3.騙される方が悪いのだ
ラウ姉が帰った後――俺は皆に言われ、渋々その時に描いた絵を見せていた。
自分の絵をこうやって見せるなんて恥ずかしいし、見せられるものじゃないのだけども……。
「ねぇ、ロイル――これはやり過ぎじゃないかな?」
『アンタぁ最低だよォ……』
『こんなの誰も得しねェよォ……』
「イクら穏健派のオークでモ、戦争するゾこれハ――」
俺の描いた絵は二枚ある――二枚目は会心の出来で、ラウ姉が持って行った。
その一枚目に描かれた褐色肌の美女を見て、獣の姿をした奴らは言いたい放題だ。
「ちょ、ちょっとだけ面影あるじゃない?」
「別人だよっ!? ボクでもこんなパネマジ喰らったら何するか分からないレベルだよっ!?」
だって……だって本人を目の前にして、ほぼゴリラの似顔絵なんて描けるわけないじゃないか!?
しかもあれ送るって何考えてるんだよっ! 誰か検閲しろよっ!
「どうして無駄に絵心なんて持つのさ……」
「俺に言うなよっ!?」
い、いや、だが本当に戦争ものになりそうだ――。
挙式まで会わせないか、部屋に監禁すれば大丈夫だろうが、その後……初夜は一晩歯を食いしばってでも耐えてくれるか? その一発で命中させ、世継ぎを残してくれるだろうか?
もし俺が名前も顔も知らない彼だったら――毒をあおってこの国を呪うだろう。
一日……いや一晩でいいので、目の前にいる女が絶世の美女に見える魔法とかないだろうか。
もう当て馬でもなんでも良いから用意するかしなきゃ本当に危険だ――ラウ姉は悪い人じゃない、顔と頭が悪いだけだ。
そんな人に初めての春が来るかもしれないのに、ただ”ブサイク”ってだけで破談にされるなんてあまりにも可哀相すぎる――。
「魔法――そうだっ、エルフの国に行ったら!」
「かける側も罰ゲームだよ……」
『俺は国一個買えるぐらいの金要求する』
『俺は言ってきた奴をブン殴るでさ』
魔法だよ魔法! コンパクトに呪文かけたらなりたい者になれる、そんな魔法のアイテムをくれるだけでもいいんだよ! そうだ、それしかない!
挙式まで四か月――兄たちが『相手の気が変わらない内に』と急いだようだ。
エルフの森はどこにあるか分からないが、それぐらい時間があれば大丈夫なはず――きっと。
「善は急げだ、リノリィに戻ってココを急かそう」
「ぼ、ボクがこれほどまで気乗りしないお宝さがしは初めてだよ……」
『俺たち』
『ばーさんの畑仕事あるんで』
「俺はメイド長の手伝い頼まれてル――」
薄情な奴らめ――と一瞬思ったが、行きと同じような事になりかねないし、無理に連れてゆく必要もないか。それに、ここの暮らしも気に入ってるようだし。
俺とファムだけとしても、リノリィまでは結構時間かかるが……自分の国からなら多少の無理は効くだろう。
モンスター共はみんな思い思いの場所に向かい、残された俺たちも今すぐに出発したい所だが……ファムも俺も何も準備出来てない。
とりあえず二、三日中に出発する事にして、リノリィまで一週間と見ておくか――。
「あれ、ファムは準備しないの?」
「ん? ボクは特にいらないよ、来たままの荷物でいいし」
「そう言えばそうか」
「服の換えは欲しい所だけどね……。
ここってスカートばっかだし、ボクにはちょっとね……」
困った様子で短い猫舌をペロっと出す仕草が何とも可愛らしいと思った――。
うーん、確かに普段がホットパンツ姿だから他がイメージできないな……。
「他の姿が見たことないから全く想像できないな」
「あー……確かにそうかもねえ。その、着て……欲しかったり、する?」
「うっ、うーん、一度見てみたいな」
「むー……ま、前向きに善処するねっ」
それは結局着ないって事だな?
だけど、どんな姿になるのだろうか――この国は土地柄と言うか、お国柄と言うか……チャレンジ精神にあふれた恰好する人がいない。その為ファッション関係が非常に地味だ。
ファムが似合いそうな恰好って考えると、やはり露出の多いと言うか動きやすい恰好になってしまうし、ここトンモーバのような清楚系な感じは――。
「な、何想像してるんのさっ!?」
「地は良いから、大半は似合う気がするんだけどなぁ」
「なななっ何言うんだよっ、まだ寝ぼけてんの!?」
・
・
・
ラウ姉に近々ここを発つ事を伝えるのと、御者らの手配をお願いしに来たのだが……。
「何だとッ、もっと居てもいいじゃないかッ。
ほらお菓子もあるぞッ、な、ローラン行かないでくれぇッ――」
「ら、ラウ姉の……け、結婚にも関わる事だから少し急ぎたいんだ……」
「なッ……そ、そうか……うう、弟が私の為にッ――うッうッ……」
ああしまった……この人こうなったら長いんだった……。
見た目ゴリラだが、かなりの感激屋で感極まると涙してもう何を言ってるのか分からなくなる――嗚咽がもうゴリラのそれに近いし、もしジャイアントエイプが仲間になったりしたら翻訳させたい所だ。
久々に聞くと、何かゴリラ度増してない……?
「ね、ねぇロイル……」
「あと二十分は待て――」
「そ、そんなかかるの……?」
最短でだが、長いときは一時間ぐらいこうなる。
こうなった場合の対処法はみんな知っており、知らないのは新人のみ……先輩によるイタズラで、誰もがこの拷問を経験して初めて騎士と認められる。
周りを見ていないので、熟練者はちょっとサバンナでのティータイムを楽しむ。
今回は四十分かかった――。
「う、すッすまないッ、取り乱してしまった――彼女殿の前でつい無様な姿を」
「ち、違うっ!?」
「ボクはまだっじゃなくて……か、かかっ彼女とかじゃないから!?」
「ううッ……お姉ちゃんの手から離れて行ってしまうのは悲しいが、これも大人になること……。
私も結婚すればいつまでもローランの面倒を見れない、何卒ッ何卒ッローランをお願い致すッ!」
「ち、違うってば!? このゴリ――馬鹿なの!?」
「ローラン、結婚っていいものだからな。ここぞって時はバシッと決めるんだぞッ」
「ラウ姉、何言ってんの!?」
あんた戦闘じゃ全戦全勝だけど、恋愛は全戦全敗なのに何でそんな上から目線なんだよ!?
しかもまだ結婚してないし、それを成立させるために俺らが駆け回るんだからね!?
※次回 5/8 20:20~更新予定です




