4.満月の獣
騒がしいのも困るが、逆に静かすぎても眠れない。
まぁこれはいつもの事でもあるのだが、目を閉じるとあれこれと考えてしまい、眠っているのか起きているのか分からなくなってしまう。
仕方なかったとは言え、最近はファムと一緒に眠る事が多かったせいだろう。今日は特に寝つきが悪い。
いざベッドの中でゆっくり眠ろうと思っても、一人のベッドは、寒くも寂しくもあった。
エルフの女王が用意してくれた屋敷のベッドの上、夢と現実、意識の境目の中でそのファムの事を思い出す――。
一族が探し求める物の正体を知った彼女は、口数も少なく用意された部屋にずっと籠っている。
"浄化の石"は猛毒を放つ石。誰かがその正体を知っていたのだろうか……いや、知っていたからこそ罪人に探させていたのだろう。
コボルドの住処にて、ココは『フェルプの一族は死刑制度を止めたのか?』と尋ねたが、"浄化の石"の正体を知れば、それが体の良い死罪には変わらないと分かる。
追放処分を受けた者は二度と故郷の土を踏むことが許されない。
だが、その"浄化の石"を持ち帰れば全ての罪が赦される――
混血種の長は、純血種が狂ったケダモノと化していた事を知りながら、年頃の女を生贄として捧げていた。
その中に居たファムは、仲間を助ける為にその狂ったケダモノを殺め、罪に問われてしまう。いかなる理由があろうとも、罪は罪とファムは故郷から追い出された――。
これだけでもフェルプ族は、純血・混血問わず腐っている。と言う事が考えられるな。
「いや待てよ……?」
この状態に嫌気がさして"滅び"を望んだのではなく、もしかすると、もう純血種は存在していないんじゃないのか?
どこかで純血が完全に途絶えたのではないか? その事実を隠ぺいする為に、"被害者"として途絶えた理由としたかったのではないだろうか?
身勝手なら理由であるが『フェルプは無駄にプライドが高い』と言うファムの言葉を思い出す――。
窓から覗く満月が何とも眩しい。
以前見たのは三日月だったと思うが、それほどまで日が経っていたと言う事か……屋敷に居た時も時間が経つのが早いと思っていたが、今感じているそれは全く違うものだ。言うなれば、楽しい時間はあっと言う間に過ぎる。
エルフの森には知識の森とも言われるほど、長い年月をかけエルフが書き記した書物が多く存在している。
エルフの言葉は読めないが、人間が読める物も何冊かあるはずだ。読めるなら百科事典でも何でもいい――知識欲が俺を駆り立てている。
いや、これは己の知識のためではないだろう。ファムの慰めにはならないだろうけど、諦める為の理由がどこかにあるはずだ。
「しかし馬鹿デカい屋敷だよな――」
同じ所をぐるぐる回っている気さえする――。
思い立ったら吉日、と勇んで飛び出したはいいものの、歩けど歩けど向こうの壁が見えない。
迷宮のような深い暗闇なのもあるだろうが、やはり燭台なりの明かりぐらいは持って来ておくべきだったか?
こんな時にこそ、ココがヘッドライトにしていた石が欲しい所だが、今は女王が然るべき場所にて保管しているらしい。
こんな遅くに徘徊してもどこに書斎があるか分からないし、見つけても勝手に入るわけにはいかない。それは分かっているのだけど、とにかくじっとしていられない――。
「ん? この声は……ファムか?」
ある扉の前を通ると、何やら猫の唸るような声が聞こえて来た。
他に猫がいるかどうか分からないが、恐らくはファムだろう……こんな時に行くのも躊躇われるが、唸り声も気になるし様子だけでも……。
「ファム……?」
一応コンコンとノックして中の人を確かめてみる――間違えてたらまぁ、ごめんなさいと謝ればいいだろう。恐らく許される。
「ろ、ロイル……? 今はその、来ちゃダメ――」
「そ、そうか……いや、こんな遅くに住まなかった」
「うん、ごめんね……」
とりあえずファムで良かった。
もしこれで中に居たのが他のフェルプだったら……。
「あ、ロイル――その、やっぱり来て……」
ガチャリ――と扉の鍵を外し、姿を見せないまま少しばかり開くだけだった。
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ファムの様子がおかしいと思ったのは部屋に入ってからだ――。
赤く昂揚したように見える顔は淫らにも艶めか敷くも見える。服は着ていない。これは毛皮があるので大丈夫だろうが……。
部屋に入るなり、再び鍵がガチャリと落とされている。
月明かりに照らされる部屋の中で光る眼、白い光に映るその人の肌もほんのりと色づいているようにも見られ、非常に煽情的でもあった――。
この部屋の香でもない、酒でもない、部屋の中が何かの匂いで満たされ頭がクラクラしてくるようだ……ベッドの上に腰かけるファムの口角は僅かに上がり、目は獲物を捕らえたかのようなそれにすら感じられている。
「ねぇ、ロイル……。ちょっとボクの背中さすってくれない……?」
甘い声が耳を耳をくすぐる……顔が赤く具合でも悪いのかと思い、言われた通りその背をさすり始めると、ファムはその手に身を委ねるように瞳を閉じている。
どれくらい撫でていただろうか、シルクの布がシュルっと音を立て、猫が挑発的なポーズを――逃げられない、いや目を背けられないそれは次第に膝を曲げたままうつ伏せとなり、その人間の女性と変わらない秘所を目の前で露わにしていた。
ロードシス――その言葉を思い出した時にはもう遅い。視覚と嗅覚、獣のフェロモンに完全に毒されてしまっていた。
思えば前兆行動のような物はあった……気がするが、身体がもう言う事を聞かない。そこに覗くファムの秘所はそれを欲しているし、俺も欲してしまっている。
人間に影響がないと言ったが、影響を及ぼしまくっているじゃないか。こんな事をする関係でもないのにするのは不本意ではあるが、誘ってくるなら仕方ないよな……いや、理由なんてどうでもいい、早くファムが欲しい――。
明かりの代わりとなっていた月に厚い雲がかかり、部屋に真っ黒などん帳がおちた。
ちょうどいい。まだ抵抗あったが、見えなければ恥ずかしくもない……纏うものを脱ぎ捨てた時――
「はッ、ボクは何をっ――ふぇっ!? ろ、ロイルッ――!?」
真っ暗な中は何も見えない。
だから、そのマウンティングの下になる者が、何をしようとしてるか気づくはずもない。
あと、それとさ――
猫パンチ超痛いって言ったじゃないか。
※次回 5/16 19:22~ 更新予定です




