1.仕事で来た観光スポット
【 モグラの馬鹿ッ!! 】
あの時のワクワク返して欲しい。
イオアの水晶湖に行くのに、どうして武装した《モール》が必要になる?
遠いなら分かるが、リノリィの北東にあるイオアまで一日もかからないはずだ。
目の前に広がる、まさに水晶と言った湖は神秘的でもあった。
これはどんな研磨師でも作り上げる事のできないだろう――。
ファムもその手には出来ない、水晶の輝きに目を奪われ言葉を失い、じっとそれを眺めるばかりだった。
ここに来たらまずやる事がある――。
「麻袋に斧とかしないよね?」
「マスクとナタは――」
「ダメだかんね?」
ファムの目が怖い――
どうやら、この手の怖い話的な物は苦手らしく、この湖の惨劇話をしてからと言うもの、ここに着くまで《モール》の中から降りようとしないぐらいビビっていた。
だが、降りないのには他にも理由がある。
何というかあの日から積極的でグイグイきて、狭い《モール》の中に二人――俺の膝の上に座っては、身体や頭をこすりつけ、ゴロゴロと喉を鳴らし甘えてくる。
そして腕が甘噛みされ、あちこち歯型が残っている……。
調べてみた所、これらの行為は猫の信頼の証であるものらしく、無意識的にやってるようだった。
嫌でもないしむしろウェルカムなのだけど、調べた書物に『フェルプの女は肉食中の肉食――』との一文が記されていてハッキリと分かった。
ファムにとって今の俺は、ウサギやネズミなどの獲物と同じである。
だけど問題は『そうかそうか――』と手を忍ばせようとすると、必ず猫パンチが飛んでくる。
先ほどはフリッカージャブを喰らった。普通そこまでゴロニャンになったらOKだと思うじゃん……。
まぁ、こんな狭い《モール》の操縦席の中で色々やるわけにもいかないけどさ。
その《モール》だが、こいつから非常に嫌な予感しか感じられない……。
キャリオン峡谷に行った時より大幅にモデルチェンジされており、色・外装・内装の全てが別物の様になっている。
まずは見た目――全体が青く、全体が流線型になっている。
背中の鉱石入れはオミットされ、そこに何か風車らしきファンが付いている。足もそれが付いているようだ。
その武装も――左右にカニの様な手、腕には矢のようなのが巻き付けられていた。左腕の下部に何やら筒の様なのがついているが。
「ここの湖底に洞窟がある」
「……」
モグラが何かを言っているが、気密性が高いのか聞こえない――。
ああそうか、きっと湖底探索ツアーだろう。それならこの明らかに『水中もイケます!』な姿も納得できる。
「誰が何に使うか分からんが、そこの地図を作って来い。
あとそこに人魚がいるはずだから連れて帰って来い。得意だろ」
「に、人魚――!? だ、ダメだからねっ。
絶対にダイビングも、連れて帰ってもダメだからねっ」
人魚か……と言うか、得意じゃないからな?
人間に相手にされなかった奴が、そんな所構わずモンスターに好かれるわけな――いや、聞こえない聞こえない。このモグラが何か、無茶苦茶バカなこと言ってるのなんて聞こえない。
俺はここに観光に来たんだ。お仕事で来たんじゃない。
お仕事が絡むと、折角の観光地が楽しめなくなってしまうじゃないか。
「内部に水漏れの心配は無いだろうが、浸水してきたら中にある皮のマスクを付けろ」
「ダメだって!? ロイル降りてっ、今回はダメだよっ!
まだアヒルのオモチャ持ってないし、あってもそれでボクと遊ぶんだからねっ!」
いや、降りたいのは山々なんだけどね、開閉ハッチが開かないのよね――。
馬鹿なの? このモグラ馬鹿なの?
「じゃあ、行ってこい」
嫌だ――絶対に嫌だ――。
試しに覗き込んでみたが、表面は澄んだ青色をしているものの、湖底は澱んだ濃紺で、どれだけ深いのか分からない。
もし仮に行くとなっても、《モール》の浸水実験とかちゃんと済ませた上なんだよな?
「水中換装は初めてなので、ついでにレポートもよろしく」
「ちょ、モグモグ――!?」
覗きこんでいる《モール》の背中に、ガンッと重い衝撃が走った――。
分かったのは、モグラがドロップキックをした事と、バランスを崩し湖の中に落ちようとしている《モール》だけだった。
※次回 5/19 19:22~更新予定です




