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4.次の目的地へ

 トンモーバからリノリィまでの直行便――。

 街から街での馬車の乗り換えを考えると、都市リノリィまでは約五日ほど見ておけば良い。とりあえず、隣国のヨークを抜けペルバニアあたりまで送ってもらえれば良かったのだが――。


「うう……太陽と大地が懐かしいよ……」

「ずっと馬車の中だったからな……」


 ラウ姉が『出来るだけ早くリノリィまで』と言ったので、御者は街で馬を交換するだけの乗り換レスで直行したのだった。

 あの人が指示を出すと、大抵の者は難しい内容でも『はい、やらせて頂きます』と二つ返事で応じてくれる。信頼されているから……ではなく、拒否すれば恐ろしい事が待っていると思ってしまうからだ。

 もちろんラウ姉はそんな事はしないし、これからも恐怖政治もするつもりはない。単に見た目とその威圧感から『逆らったら面倒な事になるかもしれない』と言う、人間の防衛本能から生まれた対応だった。


 おかげで、リノリィには三日で着いた。

 良かったと言えば良かったのだが……御者の目の下には、戦化粧かと思えるぐらいハッキリとした(くま)ができている。恐らくひとたびベッドに入れば、二日はそこからから出てこないだろう――。


 キィキィと疲労困憊の音としか感じられぬ馬車を見送り、その足でつい先日叩きだされたばかりのモグラの巣へと戻ったのだが……。


「もおー……汚いなぁ……」


 床には転がっている瓶に、食べかけの野菜……野菜などのクズがあちこちに散らばっており、見慣れたキッチンは賊でも住み着いたのかと思えるぐらい荒れていた。

 余程作業に没頭しているのだろう――手当たり次第に食い物を手に取っていたような痕跡すらある。


 ファムは目の前に広がる光景に我慢できないのか、近くにあるホウキでゴミなどを掃き集めていた。テキパキと手際が良いホウキさばきによって、みるみるうちに見覚えのある土の床に戻ってゆく。しかも、テーブルまできっちりと拭いている……。

 結構大ざっぱだと思っていたが、家庭的な面も持っているんだな――。


「ファムは掃除好きなのか?」

「え、う、うーん……他人のが気になるだけ、かな?

 こう言うの、すっごい気になっちゃうんだよね……あはは……」


 前言撤回――。

 きっと他人にはあれこれ世話を焼くが、自分の事は何一つ出来ないタイプだ。


「そう言えば、ファムの住処って見た事ないな」

「み、見ない方がいいよ? 戦利品か私物かゴミか分からない状態だし……」

「よし、見に行ってやる――」

「わぁぁっ!? ダメッ、絶対ダメッ!?」


 ファムの言葉が正しければ想像は容易い――。この性格からして、脱いだものはそのまんま、食べたらそのまんま、ゴミ捨ては今度出て行く時にしよう……のズボラ積み重ねているはずだ。

 どこに住んでいるか分からないが、恐らく近隣の者も迷惑しているぐらいゴミ屋敷と化しているかもしれない。


「ほ、ほら同居人のノミやゴッキーも居るしさ……」

「それは同居とは言わない」


 自然発生している奴らにそれは通じない。

 さて、潜伏先を――と予想しようかとした時、この穴ぐらのヌシであるモグラがノッシノッシとやって来ていた。エプロンのような皮の前掛けには、あちこち青いペンキが付着している。


「あ、モグモグ。壁の塗り替えでもしてたの?」

「いや、《ワーカー》の塗装だ。まだ時間がかかるがどうした」

「え、いやその……色々あってね――」


 ・

 ・

 ・


「ふむ。魔法とはそんな都合のいいものではないが」

「一日、一晩でいいっ。とにかく既成事実をっ!」

「自業自得とは言え、一番の被害者はそのお婿さんだよね……」


 全くその通りだ――。

 いや、そもそも彼がラウ姉と一度でも会っていればこうはなっていない。

 いくらそれがドストライクであったとしても、絵を見ただけで『結婚しよう』なんて危険すぎる。奇跡の一枚である可能性もあるし、他人のそれの可能性もあるのだ。

 それに釣られ、ノコノコやって来た所を怖いお兄さん達に囲まれて有り金全部持って行かれる――そんな美人局な事件もあるんだぞ。


「三日三晩女装したオークどもを見せ続けてはどうか」

「あ、それなら多分マシに見えるねっ」

「拷問かっ!?」


 確かにマシに見えるだろうが、その後の彼の美的感覚が大きく狂ってしまう可能性が――いや、狂ってもらった方が後の事も心配いらないかもしれない。

 美人は三日で飽きるが、その逆は聞かない。結婚しても、その先……世継ぎを産まなければ意味がないのだ。


「だが、ファムも行かねばならんのだろう」

「う、うぅ……そうだけどさ……」

「まぁ、行かずとも済むだろうが。迷いの大樹の地図作成依頼も来ているのでな」


 そう言えば、地図の作成依頼も受け付けているんだったな。

 どこから来るか分からんが、恐らく今回はオーク……だろうか?

 依頼があればそこに赴き、ちゃんとした地図を作る――目的は分からないが、そこの構造を羊皮紙に反映するだけの仕事に生涯をかけている。


「ロライナの南北の国境だっけ……どっちから行くの?」

「どちらからでも」

「じゃあ北ッ、北から行こうよッ!」

「ふむ。では南から行こう」

「何でさッ!?」


 ロライナの北と南――。元々南北で格差があったのは聞いているが、それが時代と共にハッキリと分かれ始め……今では、北が貴族や金持ちなどの富裕層の国に、南は盗賊や貧困に喘ぐ層の国となっていた。

 どうして南がこうなったのか分からないが、賄賂などの汚職によって悪党を見て見ぬフリしている内にそうなった……らしい。


「北は確かに部外者を嫌うみたいだしな。

 ココの言う通り、まだ無頼漢でも何でも、自由に出入りできる方が向かいやすいか」

「ダメッ! あそこには言われている自由なんてないんだよ!

 ボクやココは良いけど、世間知らずでお坊ちゃんなロイルなんて、足踏み入れた瞬間にゴロツキに取り込まれて、泣きべそかきながらジャンプさせられるのがオチだから絶対ダメッ!」

「……お前がどんな目で俺を見ているか、ハッキリと分かったぞ」


 俺にだってプライドはある。そこまで言われたらもう行くしかないだろう。

 それに何だ、ココから離れなきゃそんな目には合わないはずだし、うん……。


「そ、それにさっ、タッキー、ネシー、アジージョの順に街抜けなきゃならないけど、この三つの街って通行許可出るの物凄くおおっ遅いからさっ!」

「ふむ。アジージョ産のコーヒー豆も買い足したい所だ」

「ここでいつでも買えるじゃないっ!? 流通してるものを何でわざわざ買う必要あるのさっ!?」


 どうしてここまで反対するのだろうか? もしかしてファムは南ロライナに行くのが嫌なのか?

 いや、確かにガラの悪いのが集まる所みたいだし、女の子が足を踏み入れるのは危険――


「ココ、知ってるでしょ!? 絶対知ってるでしょ!?」

「何だ? 南ロライナにお前のねぐらがある事か?」


 ああ、なるほど――。

四章はここで終わりです。


次回、5/10 20:20~ 更新予定です。

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