1.死者の嫁探し
【 トラブルとは連続で起る物だ。
休む間もなく、平穏と言う名の扉を殴りつけて来る。
逆に、古い友が扉をノックするのは大歓迎だ。墓参りも歓迎だ。
ただでさえ、骨が折れる問題を抱えていると言うのに、
さらに骨が折れそうな問題が起きるとは、夢にも思わなかった――。 】
それから半日が過ぎていた――。
どうにかして寝室で寝かせたいファムと、テコでも動かない眠れるココのバトルが始まったが、勝敗はココに軍配があがり、今は台所で横になってイビキをかいている。モグラに動きがあるとすれば、時々イビキが止まり腹をかくだけだ――。
なら鬼の起きぬ間に、と俺の懐中時計を探しに回ったファムなのだが、見つからないどことか、泥をまとって帰って来ただけだった。どうやら落とし穴のトラップにかかったらしい。
「ココの落とし穴は、穴を塞ぐ方法じゃないから見つけにくいんだよぉ……」
「と、と言うと?」
「地面からこうやって――上に掘って行くの」
ファムの説明を聞くと、言うなれば地盤沈下による空洞化のような穴の掘り方をしている。その罠は計算しつくされており、何かを担いで帰ったら落ちるように作られていたりと、多種多様な落とし穴があるのだとか。……よほど暇なのだろうか?
日が落ち始め、もう今日は諦めて宿屋に戻ろうかとした時だ。
血相を変えた事件――もとい、双子のコボルドの片割れが飛び込んできた――。
せめて一日ぐらい待とうよ、な? 体力も回復したし、今日こそはって思ってたんだぞ?
『な、何で、火急の知らせを持って来たのに睨まれるんでさ!?』
ファムの同じだったのだろう。いつもはニコイチで行動しているはずの〔モンド〕と〔バックス〕なのに、今回はえーっと……多分〔モンド〕一人で来たんだ? しかも何か背負ってるし。
「〔バックス〕、どうしたの?」
『そ、それが……それがっ……』
〔バックス〕だったらしい……。こいつらの見分けが本当につかない。
何やらすべてを一気に話そうとして言葉がバラバラだった。それぞれのワードを合わせてみると、トンモーバでとんでもない事があったようだ。その国の人は色々巻き込まれて大変だなぁ……。
「なに他人事でいるのさ!? そこの国の王子でしょ!?」
「王子らしさ皆無だから忘れてしまうんだ……」
『そ、そうだ――トンモーバ、トンモーバがヤバいんでさぁッ!』
「で、何があったんだ? 結婚が破談になってラウ姉が暴れ回ってるのか?」
『そそ、それに近い……とと、トンモーバが陥落の危機にあるんでさッ!』
「へぇー……」
「な、何落ち着いてるんだよっ!? ロイルッ、ロイルッしっかりして!」
ファムに身体をゆさゆさとされるけど、何と言うかそんなサプライズ聞きたく無かったよ――。
何度も言うが、そんなヤバい話を持って来るならもう一日遅く来いと。全部やりきった後で新たな第一歩を踏み切らせてくれ。頼むから。
「何でだよ!? 何でそんな事になったんだ、言えッ!」
『む、胸毛掴むのやめてっ……。
あっしらにもそれが分からないんでさ……あった事と言えば……』
犬が言うには、婚約者が『婚約指輪に』とローアイン近郊の迷宮で指輪を見つけ、贈って来てから異変が起きたのだと言う。
トンモーバ近郊を《スケルトン》が徘徊するようになり、それを討伐すべきかとの軍議中に、大軍となった《スケルトン》が城に向かってきた、と。
ラウ姉が軍を率いて《スケルトン》軍を轢き潰したものの、いくら倒しても復活するそいつらに成す術がなく、トンモーバの騎士団は殲滅を諦め、暴れる猿を捕えて撤退したのだと言う。
色々ワードがおかしいが、あの人が単騎で突っ込んだのが想像できるよ……。
恐らくその"婚約指輪"が原因はだろうけど、それは実は『呪われたアイテムだった』とかか……?
「ろ、ローアインが贈って来たのってま、まさかアレじゃないよね……?」
「アレ?」
「ふむ。"死者の指輪"だな。ファア……」
「ココッ、何で今頃起きてんのさ!」
"死者の指輪"? 名前からしておっかないけど、何でそんなのを送りつけて……いや、それよりもその指輪が戦争引き起こしたのか?
「金の指輪に『我が永遠なる愛』と書かれていたはずだが」
『はいっ、書かれてたと聞いてやすっ! あのボス猿がウキウキしてやした』
「ででで、でもそれと限ったわけじゃないからっ、違うからぁっ」
「ローアインとそれと、スケルトンの軍と言えばそれしかないだろう。諦めろ」
「やだぁぁぁぁッ、ボク留守番ッ、留守番してるッ!」
「ふむ。却下だ」
ファムの悲鳴が洞窟中に響き渡った――。
あんな伝記のお化けとか嫌いっぽいけど、モンスターの《スケルトン》も嫌いなのか?
しかし、それとローアインとどう関係してるんだ?
『ああ、あそこ死者の宮殿ありやしたね。
満月の夜に骨の王が現れ、指輪の持ち主を花嫁にするとか何とか。
なるほど。その指輪が花嫁の婚約指輪――でやしたか。
確か最終的に身内は全員死ぬとかの』
「そうだ」
コイツら相当おかしな事言ってるけど、大丈夫か?
まぁ、親族が死ぬなら問題ないだろう。うん。大丈夫だ。なんとかなる。
「ならないよ!? ロイル逃げようっ!
ボクとどこか遠くの国に駆け落ちしよう!」
「意味が違うから!?」
「まぁ避けては通れんな。私もそこに用事があるのだし」
「用事?」
「古い約束があるのだ」
トンモーバにもモグラがいるのか? いや、今はそんな事よりも……その倒せるかどうか分からない《スケルトン》の軍勢をどうするかが問題だろう。
満月の夜に現れる王でも倒せば良いのか? だけど今から行っても満月はまだ先だろうし。
「満月が過ぎたばかりだし、まだ半月ぐらいは時間あるだろ?」
「え、エルフの森で見た満月は紛い物だよ……?」
「なんだと!?」
『犬の勘でやすが、向こうに着く頃にはちょうどでやすかね』
「い、行くにしても武器がないじゃん」
「そ、そうだよっ、ここは大人しく駆け落ち――」
「"鎮魂の鐘"、"エルフの瞳"があるだろう」
「わー……準備万端―……じゃ、じゃあやっぱここの留守番!」
『この方に任せやしょう』
そう言って〔バックス〕が取り出したのは、額縁に飾られた一枚の絵
【ここの留守はお任せください。退屈で死にそうでした】
「アンタもう死んでるじゃないっ!? 何でここに来るのさ!」
【うるさいです、泥棒猫】
ロラドの"血染めの女王"だった――。
向こうに置いてきた女王の日記に、『今何してる?』『暇?』的なメッセージが大量に残されていた辺り、相当暇だったようだ。
妹がいるとは言え、これまでずっと一人。そこにようやく話し相手が来たのだからしょうがないが……。
「ふむ。別に留守番はいらんが、まぁ構わんだろう。
さて、〔バックス〕よ来たばかりですまないが、ローアインの野郎に事情を話し、兵を送るように伝えてきてくれないか? 渋ったら城を爆破すると言え」
『あいあいっ!』
「う、うぅ……」
ファムはもう何かを諦めきった目をしている――。
ふと思ったのだが、その王子がどこかでラウ姉の正体を知り、事故に見せかけて葬ろうとしているのではないか……もしくは、王族を殲滅し国を奪おうとしているのではないか……と、様々な裏事情が頭をよぎってしまう。
うん、やはり俺は王族に向いてない。可能性を考えすぎて行動に移せない人間には無理だ。
それに、あんな狐と狸の騙し合いのような場で一生過ごすなんて、考えるだけで胃に穴が開きそうだし。
「う、うぅぅ、攻撃効かない奴嫌いぃ……、もう存在自体嫌いぃ……」
ファムが嫌いなのって、お化けとかじゃなくて、"攻撃が通用しない奴"なのか……?
確かに骨だし、復活するとか厄介っぽいけどさ――。
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"女王"に見送られ、修理されたばかりの≪モール≫で、日が落ちたばかりの夜道を歩いていた。≪スケルトン≫は夜に行動する奴らなので、この時間帯に出歩くのは危険なのだが、なにぶん時間がない……。
このモグラはいつものように、トンモーバに向けハンマー片手にノッシノッシと歩くだけだし、よく見れば、いつもとは違い呪文のようなのが刻まれたハンマーだけど……こいつもしかして自分だけ対《スケルトン》武器持ってきたのか?
モグラは一人でどうにか出来るだろうが、最後まで出るのを渋ったファムはと言うと――。
「なぁ、ファム……狭いし蒸し暑いんだけど」
「だ、大丈夫だよっ! こ、今晩は熱い夜になる予定だったじゃないか」
「女の子が言うセリフじゃありませんっ」
「だっだってぇ、外歩いたら怖いんだし……なまじっか夜目効くから見えたらヤだし……」
いくら《スケルトン》が王族を殺しに来ると言っても、まだ満月にもなってないしそんな強硬手段に来る事は――。
「ふむ。《スケルトン》がお坊ちゃんをお探しのようだ」
「ひぃぃっ!? ここに居るからッ、ここに居るからボクの命だけはッ!」
「お前が非常事態にどんな行動取るか、よーく分かったぞ」
「じょ、冗談だって……あ、あははっ……」
今のはマジだろう。この猫娘は関係が深まったとは言え、油断ならない奴だ――。
でも関係がとは言っても明確な恋人同士、と言うわけではないんだよな。
フェルプの種族にも、恋人になる"告白"のような物があるかどうかすら分からないが。それに、俺は言った……としても、人魚を介してだ。直接伝えていないし、関係と明確に位置づける物もない――。
確かに今晩……しちゃうつもりだったけど、線引きがこんな曖昧なままで良いのだろうか? ファムからすれば種族的に子を残そうとする、言わば本能的なそれではないのか……うーん。
「さっきから何うんうん唸ってるの?」
「い、いや何でもない――」
何だろう聞くのが凄く怖い――。崩れ去るぐらいなら、この曖昧な関係のままで居てもいいような気さえしてしまう。
もしエルフの森で見た満月が偽物であるなら、次の本当の満月で再びそれが起こる。その時の俺はフェロモンに飲まれてしてしまうのか、男としてするのか……どちらになるのだろう。
※次回 5/24 19:22~更新予定です




