3.偽りの存在
パズルのフロアの最後は、立体ブロックの色を合わせるそれだった。
今度は移動しない。移動していたら恐らく死者が出て、《ウッドマン》のお友達になっていた事だろう。
3×3のキューブ状のそれをカシャカシャと回転させながら、散らばった色を合わせて行くパズル……俺はこれを完成させたことは一度もない。恐らくファムにやらせれば数回転目でぶん投げているはずだ。
それをいとも簡単に解いたのはココだった。
「ふむ。中々面白いアトラクションだった」
「パズルの類が得意なら言えよっ」
このモグラ、適当にキューブを回転させているだけかと思えば、何とみるみるうちに色が合わさってゆくではないか……。
ファムを担ぐように言われ、膝の下に左腕を、背の裏に右腕を回し抱え上げた頃にはもう色が全て揃っており、壁にはめ込んでいるところだった。
あのキューブが鍵であるらしい。どこからかガコンッと音が鳴ると、樹の根がバキバキと音を立てながら左右に開き、我々の次の進路を示していた。
ファムは軽いもんだ。それに暖かく柔らかい――。
今では馬車の中で度々見ていた、柔らかで無防備な寝顔を見せている。
そこから先は洞窟の迷宮が続いているものの、ここに辿り着けるものがいないのか、人もモンスターも居ない。中は明かりが不要な程明るく、温暖な空気に包まれていた。今までの迷宮とは大違いだ。
ちゃっかり作成されていたココの地図は、洞窟の出口の光と、正面の虹のカーテンがかかる道を残すだけとなっている。
突然現れた美しくも恐ろしくもある、揺らめく虹色の布……いや、オーロラは確実に我々の行く手を阻む最後の障壁だろう。絶対に触れてはならないと脳が警告している。
ココが石を投げれば、ジュッと音と煙をたててそれが消滅したし。
「こんな眩い光を放っているのに、何で遠くからは見えなかったんだ?」
「ふむ?」
さっきは確かに見えなかったのに、どうして今は見えるのか?
一度戻ってそこを見れば、確かに遠くからそれが光り輝いているのが見える。
どこかに感知する装置やスイッチでもあるのかと、ココもヘッドライトを付けてあちこち探してはいるものの、スイッチなどの類なんてものは何一つ見当たらなかった。
どうしたものかと頭を上げた時――
「あれ、今また消えてる?」
目の前にあったはずのカーテンが無くなっていた。
再びココのヘッドライトの蓋が閉じられると、再びそのカーテンが姿を現す。
もう一度、とココのヘッドライトの蓋を開くと、それは姿を消す――。
「分かったっ! そのライトかっ!」
「ふむ。あのエルフはここから来ていたのだな」
「そう言えば、その石はエルフが持っていたって言ってたな」
一体何の石か分からないが、ココが拾っていたのはここの鍵だったようだ。
それならこの光に反応して障壁が消えるのも分かるのだけど……あんな変なギミックなんて設けなくとも、これだけで良かったんじゃないのか?
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エルフの女王に限らず、エルフは美女揃いと聞くが、まったく噂通りの……表現できない美しさをしている。この美しさは、どんな一級品の宝石・花でも表現できないだろう。
「は、はぇぇー……」
ここを出たと同時ぐらいに目覚めたファムは、出口で待ち構えていた光り輝くような女性を見て、見とれるように口をぽかんと開けて立ち尽くしていた。
同性から見てこんな反応なのだから、男が見たら尚更である。
それに美しいと言う言葉だけではない。そこには艶めかしさも存在していた。
よく『エルフは美人だが痩せっぽち』と言うが、そんなのはデタラメだ。目の前にいるのは、男が悦びそうな所をちゃんと抑えている、肉欲を刺激するような体型だ……。
「あぁ……よく我らの宝珠を持ち帰ってくれました」
「宝珠? どこかでお宝拾ってたの!?」
「い、いやそんな物は……」
「ふむ。これが"エルフの瞳"だったか。玻璃かと思っていたが」
「それは我らに伝わる、古の宝珠でございます。秘密裏に隠そうとしていた所、消息が分からなくなってしまい――それが敵に渡れば、人の世界どころか、この里まで危うい所でございました……。本当に何と申してよいか……」
「ふむ? まぁ、悪魔やゴーストが嫌うと思っていたが」
そんな危なっかしい物をヘッドライトにしてるんじゃないよっ!?
もし敵の手に渡ったらどうするのさっ!?
「そ、それはまぁ無事なら良いでしょう。それで、宝珠の持ち主は……」
「大聖堂の迷宮の奥でおっ死んでたよ」
「確か、リノリィの迷宮に行くはずでしたが……いえ、あの迷宮の奥には我々の仲間もいる事ですし、そこに隠そうとしたのも正解でございます。ああ、彼は名誉の――」
「そこのサキュバスの風俗で搾りカスにされてたぞ。実に幸せそうな死に顔だった」
「今宵は彼の死をよろこ――悼む夜にしましょう」
言うなよっ!? 男の最高の死にざまでもあるけど、言うなよっ!?
だがきっと、彼には名誉勲章的なのは何一つなく、墓すら建ててもらえないだろう。もし仮に建てられたとしても、名前も〔役立たず〕と書かれるはずだ。
あれ? その石って確か、リノリィの迷宮で拾ったんじゃなかったっけか?
それに、大聖堂の迷宮って確か……ああ、やっぱりここの入口にあった〈デリバリー・サキュバス〉の本住所じゃん。
……え、もしかして、国の存亡がかかる宝珠もったまま風俗突っ込んだの?
それと何でファムは俺の背に置いた手から爪だしてんの……?
「へぇー……〈デリバリー・サキュバス〉ねぇ。あれれー、五番って何かなぁ?」
「こ、これは物書きのネタに――」
「へぇ、こんなスリーサイズからキッチリ書くんだぁ、ボク知らなかったよ」
「止めてっ!? そんな最低な男を見る目止めてっ!?」
思えば何でエルフの森に繋がってる場所で、《サキュバス》のそれの住所連絡先が書かれてるポスターがあるんだよ……。
きっとエルフの里から出られないとかで、溜まったそれを吐きだしたく足を伸ばしたのだろうが、勤務中に風俗とかバレたら公開処刑もんだぞ?
「あとでそれじっくり見させてもらう事にして――」
俺を睨むような怖い目は、不安の目に変わりその女王の方に向けられた。
「あの、女王様。一つお伺いしたい事があって……」
「どうされましたか、フェルプの女よ――」
「ぼ、ボクの身体の事なんですが……」
「はい。可愛らしい身体でございます」
「何か馬鹿にされたような……じゃ、じゃなくて、その発情期に関して……」
「へぇ……いえ、発情期不順に関しては心配いりません。その時が来れば治まります――」
「そ、そうなんですか!?」
何だ、やはりファムの発情期不全は一時的な物だったのか。不定期で近いかもと言う割には気配がしないので、俺も疑問に思っていたが。
ファムも気にしていないと言っていても、実は気にしていたんだな……。
「それだけでしょうか?」
「あ、あとっ」
「はい」
「"浄化の石"の場所を教えてくださいっ!」
"浄化の石"――それを見つけ、持ち帰ればファムが犯した罪が赦され、故郷に帰る事が出来る。それを見つ出す為に、ファムはトレジャーハンターとして各地を渡り歩いてきたのだ。
きっとエルフ、ましてや女王ならきっと在り処を知ってるにちがいない。
「あれは……」
「知ってるのっ? 知ってるなら教えて!」
「いえ、今はもう見つかりません――」
「そ、そんな……」
「本来ならエルフではなく私が管理――あ、いえ、あれは"死"と"滅び"をもたらす猛毒の石でございます。普通の者であれば、まずそれに近づく事すらできないでしょう」
「うっ嘘だっ! 嘘だ嘘だ嘘だっ! 貴重な物だから嘘言って隠してるんだっ!」
「何にも理由が必要です。"死を欲する理由"に心当たりがあるんでしょう」
「ま、まさか……」
「滅びゆく者を、その理由の罪を被るのは誰か、どうして罪人にそれを探させているのか――」
以前ファムが言っていた純血種の問題の事か。
死と滅びによる浄化――つまり、"浄化の石"が集落に持ち込まれると言う事は、"種の絶滅"を招く可能性だってある。
彼らは己の手を汚さず、純血種を含め『種族に滅びがもたらされた』との理由欲しさにそれを求めていたのか?
※次回 5/15 19:22~更新予定です




