくれない。ガントレットにフルプレートでそれをするので非常に痛い……。
「ら、ラウ姉も無事で良かったよ――」
「おおッ、あんな奴らに負けはせんぞッ、ほれッ!」
「ひぃッ!? ぼ、ボクに見せないでッ!」
乗ってきた馬の鞍には、数珠つなぎにされた骸骨の頭――詳しく数えていないが、二、三十は見える……え、まさかと思うけど、この人一人で倒した奴じゃないよね? 骸骨頭は全員『ごめんなさい』って顔してるけどさ……。
「いやぁッ頭をもぎ取れたのがこれだけでなッ、本当は六十ほどあったんだが、全部砕けてしまってなッ。アッハッハッ」
「ふむ……。我々の手はいらないようだ」
「何とモグラの一族かッ。これは珍しい――是非お手合わせ願いたいッ」
「面倒くさいので断る」
どうしてここで"たたかう"の選択肢が出てくるのか分からない――。
「彼女殿も、うむッ、ローランと深い仲のようだなッ」
「え、えぇぇ……や、やっぱり分かる?」
「おおともッ、私も同じ恋する乙女だからなッ!」
「そ、そこは一緒にされたくないんだけど……」
雌ゴリラと猫娘のそれとは違うだろう――。
ココによると、満月に現れる王が来れば《スケルトン》はこれまでと比べ物にならぬ、手当たり次第に人を殺す凶悪なモンスターになると言う。
仮にその王を撃退出来ても、指輪の送り主が儀式を済まさぬ限り完全には倒す事ができない。次の満月には蘇って襲撃してくるので、どうにかしてローアインの王子を城に入れねばならない、との事だ。
その王子が到着するのは早くても明日の日暮れ、ちょうど満月の日にやって来る。
ローアインはたまに≪スケルトン≫討伐をしているので、対スケルトン用の武器は所持している。だが、狂暴化したそれらの軍勢を抜けてやって来るのは至難の業だろう、とモグラが言う。
簡単に言うと――
「なるほど、つまりは……」
「ヤダ! ボクは絶対ヤダ!」
言い切る前にファムが拒否した。
ラウ姉が城を守り、我々がローアインの王子を護衛しつつ道を切り開く。一番デンジャラスな任務だから当然か。
「ファムにはやって貰いたい事がある」
「死者の宮殿に行けって言うなら、全員見捨てて帰るからね」
「ふむ。あそこはまだ地図作っていないし任せても良いが」
「お疲れさまで―す!」
「まぁ待て。今回はここの城内――拡音孔でやって貰いたい事がある」
拡音孔か――どこを探してもここにしかない仕掛けだ。
あがり症な王が人前で演説するの嫌だから作らせたそれだけど、今は城に通した管のどこか壊れてるのか、音が響かないんだよな……。昔は演説以外でも住人からの音楽のリクエストや、有名な投書読みあげ役とか居たらしいんだけど。
「やらせていっただきまぁーっす!」
「うむッ良い返事だッ! 彼女殿は、音も兵を鼓舞する重要なアイテムだと知ってるようだッ!」
違うんだ、違うんだよラウ姉……。
その猫娘は、前線に出なくて良いからオクターブが上がってるんだよ……。
「だ、だけどそこの鍵が――」
「ボクの本業忘れてるでしょー?」
ふふんっと笑顔であるが『余計な事を言うな!』と言わんばかりに、目がギンッと俺を睨みつけていた。ごめんなさい……。
※次回 5/25 19:22~更新予定です




