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6.逃げ道

 ファムの汚部屋は何と酷い物だ。玄関のガーディアン(生ごみ)を何とか地中に埋る事に成功したのだが、玄関先に毒沼が形成されたままであった。


「よ、よしっ――すぅー……はぁー……すぅー……んッ!!」


 まずは換気から――肺に空気を溜めたファムは、窓を開けに部屋へと飛び込んだ。……だが、毒ガスが満ちた部屋から聞えたのは、ズザァッ――と盛大に何かが滑ったような音だった。

 中の散乱しているゴミに勢いよく足を滑らせたのか、その拍子に毒ガスにを思いっきり吸い込んだようだ。

 部屋の中で、声にならない断末魔をあげる猫娘の救出に向かったのだが――


「――ッ!? うがぁぁぁっ!?」


 同じくゴミに足を取られ、ミイラ取りがミイラとなった――。

 な、なんて臭いだ……空気を欲しているのに、身体が取り込むのを拒否している――。眉間の裏を突き抜ける臭いが脳を殺しに……あ、ヤバい……意識が朦朧として……。


『手のかかる奴らだこと』


 こんな所で倒れるわけにはいかない――気力を振り絞って立ち上がった所でココが救助にやって来た。

 犬ほどではないが、猫の嗅覚もかなり鋭い――ファムは完全にノックダウンされ、立ち上がる力もなく引きずり出される事となったのだが……その際、玄関の汚水が服に付き、悪臭を嗅ぐ以上の地獄を見る事となった。


 筆を想像して欲しい。水で溶いた絵具に筆を付ければどうなるか――。

 ファムは露出の多い恰好の上に、その白い獣の毛――毒沼の上を通れば、その毛が汚水を吸い上げてしまうのだ。


「――ッ!!」


 もはや"正気"を通り越して"狂気"……ファムは、地獄の叫びの様な声をあげて砂地に全身を擦りつけていた。なるほど、あれが"砂浴び"と言うやつか。

 服は全て脱ぎ捨てているが、大事な所は毛に覆われているので外から見ても問題は無さそうだった。少し残念な気持ちなのはどうしてだろう……。



 やっとの事で換気を終えれば、今度はそこに住みつく同居人の退去願いだ……。そいつらの密集地帯を見た時はトラウマになりそうだった。


「どうしてこんなになるまで放っておいたんだ!」

「い、いやあ……あはは……こうしてみると少し汚いね」

「少しじゃないっ!」


 食べた物から服、何から何まで放りっぱなし――じっくり見れば見るほど、そこはまるでゴミ集積場のようである。

 中には盗品も転がっており、値打ちがありそうな宝飾品が安物に見えそうなぐらい雑に転がっていた。足元に転がっている、このガラス玉のようなのに足を取られたのだ――。

 盗品を狙う盗賊もいるらしいが、こんな所に入るリスクを冒してまで侵入しないだろう。ある意味では最強の防衛手段でもあるな……。


 侵入したのがオークなら、金銀財宝よりも、捨てるのか使うのか分からない布きれを持ってゆくに違いない。

 マスクをつけているから分からないが、それを摘まみあげているココは眉間にシワを寄せているに違いない。


『ふむ。これは雑巾か?』

「ボクのショーツを汚い物持つように摘まむなっ!」

『カビだらけ、染みだらけ、キノコ付きで綺麗とな――』

「ファム、全て落ち着いたら俺の屋敷で住め――」

「え、えぇっ……そ、それって……でも、ボク達はまだその……」

「お前に、徹底的に"清潔とは何か"を叩き込んでやるっ!!」

「何でっ!?」

『残念だったな』


 下着類から始まり、衣類とかもう表現したくないぐらい汚い。

 モンスター共に臭いがしないから大丈夫だって言われ安心したが、やはり獣は獣だ――こいつには骨の髄まで"綺麗"を理解させなければ。

 多少汚いのは許せるが、ここまでの物は許せない。埃一つ落ちてるのも気になるぐらい叩き込んでやるっ!


「ろ、ロイルがこんな潔癖だと思わなかったよ――」

『世間一般のレベルだぞ』


 ・

 ・

 ・


 ある程度片付き、ファムのお気に入りの服も含めキャンプファイヤーした。

 まだ着れるからダメと大騒ぎしていたが、カビだらけ、引っ張れば溶けるように崩れるそれをどこで着ると言うのだ……。

 捨てられない奴は『まだ着れる』『いつか使うかも』と言って残す。そして結局使わないまま増えてゆく――。


 大体の選別をしたのはココだった。残すのは持ち運びしやすい食器や絵、そして窃盗道具――商売道具をゴミと一緒に投げ散らかすなよ……。

 残りは躊躇わず燃やしてしまったので、部屋は綺麗サッパリとしている。部屋に残っているのは染みついた悪臭と、退去拒否した同居人ぐらいだろう――。


 そして、大家に無茶苦茶怒られながら退去手続きを済ませ、滞納していた家賃も支払っていた。

 これでようやくファムの身辺整理も済んだし、この街ともおサラバだろうなのだが……。


「しかし……この街、何か異様じゃないか?」

「……やっぱりロイルも気づいた? ロイルの目から見てここはどんな印象に見える?」

「どんな印象――」


 まず街並み――最初は美しいとさえ思ったけど、全体の屋根が低く一列に並ぶ不気味さがあった。しかも、街全体を囲うように柵と網が設けられている。

 次に住人――全員心の底から笑っていない。互いに互いを監視しあっているような様子さえ窺える。


 まるでこれは……。


「監獄――か収容所」

「やっぱロイルは良く見てるね……」

「そ、その通りなのか……?」

「うん……」

「ロンビアに住む者は二度と出られん」


 な、何だと――!?

 いや、確かに考えてみればそうだ……外は盗賊が蔓延っている中でどうやって外に出ればいい? それに、盗賊もどうして街に入って襲いにこないんだ?


「住む者は、って部外者は出られるのか?」

「住むしかなくなるんだよ……出たら殺されるから」

「そんな事が許されるのか……もしかして、ファムも……?」

「ううん、ボクは自分から。追っ手はここまで来られないからね」


 ファムが言うには、逃げ出そうと企てている奴を密告するか、北の貴族に一定額を治めれば出られるらしいが……どれも普通じゃ考えられない方法であった。


 ここで真面目に働いても殆どが税金で徴収されてしまうため、一攫千金を狙うなら盗賊団に入りノコノコ足を踏み入れた奴から金品を奪うしかない。

 "生活"と言う足かせに、住人同士の"監視"し合う目――ここの住人は見えない鎖で繋がれた囚人、と言った所だろう。


「南ロナイナより、北ロナイナがほぼ乗っ取られてるからね……。

 何も知らない王以外、みんな賄賂で口封じされ懐を潤してたんだよ」

「そんなのがまかり通っていいのか」

「言ってる間に滅ぶ。もはや兵の練度も下がり、野盗の上納金がウェイトを占めつつあるからな」


 待っているのは賊が裏で実行支配する道か……。

 この国の唯一の自慢は、今や機能していない南北の巨大な港――これを狙っている国も多く、力の弱った国となれば容易く落ちるだろう。


「ロイルは……こうならないでね」

「権力がないのになるわけがない」

「あははっ、確かにそうだね」

「だけど……出られないってどうしたらいいんだ?

 いや、それよりもファムはどうやって出入りしてたんだ?」

「んー、人間に化けた《ワーウルフ》が北ロライナに居るからね。

 それに……出られなかったら、出られる道を作ったらいいじゃない?」

「そう言う事だ」


 ああ、そうか……目の前にいる奴がモグラって事をすっかり忘れてしまっていた。

 いや、モグラの存在を忘れていたわけではない。忘れていたのはその本分――モグラは穴を掘る。……って、《ワーウルフ》が居るってどう言う事なんだよ!? まさか乗っ取られてるってそいつらになのか!?


 ・

 ・

 ・


 《ワーウルフ》の一件は聞いても答えてくれないまま新たな住居――抜け道作成に相応しい家を探しに出ていた。


 生活に困窮しているわけでもないのに家を捨て、路頭で寝泊まりする道を選ぶ奴はまず居ない。と言う事は、当然ながら大家は俺たちを怪しむ。

 街中には密告者・監視者が居ると聞くが、恐らくはあの大家……いや、不動産売買に携わる者すべてがそれだろう。

 俺の目でも分かるぐらいの尾行者が、我々の後をつけていた。


 奴らなら住居と言う名の檻、管理と言う名の監視、家賃と言う名の搾取ができる――。人身売買も行われているらしいのだが、恐らくはこの監視者が困窮した・させたのをリストアップし話を持ちかけているに違いない。


「家は負債――と聞くが、まさにそれに近いな」

「うーん、確かにそうかもね。

 ボクはあまり長く居座らないから気にはならなかったけど」


 しかし、必要だから家を得なければならない……。

 普通の国で暮らして行く分には資産だろうが、この国では何と言う足かせだろうか。


 そんな状態でも『従っておけば何に問題はない』と言わんばかりに、ここの街の者は自由と言う不自由に甘んじている。

 現に滅ぶまでは問題は起らないのだ。受け身でいれば、目を付けられなければそれでいい。誰も問題を起こすな、巻き込むな……全員がまるで調教された家畜のようにも思える。



 仲介業者に色を付けて敷金・礼金を支払ってやれば、気前よく新たな住居を与えてくれる。カモを見つけたと言わんばかりに顔をほころばせ、高価な装飾品を身に着ける我々に愛想を振りまいていた。


「いやー、地が地だから簡単に騙せたねっ」

「地ではないっ、俺の演技力が凄いのだっ!」

「え、いつもあんなじゃない……?」

「……俺ってそんなお坊ちゃんなの?」


 身に着けている装飾品はファムの盗品のそれであった。

 カモに見えるよう振舞えと言われていたのだが……衝撃の事実に驚きを隠せない――。


 住む場所はココが選び、南北の国境に一番近く、目標の大樹が一番近いであろう場所の一軒家を借りている。

 餅は餅屋であるのか、穴掘りに我々の手は必要なし――ただ『悟られないように無能を演じていろ』と指示されるだけであった。


 意識せず普段通りで良いとも言われたのだが、普段は食う・寝る・書き物をまとめるのどれか……もしかして普段のこの生活がそう思われている、とかじゃないよな?

※章立てとサブタイトルの番号を間違えておりました……

正しくはこれで4章が終わり、次から5章となります


次回 5/12 19:20~ 更新予定です

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